比翼連理花迺志満台 初編上 ---------------------------------------------------------------------------------- 凡例 1.本文の行移りは原本にしたがった。 2.頁移りは、その丁の表および裏の冒頭において、丁数・表裏を括弧書きで示した。また、挿絵の丁には$を付した。 3.仮名は現行の平仮名・片仮名を用いた。 4.仮名のうち、平仮名・片仮名の区別の困難なものは、現行の平仮名に統一した。ただし、形容詞・副詞・感動詞・終助詞・促音・撥音・長音・引用のト等に用いられる片仮名については、原表記で示した場合がある。 〔例〕安イ、モシ、「ハイそれは」ト、意気だヨ、面白くツて、死ンで、それじやア 5.漢字は現行の字体によることを原則としたが、次のものについては原表記に近似の字体を用い、区別した。「云/言」「开/其」「㒵/貌」「匕/匙」「吊/弔」「咡/囁」「哥/歌」「壳/殻」「帒/袋」「无/無」「楳/梅」「皈/帰」「艸/草」「計/斗」「弐/二」「餘/余」 6.繰り返し符号は次のように統一した。ただし、漢字1文字の繰り返しは原本の表記にしたがい、「〻」と「々」を区別して示した。  平仮名1文字の繰り返し 〔例〕またゝく、たゞ  片仮名1文字の繰り返し 〔例〕アヽ  複数文字の繰り返し 〔例〕つら〳〵、ひと〴〵 7.「さ」「つ」「ツ」に付く半濁点符は「さ゜」「つ゜」「ツ゜」として示した。 8.Unicodeで表現できない文字は〓を用いた。 9.句点は原本の位置に付すことを原則としたが、文末に補った場合がある。 10.合字は〔 〕で囲んで示した。 〔例〕殊{〔こと〕}に、なに〔ごと〕、かねて〔より〕 11.傍記・振り仮名は{ }で囲んで示した。 〔例〕人生{じんせい} 12.左側の傍記・振り仮名の場合は、冒頭に#を付けた。 〔例〕めへにち{#毎日} 13.傍記・振り仮名が付く位置の紛らわしい場合、文字列の始まりに|を付けた。 〔例〕十六|歳{さい} 14.原本に会話を示す鉤括弧が付いていない場合も、これを補い示した。また庵点は〽で示した。 15.原本にある話者名は【 】で示した。 〔例〕【はる】 16.割注・角書および長音符「引」「合」は[ ]で囲んで示した。 17.不明字は■で示した。 18.原本の表記に関する注記は*で行末に記入した。 〔例〕〓{たど}りて*〓は「漂+りっとう」 19.花押は〈花押〉、印は〈印〉として示した。 20.画中文字の開始位置に〈画中〉、広告の開始位置に〈広告〉と記入した。 本文の修正 1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。 ---------------------------------------------------------------------------------- (口1オ) 自叙 夫{それ}つら〳〵おもん見{み}れ婆{ば}。人生{じんせい}一期{いちご}四 時{しじ}に似{に}たり。梢{こずえ}の莟{つぼみ}と称{たゝ}へられ。花{はな}の盛{さかり}と 愛{めで}られしも。瞬{またゝく}間{ひま}に老{おい}来{きたつ}て姿{すがた}は衰{おと} らふ人{ひと}の秋{あき}。頭{かしら}の雪{ゆき}ともろともに 布里{ふり}ゆく身{み}こそかなしけれ。若{わか}きは聊{いさゝか} 誇{ほこ}るに足{た}らず。老{おい}たるもまた疎{うと}むべ (口1ウ) からず。かゝる短{みぢ}かき身{み}なからもたゞ 在{あり}たきは忠孝貞{ちうかうてい}。二筋{ふたすぢ}三筋{みすぢ}の七五三縄{しめなわ}を。 心{こゝろ}の内{うち}にはり通{とふ}さば。尚{なほ}千載{せんざい}の美談{びたん}と ならん。嗚呼{ああ}瓦{かはら}となつて全{まつた}からんよりは。珠{たま}と なつて毀{くだけ}んには孰{いづ}れと。しかつべらしき 口諚{こうぢやう}も。みな是{これ}故人{こじん}の口真似{くちまね}なれど。 児女子{ひめちご}たちに看{み}せんとして。編{つゝり}し冊子{さうし}も (口2オ) 此{この}意{い}を旨{むね}とす。されば勧善懲悪{くわんぜんちやうあく}の こゝろを籠{こめ}たる作者{さくしや}が微忠{びちう}。おひ〳〵 発市{はつし}の時{とき}を俟{まち}て。高評{かうひやう}を給へ かしといふ。 松亭の雨窓に誌 $(口2ウ) 北条家{ほうしやうけ}の浪客{らうにん} 金沢{かなさは}兵衛{ひやうゑ}顕佐{あきすけ}の 女児{むすめ} 阿春{おはる} 武蔵{むさし}の国{くに}豊島邑{としまむら} 琴指南{ことしなん}の盲法師{めくらほうし} 和之一{わのいち} $(口3オ) 天間町{てんままち} 紙屋{かみや}の手代{てだい} 小六{ころく} $(口3ウ) 千葉家{ちばけ}の 郎等{らうどう} 畝山{うねやま} 強六{ごうろく} $(口4オ) 和之一{わのいち}が姉{あね} 女髪結{をんなかみゆひ}の 阿吉{おきち} (口4ウ) 第一回 孝子の辻君 第二回 結{むすふ}の神事{かみわさ} 第三回 寡{やもめ}の奸計{かんけい} 第四回 壮士{ますらを}の後悔{のちぐひ} 第五回 処女の悲歎 第六回 恩愛{おんあい}の自殺{じさつ} (1オ) [比翼{ひよく}連理{れんり}]花{はな}迺{の}志満台{しまだい}初編{しよへん}巻之上 江戸 松亭金水編次 第一回 孝子{かうし}の辻君{つぢぎみ} 天{てん}に寒暑{かんしよ}温涼{うんりやう}の四時{しいじ}あれば。人{ひと}に栄枯{えいこ}得喪{とくそう}の盛衰{せいすい}あり。 北条{ほうじやう}顕時{あきとき}ぬしの権臣{けんしん}として。金沢{かなざは}兵衛{ひやうゑ}顕佐{あきすけ}と。世{よ}にとき めきしも聊{いさゝか}の。ことよりして浪〻{らう〳〵}なし。近郷{きんごう}は憚{はゞか}りありとて そのころ太田家{おほたけ}の城下{しろした}にて。鎌倉{かまくら}にもおとらぬ繁栄{はんえい}。武蔵{むさし} の国{くに}芝崎{しばさき}のほとりに来{きた}り。親子{おやこ}三人{みたり}が寓住居{わびずまゐ}に。三{み}とせ (1ウ) 四年{よとせ}をおくるほどに。妻{つま}はおもひのかさなりて。終{つひ}に病{やまひ}の床{とこ}に 伏{ふ}し。世{よ}になき人{ひと}の数{かず}にいり。あとに残{のこ}りし女児{むすめ}のおはるは。 今年{ことし}十五になりけるが。孝心{こうしん}ふかき生{うま}れなれば。天{てん}にあこ がれ地{ち}に伏{ふ}して。泣涕{りうてい}こがれかなしめど。行{ゆき}て皈{かへ}らぬ旅{たび}の 道{みち}。またぬ日数{ひかず}もたち易{やす}くて。七七日{なぬか〳〵}の追善{ついぜん}も。泣〻{なく〳〵}営{いとな}み はてぬべし。父{ちゝ}の兵衛{ひやうゑ}は日{ひ}ごろより。いと健{すこやか}なる生{うま}れなれど。 年{とし}さへもまた六十{むそぢ}あまり。浪〻{らう〳〵}の身{み}となりしより。種{さま}〴〵 心{こゝろ}を悩{なや}ませしうへ。今{いま}また妻{つま}をさきだてゝ。悲歎{ひたん}のなみだに (2オ) 身{み}もやつれ。倶{とも}にや消{きえ}んかなしみも。女児{むすめ}お春{はる}が人性{ひとゝなり}。眉目{みめ} 形{かたち}はいふもさらなり。こゝろだてさへ並〻{なみ〳〵}の処女{をとめ}にまさる とりなりに。心{こゝろ}いさゝかなぐさめて。けふと暮{くら}し明日{あす}と明{あか} すに。はやその年{とし}もくれはてゝ。お春{はる}は既{すで}に十六|歳{さい}の。秋{あき} のはじめとなりけるが。それ諺{〔こと〕はざ}にいふ〔こと〕あり。座{ざ}して食{くら}へば 山{やま}もむなしと。兵衛{ひやうゑ}は始{はじ}め浪〻{らう〳〵}の。身{み}となりしよりこの 年月{としつき}何{なに}一{ひと}ツの活業{てわざ}もなく。たくはへの限{かぎ}りみな食尽{くひつく}し 果{はて}は親子{おやこ}の衣類{いるい}手道具{てどうぐ}。これを活{うり}かれを売{うり}。その日 (2ウ) その日を送{をく}るほどに。今{いま}は父子{おやこ}が身{み}にまとひし。褐{つゞれ}の外{ほか}に 一物{いちもつ}なく。家{いへ}寂莫{せきばく}とまづしくて。朝{あした}に炊{かし}くも夕{ゆふべ}に糧{かて}なく くらしかねたるその折節{をりから}。兵衛{ひやうゑ}は風{かぜ}のこゝちより。次第{しだい}に おもる瘧病{わらはやみ}に。お春{はる}はいとゞかひ〴〵しく。たゞ手{て}一{ひと}ツに昼 夜{ちうや}の看病{みとり}。いさゝか怠{おこた}るけしきもなく。その真心{まこゝろ}をつくし にければ。近所{あたり}合壁{となり}の人〻{ひと〴〵}も。お春{はる}がこゝろを不便{ふびん}に思ひ 泪{なみだ}ながらに貧{まづ}しさを。貢{みつ}ぐ人{ひと}さへ多{おゝ}かりけり。さらぬだに くらしかねたる父子{おやこ}が身{み}のうへ。かゝる病{やま}ひに犯{おか}されては。物{もの}の (3オ) 入目{いりめ}も日〻{ひゞ}に多{おゝ}く。お春{はる}はむねをくるしめて。いかゞせまし と年{とし}ゆかぬ心{こゝろ}に何{なに}とせんすべしらず。去{さり}とて誰{たれ}に内 証{ないせう}を。うちあけ語{かた}らふ人{ひと}もなく。よわり果{はて}たる魚屋{なや}の*「魚屋{なや}」は「魚屋{さかなや}」の脱字か 鳥{とり}こゝろのうちこそ不便{ふびん}なれ。折{をり}から集会{つどふ}井戸{ゐど}の端{はた} こゝの裡家{うらや}のかみさまたち。四五|人{にん}の声{こゑ}として。囂〻{がや〳〵}と 噺{はな}しこむ。お春{はる}はほつと吻{つ}く息{いき}とともに頭{かうべ}をうち 擡{もた}げアヽ余所{よそ}の人{ひと}はみンな達者{たつしや}で。何{なに}よりか羨{うら}やま しい。とゝさんもどうぞはやく。達者におなりなさればいゝ。 (3ウ) 何{なん}につけてもお銭{あし}がなければ薬{くすり}もおもふやうにあげら れず。ハテこまつたものではあるト歎{なげ}くも人{ひと}に聞{き}かせじと 声{こゑ}をしのぶの時鳥{ほとゝぎす}八千八声{はつせんやこゑ}ならなくに。血{ち}を吐{はく}おもひ やるせなき人{ひと}の心{こゝろ}もしら髪{が}の老婆{ば}さま。おもしろそう な高{たか}わらひ【ばゝ】「マアおかみさん聞{きい}ておくんなせへ。モウ〳〵〳〵 この頃{ごろ}ぢう。めへにち{#毎日}〳〵の霖雨{しけ}にやア飽{あき}〳〵しやした。 それでもおめへたちの所{ところ}ぢやア。居職{ゐじよく}といふものだから照 降{てりふり}がなくツていゝが。わたしらア知{し}つての通{とふ}り日和{ひより}商売{せうばい}と (4オ) いふものだからいくぢやアねへはな。安{やす}イものは米{こめ}ばかり諸 色{しよしき}の直{ね}はだん〳〵あがるしいけねへノウ。そうかと言{いつ}ていゝ 商売{せうばい}もねへのヨ。仮宅{かりたく}の引手{ひきて}に出{で}ても。お客{きやく}にひやかさ れるばかりでつまらねへしか。おらアモウほんに十年{じうねん} わげへといゝ商売{せうばい}があるけどもノ。老婆{ばゝあ}じやアしかたが ねへわなヨ」【かみさん】「そういひなさんな。困{こま}る事はみンなおンなし ことヨ。そしておばさんおめへマアわかけりや何{なに}をするのだ」 【ばゝ】「マアきゝねへ。ゆふべ浅草{あさくさ}へ往{いつ}てけへ{帰}りがよつに成{なつ}た (4ウ) からソレ辻{つぢ}の処女{あね}さん達{たち}がみンな仕{し}まひヨ。何{なん}てつて 噺{はな}すかとおもふと。おらア今夜{こんや}たつた三十|本{ぼん}ほきやア はさまねへといふやつがあるかと思ふと。今夜アなじ みが来{き}て。八十本はさんだといふ奴{やつ}があつたつけがまア おめへ考{かん}がへて見{み}な。八十本じやアざつと二貫{にくはん}だの。宵{よひ}から 亥刻{よつ}までに。女{をんな}で二貫の三貫のといふ銭{せに}をとりやア なんと強盛{がうせい}じやアねへか」「フムヽとんだものだの。大{たい}げへな ものは夜鷹{よたか}のかせぎにやアかなはねへのウ」【ばゝ】「どうして (5オ) 〳〵。おいらんでもかなやアしねへのヨ。それからまた泊{とま}りを ひいて四百{しひやく}か五百{ごひやく}もとるだらう。片仕廻{かたじまひ}の昼三{ちうさん}とおンな し事だ。アハヽヽヽヽ」【女】「ヲヤ〳〵そんなら晩{ばん}からおらも夜鷹{よたか}にで やう」【ばゝ】「ちげへねへ。出{で}るがいゝのサ」トあだ口〻{くち〴〵}のざゝめきを つら〳〵聞居{きゝゐ}る窓{まど}のうち。お春{はる}はほろりと一霤{ひとしづく}こぼす 泪{なみだ}をそと拭{ふい}て。見{み}れば親父{おやぢ}はすや〳〵と。ねがほやつれ し病{やまふ}の床{とこ}「アヽなさけない。まへの世{よ}に。どうしたつみが むくひやら。たつた一人{ひとり}の爺{とゝ}さんが。年{とし}よられてのこの (5ウ) 大病{たいびやう}いはゞ翌{あす}をもしれぬほど。世{よ}が世のときであらふ なら。医者{いしや}よきとうよお加持{かぢ}よと。とゞかぬまでもさま〴〵 に心{こゝろ}つくして見{み}やうもの。夫{それ}さへ心にかなわぬのみか 乞食{こじき}してさへ喰{くふ}といふ。飯{まゝ}さへ今日{けふ}はどうしてと其{その} 日{ひ}〳〵の気{き}あつかひいふてかへらぬ事ながら。譬{たとへ}貧{ひん}く のこの中{なか}でも。母{はゝ}さまが息災{たつしや}なら。是{これ}はどうしてかうして と問{と}ひ譚合{だんかう}も仕{し}やうもの。今{いま}は子{こ}ひとり親{おや}ひとり 杖柱{つえはしら}ともたのみたる。爺{とゝ}さんにわづらはれ翌{あす}はどう (6オ) なうことじややら。おもへば浮世{うきよ}がうらめしい」ト袂{たもと}くはへて*「どうなうこと」は「どうなること」の誤字か しのび泣{なき}。すゝりあげ〳〵霎時{しばし}泪{なみだ}にくれけるがこゝろに 佶{きつ}と思按{しあん}を定{さだ}め。「ヲヽそうちや〳〵。ヲヽそうじや。千人{せんにん}に 肌{はだ}をふれ。一人の親{おや}をやしなふもかう〳〵といふ事{〔こと〕}がある。 泣{ない}たとてわらふたとて。米{こめ}やお金{かね}が降{ふつ}ても来{こ}ぬ。それ よりか今{いま}井戸{ゐど}ばたで。裡{うら}の|老婆{ば}さまがはなすをきけば。 夜鷹{よたか}とやらは一晩{ひとばん}で。大造{たいそう}なお銭{あし}になると。よもや 嘘{うそ}でもあるまいか。どのやうな事するものか様子{よふす}はしれ $(6ウ) ひやうゑ $(7オ) おはる 日参{につさん}に〔こと〕よせて 孝婦{こうふ}辻君{つぢぎみ}に出{いで}んとす (7ウ) ぬ〔こと〕ながら何{なん}でも辻{つぢ}に立{たつ}て居て往来{ゆきゝ}の人{ひと}をモシ〳〵と 呼{よび}かけるといふ事は。はなしに聞{きい}たこともあり。お|あし{銭}に になつて爺{とゝ}さんへ思{おも}ふ通{とふ}りのお薬{くすり}でも。あげられるなら きんのマア。どんな苦艱{くげん}もいとやせぬ。今宵{こよひ}はそつと人{ひと}*「きんの」は「なんの」の誤字か しれず夜鷹{よたか}とやらにでて見{み}ん」と。心{こゝろ}のうちに勧 念{くはんねん}しつ。その日{ひ}のくるるをまつほどに秋{あき}の日影{ひかげ}のさり げなく。はや没相{いりあい}もすぎゆくに。兵衛{ひやうゑ}も今宵{こよひ}はいつに なく心地{こゝち}もよげにみへけるゆへ。これさいわいと娘{むすめ}の小 (8オ) |春{はる}は父{ち}にむかひて【はる】「私{わたくし}はチト用{よう}がありますから。浅草{あさくさ} まで往{いつ}てまいります。お淋{さみ}しからうが戌刻{いつゝ}ごろまで一 人{ひとり}で居{ゐ}てくださいまし。帰{かへ}りにはよいお煮{に}しめか鮨{すし}で も買{かつ}てまいりませう」ト聞{きい}て兵衛{ひやうゑ}はうなづきつゝ【兵】「なに おれが淋{さみ}しいのは。些{ちつと}もいとふ事ではないが。浅草といへば 遠{とを}いところ何{なん}の用{よう}でゆくかしらぬが。わかい女{をんな}が夜{よる}のみち ひとりあるきはいらぬもの。しかし誰{たれ}ぞ連{つれ}でもあるのか」 【はる】「イヽヱつれもございませんが。お月{つき}さまは昼{ひる}よりあかる (8ウ) し。ナニ気{き}づかひはございません」トいふを兵衛{ひやうゑ}は頭{かうべ}を振{ふつ}て 【兵】「イヤ〳〵〳〵。そうでない。さしたる事でないならばよしにする が上分別{じやうふんべつ}。そして浅草{あさくさ}のどこへいくのだ。マア〳〵今宵{こよひ}は よしにして翌{あす}昼間{ひるま}といふたなら。こんな身形{みなり}でひる 日中{ひなか}といふであらうな。困{こま}つたもの。しかしマア何処{どこ}へ往{いく}ヨ」ト あんじる親{おや}のこゝろさへ汲{くみ}とりかねておもはずもなみだに もろき花娘{はなむすめ}【はる】「アノおまへの御病気{ごびやうき}がはやく本復{ほんふく}する やうにと。観音{くはんおん}さまへ大願{だいぐはん}かけこよひからして七日{なぬか}が間{あいだ} (9オ) まい日{にち}〳〵参{まい}るつもり」トいふは根{ね}もなきいつわりにて 親{おや}を変詐{たばかる}勿体{もつたい}なさとこゝろの裡{うち}にかなしめど明{あけ}て いはれぬ今宵{こよひ}のしき。兵衛{ひやうゑ}はきいて眉{まゆ}に皺{しわ}よせ【兵】「 アヽいらざるよせばいゝにおらモウ命{いのち}も何{なに}もいらぬ。たゞ それよりは見{み}すぼらしい。手{て}まへの身形{みなり}をみるにつけ アヽお春{はる}めも脊丈{せたけ}も伸{の}び親{おや}の欲目{よくめ}かしらねども 目鼻{めはな}だちなら心{こゝろ}だて。人{ひと}なみに勝{まさ}つて居{ゐ}ながらし あはせわろく此{この}やうな役{やく}に立{たゝ}ずの親{おや}をもち花{はな}のさ (9ウ) かりに褐{つゞれ}の錦{にしき}おもへば〳〵不便{ふびん}な事{〔こと〕}。今{いま}にもおれが 死{し}んだなら。もらひ人{て}は網{あみ}の目{め}から手{て}を出{た}すやうにある は必定{ひつぢやう}。それにつけてもおれが命{いのち}生{いき}がひのない身{み}の 果{はて}なら一刻{いつこく}もはやう終{をは}りたいと。朝{あさ}ばんおがむみた 如来{によらい}も。病気{びやうき}本{ほん}ぶくのねがひじやないぞや。それにお ぬしは観音薩埵{くはんおんさま}へ病気へいゆの願込{ぐはんごめ}とは。モウよしに せい〳〵」【はる】「ヲヤお爺{とつ}さんとした事が。とんだ〔こと〕をおつ しやるねへ。たとへこのみが公家{くげ}高家{かうけ}。どんな人{ひと}にもら (10オ) はれて上{うへ}見{み}ぬ鷲{わし}でくらすともおまへにわかれて何{なん} にしませう。モウ〳〵そんな悲{かな}しい事は。必{かな}らずおつしやつ てくださいますな」トはをくひしばり身{み}をふるはせ。歎{なげ} けば兵衛{ひやうゑ}は手{て}をこまぬき【兵】「これさ〳〵そのやうに 泣{なく}ものしやないわい。子{こ}を思ふ親{おや}は夜{よる}のつる。親ほどに 子{こ}はおもはぬと。いふはせけんの風俗{ならはし}じやが。おぬしがやうな 娘{むすめ}は稀{まれ}もの。親{おや}がひもないこの親をそれ程{ほど}までに 信実{しんしつ}におもふてくれるはかたじけない。何{なん}のいらざる (10ウ) 事とはおもふが。折{せつ}かく思{おも}ひ込{こん}だる願{ぐはん}ごめ。そんなら 往{いつ}て来{く}るがよい。アヽ去{さり}ながら不用心{ぶようじん}な」トあたりみ まはしつゞらより。とり出{だ}す短刀{たんとう}九寸{くすん}五分{ごぶ}【兵】「是{これ} 〳〵お春{はる}浅{あさ}くさへ。往{ゆく}ならこれを持{もつ}てゆきやれ。 倘{もし}もと中{ちう}で女{をんな}とあなどり。嬲{なぶり}にかゝつた奴{やつ}があつたら この短刀{たんとう}でつきたふし。跡{あと}にかまはず逃{にげ}て来{こ}い。気{き}が よわふては夜路{よみち}はできぬぞ。よく気{き}をつけていつて 来{こ}いヨ」ト渡{わた}せばお春{はる}はおしいたゞき内懐{うちふところ}におさめつ (11オ) いとまをつげて出{いで}てゆく心{こゝろ}のうちこそあはれなれ。 第二回 結{むすぶ}の神{かみ} かくてお春{はる}は其処{そこ}此処{こゝ}と四角{よつかど}小路{こうぢ}にたゝずみつゝ。往 来{ゆきき}の人{ひと}を呼{よび}とめんと。こゝろは弥武{やたけ}にはやれども元{もと}より 馴{な}れぬわざといひ女児心{むすめごゝろ}の気{き}おくれして。呼{よば}んとおも へば恥{はづ}かしさが胸{むね}にせまりてさて止{や}みつ。かくするほどに 初夜{しよや}もすぎ。次第{しだい}にうすき人通{ひとどふ}り。月{つき}は雲井{くもゐ}にてら せども。暗路{やみぢ}をたどるこゝちして空{むな}しく二更{にかう}のころと (11ウ) なれば我身{わがみ}ながらもいひ甲斐{がひ}なしと。おもへど了得{さすが}に せんかたなくかへるわが家{や}の門{かど}のくち。父{ちゝ}の兵衛{ひやうゑ}はまちか ねて【兵】「ヲヽお春{はる}か大ぶんてまどれたな。路{みち}に何{なに}事{〔ごと〕}も なかつたか。大{たい}ていあんじた事{こと}じやない」ト父{ちゝ}がよろこぶ 面{おも}もちを。見{み}れば心{こゝろ}にうれしくはおもへど翌{あす}のたつき はとおもひかへせばギツクリと。胸{むね}に釘{くぎ}うつ貧苦{ひんく}の患{うれ}へ あすの夜{よ}こそはと覚語{かくご}して。寝{ね}ても頓{とみ}にはねつかれ ず。アヽアノときにアノ人{ひと}を。よびとめたらばよかつたものくも (12オ) しき事{〔こと〕}をしてけりと。いふにいはれぬ後悔{こうくわい}に娘心{むすめこゝろ}の*「くもしき」は「くやしき」の誤字か あとやさき。既{すで}にその夜{よ}も明{あけ}けれど。米{こめ}を買{かふ}べき手 術{てだて}なく。となりで僅{わづか}かり求{もと}め。かゆに仕{し}たてゝ病{や}む人{ひと}も まづ朝餉{あさげ}をばすゝめても。おのれが喰{くは}ば病{や}む人の食{しよく}の 不足{ふそく}にならんかと。飢{うゑ}をしのぶも親{おや}のため。兵衛{ひやうゑ}は夫{それ} とも気{き}がつかず【兵】「コレおはるめしをくはぬか。粥{かゆ}の残{のこ}りも あるではないか。サア〳〵はやう給{たべ}たがよい。アヽしかし米{こめ}が ないかや。それで食{くは}ずに居{ゐ}るではないか。そんなりおれは*「そんなり」は「そんなら」の誤字か (12ウ) 寝{ね}てゐる体{からだ}食{くは}いでも大事{だいじ}ない。おぬしは朝{あさ}からたち はたらく。食{くは}ずに居{ゐ}てどうならう」トいはせもあへず【はる】「 アレおとツさ゜んまたそんな外聞{ぐわいぶん}のわるい事。お米{こめ}もたアんと 米櫃{こめひつ}にございます」【兵】「イヤ〳〵たんとはない筈{はづ}じやが」【はる】「 イヱ〳〵アノ家主{いへぬし}さんが病人{ひやうにん}でふじゆうだらう。米屋{こめや}は おれが請合{うけあつ}ておくほどに。入用{いりよう}しだいとり寄{よせ}ろとおつ しやるゆへにとりよして。まだ沢山{たんと}ありますヨ」【兵】「ハヽアさ うか。家主{いへぬし}どのも。アヽまいど深切{しんせつ}な。そんならなぜまだ (13オ) おぬしは食{く}はぬ。ヤ。ヤなんじや。火{ひ}のもの絶{だち}じやと。アヽ何{なん}の よせばよいのに。おれが斯{かう}して居{ゐ}るさへあるに。おぬし までが煩{わづ}らふたら。誰{た}がその世話{せわ}をするものぞ。アヽモウ おぬしが其{その}やうに。親{おや}を大事{だいじ}にしてくれる。その心根{こゝろね} が不便{ふびん}な」トはては泪{なみだ}の雨{あま}やどり。実{げ}に人{ひと}の子{こ}の亀鑑{かゞみ} なり。かくてその日も暮{くれ}ければ。今宵{こよひ}こそはどうかな して。少{すこ}しの銭{ぜに}だもとり得{え}ずは。明日{あす}の露命{ろめい}をつな ぐべき。手術{てだて}はなしと娘気{むすめぎ}に。よわる心{こゝろ}を励{はげ}まして (13ウ) やがてわが家{や}をたち出{いで}つゝ。泪{なみだ}にむせぶ道{みち}のべの。芝 生{しばふ}における露{つゆ}ならで。しめりがちなる袖{そで}の雨{あめ}。思ひぞ いとゞ十寸鏡{ますかゞみ}。むねうちくもる朧夜{おぼろよ}の。かげを〓{たど}りて*〓は「漂+りっとう」 立{たち}とまり。往来{ゆきゝ}の人{ひと}をまつらがた。ひれふる山{やま}の石{いし} よりも。重{おも}きやまひの父{ちゝ}のため。身{み}をば思はぬ孝行{かう〳〵} を神{かみ}もあはれみ給はずや。身{み}のはていかにならの葉{は} の。とにもかくにもあぢきなき。折{をり}から来{きた}る人{ひと}おとに 今{こ}よひは是非{ぜひ}とかたかげに。身{み}をひそめつゝうかゞへば。 (14オ) 六十{むそぢ}あまりの老法師{らうほうし}。あなやとばかり顔{かほ}そむけ。また 身{み}を潜{ひそ}めて待{まつ}ほどに。またもや来{きた}る足{あし}おとに。そと 顔{かほ}出{だ}してうかゞへば。腕{うで}に倶久伽羅{くりから}脊中{せなか}に武者絵{むしやゑ} いといかめしき大男{おゝおとこ}。これはとばかりまた潜{ひそ}む。その 後{ご}はたえて足音{あしおと}なければ。こゝろのうちに悶{もだ}えつゝ かなたこなたを見{み}まはすほどに。やがて雪踏{せつた}の足音{あしおと} 聞{きこ}ゆ。このたびこそはと物{もの}かげより。顔{かほ}の半{なかば}をさしいだ して。ちかくなるまゝよく見れば。二十{はたち}ばかりのやさ男{をとこ} (14ウ) 小紋{こもん}の羽織{はをり}もゝ引{ひき}にて。ゆくかかへるかその先{さき}を。いそ ぐと見へて小提灯{こぢやうちん}。ふり照{てら}らしつゝ足{あし}ばやに。脇目{わきめ}も*「照{てら}ら」の「ら」は衍字 ふらず喘{あへ}ぎゆく。お春{はる}はこゝろおししづめ。衝{つ}とかけ 出{いで}て「これ申し」と。袂{たもと}をとらへて引{ひき}もどせば。かの弱官{わかうど}は 恟{びつ}くりして。ふりかへりつゝお春{はる}がかほを。朧月夜{おぼろづきよ}に佶{き} と見{み}れば。年{とし}まだゆかぬ処女{をとめ}にて。色{いろ}はこしぢの雪{ゆき} のごとく。芙蓉{ふよう}の眸{まなじり}。丹花{たんくは}の唇{くちびる}。柳{やなぎ}の腰{こし}の立{たち}すがた。 えもいはれざる風俗{ふうぞく}は。ぞつとするほど美{うつく}しきに (15オ) ます〳〵猜{いぶ}かるかの弱官{わかうど}たもとを颯{さつ}とふりきつて。「ついに 見{み}なれぬわかい女中{ぢよちう}何用{なによう}あつて往来{わうらい}の。人{ひと}のたもとを 引{ひき}とめたか。察{さつ}するにはや亥刻{よつ}すぎ。こゝらあたりの淋{さみ} しきに。女{をんな}の一人{ひとり}であるべきやうなし。狐狸{きつねたぬき}かたゞしは変 化{へんげ}か。その手{て}じやゆかぬ出{で}なをせ」と弥五郎{やごろう}もどきに小 提灯{をちやうちん}袖{そで}におほふて白眼{にらみ}つめれば。おはるはむねもてき 惑{わく}と轟{とゞろ}くをおししづめて。男{をとこ}のまへに跪{ひざま}づき【はる】「その 御{ご}ふしんは御尤{ごもつとも}にござりますれど私{わたくし}は其様{そん}な者{もの}では $(15ウ) 皇天{くはうてん}憐{あはれみ}を たれて 佳人{かじん} 才子{さいし}に 奇偶{きぐう} す 小六 $(16オ) おはる (16ウ) ござりません。一人{ひとり}のおやの大病{たいびやう}に。暮{くら}しかねたる貧{まづ}しい もの容子{よふす}はしらねど人{ひと}のはなしに。聞{きい}たばかりを心{こゝろ}の あて辻君{つぢきみ}に出{で}たものでござんす。どうぞ情{なさけ}とおぼし めし。おたすけなされて下{くだ}さりまし」ト聞{きい}てます〳〵男{をとこ}は 不猜{いぶかり}眉{まゆ}にしわよせ「ヤヽなんと。親{おや}の病気{びやうき}の看病{みとり}のた めに辻ぎみに出たいふのか。見れば十五か六ぐらゐ。恋{こひ}の 初訳{しよわけ}もしらぬはづ。辻ぎみとは合点{がてん}がゆかぬ。そんなら そなたは辻君のつとめのやうすをようしつてか」「ハイ (17オ) それは」トいひさして。皃{かほ}をそむける面影{おもかげ}は。雨夜{あまよ}の月{つき}に 海棠{かいどう}の。花{はな}ものいへる風情{ふぜい}あれば。男{をとこ}もすゞろ不便{ふびん}に おもひ「アヽ何{なん}にもせよ親{おや}のため。その身{み}を沽{うら}んといふ 心底{しんてい}。ハテサテ感{かん}じいつたもの。どうかしてもやりたいが*「ハテサテ」の「ハ」は部分欠損 何{なに}をいふにも途中{とちう}の〔こと〕。殊{〔こと〕}に主用{しゆうよう}夜{よ}みちといひ 一向{いつかう}にたくわへない。こりや小{こ}づかひの遣{つか}ひあまり。これ をそなたにやるほどに。はやふ帰{かへ}つて親人{おやびと}の。かんびやう をして進{しん}せさつしやい。ヤレ〳〵それはかわいそうに」トいひ (17ウ) つゝとり出{だ}す財布{さいふ}のうち。掻{かい}さぐりつゝ一朱銀{いつしゆ■ん}。一{ひと}ツ出{いだ}して 女{をんな}にわたし往{ゆか}んとするをお春{はる}は引{ひき}とめ【はる】「これはモウ どなた様{さま}かぞんじませんが。御深切{ごしんせつ}なおぼしめし。ありが たうござります。しかし貴君{あなた}にこのお金{かね}を。たゞおもら ひ申ては。どうも心{こゝろ}がすみませぬ。私{わたくし}が身{み}をどうなりと 貴君{あなた}の自由{じゆう}にあそばして」ト半{なかば}をいはせず男{をとこ}は完爾{につこり} 「ハヽアイヤなるほど〳〵。きつい手堅{てがた}い正直{しやうぢき}もの。それでは これまで毎夜{まいよ}のやうに。こゝへ出{で}て往来{わうらい}の。人{ひと}にその身{み} (18オ) をまかしたのか」【はる】「イヱ〳〵そふじやござりませんが。たゞで はお金{かね}をもらはれぬ。ものと思へば身{み}をうつてと日{ひ}ごろ からして覚語{かくご}に覚語。いたしたうへで出{で}ましても 何{なに}をどうしてよいものやらしらぬこの身の不{ふ}つゞかさに ツイ有漏{うろ}〳〵と昨夜{ゆふべ}も素{す}がへり今宵{こよひ}も今{いま}まであれ これと。おもふばかりで怖{こわ}さが一{いち}はいあなたにおねがひ 申すのが始{はじ}めてゞござります」トいひつゝ袖{そで}に皃{かほ}かくす すがたの花{はな}や花あやめ。見{み}るにあはれもいや増{ま}して (18ウ) 男{をとこ}も其処{そこ}へひざまづき「フムそうして見{み}ればまだ人{ひと}に 身{み}を汚{けが}されぬぞもつけのさいわい女子{をなご}のみをまもると いふは磁物{やきもの}とおなし事。一度{ひとたび}やぶれてはモウ取{とり}かへしの ならぬもの。緩{ゆる}りとはなしも聞{きゝ}たいがそなたも親{おや}の 病気{びやうき}といふ事。おれも主用{しゆうよう}いつまでも。てまとつては 居{ゐ}られぬ身{み}のうへ。何{なに}かの事{こと}はは翌{あす}のばん」【はる】「そんなら 宵{よひ}からこゝへ来{き}て貴君{あなた}を待{まつ}て居{を}りますぞへ」【男】「ヲヽ見 せのことをかた付{づけ}たら日{ひ}くれからこゝへ来{こ}やう。サア〳〵こよひ (19オ) は今{いま}からすぐに」【はる】「ハイ宅{うち}へかへります。あなたのおかげでとゝ さんにも。口{くち}にかなふたものでもたべさせよろこふ皃{かほ}をみ ましたら。どんなに嬉{うれ}しうござりませう」「おかげ所{どころ}が余{あんま}り 少{すこ}し。また翌{あす}の晩{ばん}どふかしませう。そんならそこまで道{みち} づれに」【はる】「ハイありがたうござります」ト跡{あと}につきつゝ細路{ほそみち}を 怖{こわ}さ嬉{うれ}しさ恥{はづ}かしさ。かてゝまぜての物{もの}思ひ〓{たとり}〳〵て*〓は「漂+りっとう」 かへりゆく。 花の志満台巻之一終 ---------------------------------------------------------------------------------- 底本:国立国語研究所蔵本(W99/Sh96/1、1002334520) 翻字担当者:木川あづさ、杉本裕子、藤本灯 更新履歴: 2015年10月1日公開 2017年10月5日更新 ---------------------------------------------------------------------------------- 修正箇所(2017年10月5日修正) 丁・行 誤 → 正 (1ウ)4 帰{かへ}らぬ → 皈{かへ}らぬ (9オ)6 背丈{せたけ} → 脊丈{せたけ} (14オ)3 背中{せなか} → 脊中{せなか}