「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」研究発表会

プロジェクト名
日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究 (略称 : 東北アジア言語地域)
リーダー名
John WHITMAN (国立国語研究所 言語対照研究系 教授)
開催期日
平成24年8月6日 (月) 10:30~16:40
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室

形態統語論班 平成24年度第1回研究発表会 発表概要

「プロジェクトの一般紹介」John WHITMAN (国立国語研究所 言語対照研究系 教授)

「日本語史における名詞節」青木 博史 (九州大学 准教授)

節それ自体が名詞としての性格を有するものを,「名詞節」と呼ぶ。したがって,伝統的な国語学の用語で「準体句」と呼ばれてきたものは,これに相当する。本発表では,日本語における準体句の歴史変化について,研究の現在と今後の課題を祖述する。名詞節が用いられる環境を,文中と文末に分けて観察する。文中用法は,格成分として用いられる場合(A)と,接続助詞を伴う場合(B)とに分けられ,文末用法は,繋辞を伴う場合 (C) と,繋辞を伴わずそのまま主節となる場合 (D) とに分けられる。これまでは,主に名詞節の名詞性に注目し,A と C の場合について考察してきた。これらの成果をふまえながら,B と D の場合について考察の見通しを立ててみたい。

「朝鮮語史における名詞化・名詞節」伊藤 英人 (東京外国語大学 准教授)

訓民正音創製以前の借字表記法資料のうち,新羅吏読資料,新羅郷歌,高麗時代の字吐釈読口訣資料 (『瑜伽師地論』) ,鮮初吏読資料(『大明律直解』,『養蚕経験撮要』)の用例から,連体形の連体修飾用法と動名詞的用法,名詞形の用法,二字漢語の動詞的名詞の用法等について瞥見する。二字漢語の動詞的名詞の用法は鮮初吏読資料にも「~乙採取 (~を採取) 」の如き現代朝鮮語と同様の用法が確認される。新羅吏読資料,新羅郷歌の連体形には連体修飾用法と動名詞的用法が確認され,派生名詞形成接辞としても連体形が機能していた様相がうかがわれる。日本語の「情態言」,「居体言」的な -n連体形に本報告では *-a-n を再構する。『瑜伽師地論』については -n連体形,-r連体形の双方が連体修飾用法と動名詞的用法を兼ね備えている様相を瞥見しつつ,相対テンス,タクシス的な意味を考察する。新羅資料,『瑜伽師地論』双方の用例から,-r連体形は,現代語のような「時間的未実現」の意味よりも潜在的,叙想的世界で実現することがらを表していたと考えられる。郷歌の「尸」及びそれに由来する略体口訣字は「r+無声摩擦音」表記であり,高麗釈読口訣資料では南豊鉉氏の再構する{-r?}であったと考えられる。そこから敷衍すれば,高麗時代には「第一喉頭音化」が起こっていたと考えられる。名詞派生の{-m}についても古代朝鮮語,前期中世朝鮮語の用例を検討する。

「北方アジアの言語における名詞化」風間 伸次郎 (東京外国語大学 教授)

本発表では,ツングース諸語を中心に,アルタイ諸言語の形動詞 (先行研究によっては,動名詞,分詞などとしているものもある) の概略を説明する。その際には,まずその形態,その言語の形態論の体系において占める位置,変化形などについてみる。次に機能についてみてゆく。アルタイ諸言語の形動詞は一般に,名詞的用法 (いわゆる準体法,形容詞的用法 (同じく連体的用法) ,述語的用法の三つの機能を示すことが多い。しかし言語によって異なりがあり,また各言語における形動詞の種類によっても違いがある。さらに,内/外の関係,底の名詞との統語的関係による選択,斜格主語,形動詞による相対テンス,非人称形動詞,主要部内在型か否か,名詞化との違い,係り結びに類する現象,言いさし,副動詞や定動詞との関係 (特に証拠性に関するもの) ,などの諸問題についても可能な限り触れることにする。

一般討論司会 : 岸本 秀樹 (神戸大学 教授)