掛ける・懸ける・架ける(かける)

位置変化を表す動詞
活用表 2グループ 起伏型
コアイメージ
語義リスト ・慣用表現
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1《接着》広がりのある物を、下へ移動させ、その下方にある水平物と接触させ、その両端を下向きに曲げることにより、そこに留める。
2《効果》液体や粉末や膜状の物体を下へ移動させ、その下方に存在する水平物のある程度の範囲に接着させる。
3《距離付着》液体や気体や細粒物を、離れた場所から移動させ、ほかの物体の表面に接着させる。
4《通路設置》通路となる物を、空間の端から端まで、上方に作る。
5《力を加える》(上方から)何らかの力を、ある平面(と捉えられるもの)全体に及ぼす。
6《快適化》音や気流を空間全体に及ぼし、快適に感じるように調整する。
7《投資する》完成を期待する事業・作業に、時間やお金や労力を継続的に費やす。
8《伝達する》優しい言葉や心情、特殊な術を他者に届ける。
9《影響が及ぶ》主体の行動による、他者にとって受け入れがたい影響を、その者に及ぼす。
10《狙う》主体にとってかけがえのない物を、結果が不確かな事象に対価として差し出し、それを手に入れようとする。
11《範囲》ある時間や地点から別の時間や地点までが、何らかの際立った状態であると見なす。
12《起動》何らかの仕組みを持ったものの機能を起動状態にする。
13《変質させる》固形物を何らかの器具上に置き、固形物全体に(下方から)何らかの力を及ぼし、変質させる。
14《支配する》人や動物を特殊な装置の中に入れたり、偽の世界にいると思わせることで、その意思や動きを支配する。
15《分別する》雑多なものを分別装置の中に入れ、分別する。
16《保証する》主体にとって絶対的な存在者や自分の称号を挙げて、その言動を保証する。
17《掛け詞》ある言葉に別の言葉を関連づけ、新たな意味を生み出す。
18《掛け算》ある量に与えられた回数の積算を行い、新たな量のまとまりを作る。
慣用表現 電話をかける、腕によりをかける、磨きをかける、輪をかける、二股をかける、ヤマをかける、声をかける、歯牙にもかけない、鼻にかける、気にかける
複合語
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1 《接着》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
広がりのある物を、下へ移動させ、その下方にある水平物と接触させ、その両端を下向きに曲げることにより、そこに留める。
類義語のせる、おく、とめる、つける
反義語はずす、とる
文型
〈人〉が〈広がりのあるもの〉を〈水平物〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 △
例文
連続して聞く
ちょうどハンガーにジャケットをかけているとき、ポケットの中のケータイが鳴った。
このかばんは肩にかけられるようになっています。
あの眼鏡をかけられた方が社長の奥様です。
突然、後ろから肩に手をかけられた
濃い色のカーテンをかけると、雰囲気が変わる。
窓の横の壁にはカレンダーをかけよう
コロケーション
〈広がりのあるもの〉をかける 必須項
服、ひも、フック、テーブルクロス、布団、手、めがね
ホールの中央には、白布をかけた祭壇が設けられ、それを囲んで、赤いテープで直径十フィート前後の円が描かれている。 (森村誠一著 『黒魔術の女』, 2002, 913) コーパス
〈水平物〉にかける 必須項
ハンガー、カーテンレール、棒、手すり、岩、壁(のピン)、鼻、体、肩
テーブルにクロスがかけられ、食器が並べられる。 (妹尾ゆふ子著 『チェンジリング』, 2001, 913) コーパス
〈様態〉かける
そっと、しっかり、ちゃんと、きれいに、だらしなく
ぼくは、いびきをかきだしたあご伯父の体に、そっとふとんをかけてやった。 (志茂田景樹作;早瀬賢絵 『あご伯父の川』, 2001, ) コーパス
〈主体の位置〉からかける
上、後ろ、前、横
ふつう、後ろからいきなり肩に手をかけられたら、ぎくりとしたり、あわててふりかえったりするだろう。 (カロリーヌ・リンク著;平野卿子訳 『ビヨンド・サイレンス』, 1998, 943) コーパス
非共起例
〈広がりのあるもの〉をかける
このワッペンは肩にかけられます
このワッペンは肩につけられます
〈広がりのあるもの〉は、水平物(「肩」)に対して、相対的に広がりがなければならない。
〈広がりのあるもの〉をかける
銅製の天板をテーブルにかける
クロスをテーブルにかける
〈広がりのあるもの〉は両端が湾曲している、あるいは湾曲し得る性質のものでなければならない。
〈水平物〉にかける
カーペットを床にかける
カーペットを床にしく
〈水平物〉は、ある程度の高さが必要である。
解説
人が、線的であれ、面的であれ、広がりがあって湾曲する性質を持つものを下方移動させ、下方に存在する物の上面に接触させ、そこに留めようとする一連の物理的プロセスを表す。
誤用解説
結果状態を表す場合は、通常「かけてある」を用いる。
壁にカレンダーをかけている
壁にカレンダーがかけてある
ただし、下方に存在する被接着物が〈人〉の一部である場合は、「装着」を表し、「かけている」となる。
私は新聞を読むときは、めがねをかけています
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2 《効果》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
液体や粉末や膜状の物体を下へ移動させ、その下方に存在する水平物のある程度の範囲に接着させる。
類義語のせる、たらす、おおう、かぶせる
反義語はぐ、のぞく、はずす
文型
〈人〉が〈液体や粉末や膜状の物体〉を〈水平物〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 △
例文
連続して聞く
このコロッケには特製ソースをかけられますと、いっそうおいしくなります。
冷めないように、お皿にラップをかけよう
頼んでもいないのに、うどんに七味をかけられた
カレーが足りなければ言ってください。店員にかけさせますので。
しょうゆをかけていたら、飛び散ってシャツに付いた。
他社製品名にはモザイクをかけないと、スポンサーからクレームが入る。
コロケーション
〈液体や粉末や膜状の物体〉をかける 必須項
しょうゆ、ふりかけ、(溶き)卵、ラップ、シート、カバー、モザイク
現在のスイカは品種改良の結果甘みが増しているのでをかけなくても充分甘く美味しいと思います。 (Yahoo!知恵袋, 2005, 料理、グルメ、レシピ) コーパス
〈水平物〉にかける 必須項
サラダ、ごはん、皿、コロッケ、車、家具、個人情報
十分広がったら、グラタン皿にラップをかけ、そこに広げたパイシートを敷きます。 (Yahoo!ブログ, 2008, グルメ、ドリンク) コーパス
〈様態〉かける
たっぷり(と)、さっと、ふんわり(と)、しっかり(と)
2 そこへ合わせ酢をまんべんなくかけ、しゃもじで切るように混ぜます。 (藤本真美子編著 『これで完璧!!高齢者の食事ケア』, 2001, 498) コーパス
非共起例
〈液体〉をかける
(割り)卵をごはんにかける
(割り)卵をごはんにのせる
溶き卵であれば液体と見なし、「卵をかける」ということができるが、割っただけの生卵は液体とは見なされない。
〈液体〉をかける
刺身にしょうゆを数滴かける
刺身にしょうゆを数滴たらす
「しょうゆをかける」と言う場合、その接着は刺身の上面のある程度の範囲に及ばなければならない。「数滴」であれば、「たらす」を用いる。
解説
1では〈移動物が留まる〉ところまでを表していたが、この意味においては、〈留まった〉あとの「味の添加」「保温・保護」といった水平物に生じる何らかの変化までも想定されている。また、この意味の移動物〈液体や粉末や膜状の物体〉は1の〈広がりのある物〉を特殊化したものだと考えられる。
誤用解説
結果状態を表す場合は、通常「かけてある」を用いる。
サラダにドレッシングをかけている
サラダにドレッシングがかけてある
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3 《距離付着》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
液体や気体や細粒物を、離れた場所から移動させ、ほかの物体の表面に接着させる。
類義語あてる、まく、つける
文型
〈人〉が〈液体や気体や細粒物〉を〈もの・動物・身体〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 △
例文
連続して聞く
車とすれ違った時に、ズボンに泥水をかけられて、とても腹が立った。
敵が現れたら、そいつの目に砂をかけよう
所長は部下に命じて、囚人に水をかけさせた
優勝チームの選手はお互いにビールをかけています
このお祭りでは、国王も市民に交じって水をかけられるそうです。
蚊がいたので、スプレーをかけたが、逃げられた。
コロケーション
〈液体や気体や細粒物〉をかける 必須項
水、スプレー、砂、泥、つば、ビール
川副町の園田さんは、いまでは「クモがいるとかわいそうで農薬をかける気にならない」とまでいわれます。 (中村修著 『やさしい減農薬の話』, 1994, 616) コーパス
〈もの・動物〉にかける 必須項
木、壁、天井、虫、犬
そして墓石に水をかけ、花や線香などをそなえてお参りします。 (21世紀お墓研究会編 『開運吉相お墓の手帳』, 1997, 385) コーパス
〈身体〉にかける 必須項
目、体、顔、足、ズボン
白道は気持ちよさそうに湯につかり、掌ですくった湯を自分のにかけていた。 (立松和平著 『木喰』, 2002, 913) コーパス
〈範囲〉かける
上から下まで、周りに、全身に、一面に
〈様態〉かける
びっしょりと、べっとりと、強烈に、軽く
8マヨネーズを軽くかけます。 (Yahoo!ブログ, 2008, グルメ、ドリンク) コーパス
非共起例
〈液体や気体や細粒物〉をかける
天井に光をかける
天井に光をあてる
「光」は「天井」に接着しない性質のものであるため。
〈もの〉にかける
地面に水をかける
地面に水をまく
「地面」は典型的な物体が有する、高さや境界を持たないため。
解説
この意味は、1の〈移動させ、接触させる〉という特徴の「移動距離」に焦点が当てられている。また、1の移動物〈広がりのある物〉も、この意味では〈液体や気体や細粒物〉に特殊化されている。また、1では〈下へ移動〉であったが、この意味の移動は、それに限らない。
誤用解説
顔に泥を使って、模様を描くという場合、
顔に泥をかける
顔に泥をつける[ぬる]
「かける」は、〈液体や気体や細粒物〉のある程度の空間移動を表すため、接着箇所が特定しにくい。そのため、「模様を描く」という細工を表すのには適さない。
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4 《通路設置》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、架ける
通路となる物を、空間の端から端まで、上方に作る。
類義語のせる、わたす
反義語はずす
文型
〈人〉が〈通路〉を〈空間〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
鳴門大橋が鳴門海峡にかけられたのは、1980年代のことです。
渋滞緩和のために、市外へ通じる高架道路をかけているところです。
司令部は、木を倒して、向こう岸に渡れる橋をかけさせた
離島間に橋をかければ、島民の暮らしは楽になるだろう。
犯人は向こうのビルにはしごをかけて逃亡したようです。
両国に友好の橋をかけよう
コロケーション
〈通路〉をかける 必須項
橋、高速道路、はしご、渡り廊下、ロープ、友好の橋
もうすでに調査は終わりまして、もういつでもをかける工事に着工できるという段階ではないかと思うんです。 (国会会議録, 1981, 特別委員会) コーパス
〈空間〉にかける 必須項
川、海峡、道、町、離島間、渓谷、両国間
とにかく滅多やたらと高いところに吊り橋をかけているのだ。 (山口由美著 『世にもマニアな世界旅行』, 2004, 290) コーパス
〈反対側〉に[へ]かける 必須項
対岸、向かいの建物、隣りの木、甲板、離島
―金門島から大陸へ橋を架ける? (宮崎正弘著 『迷走中国の天国と地獄』, 2003, 302) コーパス
〈範囲〉かける
3kmにわたって、一駅分、50mほど
〈様態〉かける
しっかり(と)、延々と
非共起例
〈通路〉をかける
用水路にふたをかける
用水路にふたをのせる
用水路のふたは「おちないようにする」「水の流れが見えないようにする」ことを目的としており、通路としての役割は期待されていないため。
〈通路〉をかける
離島間に定期船をかける
離島間に定期船をわたす
定期船は、橋のように両端(二つの港)に固定されるものではなく、移動するため。
解説
1の〈広がりのある物を下へ移動させ〉〈両端を下向きに曲げることにより、そこに留める〉という特徴の〈両端〉〈留める〉が、この意味における〈端から端まで、その上方に通路となる物を設置すること〉に拡張したと考えられる。実際にはその物を上方から下ろしてくるわけではないが、あたかもそのように捉え、空間上に接着したかのように見なしている。なお、話者が、設置した通路の一端Aにいて、もう一端Bへの到達が意識されている場合は、その一端Bが「に」で表されることもある。
誤用解説
通路の設置が水平ではなく、一端が壁や塀に支えられ、もう一端が地面についている場合、通常「かける」ではなく、「立てかける」を用いる。
使い終わったら、脚立はたたんで、壁にかけておいて。
使い終わったら、脚立はたたんで、壁に立てかけておいて。
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5 《力を加える》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
(上方から)何らかの力を、ある平面(と捉えられるもの)全体に及ぼす。
類義語あてる
文型
〈人〉が〈平面〉に〈力〉をかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
シャツにアイロンをかけておいてくれない。
前髪だけパーマをかけられるとよろしいですよ。
お客さんが来る前に、息子に部屋に掃除機をかけさせた
練習後、先輩にグラウンドにローラーをかけさせられた
このパソコン、フリーズしてしまったから、再起動をかけよう
研磨剤で、仏具に磨きをかける
コロケーション
〈平面(と捉えられるもの)〉にかける 必須項
シャツ、頭髪、部屋(の床)、グラウンド、コンピューター(のメモリ領域)、金属、インターネット、エリア
「シンデレラ、さあ、わたしたちの靴を磨いて、お洋服にアイロンをかけておくれ」 (桐生操著 『本当は恐ろしいグリム童話』, 1998, 913) コーパス
〈力〉をかける 必須項
アイロン(の熱)、パーマ(の熱)、掃除機(の吸引力)、ローラー(の重み)、再起動、磨き、検索、ローラー(「警察の聞き込み」の意味)
ちょっと長めでゆるいパーマをかけてるのはかわいいと思います。 (Yahoo!知恵袋, 2005, 家事、住宅) コーパス
いずれも新品だったといったが、ごしごし洗うか、箍を外してをかけるかして新品に見せかけたに違いない。 (IN POCKET(月刊[文庫情報誌]), 2005, 総記/マスコミ) コーパス
〈もの〉でかける
研磨剤、布
〈範囲〉かける
隅から隅まで、上から下まで、余すところなく、見えない所まで
「賭けてもいいが、日替わりサービスには、車内に掃除機をかけること、それに艶だしスプレーを吹きつけることも含まれていたかもしれん」 (マイクル・コナリー著;古沢嘉通訳 『堕天使は地獄へ飛ぶ』, 2001, 933) コーパス
非共起例
〈力〉をかける
スケートリンクに整氷車をかける
スケートリンクを整氷車でととのえる
「かける」は上方から力を加えることによって平面を整える場合に用いられるが、スケートリンクの場合は、整氷車によって氷を削ることで整えるため。
解説
2は、移動物との接着の結果、水平物に何らかの変化が想定される意味であったが、それが5では平面(と捉えられるもの)に何らかの変化が生じることに拡張している。つまり、移動物と水平物との接着によって生じる変化は、移動物からの「圧力」と、それに伴う平面の変化に拡張している。5の平面(と捉えられるもの)には、何らかの使用を経て、皺や乱れ、ゴミなどがあり、見た目が良くないと感じられる場合や、様々な情報が混然一体となっている場合がある。その際、その全体に対する熱や吸引力、摩擦によって、平面を整えることを表す。
誤用解説
紙に書かれた文字などを消しゴムで消去する行為は、紙自体を整えるわけではないため、「かける」は用いられない。
記入用紙の間違いに消しゴムをかける
記入用紙の間違いを消しゴムで消す
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6 《快適化》
他動詞 中級 ★★ 表記かける
音や気流を空間全体に及ぼし、快適に感じるように調整する。
類義語ながす
文型
〈人〉が〈空間〉に〈音・気流〉をかける
文法
受身 △ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 △
例文
連続して聞く
早く音楽をかけてくれないかな。
もうすぐ帰るから、部屋にエアコンをかけておいて。
運転中は、いつもどんな曲をかけられますか。
温室にはいつもミストがかけてあります。
店の人に、はやりの音楽をかけさせた
夜中、クーラーをかけたまま寝てしまったので、かぜをひいた。
コロケーション
〈空間〉にかける 必須項
部屋、室内、店内、車内
〈音・気流〉をかける 必須項
音楽、曲、エアコン、クーラー、ミスト
こんな 寒い雨の夜でも、公園ではいつものように、おばちゃんたちは 音楽をかけて みんなでダンスを踊っている。 (Yahoo!ブログ, 2008, Yahoo!ブログ) コーパス
しかし、暑いからといって、エアコンをかけ続けると、体調を崩すおそれもある。 (知的生活追跡班編 『その道のプロが教える「裏ワザ」(金)読本』, 2003, 365) コーパス
〈時〉かける
いつも、帰宅したら、運転中、たまに、作業中
非共起例
〈空間〉にかける
スキー場に音楽をかける
スキー場に音楽をながす
「スキー場」は、それを空間全体として仕切ることのできる壁などがないため。
〈音や気流〉をかける
店内に迷子のアナウンスをかける
店内に迷子のアナウンスをながす
「アナウンス」は情報を伝える音声であり、快適性につながるものではないため。
解説
4の〈ある平面(と捉えられるもの)全体に及ぼす〉〈何からの力〉という特徴は、6の〈空間〉における〈音・気流〉へと拡張しており、それにより、その空間内が快適化することを期待している。
誤用解説
結果状態を表す場合は、通常「かけてある」を用いる。
部屋にエアコンをかけている
部屋にエアコンがかけてある
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7 《投資する》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
完成を期待する事業・作業に、時間やお金や労力を継続的に費やす。
類義語費やす、投じる
文型
〈人〉が〈事業・作業〉に〈時間・費用・労力〉をかける
文法
受身 × 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
敷地が広いため、整備には十分時間をかけよう
この陵墓の造成に延べ10万人の人手をかけたそうです。
最近の親は、子どもの塾に相当の金額をかけている。
選手の準備運動にはもっと時間をかけさせたほうがいい。
毎日、漢字の練習に時間をかけていますが、なかなか覚えられません。
一次発酵にはじゅうぶん時間をかけましょう
コロケーション
〈事業・作業〉にかける 必須項
整備、造成、プロジェクト、教育、宿題、化粧
工場の設備に何億円もの予算をかけてその事業がダメになったりすると、一瞬にして屑鉄と化してしまうのです。 (邱永漢著 『お金の原則』, 2001, 338) コーパス
〈時間・費用・労力〉をかける 必須項
時間、金、人手
もちろん彼は田んぼを放任しているわけではなく、イネを生かすためにそれなりに手間をかけている。 (高松修ほか著 『安全でおいしい有機米づくり』, 1993, 616) コーパス
〈程度〉かける
じゅうぶん、長年、もっと、相当
僕はゆっくりと時間をかけて、言葉を探した。 (村上春樹著 『国境の南、太陽の西』, 1992, 913) コーパス
非共起例
〈事業・作業〉にかける
大学の卒業に6年をかけた
大学の卒業に6年を費やした
「大学の卒業」は完成を期待する事業・作業ではなく、定められた課程の到達点であるため。
解説
2の〈液体や粉末や膜状の物体と水平物との接着〉は、7の〈事業・作業〉に対する〈時間やお金や労力〉の継続的投資へと拡張している。2は水平物に何らかの変化を期待するものであったが、7においては、それによって完成への進展が期待されている。
誤用解説
継続的な行為であるためアスペクトは表さない。
費用をかけ始めた
時間をかけ終えた
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8 《伝達する》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
優しい言葉や心情、特殊な術を他者に届ける。
類義語届ける、送る、言う
文型
〈人〉が〈人〉に〈言葉・術〉をかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 △
例文
連続して聞く
監督、試合前に選手たちにはどんな言葉をかけられたのですか。
彼と話していると、まるで魔法をかけられたかのような気分になる。
負け越している時は、チーム内でお互いに声をかけさせています。
息子にはいつも「がんばれ」と声をかけています。
いつも厳しい先生に優しい言葉をかけられて、うれしかったです。
新しいクラスでは、自分から積極的に声をかけよう
コロケーション
〈人〉にかける 必須項
子ども、選手、患者、店員、生徒
それから机に向かってパソコンをいじっているに声をかけた。 (海老沢泰久著 『男ともだち』, 1998, 913) コーパス
〈言葉〉をかける 必須項
ねぎらいの言葉、あいさつの言葉、愛情、声
イチローファンが「頑張れよ」と励ましの言葉をかけてきた。 (児玉光雄著 『松井秀喜・イチローに学ぶプロフェッショナル・シンキング』, 2004, 159) コーパス
〈術〉をかける 必須項
魔法、呪い、術、麻酔
催眠術をかけられて、何をするかわからない状態になるのには、勇気が要るのです。 (中谷彰宏著 『「みっともかわいい」君が好き。』, 2004, 159) コーパス
〈様態〉かける
そっと、やさしく、何度も
栗子は小さくかけ声をかけながら立ち上がると、なかなか自分の家という気のしない部屋から出て茶の間に向かった。 (乃南アサ著 『パラダイス・サーティー』, 2003, 913) コーパス
非共起例
〈言葉〉をかける
ランナーに沿道から声援をかけた
ランナーに沿道から声援をおくった
この語義の〈言葉〉は受け取った人が安心感や自信につながるものでなければならず、「声援」は通常、大きな声量により奮起を促すことであるため。
解説
3の〈液体や気体や細粒物を、離れた場所から移動させ、ほかの物体の表面に接着させる〉という特徴は、コミュニケーションを表す場合にも用いられ、8の〈人が優しい言葉や心情、特殊な術を他者に届ける〉ことへと拡張している。なお、「声をかける」は単に相手の注意を主体のほうに向ける場合にも用いられる。
誤用解説
〈言葉〉は受け取った人が安心感や自信につながるものでなければならず、相手を非難する〈言葉〉は不適切である。
「何やってるんだよ」と声をかけた
「ドンマイ」と声をかけた
結果状態を表す場合は、通常「かけてある」を用いる。
彼にはすでに催眠術をかけている
彼にはすでに催眠術がかけてある
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9 《影響が及ぶ》
他動詞 初級 ★★★ 表記かける、掛ける
主体の行動による、他者にとって受け入れがたい影響を、その者に及ぼす。
類義語させる
文型
〈人〉が〈人〉に〈こと〉をかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 × 意思 × 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
このたびはうちの息子が大変ご迷惑をおかけしました。
親に負担をかけたくないのです。
部長、出張中は奥さんにかなり心配をかけられたんじゃないですか。
いつも迷惑ばかりかけていて、申し訳ありません。
ご足労をおかけして申し訳ありません。
母にはいつも心労をかけっぱなしだ。
コロケーション
〈人〉にかける 必須項
近所、お客様、家族、先生、友人
自分の作業が遅れるという事は、大勢のスタッフに迷惑をかけることになる。 (Yahoo!ブログ, 2008, 職種) コーパス
〈こと〉をかける 必須項
迷惑、心配、負担、心労、足労
長いあいだ苦労をかけてきた姉や兄たちにもこれで安心してもらえる。 (中元輝夫著 『雑草の記』, 2002, 366) コーパス
〈原因〉でかける
不始末、問題、トラブル、事故
自分のウソで相手に心配をかけてしまったと感じれば、申し訳ないという気持ちが自然に湧いてくるのです。 (高畑好秀著 『掟破りのコーチング術』, 2004, 780) コーパス
非共起例
〈こと〉をかける
今回の件では、みなさまに多大なる被害をおかけしました。
今回の件では、みなさまに多大なるご迷惑をおかけしました。
「被害」のように、実質的な影響を表す場合は使えず、心理的な影響に限られるため。
〈こと〉をかける
ご連絡が遅くなり、ご不安をおかけしました。
ご連絡が遅くなり、ご心配をおかけしました。
「不安」はその人の心的状態を表す語であり、〈受け入れがたい影響〉ではないため。
解説
3の〈離れた場所からの移動〉という特徴は、主体から他者へ、何かの影響が波及することを表す場合へと拡張し、9となっている。この場合の何かの影響というのは、主体の行動による「迷惑」「心配」「負担」といった、他者にとっては受け入れがたい心理的影響である。
誤用解説
この用法は主体の行動が影響の原因であるため、主体の行動と関係がない場合は使えない。
あのビルの工事で迷惑をかけられているなら、ちゃんと言った方がいいですよ。
あのビルの工事で迷惑を被っているなら、ちゃんと言ったほうがいいですよ。
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10 《狙う》
他動詞 中級 ★★ 表記かける、賭ける、懸ける
主体にとってかけがえのない物を、結果が不確かな事象に対価として差し出し、それを手に入れようとする。
類義語投じる、使う
文型
〈人〉が〈こと〉に〈もの・こと〉をかける
文法
受身 × 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 △
例文
連続して聞く
最終レースに全財産をかけよう
私にも一口かけさせてください。
将軍は、この一騎打ちに命をかけられています。
私はすべての試合に選手生命をかけています。
この勝負にいくらかけますか?
犯人発見に報奨金をかける
私が命をかけて姫をお守りします。
コロケーション
〈こと〉にかける 必須項
レース、試合、勝負、この一球、発見
この一戦にかけた意気込みは並々ならぬものがある。 (志木沢郁著 『信貴山妖変』, 2003, 913) コーパス
〈もの・こと〉をかける 必須項
金、財産、命、家、土地、勝負、賞金
のちに、社会秩序と国家の運命をかけた決定的な決断が必要となったとき、イギリス人には決断をくだす訓練ができていた。 (ジェイムズ・A.ミッチェナー著;安引宏訳 『わが青春のスペイン』, 1992, 935) コーパス
〈様態〉かける
適当に、思い切って、なりふり構わず、やけくそになって、我を忘れて、後先を考えず、冷静さを失って
ただし、冠婚葬祭にだけは派手にお金をかけるそうですが。 (ハイパープレス著 『お国ことばのふしぎ大事典』, 2000, 818) コーパス
非共起例
〈こと〉にかける
宝くじにかける
宝くじを買う
「宝くじ」自体を手に入れることは不確かな事象ではないため。
解説
3の〈離れた場所からの移動〉は、ほかの物体と接着できない場合もあり得る。その「不確実性」ということから、10の〈結果が不確かな事象〉を求める行為に拡張されている。つまり、結果が不確かであるが、主体が自分のものにしたいと願うことのために、主体にとってかけがえのない物による確保を狙うのである。ただし、獲得が失敗する可能性も想定されている。
なお、「かけがえのない物」といっても、程度性があり、主体にほとんど影響しない程度の所有物も含まれる。
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11 《範囲》
他動詞 中級 ★★ 表記かける、掛ける
ある時間や地点から別の時間や地点までが、何らかの際立った状態であると見なす。
類義語わたって、あいだ
文型
〈もの・こと〉が〈場所・時〉から〈場所・時〉にかけて
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
春から秋にかけては、多忙を極めています。
顔から首筋にかけての黒さが目立つ。
青銅器時代から鉄器時代にかけて、定住地が増加している。
気圧の谷の影響により、今夜から明日にかけて、雲が広がりやすくなるでしょう。
マニラから南シナ海にかけては一月でも気温が三十度を超すと聞いていた。
背中から胸にかけて、事故の傷が残っている。
コロケーション
〈場所〉からかけて 必須項
関東地方、肩、1階、アジア、山のふもと
それが中近東からアフリカへかけての土地が人間に与える恩寵というものの実態なのである。 (曽野綾子著 『大説でなくて小説』, 1992, 914) コーパス
〈時〉からかけて 必須項
春、50年代、夕方、去年、古代
カモシカの出産は春の五月から六月にかけてである。 (千葉彬司著 『北アルプス動物物語』, 1993, 482) コーパス
〈場所〉に[へ]かけて 必須項
東北地方、背中、3階、ヨーロッパ、山の中腹
ひげものびていなかったし、頭も最近散髪したばかりのように首筋から後頭部へかけて、きれいに刈りあげられていた。 (横溝正史著 『犬神家の一族』, 1972, 913) コーパス
〈時〉に[へ]かけて 必須項
夏、60年代、深夜、今年、中世
春から初夏へかけての植物の生長はすごい。 (海野和男著 『蛾蝶記』, 1998, ) コーパス
〈様態〉かける
広く、断続的に、常に、一貫して
非共起例
〈時間〉から〈時間〉にかける
2分前から今にかけて非常ベルが鳴っている。
2分前から今まで非常ベルが鳴っている。
二つの時点の間の時間幅はある程度の長さが必要であるため。
解説
4の〈空間の端から端まで〉という特徴は、さらに人の「範囲認識」へと拡張し、11となっている。すなわち、ある時間的・空間的範囲を示し、その範囲が他とは異なって目立った状態であることを表す。なお、この用法は「かけて」の形でのみ用いられる。
誤用解説
期間や空間的範囲を表す語とは共起しない。
テストは12時から3時間にかけて行われます。
テストは12時から3時間にわたって行われます。
ここから約10メートルにかけて足跡が続いている。
ここから約10メートルにわたって足跡が続いている。
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12 《起動》
他動詞 中級 ★★ 表記かける、掛ける
何らかの仕組みを持ったものの機能を起動状態にする。
類義語つける、作動する
反義語止める、解除する
文型
〈人〉が〈こと〉をかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
このあたりは治安が悪いから、いつもちゃんとドアの鍵をかけています。
今朝は冷えるから、早めに車のエンジンをかけよう
下り坂では、しっかりハンドブレーキをかけておきましょう。
誤作動を防ぐために、安全装置がかけてあります。
残り1周で、コーチは選手にスパートをかけさせた
お客様、海外旅行の際は、傷害保険をかけられたほうがよろしいですよ。
コロケーション
〈こと〉をかける 必須項
鍵、エンジン、ブレーキ、安全装置、スパート、保険
家で携帯にロックをかけるのは、普通の事ではないのでしょうか? (Yahoo!知恵袋, 2005, 恋愛相談、人間関係の悩み) コーパス
〈様態〉かける
しっかり、ちゃんと
飾りたてた階段と門は通らず、脇の門から入って、中から入念に鍵をかけます。 (ヴィルヘルム・ハウフ作;乾侑美子訳;T.ヴェーバーほか画 『冷たい心臓』, 2001, ) コーパス
非共起例
〈こと〉をかける
寒いときは、一晩中アイドリングをかけることもあります。
寒いときは、一晩中アイドリングをすることもあります。
「アイドリング」はエンジンの起動状態を持続させることであり、解除状態から起動状態への移行ではないため。
解説
5の、〈何らかの力を、ある平面に及ぼす〉という特徴が、〈何らかの力を、何らかの仕組みをもったものに及ぼす〉へと拡張し、12となっている。〈何らかの仕組みをもったもの〉とは、機械や制度のように、人からの働きかけによって起動するものである。「スパートをかける」は、人が走る仕組みを機械のように捉えた上で、その速度を最高まで上げることを表している。
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13 《変質させる》
他動詞 上級 ★ 表記かける、掛ける
固形物を何らかの器具上に置き、固形物全体に(下方から)何らかの力を及ぼし、変質させる。
類義語入れる
文型
〈人〉が〈固形物〉を〈器具〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 △
例文
連続して聞く
チョコレートを湯煎にかけながら混ぜる。
このジャムは15秒ほど電子レンジにかけられますと、塗りやすくなりますよ。
台所に入ると、母が鍋を火にかけていた。
根菜はミキサーにかけよう
上司が部下に、文書をシュレッダーにかけさせた
未処理の領収書をシュレッダーにかけられてしまった。
まずお鍋に水を入れて、強火にかけます
コロケーション
〈固形物〉をかける 必須項
チョコレート、ジャム、バター、鍋[具材]、野菜、文書
水で戻した素材を、調味料とともにミキサーにかけます。 (斉木豊,関戸美穂子著 『はじめてみようローフード生活』, 2005, 498) コーパス
〈器具〉にかける 必須項
湯煎、電子レンジ、火[ガスコンロ]、ミキサー、シュレッダー
なべにバター,砂糖,塩,水とにんじんを入れて中火にかける。 (新しい技術・家庭 家庭分野, 2005, 中) コーパス
▽名刺サイズ以上の紙やシュレッダーにかけた紙は資源物になりますので、紙袋などに入れて出してください。 (広報あしかがみ, 2008, 栃木県) コーパス
〈様態〉かける
一度に、少しずつ
非共起例
〈器具〉にかける
魚をグリルにかける
魚をグリルで焼く
「グリル」は素材に火を通すための器具であり、そのものの形状を変質させるものではないため。
〈器具〉にかける
生クリームを氷水を張ったボウルにかけながら泡立てる。
生クリームを氷水を張ったボウルに浸しながら泡立てる。
液状のものを固形化する場合には、「かける」は用いられない。
解説
13は、5の〈何らかの力を、ある平面全体に及ぼす〉ことのあとの物体の変質を表す。この場合の「物体」は特に固形の材料や、紙の資料である。そして、固形物を器具内に入れ、主に下からの力により、それを液状あるいは細粒状に変質させることを表す。
誤用解説
この語義は「〈固形物〉を〈器具〉にかける」という語順でなければならない。
湯煎にチョコレートをかける
シュレッダーに書類をかける
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14 《支配する》
他動詞 上級 ★ 表記かける、掛ける
人や動物を特殊な装置の中に入れたり、偽の世界にいると思わせることで、その意思や動きを支配する。
類義語入れる、誘い込む、陥れる
文型
〈人〉が〈人・動物〉を〈装置・術〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 △ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
ネズミをネズミ捕りにかけようとしたが、逃げられた。
私はまるで金縛りにかけられたように身動きが取れなかった。
あの男がみんなを催眠術にかけているんじゃないか?
大企業の社長をペテンにかけて、大金をだまし取った。
あんな大物を、どうやって罠にかけられたんですか。
あの魔法使いは、すべてを魔法にかけ、自分の思い通りにしようとたくらんでいる。
コロケーション
〈人・動物〉をかける 必須項
客、金持ち、敵、ウサギ、野鳥
「専務でなくても…誰かが、わたくしを罠にかけようとしているのですわ…無理やりに、わたくしに罪をかぶせようとして…」 (高木彬光著 『黒白の囮』, 1997, 913) コーパス
〈装置・術〉にかける 必須項
罠、ネズミ捕り、魔法、催眠術、ペテン、金縛り
鯨の群れが近づくと、和田、山長両組の勢子舟が入り乱れて鯨を追い、にかける。 (吉村昭著 『鯨の絵巻』, 1990, 913) コーパス
〈様態〉かける
すっかり、うまく、まんまと
非共起例
〈動物〉をかける
魚を罠にかける
魚を仕掛けに誘い込む
魚は意思を持っていると思われないため。
〈術〉にかける
客を甘い誘惑にかける
客を甘い誘惑で誘う
「甘い誘惑」は人の意思を支配するものではないため。
解説
人が、他者や動物を何らかの特殊な装置に入れたり、何らかの術によって偽の世界にいると思わせることを表す。これは5の〈何らかの力を、ある平面全体に及ぼす〉という特徴からの拡張が考えられるが、14ではさらに、その状態に置いた人や動物の意思や動きの自由を奪い、支配することを表す。
誤用解説
この語義は「〈人・動物〉を〈装置・術〉にかける」という語順でなければならない。
罠にウサギをかける
催眠術にみんなをかける
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15 《分別する》
他動詞 上級 ★ 表記かける
雑多なものを分別装置の中に入れ、分別する。
類義語入れる
文型
〈人〉が〈雑多なもの・人〉を〈分別装置〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
川の砂をふるいにかけて、砂金を探す。
雨の日は洗濯物を乾燥機にかけよう
彼は横領の疑いで、査問にかけられた
ここで獲れたマグロは、日本の魚市場で競りにかけられています。
この溶液を一度遠心分離器にかけさせてください。
議長、この法案は国会で審議にかけられますか。
コロケーション
〈雑多なもの〉をかける 必須項
砂、海水、(獲れた)魚、(濡れた)洗濯物、論文
アメリカの諸制度を再検討し、アメリカ人のなかにある先入観をもう一度ふるいにかける良い手段として、似たような問題を抱えている外国を観察する方法がある。 (エズラ・F.ヴォーゲル著;広中和歌子,木本彰子訳 『ジャパンアズナンバーワン』, 1979, 302) コーパス
〈人〉をかける 必須項
申請者、被疑者、候補者、学生、応募者
私たちが交通事故や犯罪の被害者となった時、その容疑者を裁判にかけるかどうかは検察官に任されています。 (広報せたがや, 2008, 東京都) コーパス
〈分別装置〉にかける 必須項
ふるい、遠心分離器、乾燥機、競り、審査、審議、天びん
条件を備えた人々の中から、殺意を抱く可能性のある人間をピックアップして、しだいににかけてゆくのです。 (内田康夫著 『崇徳伝説殺人事件』, 1997, 913) コーパス
〈場所〉でかける
採掘所、市場、会議、研究所、裁判所、国会
二月六日、葉山別邸も横須賀税務署で競売にかけられることになる(大正4年2月2日付『大阪毎日新聞』)。 (千田稔著 『明治・大正・昭和華族事件録』, 2002, 361) コーパス
〈様態〉かける
厳しく、細かく、徹底的に
子の欲目をはなれて冷静に秤にかけてみた場合、非は多分に嘉右衛門にある。 (杉本苑子著 『姿見ずの橋』, 1987, 913) コーパス
非共起例
〈人〉をかける
多大な功績があった方々を国民栄誉賞の審査にかける
多大な功績があった方々から国民栄誉賞を選ぶ
主体は判定者であるため、通常、対象者よりも立場が上位である。しかし、この例の「功績があった方々」は主体から敬われる存在であるため、「かける」では表せない。
〈分別装置〉にかける
洗濯物を洗濯機にかける
洗濯物を洗濯機で洗う
「洗濯機」の機能は汚れを分解することであり、「乾燥機」の、衣類から水分だけ分け、取り除くこととは異なるため。
解説
5の〈何らかの力を、ある平面全体に及ぼす〉という特徴が、15においては「雑多なもの」や「適正かどうかわからない人」を何らかの分別装置や判定システムに入れ、物理的な力を加えたり、判定を行うことへと拡張されている。それによって、必要なものと不要なもの、基準に適合する要素とそうでない要素、あるいは適正か不適正かに分けることを表す。
誤用解説
この語義は「〈雑多なもの・人〉を〈分別装置〉にかける」という語順でなければならない。
ふるいに砂をかける
砂をふるいにかける。  
審議に法案をかける
法案を審議にかける
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16 《保証する》
他動詞 上級 ★ 表記かける
主体にとって絶対的な存在者や自分の称号を挙げて、その言動を保証する。
類義語誓う
文型
〈人〉が〈絶対的存在者・称号〉にかけて
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
名人と呼ばれた祖父の名にかけて、この勝負は負けるわけにはいかない。
必ず戻ってくる。神にかけて誓うよ。
神仏の御名にかけて、それが真実だと言えますか。
鉄人の名にかけて、ここで引き下がるわけにはいかない。
天地神明にかけて、お約束はお守りいたします。
三番隊隊長の名にかけて、ここを通すわけには行かない。
コロケーション
〈絶対的存在者・称号〉にかけて 必須項
神、天地神明、祖父の名、鉄人の名、最強王者の名
「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」。 (弓削達著 『歴史的現在をどう生きるか』, 1992, 319) コーパス
〈強い意志〉かけて
絶対に、必ず、何があろうと
非共起例
〈絶対的存在者〉にかけて
先代校長の名にかけて、この試合は負けられない。
存在者は、多くの人にとって絶対性が感じられなければならない。
解説
これは、もっぱら「かけて」の形で用いられる。15における、何らかの分別装置を通すことによって、判定や評価を行うという用法が、ここではその特殊な分別装置として「絶対的存在者の名前」や「称号」が出されている。それにより、主体の言動は、うそ偽りが取り除かれた絶対に確かなものであるという保証を示している。
誤用解説
神にかけて、犯人は私じゃありません。
神に誓って、犯人は私じゃありません。
神にかけて、犯人は私じゃないと言い切れます。
「かけて」を用いる場合、それが確かだと保証するのは主体の言動そのものである。思考や発話の内容が嘘ではないと示しているわけではない。
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17 《掛け詞》
他動詞 上級 ★ 表記かける、掛ける
ある言葉に別の言葉を関連づけ、新たな意味を生み出す。
文型
〈ことば〉を〈ことば〉にかける
文法
受身 ○ 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
「長雨」を「眺め」にかける
「秋」を「飽き」にかけている。
「逢ふ」は掛詞で、地名の「逢坂(あふさか)」にかけられている。
この歌の「われて」は、「水が分かれて」と「二人が別れて」にかけた修辞技法である。
松帆浦の「松」を「待つ」にかければ、恋人を待ち続ける歌にも解せる。
この「かりほ」は「刈穂」と「仮庵」にかけてあると読むべきだ。
秋と飽きをかけてるのね。
コロケーション
〈ことば〉をかける 必須項
長雨、秋、逢ふ、われて、松
〈ことば〉にかける 必須項
眺め、飽き、逢坂、分かれて、待つ
「浅草紙」をにかけ、「浅草海苔」を法にかけた洒落です。 (志の島忠,浪川寛治著 『料理名由来考』, 1990, 596) コーパス
〈歌(の一部)〉のかける
上の句、下の句、この和歌、第二句
解説
2では、移動物が水平物と接着することによって、何らかの効果が生じることが想定されていたが、17はそれが拡張して、ある「ことば」に別の「ことば」を関連づけ、それにより何らかの効果が生じることを表している。すなわち、和歌等において、ある言葉の音によって、意図的に他の類似音の言葉を想起させ、それによって重層的に世界を思い描く技巧を解説する際に用いられている。
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18 《掛け算》
他動詞 中級 ★★ 表記かける、掛ける
ある量に与えられた回数の積算を行い、新たな量のまとまりを作る。
文型
〈量〉に〈積算数〉をかける
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 ○ 継続 × 結果・完了 △
例文
連続して聞く
2に3をかけると6になる。
「速さ」に「時間」をかけたら、「距離」が出せる。
この金額は、すでに定価に税率がかけてある。
縦の長さに横の長さをかけた答えが長方形の面積である。
2に3をかけようと、3に2をかけようと、答えは6です。
時給に出勤時間数をかければ、支給額がわかる。
コロケーション
〈量〉にかける 必須項
2、速さ、金額、長さ、時間
総所得金額に税率をかけるんですか? (三木義一著 『よくわかる税法入門』, 2003, 345) コーパス
〈積算数〉をかける 必須項
3、時間、税率、長さ、高さ
今の三十歳は、三十に〇・七をかけて、ようやく昔の二十歳くらいの成熟度だというのである。 (長山靖生著 『若者はなぜ「決められない」か』, 2003, 366) コーパス
〈方法〉でかける
計算機、パソコン、概算、筆算
解説
2では、移動物が水平物と接着することによって、何らかの効果が生じることが想定されていたが、18はそれが拡張して、ある量を積算して上乗せすることにより、新たな数量のまとまりを作り出すことを表している。算数用語として使われている。
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慣用表現
電話をかける慣用句
離れた場所にいる他者との通話のために、電話機の発信を操作する。
先生に電話をかけたが、いらっしゃらなかった。
警察へは電話をかけたけれど、交番へも知らせておく方がいい。(江戸川乱歩著『三角館の恐怖』,1890,9 文学)コーパス
腕によりをかける慣用句
特別な機会に際し、最大限の能力を発揮して、料理などを作る。
年に一度の私の帰省に、母は腕によりをかけてごちそうを作ってくれる。
小坂が板前に心付けをはずんだので、いつにもまして腕によりをかけた料理が次から次へと出てきた。(吉川潮著『ホンペンの男たち』,1994, 9 文学)コーパス
磨きをかける慣用句
何度も練習や実践を重ね、能力・性質をさらに向上させる。
これまで何度も発表を行い、プレゼン力に磨きをかけた
実戦で育て、天性の長打力にさらに磨きをかける英才教育を施す。(北岡士典著『星野仙一蘇る猛虎魂』,2002, 7 芸術・美術コーパス
輪をかける慣用句
ある好ましくないことの程度が、基準以上である。
私も歌には自信がないが、それに輪をかけて音痴なのが、父である。
鷗外は忍月に輪をかけた喧嘩屋で、こわいものなしで片っ端から論争をしかける人物であった。(嵐山光三郎著『美妙、消えた。』,2001, 9 文学)コーパス
二股をかける慣用句
本来、一人の人や一つのものごとに愛情を向けなければならないのに、同時に別の人やものごとにも愛情を向ける。
彼に二股をかけられていたことがわかり、その場で別れた。
新井美和子は途中から浮橋と榎本に二股をかけたわけだな(雨宮町子著『私鉄沿線』,2003,9 文学)コーパス
ヤマをかける慣用句
何の根拠もない状態で、実現を予想すること。
ぜんぜん試験勉強しなったので、ヤマをかけてのぞんだ。
すでに数十人が着席して問題集を広げたり、ヤマをかけたりして時間までの勉強に余念がない。(竜崎アスカ著『サムシンググレートvsパワーゲーム』,1950,9 文学)コーパス
声をかける慣用句
1 聞き手が何かを意識化するように、簡単な言葉を発する。
「ハンカチが落ちましたよ」と通りすがりの人に声をかけた
そのとき坊主頭が大きな声でいった。「おい!」坂田は身をかたくした。自分に声をかけてきた、と思った。(大沢在昌著『涙はふくな、凍るまで』,1950,9 文学)コーパス
2 ある仕事を引き受けないかと尋ねる。
せっかく声をかけてくださったのですが、今回は辞退させていただきます。
そうなれば、妻と子のためにももうぶらぶらしているわけにいかず、母方の叔父に声をかけられて水道工事の会社に入った。(清水義範著『短篇ベストコレクション』,1940,9 文学)コーパス
歯牙にもかけない慣用句
ある対象は自分にとって、何の障害にもならない価値のないものだと認識する。
彼は他人がいくら注意しても歯牙にもかけない
権藤は、野々村の指摘など歯牙にもかけない様子で怒っていたが、(吉村達也著『竜神温泉殺人事件』,1950,9 文学)コーパス
鼻にかける慣用句
自分は他人とは違って、優れた点があると周囲に言う。
奴は日ごろから、名門出身であることを鼻にかけていた
しばしば他人については自分が武士の出身であったことを鼻にかけてであったのでしょうか、かなり人を馬鹿にした差別的な表現を行ったり (倉本初夫著『探訪・蔦屋重三郎』,1920,2 歴史)コーパス
気にかける慣用句
ある対象の状態について、問題がないか、常に心配したり注意を引き付けられたりする。
いつも私のことを気にかけてくださって、誠にありがとうございます。
信長はそれからは勝頼の動静については、あまり気にかけないような素振りをしていた。(新田次郎著『武田勝頼』,1910,9 文学)コーパス
執筆:梶川 克哉 校閲:籾山 洋介