「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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6.浸潤(しんじゅん) ―がんの場合を例に―

(類型A)日常語で言い換える

[複合] 浸潤影(しんじゅんえい)(類型A)
[関連] 転移(てんい)(類型B)

まずこれだけは

がんがまわりに広がっていくこと

少し詳しく

 「がんがまわりに広がっていくことです。水が少しずつしみ込んでいくように,次第にがん細胞が周囲に入り込み,拡大していきます」

時間をかけてじっくりと

 「がんがまわりに広がっていくことです。『浸』はしみること,『潤』はうるおって水気を帯びることで,『浸潤』は,水が少しずつしみ込んでいくように,次第にがん細胞が周囲の組織1を壊しながら入り込み,拡大していくことです」

言葉遣いのポイント
  1. 認知率は41.4%と低いので,がんについての患者の知識が深くない段階では,まず,「浸潤」という言葉を使わないで説明したい。概念は分かりやすいので,[まずこれだけは][少し詳しく]に示したような表現で,言い換えると伝わりやすい。
  2. がんの治療法について患者自身が積極的に知ろうと努めていこうとする場合などは,「転移」と対比する概念として,「浸潤」の言葉を覚えてもらった方が,治療法について患者の理解も深まるだろう。その際には,[時間をかけてじっくりと]に記したように,漢字を書き,漢字の意味の説明を添えると効果的である。
  3. がんがからだのほかの部分にも広がることを表す「転移」という言葉は,「浸潤」に比べて,患者にもなじみがある。ただし,がんの広がり方についての理解は不十分な患者も多いので,「転移」についても分かりやすい説明が必要である。例えば,「『転移』は,からだの離れた部分にがんが飛び火して広がること,『浸潤』は,がんがまわりにしみ込むように広がることです」などと説明することが考えられる。
患者はここが知りたい

 患者は,がんがどの範囲まで広がっているか,今後広がる可能性があるかを知りたい。がんの広がる原理と,がんの今の状態や今後の見通しを,明確に伝えたい。

ここに注意
  1. がん以外にも「浸潤」の状態を説明しなければならない場合もある。その場合も,患者に対しては,「浸潤」という言葉はなるべく使わずに,まわりにしみるようにして広がる様子など,病状に応じた説明を工夫したい。
  2. 「浸潤」や「転移」は,がんの広がり方を図や絵に描いて説明すると,患者の理解が,明確になる。その際,必要に応じて「発がん」「がん細胞」「リンパ管」などについても同時に示すと,分かりやすい。
複合語

浸潤影(しんじゅんえい)(類型A)

[説 明]
 「エックス線検査(レントゲン検査)の結果,肺にぼんやりと広がっていく様子の影が写っています。肺炎などが疑われますので,精密検査が必要です」
[注意点]
 肺のエックス線検査の診断結果で使われる言葉である。がんの場合以外で「浸潤」という言葉に患者が出会う可能性が高い複合語である。検査結果を診断書などで伝える場合,「浸潤影」と書くだけでは不親切である。

(注)
1.組織 同じ形や働きをもつ細胞が集まってひとまとまりになっている部分。神経組織,脂肪組織などがある。「細胞って何ですか」と聞かれたら「生き物のからだを作っている一番小さい単位です」と説明すると分かりやすい。

©2008 The National Institute for Japanese Language