「方言の形成過程解明のための全国方言調査」研究発表会

プロジェクト名
方言の形成過程解明のための全国方言調査 (略称 : 方言分布)
リーダー名
大西 拓一郎 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成22年3月23日 (火) 14:00~17:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室

発表概要

「共同研究プロジェクト「方言の形成過程解明のための全国方言調査」のアウトライン」大西 拓一郎 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)

方言形式が使われる地域を地図上に表してみると分布が現れてくる。そのような方言分布はどのようにしてできたのだろうか。説明の基本原理としてこれまで扱われてきたのは「方言周圏論」である。問題は方言周圏論が未検証の仮説である点にある。原理としての資格を明確にしないままデファクトスタンダード的地位を与えてきた。幸い,日本では,「方言周圏論」ならびにそれを近代化した「隣接分布の原則」を背景に1970~1980年代に大量の言語地図が作成され,学術的蓄積を有している。現在の分布を明らかにし,過去のデータと比較するなら,時間を隔てた分布の変化が解明できると考えられる。本研究は,全国の方言研究者が共同でデータを収集・共有しながら,具体データをもとに方言とその分布の変化の解明に挑戦する,世界にも例のないダイナミックな研究を目指すものであり,準備調査 (「全国方言準備調査」) の結果をもとにした本調査の態勢をほぼ整えつつある。

「全国方言準備調査における語彙項目の結果分析と考察」吉田 雅子 (国立国語研究所 時空間変異研究系 プロジェクト奨励研究員)

2009 (平成21) 年に,国立国語研究所全国方言調査委員会委員 (同年10月より「方言の形成過程解明のための全国方言調査」プロジェクト共同研究者) が実施した「全国方言準備調査」31地点の調査結果より,語彙分野124項目の結果を提示し,その分析と考察を行う。先行調査・言語地図がある項目についてはそれと比較して今回の調査ではどのようなことが見いだされるかを指摘し,新規項目については得られた知見を紹介する。
以上を受けて,同調査の問題点を指摘し,改訂した本調査語彙項目案を提示し,方言の形成過程解明に語彙項目調査がどのように位置づけられるかを考察する。また,本調査に向けて考慮すべき点を,調査項目・調査方法・被調査者条件・分析方法といった観点から考え,今後の展望について論じる。

「全国方言準備調査における文法項目の結果分析と考察」日高 水穂 (秋田大学 教育文化学部 准教授)

「全国方言準備調査」の調査結果より,文法分野の結果を提示し,その分析と考察を行う。文法分野では,以下のような項目を設定した。
Ⅰ 活用関係 (72項目)
Ⅱ 名詞句・接続句関係:格・とりたて・条件表現など (57項目)
Ⅲ 述語句関係:ヴォイス・アスペクト・テンス・モダリティなど (44項目)
Ⅳ 談話・待遇関係 (49項目)
上記の項目選定の際には,先行調査との比較という観点から,『方言文法全国地図』に収録されている項目を中心に取り上げ,一部に新規の項目を設定した。本発表では,そこから得られた知見を紹介するとともに,改訂した本調査文法項目案を提示する。また,本調査および調査結果の分析に向けて考慮すべき点として,周辺方言 (北海道・東北・琉球方言) の位置づけについて考えたい。