「コーパス日本語学の創成」研究発表会
- プロジェクト名
- 「コーパス日本語学の創成」 (略称 : コーパス日本語学)
- リーダー名
- 前川喜久雄 (国立国語研究所 言語資源研究系 教授)
- 開催期日
- 平成22年3月26日 (金) 13:00~16:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 2階 多目的室
発表概要
「音声対話コーパスを用いた話者交替研究 ―適正なモデルの構築に向けて―」伝 康晴 (千葉大学)
会話における話者交替の研究は,会話分析に端を発し,談話分析・社会心理学・文化人類学・日本語教育・音声学・言語心理学・情報工学・認知科学など,さまざまな分野で展開されてきた。本発表では,このうち,音声対話コーパスの定量的分析に基づく話者交替研究を概観し,その問題点を指摘するとともに,今後の方向性を模索する。とくに,従来研究の問題点として以下の3点を挙げ,これらを改善した話者交替の適正なモデルの構築を試みる。
1). 間休止単位やイントネーション句など,話者交替の基本単位が所与であることを仮定しており,基本単位自体の構成については議論していない。
2). 説明変数として用いられている音響・言語特徴が必ずしも実環境で人間が利用しているものとは思えない (話者交替の迅速さから考えて,もっと早い位置で出現する特徴を用いているはず)。
3). 目的変数として実際に話者が交替したか否かを用いており,交替が可能な位置か否か (ターン構成の問題) と実際に交替するか否か (ターン割り当ての問題) を混同している。
「コーパスを利用した自発音声研究」前川 喜久雄 (国立国語研究所)
自発音声 (spontaneous speech) は音声研究の本来的な対象であると考えられるが,従来の音声研究は自発音声を直接扱うことが稀であり,代りに朗読音声が分析されてきた。しかし心ある音声研究者はこの状況にある種のやましさを感じてきたのではないだろうか。
一体朗読音声だけを研究することによって自発音声を含む音声の本質を本当に解明できるのか。この問いに対する答えは音声の本質をどこに求めるかによって違ってくるが,音声の本質にパラ言語情報や非言語情報を含めるのであれば,朗読音声だけの研究は明らかに不十分である。
朗読音声で研究し難い現象として最右翼に位置づけられるのは,発話の状況に依存して無意識に生じる音声変異や非流暢性などだろう。伝さんたちが研究している話者交替などの対話現象にかかわる音声特徴もここにふくめてよい。この種の現象は被験者が自覚的にコントロールすることが難しいので,実験計画を直接的に適用することができないからである。この種の現象を科学的に研究するために考えられるほとんど唯一の方法は言語外情報を含む多様なアノテーションが施された自発音声データの統計的分析である。
今回の発表では筆者が過去2年ほどの間に『日本語話し言葉コーパス』のコアを解析して得た成果を紹介する。分節音の変異 (母音の無声化,/z/ および /b,d,g/ の変異),東京方言の Fo 下降モデルの批判的検討,韻律ラベルを利用した「口調」の判別実験などである。