4.一語一語の詳しい検討
4.1 言葉の選定作業
言葉の絞り込み作業の後半段階の「選定」と「類型の設定」においては,調査データに基づくだけでなく,実務委員会において各委員の見解を出し合う共同作業を行いました。最初の共同作業として,提案に取り上げる候補約2,000語のリストから,提案するために詳しく検討する言葉の選定を行いました。
約2,000語のリストには,(1)言葉の頻度調査によって得られた難解度・重要度,(2)医師に対する問題語記述調査によって得られた多様なコメント,医療用語集や国語辞典での収録状況などを書き入れ,意味分野(病気や状態,身体の部位,治療や検査,薬剤など)によって配列しました。このリストの全体に,実務委員全員が目を通し,一語一語について,次の三つのいずれかのマークを付ける作業を行いました。
◎:提案する候補として詳しく検討すべき
○:提案する候補として残すべき
×:提案する候補から除外すべき
その際,ただマークを付けるだけではなく,そう判断する理由をなるべく記入するようにしました。この作業は,平成20年1月から2月にかけて行いました。
全員の作業の結果をまとめ,◎,○,×の数をもとに,詳しく検討すべき優先順位を付け,この順位表をたたき台にして合議し,詳しく検討する言葉100語を選定しました。100語の中を優先的に検討すべき言葉とそうでない言葉とに分けたり,100語の外側に提案の候補となり得る言葉のグループを設定したりして,検討作業が,効率的かつ柔軟に進められるように配慮しました。また,委員が記入した判断理由は,分かりやすい表現の工夫を検討する際に参照できるように整理しました。
4.2 作業シートによる分かりやすい表現の検討作業
次に,絞り込んだ100語について,分かりやすく伝えるための具体的な表現方法を工夫しながら,その工夫を類型としてまとめる作業を行いました。一語一語についてどのような表現で言い換えたり説明を付けたりすれば分かりやすく伝えることができるのか,言い換えや説明の際に注意すべきことはどんなことかについて,丁寧に検討しながら,そうした工夫を類型化できる基本的な枠組みを作るように努めました。
この作業ではまず,平成20年3月から4月にかけ,100語について分担を決め,一語当たり四人程度が工夫の方法を作業シートに詳しく書き出していきました。こうして書き出された結果を,語別に一覧できる資料を作成しました。続いて,平成20年5月から7月にかけての会議では,この資料を見ながら,一語一語について提案する内容を合議し執筆していきました。その記述は,[まずこれだけは],[少し詳しく],[時間をかけてじっくりと],[こんな誤解がある],[言葉遣いのポイント] などの雛形(ひながた)に当てはめていくようにしました。雛形は,検討した言葉の数が増えるにしたがって変更が加わっていき,最終的には,この報告書の「Ⅲ.類型別の工夫例」のはじめに示した「凡例」にあるような形に整理されていきました。
このような一語一語の作業を重ねる一方で,似た問題を持つ語をひとまとめにして検討したり,関連する言葉を100語の外側から追加したりしました。その過程で様々な類型化を試みては,再検討を重ねました。最終的に類型が固まったのは,平成20年9月です。各類型の代表語であることが分かりやすくなるように,各語の記述内容を補正しました。
4.3 委員会での議論
作業の過程には苦労も多く,またそれに伴う発見がいろいろとありました。最も苦労したのは,医療を専門とする委員と言葉を専門とする委員とで意見が分かれることが多かった点です。
例えば,提案に取り上げるべき言葉について,リストにマークを付ける作業では医療を専門とする委員は,医学の重要語や患者に正しく理解しておいてほしい言葉に◎や○を付け,言葉を専門とする委員は,難解語や患者の誤解がありそうな言葉に◎や○を付けました。大ざっぱに言えば,言葉側の委員の視点では類型Aの言葉を多く選び,医療側の委員の視点では類型Bの言葉を多く選んだということです。マークの数を集計した結果を見たとき,医療側の委員も言葉側の委員も,共に意外な感じを持ちました。医療側の委員は医療者でない一般人の意識に気づかされ,言葉側の委員は医療現場の問題意識を学ぶことになりました。双方の視点が入っていることが,この委員会の作業の特徴だと言えるでしょう。
分かりやすく伝えるための表現を具体的に書き出す作業では,医療側の委員は,豊富な知識に裏打ちされた正確な表現で記述していきました。一方,言葉側の委員は,平易な表現に砕き,比喩(ひゆ)や例示もふんだんに入れた表現を繰り出していきました。しかし,それらを合体すれば,正確で分かりやすい説明になるというわけではありません。委員が考えた表現をたくさん並べた資料を見ながら,ここはこの表現を採ろう,そこはあちらの表現をこう変えて使おう,などと言いながら,スクリーンに映し出したパソコンの画面で,皆で作文をしていきました。全員が満足できる表現に仕上げるのは,ことのほか難しく,作文をしながら,その言葉の概念や患者の理解の在り方について議論は白熱し,四時間の会議で,わずか二つの言葉の説明しか決められなかったこともありました。このような議論を行うことで,言葉側の委員は,その概念が医療の文脈でどのようにとらえられているかを初めて知ることができ,医療側の委員は,自らの豊富な知識のうち患者に伝えなければいけない核心がどこなのかを発見することになりました。苦労したけれども充実感も大きかった作業です。
言葉の絞り込み作業の後半段階の「選定」と「類型の設定」においては,調査データに基づくだけでなく,実務委員会において各委員の見解を出し合う共同作業を行いました。最初の共同作業として,提案に取り上げる候補約2,000語のリストから,提案するために詳しく検討する言葉の選定を行いました。
約2,000語のリストには,(1)言葉の頻度調査によって得られた難解度・重要度,(2)医師に対する問題語記述調査によって得られた多様なコメント,医療用語集や国語辞典での収録状況などを書き入れ,意味分野(病気や状態,身体の部位,治療や検査,薬剤など)によって配列しました。このリストの全体に,実務委員全員が目を通し,一語一語について,次の三つのいずれかのマークを付ける作業を行いました。
◎:提案する候補として詳しく検討すべき
○:提案する候補として残すべき
×:提案する候補から除外すべき
その際,ただマークを付けるだけではなく,そう判断する理由をなるべく記入するようにしました。この作業は,平成20年1月から2月にかけて行いました。
全員の作業の結果をまとめ,◎,○,×の数をもとに,詳しく検討すべき優先順位を付け,この順位表をたたき台にして合議し,詳しく検討する言葉100語を選定しました。100語の中を優先的に検討すべき言葉とそうでない言葉とに分けたり,100語の外側に提案の候補となり得る言葉のグループを設定したりして,検討作業が,効率的かつ柔軟に進められるように配慮しました。また,委員が記入した判断理由は,分かりやすい表現の工夫を検討する際に参照できるように整理しました。
4.2 作業シートによる分かりやすい表現の検討作業
次に,絞り込んだ100語について,分かりやすく伝えるための具体的な表現方法を工夫しながら,その工夫を類型としてまとめる作業を行いました。一語一語についてどのような表現で言い換えたり説明を付けたりすれば分かりやすく伝えることができるのか,言い換えや説明の際に注意すべきことはどんなことかについて,丁寧に検討しながら,そうした工夫を類型化できる基本的な枠組みを作るように努めました。
この作業ではまず,平成20年3月から4月にかけ,100語について分担を決め,一語当たり四人程度が工夫の方法を作業シートに詳しく書き出していきました。こうして書き出された結果を,語別に一覧できる資料を作成しました。続いて,平成20年5月から7月にかけての会議では,この資料を見ながら,一語一語について提案する内容を合議し執筆していきました。その記述は,[まずこれだけは],[少し詳しく],[時間をかけてじっくりと],[こんな誤解がある],[言葉遣いのポイント] などの雛形(ひながた)に当てはめていくようにしました。雛形は,検討した言葉の数が増えるにしたがって変更が加わっていき,最終的には,この報告書の「Ⅲ.類型別の工夫例」のはじめに示した「凡例」にあるような形に整理されていきました。
このような一語一語の作業を重ねる一方で,似た問題を持つ語をひとまとめにして検討したり,関連する言葉を100語の外側から追加したりしました。その過程で様々な類型化を試みては,再検討を重ねました。最終的に類型が固まったのは,平成20年9月です。各類型の代表語であることが分かりやすくなるように,各語の記述内容を補正しました。
4.3 委員会での議論
作業の過程には苦労も多く,またそれに伴う発見がいろいろとありました。最も苦労したのは,医療を専門とする委員と言葉を専門とする委員とで意見が分かれることが多かった点です。
例えば,提案に取り上げるべき言葉について,リストにマークを付ける作業では医療を専門とする委員は,医学の重要語や患者に正しく理解しておいてほしい言葉に◎や○を付け,言葉を専門とする委員は,難解語や患者の誤解がありそうな言葉に◎や○を付けました。大ざっぱに言えば,言葉側の委員の視点では類型Aの言葉を多く選び,医療側の委員の視点では類型Bの言葉を多く選んだということです。マークの数を集計した結果を見たとき,医療側の委員も言葉側の委員も,共に意外な感じを持ちました。医療側の委員は医療者でない一般人の意識に気づかされ,言葉側の委員は医療現場の問題意識を学ぶことになりました。双方の視点が入っていることが,この委員会の作業の特徴だと言えるでしょう。
分かりやすく伝えるための表現を具体的に書き出す作業では,医療側の委員は,豊富な知識に裏打ちされた正確な表現で記述していきました。一方,言葉側の委員は,平易な表現に砕き,比喩(ひゆ)や例示もふんだんに入れた表現を繰り出していきました。しかし,それらを合体すれば,正確で分かりやすい説明になるというわけではありません。委員が考えた表現をたくさん並べた資料を見ながら,ここはこの表現を採ろう,そこはあちらの表現をこう変えて使おう,などと言いながら,スクリーンに映し出したパソコンの画面で,皆で作文をしていきました。全員が満足できる表現に仕上げるのは,ことのほか難しく,作文をしながら,その言葉の概念や患者の理解の在り方について議論は白熱し,四時間の会議で,わずか二つの言葉の説明しか決められなかったこともありました。このような議論を行うことで,言葉側の委員は,その概念が医療の文脈でどのようにとらえられているかを初めて知ることができ,医療側の委員は,自らの豊富な知識のうち患者に伝えなければいけない核心がどこなのかを発見することになりました。苦労したけれども充実感も大きかった作業です。