伸ばす・延ばす(のばす)

状態変化を表す動詞
活用表 1グループ 起伏型
コアイメージ
語義リスト ・慣用表現
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1《対象物の延長》人があるものを引っ張ったり継ぎ足したりして、長くする。
2《対象物の直線化》人が曲がったり縮んだりしていたもの・身体部分をまっすぐにする。
3《対象物への到達》人が身体部分・道具をまっすぐにし、ある対象に近づける。
4《対象物を薄く広げる》人が厚みのあるものを薄く広げる。
5《身体部分・植物の成長》人が身体部分・植物(の一部)を成長に任せて、長くしたり高くしたりする。
6《能力・業績の伸張》人や組織が能力・業績・記録などを高める・向上させる。
7《道路・路線の延長》人や組織が道路・路線などの距離を長くする。
8《時間の延長》人や組織が時間・期間などを長くする。
9《時間の延期》人や組織が時間・日時などを遅らせる。
10《相手の制圧》人が相手を殴るなどして、動けなくする。
11《音声の伸張》(主に声楽・音響で)人が音・声を長くする。
慣用表現 足を伸ばす、手を伸ばす、鼻の下を伸ばす、羽を伸ばす
複合語
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1 《対象物の延長》
他動詞 初級 ★★★ 表記のばす、伸ばす
人があるものを引っ張ったり継ぎ足したりして、長くする。
類義語延長する
反義語縮める
文型
〈人〉が〈もの〉を伸ばす
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
ゴムを両手で引っ張って思い切り伸ばす
釣り竿を伸ばす時の注意点を教えてください。
降りるときは、腰からロープをゆっくり伸ばしてください。
最近の家電は、電源コードを伸ばして使えるものが多い。
昔の携帯電話はアンテナを伸ばして電波を受信していたそうだ。
チューブを引っ張って伸ばす動作を繰り返すだけで、果たしてトレーニングの効果があるだろうか。
コロケーション
〈もの〉を伸ばす 必須項
ゴム、(ゴム)バンド、紐、糸、釣り竿、アンテナ、ロープ、ホース、コード、チューブ、はしご、餅
バネを伸ばしたり,縮めたりするには力がいる. (林良一ほか著 『物理学の基礎』, 2001, 420) コーパス
チューブを伸ばすときは、腕と一緒にからだをのけぞらせるようにして十分に引っ張り上げましょう。 (岩下聆監修 『手軽にかんたんフィットネス』, 2001, 498) コーパス
〈手段・方法・道具〉で伸ばす
自分、自力、様々な方法、機械、棒、指、両手、片手、特殊な手法
〈方向〉に[へ]伸ばす
前、後ろ、上、下、上方、下方、上下、横、斜め
〈様態〉伸ばす
しっかり、ゆっくり、思い切り、精一杯、一気に、ちゃんと、無理矢理、最大限(に)、少し
非共起例
〈もの〉を伸ばす
机を伸ばす
机を並べる
(長さが)長くなることが想定できない(しにくい)場合は用いられない。
解説
語義1は、ゴムやスプリングなどを引っ張ったり、釣り竿などを継ぎ足したり、あるいは、巻き取った紐などを繰り出したりして、(その長さを)長くするということを表す。
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2 《対象物の直線化》
他動詞 初級 ★★★ 表記のばす、伸ばす
人が曲がったり縮んだりしていたもの・身体部分をまっすぐにする。
反義語曲げる
文型
〈人〉が〈もの・身体部分〉を伸ばす
文法
受身 ○ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
ワイヤをまっすぐ伸ばす
目じりのシワを伸ばす
曲がった釘を伸ばす方法を教えてください。
寝起きに大きく体を伸ばすと、とても気持ちが良い。
膝が痛くてまっすぐ伸ばせない
シワにならないように、袖を伸ばして干してください。
コロケーション
〈もの〉を伸ばす 必須項
針金、釘、書類のシワ、袖、アーム、ワイヤ
彼はその紙切れのを伸ばして、黒インクで書かれたメッセージを読んだ。 (ペーター・R.ヴィーニンガー著;松村國隆訳 『『ケルズの書』のもとに』, 2002, 943) コーパス
〈身体部分〉を伸ばす 必須項
腰、シワ、パーマ、背筋、筋肉、首、腕、指、膝、手、足、両手、両足、体、身体、背中、ひじ
背すじを真っすぐ伸ばして、息を吸う。 (斎藤陽子著 『カラダ引き締め脂肪を燃やす斎藤陽子さんのプチダンベル』, 2003, ) コーパス
息を吐きながらひじを伸ばして上体をゆっくり起こし、背中を反らせます。 (岩下聆監修 『手軽にかんたんフィットネス』, 2001, 498) コーパス
〈手段・方法・道具〉で伸ばす
ひとり、自力、ドライヤー、アイロン、電磁力、特殊な方法、機械、棒、指先、両手
〈様態〉伸ばす
まっすぐ(に)、ゆっくり、ちょっと、一気に、びしっと、ぴんと、徐々に、完全に、しっかり、きちんと、無理矢理
解説
語義1は「あるものを引っ張ったり継ぎ足したりして、長くする」ということを表すが、この「のばす」は「曲がったり縮んだりしていたものや身体部分に何らかの力を加えてまっすぐにする」ということを表す。一般的に、ゴムや紐などを引っ張るなどして長くすると、それと同時にまっすぐになる場合が多いと考えられる。逆に、曲がった釘や背筋に何らかの力を加えてまっすぐにすると、それと同時に長くなる(長くなったように見える)場合が多いと考えられる。つまり、語義1と語義2は、時間的に隣接して(同時に)生じるという関係にあると考えられる。
誤用解説
まっすぐになることが想定できない(しにくい)場合は用いられない。
耳を伸ばす
背中を伸ばす
聴力を伸ばす。(語義6)
鉛筆を伸ばす
曲がった釘をまっすぐに伸ばす
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3 《対象物への到達》
他動詞 中級 ★★ 表記のばす、伸ばす
人が身体部分・道具をまっすぐにし、ある対象に近づける。
類義語近づける
文型
〈人〉が〈身体部分・道具〉を伸ばす
文法
受身 △ 尊敬 ○ 使役 △ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
桜の花に手を伸ばしてポーズをとる。
青菜の漬物に箸を伸ばす
彼はそっと私の頬に手を伸ばして涙を拭いてくれた。
今日は、消防車のはしごをビルの屋上まで何分で伸ばせるか実験します。
彼女はデートのとき、いつも「一口ちょうだい」と言いながら箸を伸ばしてくる。
赤ちゃんは生後4ヶ月頃から、興味がある物に手を伸ばすようになるらしい。
コロケーション
〈身体部分・道具〉を伸ばす 必須項
手、箸、はしご、(クレーンの)アーム
私は寝そべったままで灰皿にを伸ばして灰を落とした。 (金原ひとみ著 『蛇にピアス』, 2004, 913) コーパス
〈位置・地点〉まで伸ばす
3階、屋上、ベランダ、天井、上部、頂上、付近
〈様態〉伸ばす
つい、ついつい、ゆっくり、一気に、精一杯、簡単に、確実に
非共起例
〈身体部分〉を伸ばす
画面に顔を伸ばす
画面に顔を近づける
画面に手を伸ばす
「手」は「曲げる」「伸ばす」ということがあるが、「顔」についてはそのようなことは考えられない。
解説
語義2は「曲がったり縮んだりしていたものや身体部分に何らかの力を加えてまっすぐにする」ということを表しているが、この「のばす」はさらに進んで「(身体部分や道具をまっすぐにすることによって)手などの身体部分や道具の先端があるものに届くようにする」ということを表している。つまり、語義2と語義3は手段と目的の関係にあると考えられる。
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4 《対象物を薄く広げる》
他動詞 中級 ★★ 表記のばす、伸ばす、延ばす
人が厚みのあるものを薄く広げる。
類義語広げる、薄める
文型
〈人〉が〈もの〉を伸ばす
文法
受身 △ 尊敬 ○ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
麺棒でパン生地を楕円形に伸ばす
画用紙に絵の具を伸ばす
この棒は粘土を伸ばすのに使います。
保湿クリームは手のひらで伸ばしてください。
麺棒で鶏胸肉を叩いて、薄く伸ばす
ワックスが乾かないうちに、木目に沿って伸ばしていく。
コロケーション
〈もの〉を伸ばす 必須項
絵の具、糊、塗料、粘土、(パンの)生地、小麦粉、肉、ワックス、クリーム、ファンデーション
めん棒にくっつかないように打ち粉をしながら生地を伸ばします。 (大阪あべの辻製菓専門学校編 『和菓子』, 1995, 596) コーパス
〈手段・方法・道具〉で伸ばす
手、両手、片手、手のひら、人差し指、指先、麺棒、機械、ローラー、水
〈様態〉伸ばす
よく、しっかり、ちゃんと、きちんと、ゆっくり、もっと、一気に、一瞬で、すぐ(に)、簡単に、十分に
非共起例
〈もの〉を伸ばす
糊を水で伸ばす
海水を水で伸ばす
海水を水で薄める
基本的に、厚みのあるもの(塊状のもの)を薄く広げる場合に用いられる。
解説
語義1は「あるものを引っ張ったり継ぎ足したりして、長くする」ということを表すが、この「のばす」は「厚みのあるものを薄く広がるようにする」ということを表す。一般的に、パン生地など、厚みのあるものを薄く広がるようにするためには、前後左右の方向に引っ張るなどして長くする必要があると考えられる。つまり、語義1と語義4は手段と目的の関係にあると考えられる。なお、「糊(のり)を水でのばす」のように、例によっては「濃度をうすめる」というような意味で用いられる場合もある。
誤用解説
基本的に、溶かしたり柔らかくしたりして、薄く広げるものの場合に用いられる。
岩を伸ばす
岩を砕く
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5 《身体部分・植物の成長》
他動詞 初級 ★★★ 表記のばす、伸ばす
人が身体部分・植物(の一部)を成長に任せて、長くしたり高くしたりする。
類義語成長させる
文型
〈人〉が〈身体部分・植物(の一部)〉を伸ばす
文法
受身 △ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
最近、爪を伸ばす男性が増えているらしい。
玉ねぎの根を早く伸ばす方法ってありますか?
あの俳優は役作りのために無精ひげを伸ばしている。
20年以上一度も髪を切らずに、伸ばし続けている友人がいます。
今のところ、大人の身長を伸ばす方法はないと言われました。
ゴーヤは、これから夏に向かってどんどんつるを伸ばしていきます。
コロケーション
〈身体部分〉を伸ばす 必須項
身長、背、髪、爪、毛、髪の毛、ひげ、無精ひげ、まつ毛
髪の毛を肩まで伸ばして、手でパラッとかき上げてみたいのよ。 (うつみ宮土理著 『うつみ宮土理のカチンカチン体操』, 1986, 595) コーパス
〈植物(の一部)〉を伸ばす 必須項
枝、芽、新芽、葉、枝葉、茎、花茎、つる、根
真ん中にこんもりとした築山があり、低くを伸ばした形のいい松が植わっていた。 (稲葉真弓著 『花響』, 2002, 913) コーパス
〈位置・地点〉まで伸ばす
ここ、耳の下ぐらい、肩、屋根、ベランダのところ、天井付近
〈様態〉伸ばす
しっかり、どんどん、徐々に、ぐんぐん、一気に、ちゃんと、まっすぐ、ずっと、簡単に、早く、綺麗に、丁寧に
解説
語義5は、語義1と異なり、問題となる対象物(毛や爪などの身体部分、植物)に対して、引っ張ったり継ぎ足したりするというわけではなく、「成長させる」ということを表す。ただし、いずれも「ある対象物(の長さを)長くする」という点では共通している。なお、「去年、鉢替えした観葉植物が順調に茎を伸ばしている」のように、例によっては植物が主語になっている場合もあるが、いわゆる「擬人化」という表現法であると考えられる。
誤用解説
基本的に、身体部分を成長させる場合に用いられる。
サプリメントで子供を伸ばす
サプリメントで子供の身長を伸ばす
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6 《能力・業績の伸張》
他動詞 中級 ★★ 表記のばす、伸ばす
人や組織が能力・業績・記録などを高める・向上させる。
類義語高める、向上させる
文型
〈人・組織〉が〈能力・業績・記録〉を伸ばす
文法
受身 △ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
この車種は北中米を中心に販売台数を伸ばしているらしい。
次の五輪に向けて、徐々にタイムを伸ばしていこう。
景気回復のためには、個人消費を伸ばすことが必要である。
政府は安定税収を伸ばすために、またも消費税の増税に踏み切った。
お金をかけなくても子供の成績を伸ばす方法はいくらでもある。
昨日の決勝戦では序盤から着実に得点を伸ばしていき、圧倒的な力の差で優勝を飾った。
「子供の長所を伸ばすほめ方しかり方」か。
コロケーション
〈組織〉が伸ばす 必須項
政府、国、市、政党、銀行、新聞社、国連、WHO、会社、企業、部品メーカー
〈能力・業績・記録〉を伸ばす 必須項
売上、成績、需要、数、力、才能、学力、輸出、業績、消費、能力、勢力、量、記録、販売、生産、利益、収入、所得、得点、経済、実績、台数、事業、数字、税収、GDP、技術、シェア、スキル、実力
売上を伸ばせばボーナスを出すぞ」 (山本直人著 『話せぬ若手と聞けない上司』, 2005, 336) コーパス
しかし中進製鉄国といわれる韓国、台湾、インド、豪州、南アフリカなどが大きく輸出シェアを伸ばし、日本の足元を揺るがせ始めた。 (高杉晋吾著 『北九州エコタウンを見に行く。』, 1999, 509) コーパス
偏見を持って子どもたちに接することは、子どもたちの個性を伸ばさないことにも、つながります。 (白鳥稔著 『心の教育と生きる力と』, 2002, 370) コーパス
〈手段・方法〉で伸ばす
自力、全力、独創的な方法、緻密な戦略、ユニークな手法、いろいろなやり方
〈時点・時期〉伸ばす
一昨年より、2000年頃から、5年前から、従来より、前回より、同期に比べて、90年代後半から、後期より
〈場所〉で伸ばす
海外、世界、国内、会社、市場、アジア、ヨーロッパ、日本、学校
〈様態〉伸ばす
さらに、少し、もっと、ちょっと、どんどん、ぐんぐん、かなり、一気に、ずっと、確実に、年々、しっかり
解説
語義5は「毛や爪などの身体部分、植物(具体物)を成長させる」ということを表すが、この「のばす」は「能力・業績・勢力(抽象物)などを高める・向上させる」ということを表す。ただし、いずれも「ある対象物(の規模)を大きくする」という点では共通している。つまり、語義6は語義5との抽象的な類似性に基づいて意味が成り立っていると考えられる。
誤用解説
好ましくない事柄の場合は使われにくい。
損失を伸ばす
利益を伸ばす[増やす]
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7 《道路・路線の延長》
他動詞 中級 ★★ 表記のばす、伸ばす、延ばす
人や組織が道路・路線などの距離を長くする。
類義語延長する
文型
〈人・組織〉が〈道路・路線〉を伸ばす
文法
受身 △ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
今後も高速道路を伸ばしていく計画である。
北部地方まで鉄道を伸ばすためには、莫大な予算が必要である。
今のところ、国は札幌まで新幹線を伸ばす計画だということです。
高速道路の料金は、新しく高速道路を延ばすための工事費などに使われるそうだ。
西日本鉄道は、これ以上路線を伸ばすことは困難であるという見解を示した。
この地下鉄のトンネル工事は新工法で進められたため、2キロ延ばすだけで莫大な費用がかかった。
コロケーション
〈組織〉が伸ばす 必須項
政府、国、市、県、道路公団、JR東海、西日本鉄道
〈道路・路線〉を伸ばす 必須項
道、道路、線路、路線、鉄道、国道、高速道路、地下鉄、5号線、新幹線
杉沢林道の前身は,秋田を起点とする仁別森林鉄道が奥馬場目付近をトンネルで抜けて水無まで軌道を伸ばし,1934年に秋田へ木材を搬出しだしたのに始まる。 (新井清彦著 『軽便探訪』, 2003, 686) コーパス
〈手段・方法〉で伸ばす
先端技術、特殊な方法、新設計法、町の予算のみ、新工法
〈位置・場所〉まで伸ばす
北部方面、知多半島、大月地区、南部地方、明治村、桜木町、中部地方、高野山付近、郊外
〈様態〉伸ばす
さらに、しっかり、もっと、どんどん、一気に、できるだけ、確実に、ついに、何としてでも
解説
語義7は、語義1と異なり、問題となる対象物(道路や路線など)に対して、直接力を加えて、引っ張ったり継ぎ足したりするというわけではなく、「工事などを行い、道路・路線などの距離を長くする」ということを表す。ただし、いずれも「ある対象物に何らかの力を加えて(その長さを)長くする」という点では共通している。
誤用解説
主に道路・路線などの距離が長くなる場合に用いられる。
川を伸ばす
林道を伸ばす
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8 《時間の延長》
他動詞 中級 ★★ 表記のばす、延ばす、伸ばす
人や組織が時間・期間などを長くする。
類義語延長する
文型
〈人・組織〉が〈時間・期間〉を延ばす
文法
受身 ○ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
最近、定年を延ばす企業が増えている。
大学生になって、門限を11時まで延ばしてもらった。
これからの時代は、単に寿命を延ばすだけではなく健康寿命を延ばすことが求められる。
メーカーによっては、追加料金で保証期間を延ばしてもらうこともできる。
先日の役員会で、理事長の任期を最長10年まで延ばすことが承認された。
大半の政治家は、原子炉の稼動年数を延ばすべきだと考えているようだ。
コロケーション
〈組織〉が延ばす 必須項
議会、組織委員会、選挙管理委員会、日本医師会、道路公団、USJ、日本航空
〈時間・期間〉を延ばす 必須項
門限、返済期間、契約期間、保証期間、寿命、生存年数、稼働年数、定年、待ち時間、周期、滞在日程、任期
もし男方に支払う力がないと支払い期間を延ばすことはできる。 (鳥越憲三郎,若林弘子著 『弥生文化の源流考』, 1998, 382) コーパス
〈時期〉まで延ばす
12時、10月中旬、3月末、年度末、5年間、来年、来年の秋、最長10年、95歳
〈理由・原因〉で延ばす
台風の影響、会社の都合、経済的な理由、クライアントの事情、震災の関係、病気、政治的な理由、不景気、やむを得ない理由
〈様態〉延ばす
もっと、かなり、さらに、少し、徐々に、できるだけ、ずいぶん、やや、何とか、とりあえず
非共起例
〈時間〉を延ばす
一日の時間を延ばす
一日の労働時間を延ばす
一日24時間、一年365日などのように、すでに決まっている時間については用いられない。
解説
語義1は「ゴムやスプリング、紐(具体物)などを長くする」ということを表すが、この「のばす」は「時間や期間(抽象物)などを長くする」ということを表す。ただし、いずれも「ある対象物を長くする」という点では共通している。つまり、語義8は語義1との抽象的な類似性に基づいて意味が成り立っていると考えられる。
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9 《時間の延期》
他動詞 中級 ★★ 表記のばす、延ばす、伸ばす
人や組織が時間・日時などを遅らせる。
類義語延期する、遅らす
文型
〈人・組織〉が〈時間・日時〉を延ばす
文法
受身 ○ 尊敬 △ 使役 ○ 意思 ○ 継続 × 結果・完了 ○
例文
連続して聞く
野菜の出荷時期を延ばす
次の審議会まで結論を延ばすこととなった。
やむを得ない事情で、帰国を延ばすことにした。
管制塔は、濃霧のため飛行機の出発時間を2時間ほど延ばした
与党は臨時国会の開会を意図的に延ばしている。
彼は仕事を理由に結婚を延ばそうとしている。
宿泊を明後日まで延ばすことはできますか?
コロケーション
〈組織〉が延ばす 必須項
会社、農協、東邦ガス、文科省、議会、組織委員会、選挙管理委員会、気象庁、金融庁、財務省、道路公団、日本航空
〈時間・日時〉を延ばす 必須項
出荷時期、支給時期、決済日、締切、結婚、結論、出発、開会、発送日、開始時刻、発売予定、入居時期、帰国
団地への入居は結婚をしていることが条件であったから、住宅が見つからないために結婚を延ばしていた者が抽選に当たったから急いで入籍するという例もみられた。 (袖井孝子著 『日本の住まい変わる家族』, 2002, 365) コーパス
〈理由・原因〉で延ばす
渋滞、大雪、地震の影響、強風、台風、暖冬の影響、人身事故、故障が原因、やむを得ない事情、機体のトラブル
〈様態〉延ばす
だいぶ、かなり、ずるずる、どんどん、少し、やや、相当、さらに、多少、ずいぶん、予想以上に、5時間、1週間ほど
非共起例
〈日時〉を延ばす
誕生日を延ばす
誕生日パーティーを1週間延ばす
誕生日、結婚記念日などのように、すでに決まっている日時については用いられない。
解説
語義8は「時間や期間などを長くする」ということを表すが、この「のばす」は「時間や日時などを遅らせる」ということを表す。一般的に、ある出来事の開始までの時間を長くする(延長する)と、必然的に(その開始時間が)遅くなると考えられる。つまり、語義8と語義9は原因と結果の関係にあると考えられる。
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10 《相手の制圧》
他動詞 上級 ★ 表記のばす、伸ばす、延ばす
人が相手を殴るなどして、動けなくする。
類義語倒す、制圧する
文型
〈人〉が〈相手〉を伸ばす
文法
受身 ○ 尊敬 × 使役 ○ 意思 ○ 継続 △ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
相手を一発で伸ばした
対戦相手の強烈なパンチで完全に伸ばされてしまった。
元ボクサーに一発で伸ばされてしまった。
ひとりで3人の男を一瞬で伸ばした
試合開始早々、ドロップキックを食らって伸ばされてしまった。
小柄な女性が巨漢を一瞬で伸ばす動画がウェブ上で話題になっている。
コロケーション
〈相手〉を伸ばす 必須項
相手、対戦相手、敵、強盗、痴漢
〈様態〉伸ばす
一発で、簡単に、あっけなく、あっさり、思い切り、あっという間に
解説
語義10は、語義1と異なり、のばす対象となるのは「人間」である。また、相手に対して、引っ張ったり継ぎ足したりするというわけではなく、殴るなどして「動けなくする」ということを表す。一般的に、相手を殴り倒し動けなくすると、体がぐったりして長くのびた状態になる場合が多いと考えられる。つまり、語義1と語義10の間には「ある対象物に何らかの力を加えて、長くなった状態にする」という類似性が認められる。
誤用解説
肉体的な打撃や衝撃などを、相手に直接与える場合に用いられる。
テニスでライバルを伸ばした
テニスでライバルを倒した
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11 《音声の伸張》
他動詞 上級 ★ 表記のばす、伸ばす、延ばす
(主に声楽・音響で)人が音・声を長くする。
類義語響かす
文型
〈人〉が〈音・声〉を伸ばす
文法
受身 △ 尊敬 △ 使役 △ 意思 ○ 継続 ○ 結果・完了 ×
例文
連続して聞く
同じ音程で音を伸ばす
拗音を伸ばして発音してください。
カラオケでいつも彼は、音を伸ばすのが多い曲を選ぶ。
語尾を伸ばして話す若者が増えた。
のど自慢に出るために、高音を伸ばすトレーニングをしています。
この部分を歌うときは、低音をしっかり伸ばして歌うのがポイントです。
コロケーション
〈音・声〉を伸ばす 必須項
音、声、低音、高音、効果音、ア列音
歌い手は掛け声の力を借りてを伸ばし、ネイ奏者は命を神に捧げ、呼吸の限界に挑んで来たのだ。 (若林忠宏著 『スロー・ミュージックで行こう』, 2005, 762) コーパス
〈手段・方法・道具〉で伸ばす
ボイストレーニング、ユニークな方法、同じ音程、ノンビブラート、ロングトーン
〈様態〉伸ばす
しっかり、一気に、長く、思い切り、ちゃんと、きちんと、まっすぐ、目一杯、十分に
非共起例
〈音〉を伸ばす
騒音を伸ばす
騒音を立てる[出す]
鍵盤の音を伸ばす
基本的に、声楽や音響の場合に用いられる。
解説
語義1は「ゴムやスプリング、紐(具体物)などを長くする」ということを表すが、この「のばす」は「音や声(抽象物)を長くする」ということを表す。ただし、いずれも「ある対象物を長くする」という点では共通している。つまり、語義11は語義1との抽象的な類似性に基づいて意味が成り立っていると考えられる。
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慣用表現
足を伸ばす慣用句
ある地点より、さらに遠くまで移動する。
出張で大阪に行ったついでに、京都まで足を伸ばして観光してきた。
そして、せっかく盛岡まできたのですから、帰りには市内まで足を延ばして、本場盛岡冷麺を食べていってください。(Yahoo!知恵袋, 2005, 国内)コーパス
手を伸ばす慣用句
事業などの範囲を拡大する。
彼は飲食店や宿泊事業にまで手を伸ばした
面白いのは、学生が過激思想に走りがちなのは学生生活に経済上の不満が多いからだと分析し、学生課の活動の一環として、就職相談、アルバイト斡旋、奨学金紹介、貸間下宿紹介、学資貸与、貧窮学生の授業料免除など、それまで大学の事務当局がやることは考えられなかった学生生活支援のさまざまに手をのばすようになったことだ。(文藝春秋, 2001, 一般)コーパス
鼻の下を伸ばす慣用句
(主に)男性が好みの女性に対して甘い態度を取る。
彼は女性に優しくされると、つい鼻の下を伸ばしてしまう
羽を伸ばす慣用句
束縛された状態から開放されて、のびのびと自由にふるまう。
仕事が忙しいのはいいことですが、たまには羽を伸ばすことも必要ですよ。
有給休暇を溜めこんでおいたおかげとはいえ、この忙しい時期にひとりだけ羽を伸ばすことに若干の肩身の狭さを覚えずにはいられない。 (松岡圭祐著 『千里眼マジシャンの少女』, 2004, 913)コーパス
執筆:李 澤熊 校閲:籾山 洋介