「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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8.せん妄(もう)

(類型A)日常語で言い換える

[関連] 認知症(にんちしょう)(類型B)

まずこれだけは

話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態

少し詳しく

 「病気や入院による環境の変化などで脳がうまく働かなくなり,興奮して,話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態です」

時間をかけてじっくりと

 「病気や入院による環境の変化などで脳がうまく働かなくなり,興奮して,話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態です。人の区別が付かなかったり,ないものが見えたり,ない音が聞こえたりすることがあります。また,ぼんやりしているかと思うと急に感情を高ぶらせることもあります」

こんな誤解がある
  1. せん妄の症状そのものを病気だと考える人がいる。「せん妄」は病気の名前ではなく,状態を表す言葉である。認知症(→[関連語])が原因でせん妄の症状が現れている場合,誤解が起きやすいので,混乱を避けるためにも,「せん妄」という言葉は使わない方がよい。
  2. せん妄の症状は長く続くと誤解している人がいる。せん妄は,一時的な症状である。
  3. 症状を見て,認知症だと誤解する人がいる。認知症が原因で,せん妄の症状が現れることはあるが,熱や薬が原因のこともある。
言葉遣いのポイント
  1. 「せん妄」という言葉は,認知率が24.7%にすぎないので,医療者間のみで使う言葉にとどめたい。患者やその家族には「せん妄」という言葉を使わない方がよい。「一時的な強い寝ぼけのようなもの」と説明している医師もいる。
  2. 「せん妄」の症状を詳しく理解してもらう重要性が高い場合など,この言葉をどうしても使う必要が生じたら,漢字で「譫妄」と書いて,次のような解説をするのがよい。

「『譫』は『たわ言やうわ言のように,とりとめもなくしゃべる言葉』のことです。『妄』は『われを忘れたふるまいをする様子』のことです。『譫妄』は『われを忘れて意味不明のことを言い出すこと』を意味します」

関連語

認知症(類型B)

説 明
 「ものを考えたり,覚えたりする力を認知能力と言います。その認知能力が下がる病気が認知症です。脳の血管が詰まったり出血したりして起きる場合と,脳が縮んで働きが鈍くなるアルツハイマー病によって起きる場合があります。高齢者に多い病気で,進行すると治療が難しいので,早く発見して予防したり進行を遅らせたりすることが大切です」
注意点
 病名の「認知症」と,一時的な状態の「せん妄」とが混同されないように,説明の際には注意が必要である。「認知症」は従来「痴呆(ちほう)」と呼ばれていたが,厚生労働省は,「痴呆」は侮蔑(ぶべつ)的な意味が含まれ,早期発見・早期診断などの取り組みの支障となっているという理由で,平成16年に「認知症」に改めるべきという報告書を出した。現在では,医学用語としても行政用語としても「認知症」に統一され,一般にもこの言葉が使われている。認知症より痴呆と言った方が分かりやすい面もあるが,その際は,こうした名称変更のいきさつも合わせて説明しておきたい。
©2008 The National Institute for Japanese Language