張る(はる)

状態変化を表す動詞
活用表 1グループ 平板型
コアイメージ
語義リスト ・慣用表現
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1《面が広がる》ものが広がり、たるみがないひとつの面ができる。
2《身体が固まる》身体の一部が、表面にたるみやゆとりがなくなるほどに、固まる、ふくらむなどする。
3《身体を出す》人が身体の一部を、普通の状態よりも外へ出す。
4《身体がとがる》身体の一部が、普通よりも外に出た形をしている。
5《存在を誇示》人が、自分の意志を通そうとしたり、自分の存在を示そうとしたりする態度を、普通より強く外へ出す。
6《身を危険にさらす》人が、何かを守るために、自分の身体や命をあえて危険にさらす。
7《地位を維持》人が、がんばって責任の重い地位を維持する。
8《根が伸びる》植物の一部が普通よりも外へ出る。
9《価格が高い》価格が、とくに考えなくとも普通に払える価格より高い。
10《面を広げる》人が、平らなものを、たるみがないように広げる。
11《面を密着》人が、平らなものをたるみがないように密着させる。
12《掲示する》人が薄くて平らなものを掲示する。
13《平手でたたく》人が平手で、他の人の身体を、手加減をせずに強くたたく。
14《液体を入れる》人が、水面の広がりが感じられるように、液体を入れる。
15《線を渡す》人が、長いものをたるみのない状態にして、ある場所から別の場所へ渡す。
16《流れを作る》人が、必要が生じる可能性を見越して、別の情報を獲得したり、別の論理を展開したりできる道筋を作っておく。
17《臨時体制を作る》人や組織が、戦いや競争の臨時体制を作る。
18《監視する》人が、臨時体制を作って、重要人物の行動を監視する。
慣用表現 根を張る、勢力を張る、宴[祝宴]を張る、肩肘を張る、レッテルを貼る、向こうを張る、相場を張る、山を張る、アンテナを張る
全体解説
複合語
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1 《面が広がる》
自動詞 初級 ★★★ 表記張る
ものが広がり、たるみがないひとつの面ができる。
類義語広がる、できる
反義語溶ける、破れる
文型
〈もの〉が張る
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
池に氷が張った
この池は、真冬になると薄く氷が張る
牛乳を温めすぎて、表に膜が張ってしまった。
すりむいた傷口に、皮が張ってきた。
この美容液は肌に膜を張ることで、乾燥から守ってくれる。
リンゴは皮がピンと張ったものを選んでください。
肌に潤いをキープする膜を張るので、これからの季節にぴったりでよろしいかと思います。
コロケーション
〈もの〉が張る 必須項
氷、皮、膜、薄氷
秋のおわりでしたから、外はが張るほどの寒さです。 (前川康男作;遠藤原三絵 『だんまり鬼十』, 1994, ) コーパス
少し冷めてくると、クリームの上にが張って来るので、泡だて器で混ぜます。 (Yahoo!ブログ, 2008, グルメ、ドリンク) コーパス
〈場所〉に張る
池、川、湖、傷口、肌
ただ、そのときのに張った氷は、私の体重に耐えられるほど厚くはなかった。 (フランク・ソーヤー著;シドニー・ヴァインズ編;能本功生訳 『フランク・ソーヤーの生涯』, 1991, 787) コーパス
東大構内の三四郎池には薄氷が張っていた。 (池田大作著 『新・人間革命』, 2005, 913) コーパス
非共起例
〈もの〉が張る
雪が張った
雪が積もった
黄砂が窓枠に張った
黄砂が窓枠に積もった
「張る」は粉状のものが広がって面をなす場合には使えない。
「張る」が使われるのは、全体としてひとつを成す「たるみがない面」が作られる場合である。
解説
この「語義1」は「広がる」と意味が似ているが、「張る」は広がった結果、「たるみがない面」ができることを表す点に特徴がある。
誤用解説
雲が張る
雲が広がる
雲を地上から見ると、柔らかいと感じる。「たるみがない面ができる」ことを表す「張る」は用いられない。
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2 《身体が固まる》
自動詞 中級 ★★ 表記張る
身体の一部が、表面にたるみやゆとりがなくなるほどに、固まる、ふくらむなどする。
類義語凝る、腫れる
文型
〈身体の一部〉が張る
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
便秘になると、お腹が張る
運動のしすぎで、体中の筋肉が張った
ずっと同じ姿勢で作業していたので、背中が張っている
炭酸水の飲みすぎで、お腹が張って痛い。
肩が張ると、近所の整体に行くことにしています。
臨月にお腹が張るのはよくあることです。
コロケーション
〈身体の一部〉が張る 必須項
胸、お腹、腰、肩、筋肉、太もも
女性は生理前などはが張るので硬くなったりします。 (Yahoo!知恵袋, 2005, 健康、病気、ダイエット) コーパス
私も妊娠後半に入ってくると、たいして動いてなくてもお腹が張ったりしていましたよ。 (Yahoo!知恵袋, 2005, 子育て、出産) コーパス
〈様態〉に張る
パンパン
運動した後って、筋肉痛以外に、筋肉がパンパンに張ったようになるものですか? (Yahoo!知恵袋, 2005, 健康、病気、ダイエット) コーパス
非共起例
〈身体の一部〉が張る
肝臓が張る
肝臓が腫れる
心臓が張る
心臓が腫れる
「張る」は表面が押されてたるみがない(ゆとりがない)という感覚が自覚できる場合にしか使えない。肝臓や心臓について、そのような感覚は自覚できない。
解説
この「語義2」と「語義1」との間には、「たるみのない面ができる」という共通点がある。ただし、「語義1」の場合、「自ら広がる」ことでたるみのない面ができるのに対し、この「語義2」の場合、身体の異常により、「内部が固くなる、ふくらむ」ことで表面が広がり、たるみのない面ができることを表す。身体の一部が「普通よりも外へ出ている」と感じられる状態である。
誤用解説
強く打って足が張った
強く打って足が腫れた
「張る」は身体の一部が外的な力を受けてふくらみ、表面を押し上げる場合には使えない。
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3 《身体を出す》
他動詞 初級 ★★★ 表記張る
人が身体の一部を、普通の状態よりも外へ出す。
類義語伸ばす
反義語引っ込める
文型
〈人〉が〈身体の一部〉を張る
文法
受身 △ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
狭い電車の中でひじを張ると隣の人に迷惑だ。
背中が曲がって姿勢が悪いよ。胸を張りなさい。
おへその上あたりで手をそろえ、ひじを張ってお辞儀をする人をみかけるようになりました。
クロールを泳ぐとき、水中でひじを張れないと、速くは泳げません。
次男は昨日家に帰ると、絵画展で入賞したと言って胸を張った
万引きを見つけてすぐに、「こら!」と声を張れる人はあまりいないだろう。
コロケーション
〈身体の一部〉を張る 必須項
身体の一部:ひじ、胸
身体の一部に準ずるもの:声
私はカメラマンの声を頼りにポーズを作り、そしてを張った。 (大石政隆著 『人生ふさぎこんじゃおしまいよ』, 2004, 049) コーパス
善政が言うと、治憲は高くを張って、これよ、明かりをもてと言った。 (藤沢周平著 『漆の実のみのる国』, 1997, 913) コーパス
ひじを張って食べるのはいかつく見えますし、逆にわきを固めすぎても卑屈な感じになります。 (千宗室著 『なんて美しい女性だろう!』, 1981, 159) コーパス
非共起例
〈身体の一部〉を張る
座席が広いので足を張れる
座席が広いので足を伸ばせる
木の実を取ろうと、腕を張った
木の実を取ろうと、腕を伸ばした
「張る」は「普通の状態よりも外へ出す」ことを表す。もともと自由に動く度合が大きく「普通の状態」が多様な「足」「腕」について、「張る」を使うことはできない。
〈身体の一部〉を張る
肩を張る
肩をそびやかす
解説
「語義2」とこの「語義3」との間には、「身体の一部が普通の状態より外に出ること」が関係するという共通点がある。ただし「語義2」は自動詞で、身体の異常などによって「身体のある部分が普通の状態より外」へ「出る」ことを表すのに対し、この「語義3」は他動詞で、自らの意志で「身体の一部を普通の状態より外」へ「出す」ことを表す。
誤用解説
助けを求めるときには声を張ってください。
助けを求めるときには声を張り上げてください。
「声を張る」は主に書きことばで使われる。
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4 《身体がとがる》
自動詞 中級 ★★ 表記張る
身体の一部が、普通よりも外に出た形をしている。
類義語出る、とがる
反義語引っ込む
文型
〈身体の一部〉が張る
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
あの人は、頬骨が張っている
あごが張っていると意志が強そうに見える。
私は頭のハチが張っているので、あう帽子がみつからないのです。
エラが張っていて、顔が大きく見える。
隣の息子さんは、肩が張って、立派な体格です。
若いころは頬骨が張っていたが、年をとって太ったので目立たなくなった。
コロケーション
〈身体の一部〉が張る 必須項
あご、頬骨、肩、頭の鉢、エラ、太もも
たとえば筋肉によってエラが張っていて顔が大きく見えるのは、ボトックスで小顔に。 (Hanako, 2004, 一般) コーパス
顔色がよくなり、頰がふっくらして、が張り、青年のような目がねをかけた上で、この服を着ますと、当時かぞえ年三十五歳であった私が、五つ六つ若くみえるのです。 (江戸川乱歩著 『化人幻戯』, 1994, 913) コーパス
非共起例
〈身体の一部〉が張る
足にタコが張っている
足にタコが出来ている
おできが張っている
おできが出来ている
「張る」は、身体の一部そのものが外に出た形をしていることを表すのであって、身体の一部にできたものが外に出ていることを表すのではない。
〈身体の一部〉が張る
胸が張っている
胸が大きい
彼は中年でお腹が張っている
彼は中年でお腹が大きい
彼は中年でお腹が出ている
「張る」は「普通よりも外に出ている」ことを表すのであって、普通の基準が多様な「胸」「お腹」について「張る」を使うことはできない。
〈身体の一部〉が張る
耳が張っている
耳が大きい
解説
「語義3」は身体の一部を「普通よりも外に出す」ことを表すのであったが、この「語義4」は「普通の状態より外に出ている」ことを表す。つまり、「語義3」が変化を表すのに対し、この「語義4」は、外に出ている状態を、まるで変化の結果であるかのように捉えていることを表す。
誤用解説
田中さんはあごが張る
田中さんはあごが張っている
この場合の「張る」は、状態を表すのに用いられ、テイルの形で使われるのが一般的である。ただし、「そういう食べ方をしているとエラが張るよ」と言うことは可能である。
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5 《存在を誇示》
他動詞 中級 ★★ 表記張る
人が、自分の意志を通そうとしたり、自分の存在を示そうとしたりする態度を、普通より強く外へ出す。
文型
〈人〉が〈態度〉を張る
文法
受身 △ 尊敬 ○ 使役 × 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
お互いに意地を張るのはやめにしよう。
我を張ると、人間関係はうまくいかない。
会社では、ずっと気を張っているので、疲れる。
自信がない人ほど虚勢を張るものだ。
あいつは何でもわかっているように見えるが、見栄を張っているだけだ。
太郎ちゃんは、いつも強情を張るから困る。
コロケーション
〈態度〉を張る 必須項
意地、虚勢、気、我、見栄、強情、威勢
いつまでも見栄を張っていたり強がっていたりしても始まりません。 (清水洋著 『大倒産時代の生活防衛マニュアル』, 1998, 365) コーパス
「いいかげんに意地を張るのはやめなさいよ。」 (国語 六上 創造, 2006, 小) コーパス
非共起例
〈態度〉を張る
情熱を張る
情熱を傾ける
愛情を張る
愛情をかける
根性を張る
根性を出す
我がままを張る
我がままを言う
解説
この「語義5」と「語義3」との間には、「普通の状態より外へ出す」という共通点がある。ただし、「語義3」の場合には、「身体の一部」を外に出すことを表すのに対し、この「語義5」の場合、「自己の意志を通そうとしたり、自分の存在を示そうとしたりする態度」を外へ出すことを表す。
「気を張る」「食い意地を張る」もこの「語義5」に含まれるが、これらは他動詞(例:太郎が気を張っている。太郎が食い意地を張っている)としてだけではなく、自動詞(例:太郎は気が張っている。太郎は食い意地が張っている)としても使える。
誤用解説
あの人は見栄を張るのですばらしい。
あの人は見栄を張るのでいやだ。
あの人は意地を張るのですばらしい。
あの人は意地を張るのでいやだ。
この場合の「張る」は、一般的によくない意味で使われる。
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6 《身を危険にさらす》
他動詞 上級 ★ 表記張る
人が、何かを守るために、自分の身体や命をあえて危険にさらす。
類義語さらす
文型
〈人〉が〈身体・命〉を張る
文法
受身 × 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 △ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
あなたは、非常の事態が起こったとき、家族のために体を張れますか。
消防隊員は、火事場でいつも命を張っているのです。
あいつは普段は静かなタイプだが、サッカーの試合のときには身体を張ってゴールを守る。
新しいダイエット法を考案し、身体を張ってためしてみた。
スタントマンは体を張る仕事だ。
部下のために体を張れないリーダーの下で、組織改革は成功しない。
コロケーション
〈身体・命〉を張る 必須項
身体、体、命
そういうとき、大槻氏はいつもを張って現場に出かけ、組合幹部と直談判して説得した。 (山田智彦著 『30歳までに何をするか』, 1997, 159) コーパス
我々の為にを張るのが、警察の使命の筈だ! (黒武洋著 『そして粛清の扉を』, 2005, 913) コーパス
解説
この「語義6」と「語義5」との間には、「普通より外へ出す」という共通点がある。ただし、「語義5」の場合、「自己の意志を通そうとしたり、自分の存在を示そうとしたりする態度」を「普通より外に出す」のに対し、この「語義6」の場合、「自分の体や命そのもの」を普通(危険のない状態)より外(危険の及ぶ場所)に出すことを表す。「命を危険にさらす」ことを意味することになる。
誤用解説
雪山登山で体を張った
バンジージャンプで体を張った
「雪山登山」や「バンジージャンプ」は「命を危険にさらす」行為であるかもしれないが、その行為自体が目的である。この「語義6」は、「何かを守るため」という別の目的があって「命を危険にさらす」場合に使われる。
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7 《地位を維持》
他動詞 上級 ★ 表記張る
人が、がんばって責任の重い地位を維持する。
類義語維持する
文型
〈人〉が〈地位〉を張る
文法
受身 △ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 △ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
彼は今回の公演で主役を張った
あの力士に、横綱を張るだけの力量があるだろうか。
太郎はああ見えて、この辺りの不良グループで番を張っているんだぜ。
彼女は劇団の男役でトップを張っている
あの事件の容疑者は、ある番組でメインキャスターを張る人物だ。
自己顕示欲の高いメンバーを抱えてリーダーを張っているんだから、彼女すごいよ。
彼女が宝塚のトップを張っていた時からよ。
コロケーション
〈地位〉を張る 必須項
横綱、番、主役、トップ、リーダー、メインキャスター
昨年も例外ではなく、主役を張っていたのはポルシェ・カレラGTとメルセデス・ベンツSLRマクラーレンだった。 (CAR and DRIVER, 2004, 機械) コーパス
非共起例
〈地位〉を張る
100メートル走でトップを張った
100メートル走でトップだった。
〈地位〉は、責任が非常に重いものでなければならない。
解説
「語義6」が「命を危険にさらす」ことを表すのに対し、この「語義7」は「命を危険にさらす」ような行動を続ける(がんばる)ことで「地位を維持する」ことを表す。
誤用解説
田中さんは部長を張っている
田中さんは部長だ。
彼は幕下を張っている
彼は幕下だ。
この「語義7」は、「地位を維持する」ことを表すが、その場合の「地位」は責任の非常に重いものでなければならない。
私は男役でトップを張っている田中です。
私は男役のトップの田中です。
私はメインキャスターを張っている田中です。
私はメインキャスターの田中です。
この「語義7」は、「がんばって地位を維持している」、という他者からの評価を含む場合に使われる。したがって、現在の自分のことを言うには適さない。
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8 《根が伸びる》
自動詞 初級 ★★★ 表記張る
植物の一部が普通よりも外へ出る。
類義語伸ばす、伸びる
文型
〈植物〉が〈その一部〉を張る
文法
受身 × 尊敬 × 使役 ○ 意思 × 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
雑草の根が深く張って抜けない。
横枝が張って隣の敷地に入ったので剪定をした。
蘭を植え替えたが根が張らない
心配しましたが、植え替えた蘭は、きれいに根を張りました
しっかり根を張らせるために、養分を十分に与えてください。
街路樹が道路に大きく枝を張っている
コロケーション
〈植物〉が張る 必須項
木、樹木、草
畑の部分はがしっかり根を張っていて、開墾が大変! (Yahoo!ブログ, 2008, 文学) コーパス
〈植物の一部〉を、〈植物の一部〉が張る 必須項
根、根っこ、枝、横枝
御影堂の前には大銀杏がを張っている。 (早島大英監修 『うちのお寺は浄土真宗本願寺派』, 2005, 188) コーパス
だが、路上に大きくを張った並木の道は、深い闇の中につつまれていた。 (土屋隆夫著;土屋隆夫著 『天狗の面;天国は遠すぎる』, 2001, 913) コーパス
〈場所〉に張る
地中、道路
〈様態〉張る
横に、縦に、深く
非共起例
〈植物の一部〉が張る
朝顔のつるがよく張っている
朝顔のつるがよく伸びている
この「語義8」の「張る」は、「伸びる」ことによって力強さが感じられる「根」「枝」についてしか使われない。
解説
この「語義8」と「語義3」との間には、「普通の状態より外へ」という共通点がある。ただし、「語義3」の場合、「人間が身体の一部を外へ出す」ことを表すのに対し、この「語義8」の場合、「植物がその一部」を「普通の状態より外へ出す」(植物の一部が普通の状態より外へ出る)ことを表す。
誤用解説
根っこが弱々しく張っている
根っこが弱々しく伸びている
この「語義8」の「張る」は、伸びることによって力強さが感じられる場合にしか使われない。
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9 《価格が高い》
自動詞 上級 ★ 表記張る
価格が、とくに考えなくとも普通に払える価格より高い。
類義語高い
反義語安い
文型
〈価格〉が張る
文法
受身 × 尊敬 × 使役 × 意思 × 継続 × 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
高級腕時計はなぜこんなに値が張るのだろう
少し金額が張るけれど、いいところだから式場はあのホテルにしましょう。
値段が張ったけれど、プレゼントだから仕方がない。
少しぐらい値が張っても長く使えるものが買いたい。
買いたいが値が張るので迷っている。
このお菓子は、量の割には金額が張る
コロケーション
〈価格〉が張る 必須項
値、金額、値段
少々が張っても永く使用できるものがほしい。 (松本哉著 『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』, 2002, 910) コーパス
〈様態〉張る
異様に、ばかに
非共起例
〈価格〉が張る
100万円が張る
100万円は高い
〈金額〉は具体的な金額であってはならない。
〈価格〉が張る
政情の安定により、株価が張る
政情の安定により、株価が上がる
「値が張る」は、「とくに考えなくとも自然に払える」価格を基準に、「高い」ことを言う場合に使われる。「現在の株価」を基準に、それより「高くなる」ことは表せない。
解説
この「語義9」と「語義8」との間には、「普通の状態より外へ出る」という共通点がある。ただし、「語義8」の場合、「植物の一部」が「普通の状態より外へ出る」ことを表すのに対し、この「語義9」の場合「価格」が「とくに考えなくとも普通に払える基準を越えている」ことを表す。
誤用解説
姫路城の改修は値が張った
姫路城の改修には多額の費用がかかる。
この「語義9」は「とくに考えなくとも普通に払える価格より高い」ことを表す。従って「普通の価格」がわかるものについてしか使えない。一般の人にとって「姫路城の改修費用」は「支払」の対象とならず、「普通の価格」もわからない。
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10 《面を広げる》
他動詞 初級 ★★★ 表記張る
人が、平らなものを、たるみがないように広げる。
類義語広げる、かける
反義語とる
文型
〈人〉が〈平らなもの〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
この辺でテントを張ろう
ヨットに帆を張る練習をした。
練習前にテニスコートにネットを張っておいてください。
窓に金網が張られている
私は、障子やふすまを自分で張れます
軒下にクモが巣を張っている
コロケーション
〈平らなもの〉を張る 必須項
面状のもの:横断幕、テント、帆、キャンプ、障子
網状のもの:網、ネット、フェンス、金網
まだ日が高いが、テントを張って、焚火をする。 (立松和平編 『私の海彦山彦』, 1989, 913) コーパス
そこで、ジーランド川の両岸にまたがるようにを張ったところ、かなりたくさんの漁獲があった。 (J.ベルヌ作;朝倉剛訳;太田大八画 『二年間の休暇』, 2002, ) コーパス
〈人に準ずるもの〉が〈平らなもの〉を張る 必須項
クモが巣を
非共起例
〈平らなもの〉を張る
テーブルクロスを張る
テーブルクロスをかける
カーテンを張る
カーテンをかける/つるす
「張る」は「たるみがないように広げる」ことを表すのであって、「テーブルクロス」や「カーテン」のように、ふわりとした感覚があるものを広げる場合は使えない。
解説
この「語義10」と「語義1」との間には、「たるみのない面ができる」という共通点がある。ただし、「語義1」の場合、「ものが自ら広がる」ことで「たるみのない面ができる」ことを表すのに対し、この「語義10」の場合、「人がものを広げる」ことで「たるみのない面ができる」ことを表す。
誤用解説
テントが張っている
テントが張ってある
クモの巣が張っている
クモの巣が張ってある
「クモが巣を張る」の場合は「クモの巣が張る」に言い換えられる。
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11 《面を密着》
他動詞 初級 ★★★ 表記貼る・張る
人が、平らなものをたるみがないように密着させる。
類義語つける、くっつける
反義語はがす
文型
〈人〉が〈平らなもの〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
この書類に目を通して、気になるところがあれば付せんをはっておいてください。
出席すると、先生が表にシールを貼ってくれるんだ。
封書は82円なのに、80円切手が貼られていた。
血が出ているならバンドエイドを貼ったほうがいい。
庭に芝を張ろう。手入れは私がするよ。
リフォームのとき、居間の壁紙は自分ではりました
絵を描いたり、写真や文字の切り抜きを貼ったりして……、本当に大変よ。
コロケーション
〈平らなもの〉を貼る 必須項
密着するように作られたもの:シール、切手、ラベル、ステッカー、テープ、バンドエイド、湿布、付せん
建材など:壁紙、鏡、タイル、石、芝、板、クロス
切手を貼り忘れた手紙を出してしまった。 (安野光雅著 『空想書房』, 1992, 914) コーパス
その石膏プラスターが乾いてからクロスを張ります。 佐藤謙一著 『おじいちゃん・おばあちゃんのための(秘)リフォーム』, 2005, 527) コーパス
〈場所〉に貼る
封筒、段ボール、壁、居間、洗面所、外壁、庭
試験案内のみ希望の方は、返信用封筒に140円切手を貼ってください (市政だより青葉区版, 2008, 宮城県) コーパス
〈手段〉で貼る
糊、ボンド、テープ
ヒレと尾は厚紙に両面テープでリボンを貼り、虫ピンでとりつけます。 (日本フラワー技芸協会編 『ソープバスケット』, 1984, 594) コーパス
百円ショップのフォトフレームに、ボンドで貝殻や流木を貼っていく。 ( 『スローライフinふくしま』, 2005, 365) コーパス
解説
この「語義11」と「語義10」との間には、「たるみがないように面をつくる」という共通点がある。ただし、「語義10」の場合、「たるみがない面」はどこにも密着していないが、この「語義11」の場合、「たるみがない面」をどこか別の面に密着させることを表す。
誤用解説
芝を貼る
芝を張る
「張る」のほうが一般的である。
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12 《掲示する》
他動詞 初級 ★★★ 表記貼る・張る
人が薄くて平らなものを掲示する。
類義語つける
反義語はがす
文型
〈人〉が〈掲示物〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
学内に文化祭のポスターを貼りました
掲示板に掲示物を貼るのを手伝って。
電信柱にビラを貼ったが、みつかってはがされた。
明日までにイベントのポスターを会場の指定された場所に張らなければならない。
先週のコンピューターの授業で、生徒に画像をワードにはる作業をさせましたが、皆うまくはれました
ここにURLを貼っておきますので、よかったら参考にしてください。
コロケーション
〈掲示物〉を貼る 必須項
平らなもの:ポスター、ビラ、写真、広告
電子情報:サイト、URL、画像、イラスト
アパートの横の掲示板に管理人が大きなポスターを貼っているところだった。 (青沼静也著 『チェーンレター』, 2001, 913) コーパス
壁に橋本勝さんのイラストを貼り、資料を並べ、黒板にワークショップのタイトルを書きました。 (四茂野修著 『「帝国」に立ち向かう』, 2003, 366) コーパス
〈場所〉に貼る
壁、掲示板、案内板、ウインドー
何の変哲もない建物だが、に何枚もの写真やビラが貼られている。 (三沢明彦著 『捜査一課秘録』, 2004, 317) コーパス
また、大学の学生課の掲示板に貼られたアルバイト情報を見て、中国人留学生のほうが、日本人学生よりも「3K」の仕事を嫌がるそうである。 (金煕徳著 『中国をどうみるか』, 2004, 302) コーパス
非共起例
〈掲示物〉を貼る
部屋に油絵を張ろう
部屋に油絵をかけよう
この「語義12」は、「薄くて平なもの」を掲示する場合に使われる。油絵のように厚みが感じられるものについては使われない。
解説
この「語義12」と「語義11」との間には、「別の面に添わせることで」「たるみがない面をつくる」という共通点がある。ただし、「語義11」の場合、「別の面に添わせ」て「密着させる」ことが目的であるのに対し、「語義12」の場合、「掲示」が目的である。「掲示」が目的であるから、「別の面に添わせる」としても「密着させる」とは限らず、画びょうなどで部分的に留める場合にも使われる。
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13 《平手でたたく》
他動詞 上級 ★ 表記張る
人が平手で、他の人の身体を、手加減をせずに強くたたく。
類義語たたく、殴る、ぶつ、打つ、ひっぱたく
文型
〈人〉が〈身体の一部〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 △ 継続 × 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
反論したら、いきなり横っ面を張られた
右の頬を張ると、あの力士はすぐに体勢を崩す。
彼女のほおには、張られたようなあざが痛々しく残っていた。
クラスのやつに悪口を言われたので、びんたを張ったら、親が学校に呼び出された。
新参者なのに生意気なことを言うので、思いっきり頭を張ってやった。
意識がないので呼びかけながら何度も頬を張ったが、何の反応もなかった。
コロケーション
〈身体の一部〉を張る 必須項
頬、横っ面、顔、頭、尻、びんた
雪洋が声をかぎりに叫んだら、を一つ張られた。 (水原とほる著 『箍冬』, 2004, 913) コーパス
試合後に大輔の横っ面を平手で張ったことがあります。 (木村幸治著 『初球はストレート』, 1993, 783) コーパス
〈様態〉張る
思いっきり、バンと、パーンと
そんなある日のこと、私は自分でもどうなったのかわからないまま一人の男の子と喧嘩を始め、いきなり相手の頰を張ってしまう。 (ルイ・アルチュセール著;宮林寛訳 『未来は長く続く』, 2002, 135) コーパス
非共起例
〈身体の一部〉を張る
太郎は次郎の肩を張った
太郎は次郎の肩をたたいた
〈身体の一部〉は、広い面として感じられるものでなければならない。
〈身体の一部〉を張る
太郎は次郎の背中を張った
太郎は次郎の背中をたたいた
「平手で、手加減をせず強い力でたたく」のは、相手と向き合って争う場合が多い。背後から「背中を張る(平手で、手加減をせず強い力でたたく)」という状況は想像しにくい。
〈身体の一部〉を張る
太郎は次郎を張った
太郎は次郎をたたいた
「張る」対象は〈身体の一部〉でなければならない。「〈人〉を張る」と表現することはできない。
解説
この「語義13」と「語義11」との間には、「平らなものを密着させる」という共通点がある。ただし、「語義11」においては「シールな平らなものを、ノートなど、別の平面に密着させる」ことを表すのに対し、この「語義13」においては「平手を、身体の一部に密着させる」ことを表す。
「語義11」と「語義13」とは、「密着させる」目的も異なる。「語義11」は、「密着している状態を作る」ことを目的とした動作であるのに対し、この「語義13」は、「衝撃を与える」ことを目的とした動作である。
さらに、この「語義13」の場合、対象を表す格助詞「を」で示されるのは、密着させるもの(平手)ではなく、密着させる対象(頬など)となる。
誤用解説
言うことをきかないからといって生徒の尻を張ることは、許されません。
言うことをきかないからといって生徒の尻をたたくことは、許されません。
「張る」は、相手を手加減しない強い力で「たたく」場合に使われるのであって、大人が子供を、力を加減しながら「たたく」ような場合には使われない。
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14 《液体を入れる》
他動詞 中級 ★★ 表記張る
人が、水面の広がりが感じられるように、液体を入れる。
類義語入れる、注ぐ
反義語抜く、捨てる
文型
〈人〉が〈液体〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
昨日、田に水を張りました
水を張った田んぼはとても美しい。
私がお風呂にお湯を張ります
ホテルの部屋が乾燥するときは、バスタブに水を張って浴室のドアを開けておくとよい。
汚れた靴下は、洗面器にお湯を少し張り、洗剤を入れてつけておけば汚れが落ちやすい。
洗面器に張った水に絵の具を落として和紙に模様を写し取り、作品を作った。
普段から浴槽に水を張っておくといいです。
コロケーション
〈液体〉を張る 必須項
水、お湯、水溶液
やかんにを張って火にかけた。 (雨宮町子著 『たたり』, 2002, 913) コーパス
バスタブにを張り、浅い浴槽に膝をかかえて腰まで浸かる。 (村田喜代子著 『人が見たら蛙に化れ』, 2004, 913) コーパス
〈容器〉に張る
バケツ、プール、バスタブ、洗面器、水そう
浴槽には縁まで湯が張られ、適温になっている。 (森村誠一著 『人間の条件』, 2003, 913) コーパス
土がカラカラに乾いてしまったときは、バケツに水を張り、鉢ごとそのままドボンと沈めてみよう。 知的生活追跡班編 『その道のプロが教える「裏ワザ」(金)読本』, 2003, 365) コーパス
非共起例
〈容器〉に張る
コップにジュースを張る
コップにジュースを入れる/注ぐ
クラスにワインを張る
グラスにワインを入れる/注ぐ
この「語義14」は、「人が、水面の広がりが感じられるように、液体を入れる」ことを表す。したがって、その容器は、水面の広がりが感じられるようなものでなければならない。「コップ」や「グラス」は、水面の広がりよりも深さが感じられる容器である。
解説
この「語義14」と「語義10」との間には、「たるみがない面を作る」という共通点がある。ただし、「語義10」の場合、「ものを広げる」ことで「面を作る」のに対し、この「語義14」の場合、容器に「液体を入れる」ことで、その表面に「面を作る」ことを表す。
この「語義14」は、深さよりも横の広がりを感じられるような液体の入れ方をした場合に使われる。
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15 《線を渡す》
他動詞 初級 ★★★ 表記張る
人が、長いものをたるみのない状態にして、ある場所から別の場所へ渡す。
類義語かける
反義語取る
文型
〈人〉が〈長いもの〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
鎖を張ってあるところから向こうに行くと、危険です。
倒れそうな立木にロープを張って支えることにした。
ホテルの浴室に洗濯ロープを張れば洗濯物が干せる。
ラケットのガットをきれいに張りたければ手では難しい。機械が要る。
ギターの弦がうまく張れない
鉄塔の電線はどうやって張るのだろう。
コロケーション
〈長いもの〉を張る 必須項
ロープ、くさり、糸、弦、電線、洗濯ロープ、ガット、ワイヤー
交換が終わったら、を張ってサウンド・チェックしよう。 ( 『ひと目でわかる!ギター・メンテ帳』, 2003, ) コーパス
現在も地盤が安定しておらず危険なため、杵崎海岸へ下りる道にロープを張り、通行禁止にしています。 (広報ひかり, 2008, 山口県) コーパス
〈様態〉張る
ピンと、きれいに
非共起例
〈長いもの〉を張る
物干し台に竿を張る
物干し台に竿をかける
〈長いもの〉は「たるみがある状態」になり得るものでなければならない。
解説
この「語義15」と「語義10」との間には、「たるみがない状態にする」という共通点がある。ただし、「語義10」の場合、面を「たるみがない状態にする」ことを表すのに対し、この「語義15」の場合、長い物を「たるみがない状態にする」ことを表す。
これらの「たるみがない状態」というのは、「目的を達することができるほどに十分に」という意味であって、物理的に完全に「たるみがない」ことを意味するわけではない。たとえば「電線を張る」と言えば、物理的にはたるみがあっても、電線としての機能を果たすには十分に「たるみがない」ことを表している。
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16 《流れを作る》
他動詞 中級 ★★ 表記張る
人が、必要が生じる可能性を見越して、別の情報を獲得したり、別の論理を展開したりできる道筋を作っておく。
類義語かける、つなげる、敷く
文型
〈情報や論理〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
どうすればうまく伏線が張れるのだろう。
事件の伏線を小説の冒頭で張っておく。
人のホームページに無断でリンクを張ることは認められない。
自分のホームページにリンクを張られることを快く思わない人がいる。
国内の学会に続き、海外の学会にも新たにリンクを張りました
「その人は店に来たことはあるけれど、特別にお話をしたことはないのです」と関係を疑われたときのために予防線を張った
コロケーション
〈情報や論理〉を張る 必須項
リンク、伏線、予防線
参考になりそうなサイトのリンクを張っておきます。 (Yahoo!知恵袋, 2005, ゲーム) コーパス
紛争を解決するためには、伏線をあちこちに張ることが必要です。 (廣田尚久著 『上手にトラブルを解決するための和解道』, 1998, 327) コーパス
非共起例
〈情報や論理〉を張る
シナリオを張る
シナリオを書く
台本を張る
台本を書く
論の展開を張る
論の展開を示す
この「語義16」は、必要が生じる可能性を見越して、情報を獲得したり、論理を展開したりする「別の道筋」を前もって作っておくことを表すのであって、「本来」の情報や論理の展開を示す場合には使えない。
解説
この「語義16」と「語義15」との間には、「長いものをたるみがない状態(目的を達することができる状態)にする」ことを表すという共通点がある。ただし、「語義15」における「長いもの」はロープなどの具体物であるが、この「語義16」における「長いもの」は、論理や情報の流れという抽象物である。
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17 《臨時体制を作る》
他動詞 上級 ★ 表記張る
人や組織が、戦いや競争の臨時体制を作る。
類義語かける、めぐらす
文型
〈人・組織〉が〈戦いや競争の臨時体制〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
近頃の新聞は、政策に関して論陣を張る勇気を失っているように見える。
二つの軍は、川をはさんで陣を張った
もともと意見は合わないが、しばらくの間は共同戦線を張ることにした。
二人の部長は、共同戦線を張るかのように、社長への対立を鮮明にしていた。
新たな顧客獲得のために、キャンペーンを張ろう
競合他社を陥れるためのワナが張られた
コロケーション
〈戦いや競争の臨時体制〉を張る 必須項
臨時の拠点:共同戦線、論陣、陣、キャンプ
臨時の企画:キャンペーン
臨時の仕組み:わな、包囲網
これに対して菊池は、「プロレ文学こそが欺瞞の典型だ」という論陣を張った。 (矢崎泰久著 『口きかん』, 2003, 910) コーパス
ただこのとき、ウォーターゲート事件暴露の先鞭をつけた『ワシントン・ポスト』が猛烈にブッシュ支持のキャンペーンを張った。 (越智道雄著 『ブッシュ家とケネディ家』, 2003, 312) コーパス
宮崎では例年、読売巨人軍がキャンプを張る。 (AERA(アエラ), 2004, 一般) コーパス
あの頃は、米軍がファルージャの北東から大きく非常線を張って、町を包囲していました。 (新潮45, 2004, 一般) コーパス
非共起例
〈戦いや競争の臨時体制〉を張る
戦闘態勢を張った
戦闘態勢に入った
この「語義17」は、「戦いや競争の臨時体制を作る」ことを表すだけで、実際に「戦いや競争」をはじめる場合には使えない。
〈戦いや競争の臨時体制〉を張る
新商品販売のために新営業部を張った
新商品販売のために新営業部を作った
〈戦いや競争の臨時体制〉は、当然のことながら、臨時性の高いものでなければならない。「営業部」は組織の一つで、臨時性が高いとは考えにくい。
解説
この「語義17」と「語義16」との間には、必要が生じる可能性を見越して「前もって作っておく」という共通点がある。ただし、「語義16」の場合には、「別の情報を獲得したり、別の論理を展開したりできる道筋を前もって作っておく」ことを表すのに対し、この「語義17」の場合には、「臨時体制を前もって作っておく」ことを表す。
この「語義17」は「臨時体制を作る」ことを表す。「臨時体制」は本拠地から外に出て作られることから、「人が身体の一部を、普通の状態より外へ出す」(語義3)との関連も感じられる。
さらに、この「語義17」は、「語義10」「語義15」とも関連がある。臨時体制を作るには、平なものを広げたり(「語義10」)、ロープを使ったり(「語義15」)する場合が多く、このような面や線のイメージがないものについて「張る」は使いにくい(誤用解説参照)。
誤用解説
地雷を張った
地雷を埋めた
「地雷」には面や線のイメージがないため、「張る」は使えない(語義解説参照)。
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18 《監視する》
他動詞 上級 ★ 表記張る
人が、臨時体制を作って、重要人物の行動を監視する。
類義語見る、偵察する
文型
〈人〉が〈重要人物〉を張る
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
警察が犯人を張っている
あの有名人の恋人を張ろう。きっと特ダネが取れる。
部下に容疑者の家を張らせたが、出てくる気配がないらしい。
週刊誌の記者が恋愛騒動のうわさのある有名タレントを張っているらしい。
敵は張られているとも知らないで、呑気に酒を飲んでいる。
明日から、疑惑の人物の自宅を張ることにする。
コロケーション
〈重要人物〉を張る 必須項
タレント、大物、アジト、犯人、容疑者、敵
非共起例
〈重要人物〉を張る
囚人を張る
囚人を見張る
捕虜を張る
捕虜を見張る
「張る」相手は、張られていることを知らず、自由に動いている状態になければならない。
解説
「語義17」が「臨時体制を作る」ことを表すのに対し、この「語義18」は、「臨時体制を作り」、「対象を監視する」ことを表す。
誤用解説
相手チームの仕上がり具合を見るために、張ってきます。
相手チームの仕上がり具合を見るために、偵察してきます。
「張る」は、臨時体制を作って待ち、相手を監視する(それによって情報を得るなどする)ことを表すのであって、情報を積極的に得に行く場合には使えない。
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慣用表現
根を張る慣用句
ある風習や考え方などが定着する。
寿司を食べる習慣は、ヨーロッパにも完全に根を張ったと言ってよい。
これは伝統短詩型がわが国の社会にいかに根を張っているかを示している事柄なのではないか。(辻井喬(著)『短歌 平成14年3月号(第49巻第4号、通巻637号)』2002)コーパス
勢力を張る慣用句
人や組織が勢力を持つ。
この暴力団は、隣の県にも勢力を張っている
九州諸方には、豪族が隠然たる勢力を張っている。将来必ず禍乱が発生する。そうなると折角の九州平定が無意味になる。(太田良博(著)『ほんとの歴史を伝えたい』2004)コーパス
宴[祝宴]を張る慣用句
人や組織が宴会を開く。
戦地からの帰還を祝って祝宴を張ることにしました。
鼓や笛の鳴り物があるときには、家来たちも同席が許された。にぎにぎしく宴を張り、このときばかりは飲めや歌えやの大さわぎとなる。(中川なをみ(著)『水底の棺』2002)コーパス
肩肘を張る慣用句
人が、きちんとしなければ、がんばらなければと気負う。あるいは、会が、人にそのように思わせる雰囲気を持っている。
祝賀パーティーとは言っても肩ひじを張った会ではありませんので、気楽においでください。
誰もがこんなパーティなど日常茶飯事という感じで、ドレスアップすることを当たり前とし、肩肘を張った風もなく慣れた雰囲気ですごしている。(辻桐葉(著)『英国紳士の野蛮なくちづけ』2005)コーパス
レッテルを貼る慣用句
人や社会が、一方的にこうだと決めつける。
問題児だとレッテルを貼ってしまうと、その子のよさが見えなくなる。
ただ、一つだけ言えることは、そのあまりにも鮮明な映像が私の心にぴたりと張りついてしまったため、私はそれから逃れることができなくて、思い出すたびに怯えたり怖い夢にうなされたりしたが、それが元で周りの人から小心者のレッテルを張られ、しかられたり、からかわれたり、ずいぶんとひどいいじめを受けたりした。(寄嶋豊(著)『おんびんさくで、どんつくで』2001)コーパス
向こうを張る慣用句
人や組織が、張り合う。対抗する。
競合店の向こうを張って新たな企画を立ち上げた。
漱石研究家のH君の向こうを張って、俺にだってこれくらいのことは出来るんだぞ、と見せつけてやりたい所存である。(半藤一利・荒川博(著)『風の名前風の四季』2001)コーパス
相場を張る慣用句
人が、リスクの高い株の売買をする。
年中相場を張っているようでは、株で儲けることはできない。
よっしゃ!と思える勝ち金額が取れたら金額を落とすか、全く相場を張らないかどちらかにしましょう。なかなかできないですけどね。(Yahoo!知恵袋/ビジネス、経済とお金/株と経済2005)コーパス
山を張る慣用句
幸運をねらって予測をする。
理科のテストで山を張ったが、全てはずれて10点しかとれなかった。
ただひたすら来た球を打つ、というのでは…。これまでの9年間は、何の裏づけもないヤマを張って、はずれていたんやろね。(野村克也・関西スポーツ紙トラ番記者(著)『野村克也全つぶやき すべてのプロ野球ファンに捧ぐ』1999)コーパス
アンテナを張る慣用句
人や組織が、情報をもらさず得られるように注意をする。
優秀なビジネスマンは、常に高くアンテナを張っているものだ。
こんなふうに、私の商売であるレストランにかぎらず、いつでもアンテナを張って見ていますと、商売のヒントがあらゆるところに転がってるもんです。(宇都宮俊晴(著)『仕事を心から楽しめなくて、なにが銭もうけじゃ!実践的「個人商店主義」のすすめ』2003)コーパス
執筆:木下 りか 校閲:籾山 洋介