「日本語を母語あるいは第二言語とする者による相互行為に関する総合的研究」研究発表会

プロジェクト名
日本語を母語あるいは第二言語とする者による相互行為に関する総合的研究 (略称 : 日本語相互行為)
リーダー名
柳町 智治 (北星学園大学 文学部 教授)
開催期日
平成24年10月6日 (土) 13:00~17:30
開催場所
北星学園大学 第2研究棟2階 第4会議室
交通・アクセス施設紹介

発表概要

「接触場面におけるからかいの組織化」初鹿野 阿れ (名古屋大学 国際交流協力推進本部),岩田 夏穂 (大月短期大学)

からかいは,次に笑いが来ることが期待されている相互行為上のふるまいである。しかし,実際の会話においては,しばしば,からかいの対象となる参加者の笑いが遅れることがある。本発表では,接触場面のデータを使用して,笑いが適切な場所で起きている事例と,笑いが遅れて起きる事例を取り上げて分析する。そして,からかいに対する笑いの遅れという不適切な反応に参加者がどのように対処するか,という点に焦点を絞り,その特徴を記述することを目指す。

「模擬裁判員裁判の評議に見られる「制度」」森本 郁代 (関西学院大学 法学部)

裁判員裁判における評議では,3人の裁判官と市民から選ばれた裁判員6人が議論をし,事実認定と量刑について決めることになっている。こうした評議の形態は,裁判員はもちろんのこと,裁判官にとっても初めての経験である。本報告では,知識や経験が非常に異なる両者が,「評議」をどのように成し遂げていくのかについて明らかにすることを目的とする。具体的には,模擬裁判における評議の冒頭部分のビデオデータを分析し,裁判長と裁判員のやりとりに見られる,刑事裁判における評議という場面に対する参加者の志向を記述することを試みる。

「ICT環境の教室インタラクション:マルチモーダル分析の視点からの考察」池田 佳子 (関西大学国際部)

言語教室における ICT (Information and Communication Technologies) は,第二言語教育を考えるうえですでに看過できない存在であるのにもかかわらず,その利用によって,そして多彩なICTツールの教室内の物理的な存在によってどのように教室インタラクションが変貌を遂げているのかを追及した研究は未だ稀少である。本研究では日本語を第二言語として教授する,タスク・ベース教授法を応用した授業を一例として縦断的に録画・録音を行った教室インタラクションのデータを考察し,Kendon (1990) の空間配置行動の視座,エスノメソドロジー,そしてCAの分析方法を応用したマルチモーダル分析のアプローチによって行った。特に,身体,物体,そしてテクノロジーなどの環境条件の関与に着目し,インタラクションの全貌を捉える先行文献 (C. Goodwin, 2004; 2007; Heath and Luff, 2000; Streeck, Goodwin and LeBaron, 2011) を参考にしている。今回の発表では,以下の2点の考察について主に議論を行う。

  1. 教師の,複雑な指示表現の使用と,その表現が使用されている発話ターンと同時に共起する身体や身振り,視線の方向など
  2. 教師の指導中の,学習者 (生徒) による聞き手・受け手としての身体的反応

本研究では,ICT は単なる「学習を促進するツール」なのではなく,教師と学習者が教室で展開する相互行為を形成するためのリソースともなっていることが様々な考察により明らかになった。縦断的に同じ教室のインタラクションを観察すると,ICT の「取り込まれ方」に変化が生じることがわかる。特定の教室に参加する者らがつくりあげる実践に,合理的な秩序性を持って ICT が埋め込まれていくのである。このような実際の言語行動に密着した形で理解する「ICT 利用」は,例えば CALL 教室や PC 教室をデザイン・導入した教育機関サイドが従来期待していた活用法とは異なることもある。本研究は現在進行形の調査であるが,縦断的な考察を今後も進めることで,ICT 環境下の言語教育の在り方について,emic な視点から知見を提供することができると考えている。

「インタビュー場面における日本語 L2 話者の聞き手反応」柳町 智治 (北星学園大学 文学部),
山本 真理 (北海道大学大学院 国際広報メディア研究科 博士後期課程)

日本語 L2 話者である聞き手が話し手の説明に対する理解を示す際には,ただ「はい」や「うん」やあいづちといった応答表現を使えばいいのではなく,提供される情報が連鎖上のどこに位置しているのか,どのような質的差異がそこにあるのかに関して敏感な形で個々の応答をデザインしなければならない。本報告では,外国人留学生が大学の科学技術コミュニケーションのプロジェクトの一環として学内の理系研究室を訪問し研究者にインタビューしている場面のデータをもとに,以上の点を相互行為分析の観点から検討していく。あわせて,この分析が教育実践に与える示唆についても検討を加える。