「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

設立趣意書
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8.意見によって中間報告の内容を修正した点

 7.に整理したように中間報告に対して寄せられた自由記述意見の多くは,「病院の言葉」を分かりやすくする提案の理念や方法に対する意見や,提案に触発されてふだん考えていることを述べた意見でした。一方,全体から見ればその数は多くありませんでしたが,中間報告で取り上げた個々の言葉についての記述を丁寧に検討し,具体的な改善案を寄せたものもありました。こうした改善案が寄せられた言葉については,委員会で再検討し,記述を修正したものがあります。そのようにして修正したところは,以下の通りです。

6.「浸潤」

意見
「浸潤」を,がんの場合を例に説明しましたが,この言葉はがんの場合に限らないという意見が,いくつか寄せられました。
判断
がんの場合ほど頻繁ではありませんが,がん以外にも「浸潤」が使われることがあります。ただし,この提案は,「浸潤」の定義をしたり,言葉の意味の全体を解説したりすることを目指すものではありません。がんの場合を例に,どのように言い換えたり説明をしたりすれば患者によく伝わるかを解説することを目指しています。提案の趣旨を生かす一方で,誤解を生じないように配慮する必要があります。
対応
提案の趣旨を生かしながら,定義や意味が誤っていると誤解されないように,見出し語の後に,「がんの場合を例に」と,注記を加えました。

7.「生検」の関連語「病理」

意見
「病理」を類型Aの言葉と扱い,「生検」と同様に「医療者間での使用にとどめるようにした方がよい」と述べたことに対して,「病理診断科」が標榜(ひょうぼう)診断科(病院や診療所が外部に広告できる診療科名)になったこともあり,「病理診断」や「病理」が,病院において病理医という専門集団によって重要な役割を果たしていることを,国民も知っておくべきであるという意見が寄せられました。この趣旨の意見は,個人として寄せられたもののほか,日本病理学会からも寄せられました。
判断
確かに,病理診断がどんなもので,どんな役割を持つものかを患者が正しく知っておくことは,大切なことだと考えられます。「病理」は日常語で言い換えて済ませるだけでなく,その意味や内容を明確に説明する扱いをすることも妥当だと考えられます。
対応
標榜診断科になることにより,患者が病院で見聞きする機会が増えることが考えられ,説明をして理解してもらう必要があります。そこで,類型Aの扱いをやめ,類型Bの扱いに変更しました。これに伴って,「生検」の[ここに注意]の記述も修正しました。

16.「炎症」

意見
この提案では「感染による炎症」の説明しかしていませんが,炎症の定義はもっと難解であること,そうした難解な説明をするのであれば,「炎症」という言葉を使って説明した方がよいという意見が寄せられました。
判断
この提案の説明がすべての「炎症」に当てはまると受け取られるのは避ける必要があります。この提案では,「炎症」という言葉を使うことを前提に,分かりやすい説明の工夫を示しています。感染による場合を例にこれを行うことは,この提案の趣旨からすれば意義があることだと考えます。
対応
この提案の説明がすべての「炎症」に当てはまるものではなく,感染の場合を例に説明の工夫を示していることが明示できるように,見出し語の後に「感染による場合を例に」と示しました。

17.「介護老人保健施設」

意見
中間報告に掲げた介護保健施設各種の比較表の中で「介護療養型医療施設」の費用を「医療保険から給付」としているのは誤りであるという指摘がありました。また,制度の複雑さから医療者の中にも各施設の区別がつかない人がいて,現場で混乱を来しているという意見もありました。
判断
費用の記述が誤っている点は,修正しなければなりません。また,表形式によって各施設の違いを整理する方法は,誤解を与える面があるので,避ける方がよいと判断しました。制度の複雑さは,指摘の通りで,これに言葉の難解さが加わって,非常に分かりにくくなっている現状を指摘する必要があると考えました。
対応
比較表による整理をやめ,費用のことも含め,具体的に説明する必要があることを指摘する記述に書き換えました。

19.「グループホーム」

意見
この提案では,介護保険制度に基づく認知症患者の「グループホーム」を扱っていますが,認知症患者以外のグループホームもあり,歴史的には,精神障害者や知的障害者のものの方が早く,それらについても取り上げるべきという意見が寄せられました。これに関連して,[ここに注意] 2.の記述に誤認があるという指摘もありました。この意見は,日本グループホーム学会から寄せられました。
判断
グループホームが認知症患者のものだけではないことは,この提案の記述の中でも言及する必要があると考えました。一方,現在最も多いグループホームは認知症患者のものであるので,この場合を例に説明の仕方の工夫を示すことは意義があると考えられます。
対応
[ここに注意] 2.の記述の誤りを正し,新たに 3.を立て,グループホームの歴史について,説明を加えました。この提案の説明が認知症患者の場合を例にしていることを示すために,見出し語の後に「認知症患者の場合を例に」と示しました。

20.「膠原病(こうげんびょう)」

意見
[まずこれだけは]の説明に用いられている「免疫」という用語自体が難解ではないかという意見が寄せられました。
判断
確かに「免疫」という言葉は,患者が,踏み込んだ意味を理解するのは難しい面があります。「免疫」という言葉の説明方法は,[関連語]で示していますが,[まずこれだけは]では,この言葉を用いないで説明する方がよいと判断しました。「炎症」という言葉が用いてある点も同様と考えました。
対応
[まずこれだけは]の説明を,「免疫」「炎症」という用語を用いないものに改めました。「免疫」という言葉は[時間をかけてじっくりと]で使うことにし,そこから関連語を参照させる形に改めました。

28.「メタボリックシンドローム」

意見
[こんな誤解がある]の中にある「ウエストの太さ」という表現は不正確で,「へその高さで水平に測る値」などというのが適切という意見が寄せられました。
判断
この意見にしたがって,修正の必要があると判断しました。
対応
該当部分の表現を「ウエスト」から「腹まわり」に改めました。

33.「化学療法」

意見
化学療法は,がんの場合だけでなく,感染症治療でも使うという意見がありました。
判断
化学療法は,現在ではがんの治療法を指すことが一般的ですので,がんの場合を例に説明することは問題ないと考えます。しかし,もともとは感染症治療で使うものであったということも大事な情報ですので,言及した方がよいと考えました。
対応
[ここに注意]に一項を立て,もともとは感染症の治療を,化学的に作られた薬剤によって行うことを指していたことを記しました。

40.「糖尿病」

意見
糖尿病には,「1型糖尿病」と「2型糖尿病」の二種類があるのに,この提案では「2型糖尿病」だけに言及し,「1型糖尿病」に言及していないことは問題であるという意見が寄せられました。
判断
「1型糖尿病」と「2型糖尿病」とでは,病気の説明の方法が異なり,「1型糖尿病」の場合も珍しくありませんので,両方について言及するのが適切だと判断しました。
対応
[ここに注意]に一項を立て,「1型糖尿病」と「2型糖尿病」の区別があることを明記しました。また,生活習慣病への言及がある部分は,「2型糖尿病」についてであることを加筆しました。

41.「動脈硬化」の関連語「心筋梗塞(こうそく)」

意見
「狭心症の症状が進行し」と説明するのは,心筋梗塞の際に,狭心症の症状が必ずあるかのように解されるので不適切であるという意見がありました。
判断
この意見にしたがって,適切な表現に修正すべきと考えました。
対応
狭心症の症状が進む場合以外でも,心筋梗塞が起こることが分かる表現に修正しました。

43.「脳死」

意見
説明にある「脳が機能を停止した状態」という表現は,「また動き出す」というニュアンスがあって不適切ではないか,という意見が寄せられました。また,[ここに注意] 3.の「欧米のように『脳死を人の死』と考えるのに慣れていない」という表現は,「慣れるべき」という価値観を持ち込んでいるのではないか,という指摘がありました。
判断
二つの意見にはどちらも賛同できますので,該当部分を修正すべきと考えました。
対応
「脳が機能を停止した状態」の部分を,「脳の機能が失われてしまった状態」に修正しました。また,「欧米のように『脳死を人の死』と考えるのに慣れていない」という表現を削除しました。

56.「MRI」

意見
「MRI」の,[時間をかけてじっくりと]の記述,「CT」との比較表の記述について,専門的見地から,不正確で,誤解を招く場合があるという意見と改善案が寄せられました。
判断
説明は正確であるべきだと考えますが,正確さを追求する余り,患者にとって難解にならないように留意する必要もあります。そうした観点で記述を見直すべきと考えました。
対応
「分かりやすさを確保した上で,誤解を招かない表現になるように,部分的に記述を修正しました。

57.「PET」

意見
PET検査には,この提案で取り上げているもののほかにも種類があるので,それらも取り上げて説明すべきであるという意見が寄せられました。また,PET検査は核医学検査の一つであることを記述した方がよいという意見もありました。
判断
専門的見地からは,本提案の説明では不十分ですが,すべての場合を説明すると患者にとって分かりにくくなる場合もあります。典型的な場合を例に,新しい医療機械について説明するときの注意点を,具体的に示すことが,第一の目的だと考えました。
対応
指摘された意見を,そのままこの提案に書き込むと,やはり分かりにくくなってしまうと思われますので,専門的見地から書かれた,分かりやすい説明書を参照することを,[ここに注意]で推奨することにしました。核医学検査とのかかわりも,この説明書によることで必要に応じて,示せると考えました。

 以上は,外部から寄せられた意見を参考に修正した点です。これ以外にも,委員会で再検討して中間報告から修正した部分があります。

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