43.脳死(のうし)
まずこれだけは
脳の機能が失われてしまった状態
少し詳しく
「脳の機能が失われてしまって,今後回復が見込めない状態です。心臓は動いていても,脳幹と呼ばれる脳の中枢が働かなくなった状態で,多くの場合10日ほどで心臓も止まって死亡に至ります」
時間をかけてじっくりと
「脳の機能が失われてしまった状態で,今後回復が見込めない状態です。心臓は動いていても,脳幹と呼ばれる脳の中枢が働かなくなった状態で,10日ほどで心臓も止まって死亡に至ります。法やガイドライン1で決められた要件を満たした,複数の医師による脳死判定で決められます」
こんな誤解がある
植物状態と脳死の患者を混同する誤解がある。この違いは脳幹が働いているかいないかにある。植物状態は,脳幹が働いており,生命の維持はでき,適切な医療を行えば十数年も生存できる。一方脳死は,脳幹が働いておらず,10日程度で死亡する見通しである。
言葉遣いのポイント
- 「脳死」という言葉は,認知率98.3%,理解率96.6%とともに極めて高い。言葉と意味はよく知られていると考えられる。しかし,その詳しい内容は知られておらず,家族が脳死になった場合など,説明を受けて判断を求められると,混乱する場合がある。家族は何を考えて何を決めればよいのかが分かるように説明することが望まれる。
- 脳死の説明は,臓器移植の意思のある患者の場合と,そうでない患者の場合とで分けて対応するのが効果的である。臓器移植の意思のある患者の場合は,法律の説明と臨床の説明の双方を丁寧に行う必要がある。臓器移植の意思のない患者の場合は,臨床の説明に重点を置いて説明するのがよい。
ここに注意
- 脳死をいつの時点で診断するかが,臓器移植の意思のある患者の場合,重要になる。臓器移植法では臓器を移植する場合に限って「脳死を人の死」として,脳死判定後,移植の処置が始まる。この時期が遅れるほど,移植には不利な状況となるため,あらかじめそのような意思のある患者の場合は家族にも診断後の手順を説明しておく必要がある。またその際には,移植コーディネーターが,家族への支援も行う。
- 臓器移植の意思がない患者の場合は,脳死という言葉を用いなくても,この後は,10日程度で死亡することの見通しを家族に伝えて,家族が心の準備ができるように配慮する。
- 日本では「心臓死」を人の死と考える(感じる)人も多いので,患者の状態について,言葉を選んで丁寧に説明する必要がある。
(注)
1.ガイドライン 「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)および「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)」。