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春色梅児与美しゅんしょくうめごよみ

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巻二

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春色梅児与美 巻二

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凡例
1.本文の行移りは原本にしたがった。
2.頁移りは、その丁の表および裏の冒頭において、丁数・表裏を括弧書きで示した。また、挿絵の丁には$を付した。
3.仮名は現行の平仮名・片仮名を用いた。
4.仮名のうち、平仮名・片仮名の区別の困難なものは、現行の平仮名に統一した。ただし、形容詞・副詞・感動詞・終助詞・促音・撥音・長音・引用のト等に用いられる片仮名については、原表記で示した場合がある。 〔例〕安イ、モシ、「ハイそれは」ト、意気だヨ、面白くツて、死ンで、それじやア
5.漢字は現行の字体によることを原則としたが、次のものについては原表記に近似の字体を用い、区別した。「云/言」「开/其」「㒵/貌」「匕/匙」「吊/弔」「咡/囁」「哥/歌」「壳/殻」「帒/袋」「无/無」「楳/梅」「皈/帰」「艸/草」「計/斗」「弐/二」「餘/余」
6.繰り返し符号は次のように統一した。ただし、漢字1文字の繰り返しは原本の表記にしたがい、「〻」と「々」を区別して示した。
 平仮名1文字の繰り返し 〔例〕またゝく、たゞ
 片仮名1文字の繰り返し 〔例〕アヽ
 複数文字の繰り返し 〔例〕つら〳〵、ひと〴〵
7.「さ」「つ」「ツ」に付く半濁点符は「さ゜」「つ゜」「ツ゜」として示した。
8.Unicodeで表現できない文字は〓を用いた。
9.句点は原本の位置に付すことを原則としたが、文末に補った場合がある。
10.合字は〔 〕で囲んで示した。 〔例〕殊{〔こと〕}に、なに〔ごと〕、かねて〔より〕
11.傍記・振り仮名は{ }で囲んで示した。 〔例〕人生{じんせい}
12.左側の傍記・振り仮名の場合は、冒頭に#を付けた。 〔例〕めへにち{#毎日}
13.傍記・振り仮名が付く位置の紛らわしい場合、文字列の始まりに|を付けた。 〔例〕十六|歳{さい}
14.原本に会話を示す鉤括弧が付いていない場合も、これを補い示した。また庵点は〽で示した。
15.原本にある話者名は【 】で示した。 〔例〕【はる】
16.割注・角書および長音符「引」「合」は[ ]で囲んで示した。
17.不明字は■で示した。
18.原本の表記に関する注記は*で行末に記入した。 〔例〕〓{たど}りて*〓は「漂+りっとう」
19.花押は〈花押〉、印は〈印〉として示した。
20.画中文字の開始位置に〈画中〉、広告の開始位置に〈広告〉と記入した。

本文の修正
1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。
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(1オ)
春色{しゆんしよく}梅{うめ}こよ美巻之二
江戸 狂訓亭主人作
第三齣
九年{くねん}なに苦界{くがい}十年{じうねん}花衣{はなごろも}。さとつて見{み}れば面白{おもしろ}き。色{いろ}の
浮世{うきよ}の其{その}中{なか}に。色{いろ}を集{つど}へし一廓{ひとくるわ}。盛{さかり}久{ひさ}しきこの里{さと}に。
唐琴{から〔こと〕}屋とか聞{きこ}えしは。いと賑{にぎ}はしき家{いへ}なりしが。主{あるし}夫
婦{ふうふ}死去{みまがり}て。血筋{ちすじ}の娘{むすめ}阿長{おてう}とて。今年{ことし}十五の形容艶{きりやうよく}
されと両親{ふたおや}あらざれば。鬼兵衛{きへゑ}といへる後見{こうけん}が。心{こゝろ}よか

(1ウ)
らぬ動止{ふるまひ}も。親類{しんるい}縁者{えんじや}あらぬゆゑ。只{たゝ}本店{ほんだな}の持{もち}同前{どうぜん}。
その本家{ほんけ}へは彼{かの}鬼{き}兵衛が。如才{ぢよさい}なく機嫌{きげん}をとり。なに
事{〔こと〕}も深切{しんせつ}めかして勤{つと}めおき。今{いま}は唐琴{から〔こと〕}屋のあるじの
ごとく万事{ばんじ}に我意{がゐ}を行{おこな}へど。首{あたま}をおさゆる人もなく。
女郎{ぢよらう}芸者{げいしや}に発明{はつめい}なる者{もの}はあれども。給金{きうきん}にかはれし
身{み}ゆゑ。後見{こうけん}も主人{しゆじん}に同{おな}じ鬼{き}兵衛には。流石{さすが}たてつく
者{もの}もなく只{たゞ}先主人{せんしゆじん}のありし日を。言{いひ}出{いだ}してはつぶやく
のみまた詮方{せんかた}もなかりしとぞ。斯{かく}て此{この}家{や}のおゐらんに

(2オ)
此糸{このいと}と称{よぶ}お職{しよく}あり。年まだ若{わか}き身{み}ながらも。万{よろづ}に付{つけ}て
抜目{ぬけめ}なく。内外{うちと}の者{もの}の思{おも}はくは。いふも更{さら}なり。茶{ちや}屋|船宿{ふなやど}。
お針{はり}が三の和{わ}の噂{うはさ}にも。賞{ほめ}る花美好{はでずき}さればとて。はす
はにあらぬしとやかさは〓{これ}にもはぢぬとり廻{まは}し。艶*〓は記号
色{きりやう}は里{さと}の指折{ゆびおり}にて。殊{〔こと〕}にやさしき真情{わけ}しりなり。
頃{ころ}しも春{はる}の梅{うめ}ごよみ。れんじに開{ひら}く鉢植{はちうへ}の。花{はな}の香{か}
かほる風{かぜ}寒{さむ}み身{み}に染{しむ}紋日{もんび}物日{ものび}さへ春{はる}は殊更{〔こと〕さら}やるせ
なき。今日{けふ}ぞ跡着{あとぎ}の着染初{きそはじめ}と。賑{にぎわ}ふ時{とき}も巳{み}の刻{こく}を。過{すぎ}て

(2ウ)
まつたく起{おき}揃{そろ}ふ。軒{のき}に呼{よび}こむ朝日紅{あさひべに}。色{いろ}の街{ちまた}ぞゆかし
けれ。爰{こゝ}におゐらん此糸{このいと}が。座敷{ざしき}のうちにひそ〳〵と。
咡{さゝや}くものは内芸者{うちげいしや}。彼{かの}米{よね}八と称{いふ}ものなり。【よね】「モシヱ
おゐらん私{わち}きやアもふ。おまはんのことは死{しん}てもわすれ
やアしませんヨ。」ト[なきながらいふ]【此いと】「アレサ此{この}子{こ}はヨ。そんなに泣{ない}て
ひよつとたれぞ来{く}るとわりいヨ。今{いま}みんな湯{ゆ}に徃{いつ}たから
早{はや}く顔{かほ}を直{なを}して下{した}へ行{いき}なヨ。何{なに}もあんじる事{こと}はねへヨ。
そして他{ひと}にさとられなさんなヨ。」【よね】「寔{ま〔こと〕}に〳〵ありがたふ。

(3オ)
しかし藤{とう}さんが少{すこ}しの内も他人{ひと}にいはれさつしやるのが
私{わち}きのよふなもので。寔{ま〔こと〕}に面目{めんぼく}なふございますねへ。」【此いと】「ナニサ
それもあのとふりの気性{きしやう}の藤さんだから。見{み}かけて
頼{たの}んだわけだもの。それをいとつてゐちやア出来{でき}ねへ
世話{せわ}だものを。能{いゝ}はなヨ。マア〳〵おいらに任{まか}しておきなヨ。
何{なん}にしても今夜{こんや}また。文{ふみ}をやつて呼{よび}たいもんだが。」ト
[はなしのうちらうかをしづかにばた〳〵〳〵]【よね】「ヲヤお長{ちやう}さんの足音{あしおと}じやアありま
せんかねへ。」【此いと】「そふサ早{はや}く下へ徃{いき}なゝ。わりい顔{かほ}をしな

$(3ウ)
唐琴屋{から〔こと〕や}の
全盛{ぜんせい}
此糸{このいと}
米八{よねはち}

あはれむ

さんなヨ。」ト[いふ所へしやうじをそつとあけながら此家の娘お長]*以下本文
【長】「おゐらんお座敷{ざしき}かへ。」ト[つぎのまへ
はいる]【此】「アヽざしきざんすヨお長さん
かへ。」【長】「ハイ。」ト[立てゐる]【此】「本間{ほんま}へお這{は}入なんしなへ。」ト[いひながらかほのいろをかへよね八に
むかひ]「これサ米{よね}八さ゜ん今の通{とふ}りだ
がら。どふぞお気{き}の毒{どく}ながら*「だがら」の濁点ママ
そふ思{おも}つておくんなんし。」ト[けんどんに

$(4オ)
あらはるゝ
もとは
なじみの
園{その}の梅{うめ}
かぎつけられし
袖{そで}のうつり香{が}
八橋舎主人

ふくれていふによね八も心う゛なづきこれもけんどんに]【よね】「アレサ*以下本文、「う゛なづき」の濁点ママ
私{わたし}のしたこつて有{あり}ます物を。
ずいぶんそふ思{おも}ひますのサ。」ト
[いひながらついとたつてらうかへ出てゆく。引ちがへてお長は本間へはいる]【此】「口
のへらねへ芸者{げいしや}だヨウ。」ト[くやしそふに
いふ]【長】「おゐらんなんでござい
ますヱ。」【此】「ナアニちつとしたこツ
て。」【長】「おゐらんが腹{はら}をおたち

(4ウ)
なさることだからよく〳〵なことでございませう。」【此】「何{なに}
外{ほか}の〔こと〕ならわちきやアもふ。成{なる}ツたけ他{ひと}と顔{かほ}をあかめ
合{やう}まいと思{おも}つて。芸者{げいしや}だらふが新造衆{しんぞし}だらふが。余{よつ}
ぽど気{き}をつけてやりまはアな。いかなこツてもあきれ
たぢやアおざんせんか。」【長】「どふしたんでございますヱ。」【此】「私{わち}
きをばまるでこけにして居{ゐ}るんでざんさアな。」[お長はとしはもゆかざれ
どおさなきときよりそのなかにすめばそれぞとすいりやうし]【長】「米{よね}八さ゜んは日|頃{ごろ}男ぎらひだ
の堅{かた}いのと。他{ひと}がいつてゐるじやアありませんかへ。」【此】「男

(5オ)
ぎらひだか。男好{おとこすき}だか知{し}れやアしませんは。私{わち}きやア
また先{さき}の出{で}よふで是{これ}ばつかりは打捨{うつちやつ}て置{おき}やアしま
せんは。彼奴{あいつ}を出{だ}すか私{わち}きが出{で}るか。二ツ一ツ方{かた}をつけな
くつちやア悔{くや}しうざんす。鬼{き}兵衛どんが言{いふ}事{〔こと〕}を聞{きい}て呉{くれ}
ねへと。内所{ねへせう}へ長座{すわつ}てやりますヨ。」ト[はらたゝしくいふ。是{これ}すなわちよね八といひあはして。
このおゐらんの客人{きやくじん}藤{とう}といふものとよね八と。いろをせしおもむきをこしらへそれを此糸がやかましくいひ出して。よね八をやす〳〵とくらがへさせ
かの中のがうなる丹{たん}次郎は。もとこのいゑのあとをもとるべきものなりしを。両親なくなりてのち。借金おほく。しんしやうたちがたきところ。またよふしにやりてまづか
とくもなきほどなればとて。かり方{かた}をおうけ。鬼兵へといへるが後見{うしろみ}して。はゞをなし丹次郎はひかげの身{み}となり。こんきうのやうすをきゝ気のどくにおもひ。

(5ウ)
このおゐらんが心は。古主{こしゆう}を米{よね}八にみつがせんとおもふ。義理{ぎり}となさけのこんたんにて。いとたのもしき手くだなり。お長はそれまでとはしらず。わがいひなづけせし丹
次郎と米八と。わけのありし〔こと〕をかねてさつし。すこしはやきもち心もあればよね八をにくみいゝきみとおもふゆゑ]【長】「ヲヤそふでご
ざいますかへ。知{し}れないもんでありますね。そりやアそふ
と話{はなし}にうかれて。薬{くすり}をあげもふさなんだ。おゐらん湯
呑{ゆのみ}へつぎませうかへ。」ト[くすりをつぎしたへおいて]【長】「おゐらんへ。
今の
よふにお言{いひ}だがね。私{わたし}はおまへが内所{ないしよ}へすわつたり
何{なに}かすると寔{ま〔こと〕}にこまるから。どふぞ左様{さう}しなひで
世話{せわ}をしておくんなさいヨ。ひよつとおまへがそふいふこと

(6オ)
だと。私{わた}しやア心{こゝろ}ぼそひヨ。」ト[ほろりとこぼすなみだのしづく。両{ふた}おやこの世にあるならば家にかゝへし
奉公人{ほうこう}なに手をさげてたのまれう。およそおさなきおりからにおやにはなれてそだつほど。かなしきものゝあるべきかと。わかりし心におゐらんは。ひと
しほふびんとなみだぐみ]【此】「ほんにおまはんはかわいそふだね。斯{かう}して
居{ゐ}さしつてもおかみさんが達者{たつしや}な時{とき}の姿{すがた}はちつとも
なし。禿衆{かむろし}同前{どうぜん}の形{なり}をして此{この}様{よう}に二階{にかい}へ薬{くすり}を持{もつ}て
来{き}さつしやるのを見{み}ても涙{なみだ}のたねでおツす。」ト○お長
を膝{ひざ}に引寄{ひきよせ}て。思{おも}はず涙{なみだ}にむせかへる。真{ま〔こと〕}の歎{なげ}きは傾
城{けいせい}の。やさしき鑑{かゞみ}となりぬべし。作者{さくしや}此{この}草稿{さうかう}しるす

(6ウ)
時{とき}しも。菊{きく}月|初{はじめ}の七日の夜{よ}。丑満{うしみつ}の頃{ころ}になん。はじめて
厂{かり}の告{つぐ}るを聞{きゝ}て
かくばかりやさしき君{きみ}がたまくらに
ことづてやらんはつ厂{かり}のふみ。
これはさておき彼{かの}お長{ちやう}は。此糸{このいと}がいとやさしき言葉{〔こと〕ば}に。
わアつト[こゑをたて身をふるわせしがかほをあげ]【長】「おゐらんヱおまへさんがそん
なに言{いつ}てお呉{くん}なさると私{わたし}はモウ。母人{おつかさん}でゞもあるよふに
思{おも}はれてかなしいヨ。」ト[またとりすがるひざのうへ肩{かた}ぬひあげのみはゞさへせまき娘のこゝろねを。さつして

(7オ)
みれば此いとがなほいとしさもいやまさり]【此】「わたしも何{なん}の因果{いんぐわ}だか一人{ひとり}ならず
二人{ふたり}まで。倦{あく}まで世話{せわ}をしてやらずは。」【長】「ヱ一人ならず
二人とはヱ。」【此】「ヱ何{なに}サおまへさんも若旦那{わかだんな}をもサ。」ト[いひまぎ
らして泪をふき]「そして此{この}ごろは下{した}のは[下のとはこうけんの鬼兵へがことなり]機嫌{きげん}がよふ
おざんすかへ。」【長】「ナニ私{わた}しやア寔{ま〔こと〕}にこまりますヨ。いふ
ことをきくのは否{いや}。聞{きか}ないければあの通{とふ}り。いじめて朝
晩{あさばん}やかましく。マアどふしたらよからふねへ。それにつけ
てもお兄{あに}イさんは[これ丹次郎が〔こと〕にして心におつとゝおもへどもいつしよにそだち〔こと〕にはづかしければ兄といへり]何所{どこ}に

$(7ウ)
このいと
おてう
鶯{うくひす}の
月日{つきひ}かぞへて
飛梅{とびうめ}の
こゝろつくしを
逢{あふ}ていはばや
八橋舎

(8オ)
どふして御在{おいで}なさるか。こんなに私{わたし}がつらい思{おも}ひをするとは
ちつとも知{し}らすにおいでだらふ。」ト[はをくひしばるくやしさをなみだのほかにすべもなし]
【此】「ナニサお案事{あんし}でない。どふかして法{ほう}をかいて。」ト[言{いひ}かけてなほ
小ごゑになり]爰{こゝ}を身抜{みぬけ}をさせもふす。手段{てだて}もまたありま
せうはネ。かならずきな〳〵思{おも}はずに。ずいぶん今{いま}の内は
機嫌{きげん}よく用{よう}を足{たし}なんしヨ。座敷{ざしき}のものが今|湯{ゆ}から
上{あが}つて来{く}るとわるふざんすから。早{はや}く下へ。徃{いき}なんしヨ。
かならず案事{あんじ}なんすなヱ。」【長】「ハイおありがたふ夫{それ}じやア

(8ウ)
下へ徃{いき}ますヨ。」ト[たつて次の間へ出る。らうかをばた〳〵かけくるかむろしやうじをあけて]【禿】「ヲヤお
長{ちやう}さん今下。の方{はう}でたいそふ呼{よん}でいますヨ。はやく裏{うら}
階子{はしご}から下{を}りてお出{いで}なまし。アノ意地悪{いぢわる}根性{こんぜう}がお
そろしい㒵{かほ}をしておまはんを呼{よび}ますは。顔{つら}が憎{にく}いヨ。」【此】「し
げりやなんだ其{その}口は。お長{ちやう}さん早{はや}く下へ徃{いき}なんしヨ。何{なに}も
こわい〔こと〕はおざんせんはネ。」ト[いへどお長はおど〳〵とけらいにひとしき鬼兵へをおそれこわがるふせいのいぢら
しく。そばで見るめも口おしけれ]「しげりや一連{いつしよ}に付{つい}て徃{いつ}て見{み}て来{き}や。小
言{こ〔ごと〕}が出{で}るとわりいのふ。」【長】「おゐらんしかられたら来{き}て

(9オ)
お呉{くん}なんしヨ。」ト[おろ〳〵泪にしたへゆく]【此】「かわいそふにいちらしい子{こ}だ
のふ。ほんに米{よね}八さんもあの子{こ}も。どつちをどふともいはれ
ねへから二人{ふたり}ともにこんなに苦労{くらう}してやるといふのも。何{なん}
の因縁{ゐんえん}やら。」ト[ひとり〔ごと〕をいひながらほつとためいきをつく。おりから番しんしやうじをあけて]【ばんしん】「ながい
湯{ゆ}ざましたろふネ。」[此糸はにつこりわらひながら]【此】「アイサ相応{そうおふ}にながふさん
したネ。おまはん今あがつて来{く}るとき。下{した}でなんぞまた小
言{こ〔ごと〕}が出{で}やアしましなんだかへ。」【ばん】「イヽヱ気{き}が付{つき}ませんヨ。」ト
[いふところへ禿かけて来て]【禿】「アノウおゐらんヱ。又{また}ネあの意地{いぢ}わるがおこり

(9ウ)
ましたから。早{はや}くいつておあげなましヱ。」【此】「そふかどふもこまる
ヨ。」ト[うはそうりをはきらうかへいでる]【ばん】「またお長{ちやう}さんのことさますか。かわい
そふにさぞくやしからふ。」【此】「それだから私{わちき}もちつとは力{ちから}
になつてやるんざんすはネ。」ト[いでゝゆくばんしんはかんざしでゆあがりのつむりをかきながら]【ばん】「し
げりや。書附{かきつけ}をとつて来{き}や。そしての夕阝{ゆふべ}書{かい}て置{おか}しツ
た。藤{とう}さんの文{ふみ}を巴屋{ともへや}へちよつと持{もつ}て徃{いつ}て来{き}やヨ。そ
して金曽木{かなそぎ}の柏{かしは}屋が来{き}たら。翁草{おきなぐさ}の後篇{かうへん}と。拾遺{しうゐ}
の玉{たま}川を持{もつ}て来{き}なと。そふいふのだヨ。ドレおゐらんの来{き}

(10オ)
さツしやらねへうち。」ト[いひながら茶ほうじを出して茶をいれる]
作者{さくしや}曰{いはく}この草紙{さうし}は米{よね}八お長{ちやう}等{ら}が人情{にんぜう}を述{のぶ}るを専{もつは}らと
すれば。青楼{せいらう}の穿{うがち}を記{しる}さず。元来{もとより}予{おのれ}は妓院{ぎいん}に疎{うと}し。依{よつ}て
唯{たゞ}そのおもむきを略{りやく}すのみ。必{かならず}しも洒落本{しやれぼん}とおなじく
評{ひやう}し給ふ〔こと〕なかれ。且{かつ}筆{ふで}のついでに申す。此{この}一条{ひとくだり}お長{ちやう}が
苦心{くしん}のくやしきを見て。父母{ちゝはゝ}のことを大事になし。必{かなら}ず
しも仰{おふせ}にそむき給ふな。豈{あに}世{よ}の中{なか}只{たゞ}此{この}お長{ちやう}に限{かぎ}らんや。
父母{ちゝはゝ}にはやくはなれし人は。他人{たにん}の為{ため}に恥{はぢ}しめられ。いぢめ

$(10ウ)
我{わが}恋{こひ}は
旅{たび}の行手{ゆくて}の
なが縄{なは}手{て}
はてしなき
てふ
もの思ふ
かな
〈画中〉金沢道

(11オ)
らるゝことこれにまされる人もあらん。成長{ひとゝなる}まで父母
の此{この}世{よ}に在{います}ぞ千金{ちゝのこかね}にもましていとありがたき〔こと〕と尊{たふと}
み給へかし。
あるときはありのすさみにつらかりし
なくてぞいまは人{ひと}のこひしき。
第四齣
[雲介{くもすけ}ども四五人よつで駕を取巻{とりまき}]【くも】「サア〳〵お娘{むす}や出{で}なせへ〳〵。」[かごのうちよりむすめのこゑにて]
【娘】「ハイ〳〵大きに御苦労{ごくらう}でありがたふ。そんなら爰{こゝ}が金

(11ウ)
沢{かなざわ}の。」【くも】「サアその金沢{かなざわ}へはまだ一里。金沢よりか金に
なる。おめへの艶色{きりやう}に棒組{ぼうぐみ}も。仲間{なかま}の奴等{やつら}も息杖{いきづえ}に。気{き}
をもたせたる永丁場{ながてうば}。息{いき}つぎなしにいそひだは。」【棒ぐみ】「みな
いひあわした信切{しんせつ}仲間{なかま}。さいわひ此所{こゝ}は同楽寺{どうらくじ}といふ。
無住{むぢう}のあき寺{でら}。お娘{むすめ}を正坐{しやうざ}に取{とり}まいて。念仏講{ねんぶつかう}をはじ
めるつもり。何{なん}と憎{にく}くもあるめへが。」【くも】「サア〳〵お駕籠{かご}を
出{で}なせへ〳〵。」ト[かごのすだれをはねあげられおろ〳〵したるひとりのむすめ]【娘】「ヱそんなら
こゝはお寺{てら}じやとへ。そしてマアこんな淋{さみ}しい墓原{はかはら}で念仏{ねんぶつ}

(12オ)
誰{たれ}とやらお言{いひ}だけれど。私{わたし}が坊{ぼん}さんではあるまいし。どふ
して正坐{せうざ}にお念仏{ねんぶつ}が。」【くも】「となへられぬといふ〔こと〕か。さツても
野暮{やぼ}なおぼこ娘{むすめ}。此{この}節{せつ}そんな世間{せけん}見{み}ずわかりのわりい
子{こ}があるものか。みんながおめへを相手{あいて}にして。百|万遍{まんべん}を
勤{つとめ}るのだ。サア〳〵早く出なせへ〳〵。」ト引出されてなき
声{こゑ}に【娘】「それでもわたしはこのくらがり。こわくつて〳〵
なりません。百万べんをなさるなら。私を金沢{かなざわ}の親類{しんるい}
へ送{おく}つて跡{あと}でゆるりツと。」【棒ぐみ】「どふで直{すなほ}に抱{だか}れて寝{ね}よふ

(12ウ)
といはれるよふな好男{いろおとこ}は。一人も見へねへこの仲間{なかま}。」【くも】「さふ
よ〳〵。いづれにしても泣{なか}せる仕業{し〔ごと〕}。邪广{じやま}のねへうち少{ちつと}も
はやく。」【棒ぐみ】「泣{なか}せるならば本堂へ。サア天井持{てんぜうもち}にかついだ〳〵。」
ト四五人よつてぶる〳〵と。ふるへる娘の手をとれば【娘】「アアレ
どふぞ堪忍{かんにん}して下さいまし。年もゆかいで高慢{かうまん}なと。
なを憎{にく}しみもありませふが。私はいゝなづけのお方{かた}の為{ため}
に神さんへ願{ぐわん}をかけ。弁天さまへ立ものして。男の手に
もさはるまひ三年の中{うち}は恋{こひ}しひ人にめくり逢{あつ}ても

(13オ)
一所{ひととこ}へは寄{より}ますまいからどふぞして尋{たつ}ねあはしてくだ
さいましと。誓{ちか}ひをたてゝ深{ふか}いねがひ。どふやら私{わたし}を手
ごめにして。なぐさみでもなさるやふす。どふぞ後生{ごしやう}で
ござゐます。堪忍{かんにん}してお呉{くん}なさいヨ。」【くも】「なるほどなア
そふ聞{きい}て見{み}りやアかわいそふに。こまツちやくれた姿{なり}
をしても。まだやう〳〵に十四か十五。花{はな}も咲{さい}たかさかねへ
生娘{きむすめ}。しかしそれだけなを執心{しうしん}。」【●】「それ〳〵宿場{しゆくば}〳〵の
飯盛{めしもり}さへ。杓子{しやくし}あたりのわりい此方等{こちとら}此様{こん}な〔こと〕でも

(13ウ)
ねへ日には。無塩{ぶえん}のお娘{むす}の手{て}いらずを。」【▲】「賞翫{しやうくはん}などゝは
此{この}すゑにまたあらふとも思{おも}はれねへ。サア〳〵本堂{ほんだう}へ引{ひつ}
ぱれ〳〵。」ト。たちかゝられて身{み}を縮{ちゞ}め。歯{は}の根{ね}も合{あは}ぬ
ふるへ声{ごゑ}。【娘】「モシ〳〵どふそ此{この}中{うち}てきのいゝお方{かた}があるな
らは。あやまつてお呉{くん}なさいヨ。手を合{あわ}して拝{おが}みます。
アレヨウ[引]。たれそ来{き}てお呉{くん}なさいましヨウ[引]。」泪{なみだ}は
顔{かほ}に玉{たま}の露{つゆ}。折{おり}から朧{おぼろ}の雲{くも}はれて。明光〻{めいくわう〳〵}と照{てる}月に
見わたす方{かた}は遥〻{はる〴〵}と。目{め}もとゞかざる田甫道{たんぼみち}里{さと}を

(14オ)
はなれし荒寺{あれてら}の。なを物{もの}すごくおぼへけり。【●】「これサ〳〵
お娘{むす}やおがんでよけりやア此方{こつち}がおがむ。どふで叶{かな}はぬ
此{この}原中{はらなか}。自由{じゆう}になつて少{すこ}しのうち。抱{だか}れて寝{ね}れば
直{ぢき}にすむ。」【▲】「そふヨ〳〵まんざらわりい〔こと〕でもねへ。」ト捕{とら}
ゆる袖{そで}をふり払{はら}ひ。前後{ぜんご}左右{さゆう}へ迯{にげ}ながら【娘】「アレヨウ
どふぞ堪忍{かんにん}してお呉{くん}なさいヨウ。そのかはりにわたしが
おゐらんにもらツて来{き}た。お金{かね}が五両ありますから。是{これ}
と私{わたし}が此|着物{きもの}も。みんなおまへさんたちに上ますから。

(14ウ)
おゐいらんに貰{もら}つた紅鹿子{ひがのこ}の此{この}肌着{はだぎ}。これをひとつ
もらへばよいから。跡{あと}はみんなおまへたちのものにして。
どふぞ一所{いつしよ}に寝{ね}る〔こと〕はアレ〳〵〳〵後生{ごしやう}だから。」ト。迯{に}げ廻{まは}
るを。追取{おつとり}まはして悪漢{わるもの}ども。手取{てどり}足取{あしとり}引{ひき}かつぎ軒{のき}
もる月の本堂{ほんどう}へ。遠慮{えんりよ}会釈{えしやく}もあらくれ男{おとこ}。どよめき
わたつて連立{つれだち}行{ゆく}。
そも〳〵此{この}娘{むすめ}は何{なに}ものぞ。これ唐琴{から〔こと〕}屋の娘{むすめ}お長{てう}なり。
いかゞして此所{こゝ}に来{きた}りしとたづぬれば。彼{かの}おゐらん

(15オ)
此糸{このいと}がはからひなり。そはいかにとなれば後見{こうけん}の鬼
兵衛{きへゑ}多{おほ}くの借金{しやくきん}を引請{ひきうけ}唐琴{からこと}屋の家{いへ}を相続{さうぞく}
なすを恩{おん}にかけ。お長{てう}に迫{せま}りていやらしく難
義{なんぎ}させ。所詮{しよせん}おさまらざるを推量{すいりやう}して。お長{てう}が
艱難辛苦{かんなんしんく}を退{のが}れさせんがため。以前{いぜん}唐琴屋の
番頭{ばんとう}なりし忠兵衛{ちうべゑ}といふもの。金沢{かなざわ}の商人{あきうど}となり
居{ゐ}る由{よし}を知{し}り。殊{〔こと〕}に其{その}身{み}の親元{おやもと}も金沢なれば
両方{りやうほう}へ文{ふみ}を添{そへ}て祖師{そし}さまへ参詣{さんけい}の時{とき}を得{え}て途{みち}

$(15ウ)
おてう

$(16オ)
香{か}は袖{そで}に
有けるものを
梅{うめ}が枝{え}に
さし出{だ}す
手もと
はらふ
春風{はるかぜ}
八橋舎調

(16ウ)
より直{すぐ}に落{おと}せしなり。これしかしながら途中{とちう}の
用心{ようじん}まで心づかざりしは。発明{はつめい}なれども廓育{さとそだち}
わづかなれども旅{たび}といふに心のとゞかざるは流石{さすが}
あどけなき傾城{けいせい}気質{かたぎ}。前後{あとさき}わからぬお長{てう}が
娘心{むすめごゝろ}と察{さつ}して。ふかくとがめ給ふ〔こと〕なかれ。
はや告{つげ}渡{わた}る初夜{しよや}の鐘{かね}遠里{とふさと}小野{をの}にこだましていと物
淋{ものさみ}しき古寺{ふるてら}へ。かつぎこまれし彼{かの}お長{てう}。鷲{わし}にとられし
小鳥{ことり}にもなを増{まさ}りたる哀{あは}れさも。情{なさけ}を知{し}らぬ雲介{くもすけ}

(17オ)
ども。寺{てら}の破戸{やれど}を引{ひき}はなち。お長{てう}を横{よこ}に押倒{おしたふ}し【●▲】「サア〳〵
まんがちをするな鬮取{くじどり}だぞ〳〵。」ト。既{すで}にあやうき地獄{ぢこく}
の責{せめ}。藁{わら}を数{かぞ}へて立{たち}さわぐ。時{とき}に後{うしろ}のくらがりから。
そつとお長{てう}が耳{みゝ}に口。こなたへ来{こ}いと言{いふ}声{こゑ}は。たしかに
女とこわ〳〵ながら。引{ひか}れてしりぞく娘{むすめ}のよふす。雲{くも}介
どもは気{き}もつかず。鬮{くじ}を争{あらそ}ふ最中{さいちう}へ。ワアツト声{こゑ}かけ
五六人|手{てん}でに棒{ぼう}を追取{おつとつ}て。雲{くも}介どもをなぐりたて〳〵
つゝ声〻{こゑ〴〵}に白引{かどわかし}の盗人{とろほう}めら。片{かた}ツぱしからふんじばれ

(17ウ)
一人{ひとり}も迯{にが}すな〳〵と。呼{よば}わり〳〵走{はせ}かゝられ。元来{もとより}無道{ぶどう}
の人|非人{ひにん}みなちり〴〵に迯{にげ}出{いだ}す。折{をり}からお長{てう}の手を
引{ひい}て。あらはれ出{いづ}る勇{いさ}みはだ。されど月|夜{よ}にぞつとする。
素顔{すがほ}の意気{ゐき}な中年増{ちうどしま}。月|諸{もろ}ともに横{よこ}にさす。
櫛{くし}も野代{のじろ}の本{ほん}桧木{ひのき}。秋田{あきた}といふは鼈甲{べつかう}か。洒落{しやれ}た出
立{でたち}の旅姿{たびすがた}【としま】「ヲヤ〳〵おまへたちは最{もう}そんなにりきまな
くつてもいゝじやアないかへ。みんな迯{にげ}てしまつたのに。」
【五六人】「ばかなつらな東{あづま}ツ子{こ}だぞ。コレうぬらアとほうもねへ

(18オ)
頓智{とんち}きめらだア。ヤイうしやアがれ。ヱへ。だれだと思{おも}ふ業
法人{ごつぽうにん}め。」【つれ】「ヤイ耳{みゝ}のあなをかつぽぢつてよく聞{き}きやアがれ。
忝{かたじ}けなくも尊{とふと}くも。小梅{こうめ}の姉御{あねご}
お由{よし}さんの弟分{おとゝぶん}。古風{こふう}
なよふだがくりからの。竜{りやう}吉さ゜んたアおれさまの〔こと〕だ。」
【また一人】「こともおろかやそれがしは。小|梅{うめ}の里{さと}に人となり。瓦{かはら}の
煙{けふ}にふすぼれど。元{もと}業平{なりひら}のまふし子{ご}にて。梅{うめ}のお由{よし}が
一番{いちはん}子{こ}ぶん。女たらしの権八{ごんはち}さまだぞ由縁{ゆかり}のいろの。」
【としまの女およし】「これサ〳〵おめへたちやアあきれるヨ。きはどい所{とこ}で

(18ウ)
茶番{ちやばん}をすらア。」【五六人】「違{ちげ}へねへまるで立{たち}まはりをさせ
やアがつた。」【女】「ほんにおまへはマアさぞこわかつたらふ。モウ〳〵
気{き}を大|丈夫{ぜうぶ}におもちヨ。私{わたし}は小|梅{うめ}の女|髪結{かみゆひ}。お由{よし}といは
れるおてんばもの。江{え}の嶋{しま}の弁天{べんてん}さまへ大|願{ぐわん}て月|参{まい}り。
役{やく}にたゝずも行過{ゆきすぎ}が。若{わか}イ衆{しゆ}達{たち}の気{き}にいつで。姉御{あねご}〳〵
と立{たて}られるが。嬉{うれ}しいと。いふもちつと自惚{うぬぼれ}。しかし今ぢやア
人にも知{し}られ餘{あんま}りまけた〔こと〕もねへ。女|伊達{だて}らのおちやツ
びい。江{え}の嶋{しま}からの皈{かへ}り道{みち}。みんながたいそふ道くさを喰{くつ}て。

(19オ)
とふ〳〵徃来{わうらい}を間違{まちがへ}たのがおまへの仕合{しあはせ}。野道{のみち}畝{あぜ}みち
森{もり}の中。薮{やぶ}から棒{ぼう}に此お寺{てら}へ。来{く}るとおまへがすでのこと。
それから急{きう}にわかいしゆと。言合{いひあは}した此{この}始末{しまつ}。ま〔こと〕にあぶ
なひことだつけネ。」ト。聞{きい}てお長はやう〳〵に。心をしづめ胸{むね}
をなで。嬉{うれ}し泪{なみだ}に礼{れい}さへも。噎{むせ}かへるこそ道理{どうり}なれ。やゝ
しばらくありて【長】「ま〔こと〕に〳〵私{わたくし}は生{いき}かへつたよふな
心持{こゝろもち}になりました。どふぞ申しかねましたが。とてもの〔こと〕
に私{わたくし}を。」【由】「徃{いく}ところへ送{おく}ツて呉{くれ}とおいひのかへ。」【長】「ハイ

(19ウ)
どふぞ。」【由】「そりやアかならずおあんじてない。此様{こんな}に若
衆{わかいしゆ}が大ぜいだから。おまへの身{み}のうへもよく聞{きい}たうへは。
送{をく}るはおろか行先{ゆくさき}の。請{うけ}でもわりいよふならば。私の
宅{うち}へ連{つれ}てかへつて。どいつが来{こ}よふがどのよふな。尻{しり}が
来{き}よふが受合{うけあつ}て。公儀{おかみ}へ対{たい}したふ法{ほう}がなけりやア。
利屈{りくつ}のわかつたけんくわなら。憚{はゞかり}ながら尻{しり}おしだ。
マア何{なん}にしろ夜{よ}が更{ふけ}ちやア。旅宿{やどや}にこまるわけに
なる。サアみんなが此{この}子{こ}を中に取{とり}かこんであいつらが。

(20オ)
仕{し}かへしの用心{ようじん}して。」【わかいしゆ】「ナニ〳〵もふ来{く}る気{き}づけへは
ございやせん。なんなら私{わたし}がおぶつて上{あげ}やう。」【由】「イヱ〳〵兼{かね}
さんや源{けん}さんには頼{たの}むめへ。栄{えい}さんか金太{きんた}さんか。次郎
ならば丈夫{じやうぶ}だが。其{その}外{ほか}へ娘{むすめ}ツ子{こ}の番{ばん}は覚束{おぼつか}ねヘ。」ト。笑{わら}ふとき
しもまた曇{くも}る。朧月夜{おぼろづきよ}にやう〳〵と。里{さと}ある方{かた}へ打連{うちつれ}て。
たどり行{ゆく}こそ頼母{たのも}しけれ。
春色{しゆんしよく}梅{うめ}ごよ美巻の二了


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底本:国立国語研究所蔵本(W99/Ta81、1001142270)
翻字担当者:金美眞、洪晟準、成田みずき、銭谷真人
更新履歴:
2017年4月5日公開

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