第9回 「ここまで進んだ!ここまで分かった!国立国語研究所の日本語研究」

受付は締め切りました。多数のお申し込みをいただき,ありがとうございました。

開催概要

国立国語研究所は,大学共同利用機関に移行してから6年 (第2期中期計画期間の終了) という節目を迎えます。1948 (昭23) 年の発足当初は,ウチ (すなわち国民) の視点から見た「国語」を研究することがミッションでしたが,現在ではウチの視点だけでなく,ソト (世界の諸言語) の視点,そしてソトとウチの接点としての「外国人の日本語学習」という3つの視点から日本語を多角的・総合的に研究する機関へと進化してきました。ウチの視点から見ると,一口に日本語といっても方言や歴史変化など実に多様な姿があることが浮き彫りになります。ソトの視点から見ると,世界諸言語の中で日本語が持つ独自性と普遍性が分かってきます。さらに,ウチとソトを融合した大きな視点に立つことで,外国人が日本語を習得する際に経験する諸問題に対する解決の糸口が見えてきます。このフォーラムでは,これら3つの視点から共同研究の成果を分かりやすく紹介するとともに,各種プロジェクトの展示やデモンストレーションも用意しています。ことばに興味を持つ多くの方々のご来場をお待ちします。

  • 日時 : 平成28年3月5日 (土) 13:00~17:15
  • 会場 : 一橋大学 一橋講堂 (学術総合センター 2階) [ 交通案内]
  • 聴講料 : 無料
  • 定員 : 400名
  • 主催 : 国立国語研究所

プログラム

司会 : 日本語教育研究・情報センター 教授 野田 尚史

13:00~13:15 開会の辞 ―国立国語研究所 6年間の歩み― 所長 影山 太郎

<ウチから見た日本語の多様性>

13:15~13:45 危機方言はおもしろい ―方言にひそむ多様な発想法― 時空間変異研究系 教授 木部 暢子

2009年,ユネスコは世界の言語約6,000のうち約2,500が消滅の危機に瀕していると発表しました。その中には日本で話されている8つの言語 ―アイヌ語,八丈語,奄美語,国頭語,沖縄語,宮古語,八重山語,与那国語― が含まれています。しかし,消滅の危機にあるのはこれだけではありません。日本中の方言がいま,衰退の一途をたどっています。各地の方言には,標準語にない特徴が隠れていることがよくあります。たとえば,鹿児島県与論島方言では,食べ物を口にして「美味しい」と感じたときは「マサイ」といい,母の料理はいつも「美味しい」というときには「マサン」と言います。今感じたことと日常感じていることを言い分ける習慣があるのです。この講演では,方言を通して各地の習慣や発想法について考えます。

13:45~14:15 言語研究のインフラ整備 ―日本語コーパスから見えてきたもの― 言語資源研究系 教授 前川 喜久雄

言語をきちんと調べることは簡単ではありません。対象が巨大すぎて,個人の力では調査しきれないことが多いからです。この問題を多少とも解消するために,国立国語研究所では従来から一連のコーパス (大量に収集した言語データに各種の電子情報を付け,検索・解析が可能な形にしたもの) を開発し,公開してきました。この6年間には,現代語を対象とした初の均衡コーパスである『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を公開して現代語研究に新しい流れを確立した他に,過去の日本語を対象とする『日本語歴史コーパス』とネット上の日本語を対象とする『国語研ウェブコーパス』の構築を進めてきました。この講演では各コーパスの特徴を紹介し,コーパスを用いることで,どのような事実が明らかになるかを簡単に説明します。

14:30~15:30
<ポスター展示とデモンストレーション>

理論・構造研究系

  • 上代語連濁データベース
    ティモシ-・バンス
  • 複合動詞レキシコン
    影山 太郎

時空間変異研究系

  • SP盤レコードが拓く日本語研究
    相澤 正夫
  • 方言の形成過程の解明 ―方言分布の経年比較に基づく―
    大西 拓一郎
  • 敬語の成人後採用と記憶時間
    井上 史雄
  • 方言コーパス試作版
    井上 文子

言語資源研究系

  • 現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ) の概要と検索
    山崎 誠
  • 『日本語歴史コーパス (CHJ) 』の概要と検索
    小木曽 智信

言語対照研究系

  • 日本語教育に役立つ『基本動詞ハンドブック』の開発
    今村 泰也,プラシャント・パルデシ
  • アイヌ語研究の新しい局面へ向けた取り組み ―アイヌ語班研究活動報告―
    アンナ・ブガエワ,小林 美紀
  • 日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究―3年間の研究成果から
    ジョン・ホイットマン,長崎 郁
  • 語りの中に生きることば ―『アイヌ語の口承文芸コーパス』―
    アンナ・ブガエワ,小林 美紀

日本語教育研究・情報センター

  • 接続詞に透けて見えるジャンルの不思議 ―商学・経済学・法学・社会学・国際政治学の違いを例に―
    石黒 圭
  • 日本に定住した外国人のことばの使用と環境に関する縦断的研究 ―日本語学習者の会話力に焦点を当てながら見えてきたこと―
    野山 広

コーパス開発センター

  • 『国語研日本語ウェブコーパス (NWJC) 』の概要と検索
    浅原 正幸

<ソトから見た日本語の特性と普遍性>

15:40~16:10 日本語の音声 ―促音 (っ) の謎― 理論・構造研究系 教授 窪薗 晴夫

日本語の促音 (「っ」で表記される<つまる音>) は,日本語学習者にとっても日本語を母語とする子供にとっても獲得が難しい音とされています。本講演では外来語に現れる促音の謎をいくつか紹介し,その謎を解明するために行った音声実験の結果を報告します。具体的には「サックス (sax) 」「ファックス (fax) 」「ミックス (mix) 」のように,元の英語の末尾では促音が出現するのに,「サキソフォン (saxophone) 」「ファクシミリ (facsimile) 」「ボクサー (boxer) 」のように,元の英語で単語の末尾から離れた位置には促音が出現しない,という出現位置の違いがあります。この位置的な違いは原語 (英語) の音声特徴と,日本語が好む音韻構造に原因があることを明らかにします。

16:10~16:40 言語の普遍性と多様性 ―自動詞・他動詞の対応にみられる普遍的傾向― 言語対照研究系 教授 プラシャント・パルデシ

世界で話されている言語の数は約6000と言われ,日本語は,母語話者人口別のランキングではトップ10位に入ります。日本語を世界の諸言語と比較して,似ている点や異なる点を浮き彫りにすることが言語類型論・対照言語学の目標です。私のプロジェクトでは日本語とアジアの諸言語を含む世界の35の言語を詳細に比較・検討し,それを通して日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究を行ってきました。その成果の一部として,日本語の自動詞 (たとえば「沸く」) と他動詞 (たとえば「沸かす」) を世界の諸言語の自他交替動詞と比較して,どのような知見が得られたのかを報告します。また,外国語として日本語を学ぶ外国人日本語学習者に日本語の自動詞・他動詞を教えるために参考となるネット版の辞書「基本動詞ハンドブック」も紹介します。

<ソトとウチの接点としての日本語学習>

16:40~17:10 日本人と外国人の日本語コミュニケーション ―学習者の「安全な誤用」と「危険な正用」― 日本語教育研究・情報センター 教授 迫田 久美子

海外ではアニメ・マンガ・J-pop などのサブカルチャーをきっかけに日本語学習ブームが起こり,日本国内では日本人と世界の様々な国の人たちが共存する「多文化共生」が進んでいます。そのような状況において,外国人と適切なコミュニケーションをとるためには,日本語そのものに多様な姿を認めることが必要になってきます。たとえば,「将来,日本と母国のワリバシ (架け橋) になりたいです」や「中国のナベ (かべ : 万里の長城) は有名です」などは,単語の選択が間違っていることが明らかですから,少し配慮すれば,言いたいことをくみ取ることができます。他方,「先生,このケーキ,私が作ったんですから,食べてください」や「先生,私の家族の写真,見たいですか?」などは,文法的には正しいかもしれませんが,相手の気分を害する危険性があります。外国人の「安全な誤用」と「危険な正用」をふるい分け,これからの日本語教育にどのように活かしていけるのか,実際のデータを示しながら解説します。

17:10~17:15 閉会の辞 ―今後の展望― 所長 影山 太郎

お問い合わせ先

国立国語研究所 管理部 研究推進課
Tel. : 042-540-4374
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