「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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55.プライマリーケア 〔総合的に診る医療〕  primary care

(類型C)重要で新しい概念の普及を図る

[関連] 病診連携(びょうしんれんけい)(類型B)

 大きな病院での専門医療に対して,ふだんから何でも診てくれ相談にも乗ってくれる身近な医師(主に開業医)による,総合的な医療です。今後の社会的な医療体制を考える上で重要な概念です。


まずこれだけは

ふだんから近くにいて,どんな病気でもすぐに診てくれ,いつでも相談に乗ってくれる医師による医療

少し詳しく

 「あなたの近所にいて,何でも気さくに診てくれ,いつでも相談に乗ってくれる医師による医療のことです。特定の病気だけを診る専門医療とは違って,患者を一人の人間として,総合的に診療する医療のことです。緊急の事態が起こったり専門的な医療が必要になったりしたときは,最適の専門医に進んで紹介してくれるので,安心です」

時間をかけてじっくりと

 「急にからだの調子が悪くなった緊急の場合の対応から,健康診断の結果についての相談までを行う医療のことです。プライマリーケアを行う医師は,そのための専門的なトレーニングを受けており,患者さんの抱える様々な問題にいつでも幅広く対処できる能力を身につけている『何でも診る専門医』です。必要なときは最適の専門医に紹介します。在宅診療や地域の保健・予防など,住民の健康を守る役目も担っています」

概念の普及のための言葉遣い

  1. 「プライマリーケア」という言葉の認知率は29.6%と非常に低い。「プライマリー」という外来語の意味も一般の人には分かりにくいので,普及のためには,端的な言い換えや言い添えの必要性が高い。プライマリーケアを実践する医師の行動の側面から,この概念を理解するのが分かりやすく,[まずこれだけは]に示した表現で言い換えや言い添えをするのが効果的である。

  2. 病院と診療所とが密接な連携をとる「病診連携」が重視されるようになっていることなど,これからの医療体制を考えるのに重要な考え方の中心に,プライマリーケアがあることを,次のような説明によって伝えることも概念の普及につながるだろう。

「これからの医療は,プライマリーケアを行う医師と大病院の専門医を中心に,すべての医療者が綿密に連携して,患者優先,人間重視の立場で互いに協力することが望まれています」

こんな誤解がある

 現在日本では「プライマリーケア」という言葉が,以下のように使われているために,混乱や誤解が生じている。

  1. もともとprimaryという言葉には,「主要な」「主な」「最も重要な」という意味がある。WHO(世界保健機関)や[ここに注意]に記すように米国国立科学アカデミーでも「プライマリーケア」をこの意味に注目して定義している。
  2. primaryには「初級の」「初等の」「基本の」という意味もある。同じ医療分野でも,専門医療の分野の人たちは,この言葉をその意味に限って使用している傾向がある。「プライマリーケア」の「プライマリー」は,その意味ではない。
  3. WHOが当初に提唱した「プライマリーヘルスケア」は,保健の立場,いわば一次予防(地域保健活動)の立場を強調した用語であった。これは,発展途上国を念頭においた考え方である。一方,先進国においては,健康保険制度や,医療者の数・質はある程度整っているので,医療者と患者・家族・地域という関係で医療体制を見ることが一般的である。この観点から,国民の健康や病気に総合的・継続的に対応する医療として,「プライマリーケア」の用語の普及が図られるようになった。
  4. 看護師の世界では,「プライマリーナーシング」という言葉があり,これは,ある特定の患者の看護ケアを,入院から退院まで一人の受持ち看護師が継続して責任を持つ「主治看護師制」のことを指す。継続性に重きをおいた入院患者の看護に特化した話であり,ここでの「プライマリー」は違った意味を持つことになる。

ここに注意
  1.  「プライマリーケア」に最も適合する定義は,1996年の米国国立科学アカデミー(National Academy of Sciences,NAS)医学部門による次のものである。


    「プライマリーケアとは,患者の抱える問題の大部分に対処でき,かつ継続的なパートナーシップを築き,家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される,総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである」

  2. 「プライマリーケア」という用語の表記について,日本プライマリ・ケア学会では,「プライマリ・ケア」としている。

患者・家族と医師の問答例
Q:
待合室の掲示に先生はプライマリーケアをやっていると書いてありました。プライマリーケアってどんなことをするのですか。
A:
患者さんを一人の人間としてとらえ,その人のからだや心が抱える問題を総合的に診る医療です。主として地域の診療所や小病院の医師が行っています。幅広くなんでも診て,往診や訪問診療などの在宅診療を行う医師も多いことが特徴です。
Q:
大きな病院とは役割が違うのですね。
A:
その通りです。病院の専門医は,自分の専門の脳とか心臓とか肝臓とか,ひざとか,それぞれのからだの部分の病気を診ますが,専門外は,それぞれの専門医に任せます。
Q:
ほかのところも診てもらいたいと言うと「○○科へ行きなさい」と言われ,その都度医師が替わって待たされるので,時間もかかってちょっと不便ですね。
A:
その点,私たちプライマリーケアをやっている診療所は便利ですよ。風邪・腹痛・高血圧・糖尿病それに腰痛や軽いケガまで・・・大抵は何でもオーケーですので,一か所で間に合ってしまいます。
Q:
先生,それって昔,「町医者」と言っていたお医者さんみたいですね?
A:
そうなんですよ! 現代版の「町医者」なんですよね。
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