日本語読本　尋常科用　巻二　［布哇教育会第1期］ ---------------------------------------------------------------------------------- 凡例 1.頁移りは、その頁の冒頭において、頁数を≪　≫で囲んで示した。 2.行移りは原本にしたがった。 3.振り仮名は｛　｝で囲んで記載した。　〔例〕小豆｛あずき｝ 4.振り仮名が付く本文中の漢字列の始まりには｜を付けた。　〔例〕十五｜仙｛セント｝ ---------------------------------------------------------------------------------- ≪目録 p001≫ モクロク 一　サクラ　一 二　ワタクシ　ノ　ウチ　三 三　ニノミヤ　キンジロウ　五 四　ヒバリ　八 五　ナゾ　十一 六　ウシ　ト　ウマ　十二 七　コウマ　十四 八　マンゴ　十七 九　コルネリヤ　十九 十　タケ　二十一 十一　メーデー　二十四 十二　ミギ　ト　ヒダリ　二十八 十三　四方　三十 十四　ヤモリ　三十一 十五　ガツコウ　ヘ　モツテ　イク　モノ　三十三 十六　ワシントン　ノ　シヨウジキ　三十五 十七　オヒヤ　三十九 十八　カヘル　四十一 十九　カヘル　ト　クモ　四十四 二十　カヘル　ノ　母　四十六 二十一　ハイ　今　スグニ　四十九 二十二　ウミ　五十二 二十三　シホ　五十四 二十四　カニ　五十七 二十五　カヒ　六十 二十六　ウラシマ　ノ　ハナシ　（一）　六十三 二十七　ウラシマ　ノ　ハナシ　（二）　六十七 二十八　私　ドモ　ノ　コウチ　七十一 二十九　山　ノ　上　ノ　見ハラシ　七十四 三　十　フジ山　八十一 三十一　日本一　ノ　山　八十三 三十二　フジ　ノ　マキガリ　八十四 三十三　タロ　九十三 三十四　天長せつ　九十五 三十五　手　の　ゆび　九十八 三十六　よい　子ども　百 三十七　あきなひ　の　あそび　百　三 三十八　人くひぶか　百　六 三十九　さざえ　の　じまん　百　九 四　十　こくもつ　百十三 四十一　とけい　百十八 四十二　とけい　の　うた　百二十一 四十三　ナゾ　百二十三 四十四　白ウサギ　（一）　百二十五 四十五　白うさぎ　（二）　百二十九 四十六　オモヒヤリ　百三十四 四十七　さとうきび　百三十七 四十八　子ども　の　心　百四十 四十九　母　ノ　心　百四十三 五　十　オヒナサマ　百四十四 五十一　なす　の　よ一　（一）　百四十八 五十二　ナス　ノ　ヨ一　（二）　百五十一 ≪p001≫ 一　サクラ 日本　ニハ　サクラ　ノ 木　ガ　タクサン　アリ= マス。三月　ノ　スヱ カラ　四月　ノ　中　ゴ= ロ　マデ、山　ニモ、タニ ニモ、一メン　ニ　花　ガ サキマス。トホク　カラ ≪p002≫ ミル　ト、クモ　カ　ユキ　カ　ト　オモフ ヨウ　ニ、マツ白　ニ　見エマス。 花ザカリ　ニ　ナル　ト、人　ガ　大ゼイ　見 ニ　イツテ、花　ノ　下　デ　アソビマス。ソレ ヲ　オ花見　ト　イヒマス。 サクラ　ノ　木　ハ　ヨソ　ノ　クニ　ニハ、 タクサン　アリマセン。アツテ　モ、日本　ノ ヨウ　ニ、ウツクシイ　花　ハ　サキマセン。 ≪p003≫ 二　ワタクシ　ノ　ウチ ワタクシ　ノ　ウチ　ニハ　ニイサン　ガ　三人、 ネエサン　ガ　一人、オトウト　ト　イモウト ガ　一人　ヅツ　アリマス。一バン　上　ノ ニイサン　ハ　今　ホノルル　ニ　イツテ　ヰ= マス。ワタクシ　ハ　ガツコウ　カラ　カヘル ト、イモウト　ノ　モリ　ヲ　イタシマス。オ= トウト　ハ　犬　ガ　スキ　デ、イツモ　パペ ≪p004≫ ト　アソンデ　ヰマス。 オトウサン　ヤ　ニイサン　ハ　マイアサ　ハ= ヤク　カラ　キビバタケ　ヘ　イキマス。ウチ ノ　人　ガ　ミンナ　ソト　ヘ　出ル　トキ　ハ、 パペ　ガ　ルスヰ　ヲ　シマス。 夕ハン　ガ　スンダ　アト　デ、オトウサン ハ　イロイロナ　タメ　ニ　ナル　ハナシ　ヤ、 オモシロイ　ハナシ　ヲ　キカセテ　下サイマス。 ≪p005≫ 三　ニノミヤ　キンジロウ ドンナ　マヅシイ　ウチ　ニ　ウマレテ　モ、ジブ= ン　ノ　ココロガケ　一ツ　デ、エライ　人　ニモ、 リツパナ　人　ニモ　ナレマス。ニノミヤ　キン= ジロウ　ハ　十四　ノ　トキ、父　ニ　ワカレマ= シタ。タダサヘ　ビンボウナ　ノ　ニ、父　ニ　シ= ナレテ、イヨイヨ　コマリマシタ　ガ、キンジロウ ハ　ウチ　ニ　ヰテ、ワラヂ　ヲ　ツクツタリ、 ≪p006≫ 山　ヘ　イツテ、タキギ　ヲ　トツタリ　シテ、 母　ト　二人　ノ オトウト　ヲ　ヤ= シナヒマシタ。ドコ= マデ　フシアハセナ ノ　カ、十六　ノ　ト= キ、母　モ　ナク　ナ= リマシタ。 ≪p007≫ シバラク　ハ　ヲヂ　ノ　イヘ　ニ、セワ　ニ ナツテ　ヰマシタ　ガ、ヨル　ヒル　タユマズ ハタライテ、ソノ　ヒマ　ニハ　ガクモン　ヲ ベンキヨウシマシタ。 二十　ノ　トキ、モト　ノ　イヘ　ヘ　カヘリ、 ソレ　カラ　マスマス　カギヨウ　ヲ　ハゲミ、 ケンヤク　ヲ　シテ、ダンダン　田　ヤ　ハタケ ヲ　カヒマシタ。 ≪p008≫ キンジロウ　ハ　ジブン　ガ　クロウシタ　ノ ヲ　ワスレズ、イツモ　人　ノ　タメ、セケン ノ　タメ　ニ　ナル　コト　ヲ　イタシマシタ カラ、人　カラ　ハ　タイソウ　ウヤマハレマ= シタ。今　デハ　カミサマ　ニ　マツラレテ ヰマス。 四　ヒバリ スズシイ　風　ガ　ソヨソヨト　マキバ　ノ　上 ≪p009≫ ヲ　フイテ　ヰマス。 ヒバリ　ガ　オモシロ= サウ　ニ　サヘヅツテ ヰマス。 ゴラン　ナサイ、マタ　ア= ソコ　カラ　モ　一ハ　上= リマシタ。サヘヅリ　ナガラ、 ダンダン　タカク　上ツテ ≪p010≫ イキマス。アヲイ　ソラ　ニ、スミ　ノ　テン ヲ　一ツ　ウツタ　ヨウ　ニ　見エマス。モウ コヱ　バカリ　デ、スガタ　ハ　見エマセン。 サヘヅル　ダケ　サヘヅル　ト、今　ニ　マタ 下リテ　キマセウ。下リル　トキ　ニハ、オチル ヨウ　ニ　ハヤク　下リマス。 夕ガタ　ニ　ナツテ　モ、オヤドリ　ノ　下リテ コナイ　トキ　ニハ、子ヒバリ　ハ　ス　ノ　中 ≪p011≫ デ、ドンナ　ニ　マツテ　ヰル　コト　デセウ。 五　ナゾ ワタクシ　ニハ、口　モ　目　モ　耳　モ　ア= リマセン。手　モ　足　モ　アリマセン。マル= イケレドモ、マリ　ノ　ヨウ　ニ　マンマル デハ　アリマセン。ウゴカズ　ニ　ヰマス　ガ、 シンダ　ノ　デハ　アリマセン。 私　ヲ　コロガス　コト　ハ　ダレ　ニモ　デ= ≪p012≫ キマス　ガ、立タセル　コト　ヤ、ニツ　カサ= ネル　コト　ハ、ドウシテモ　デキマセン。私 ハ　ソト　ガ　カタクテ、中　ガ　ヤハラカ デス。カタイ　モノ　ニ　アタレバ　コハレマ= ス。私　ハ　ナン　デセウ。 六　ウシ　ト　ウマ 牛　ニハ　ツノ　ガ　アルケレドモ、ウマ　ニハ アリマセン。ウマ　ニハ　タテガミ　ガ　アル= ≪p013≫ ケレドモ、牛　ニハ　アリマセン。 ウマ　ハ　カラダ　ガ　ホソクテ、足　ガ　ナ= ガウ　ゴザイマス。牛　ハ　カラダ　ガ　太クテ、 足　ガ　ミジカウ　ゴザイマス。牛　ノ　ツメ ハ　ニツ　ニ　ワレテ　ヰマス　ガ、ウマ　ノ ハ　ワレテ　ヰマセン。 牛　ハ　力　ガ　ツヨイケレドモ、アルク　コト ガ　オソウ　ゴザイマス。ウマ　ハ　牛　ヨリ ≪p014≫ ヨワイケレドモ、ハシル　コト　ガ　ハヤウ　ゴ= ザイマス。 牛　ヤ　ウマ　ハ　ドンナ　ヤク　ニ　立チマス カ、イツテ　ゴラン　ナサイ。 七　コウマ ハイシイ、ハイシイ、 アユメ　ヨ、小馬。 山　デモ、サカ　デモ、 ≪p015≫ ズンズン アユメ。 オマヘ　ガ ススメバ、 ワタシ　モ ススム。 アユメ　ヨ、アユメ　ヨ、 足オト　タカク。」 ≪p016≫ パカパカ、パカパカ、 ハシレ　ヨ、小馬。 ケレドモ　イソイデ、 ツマヅク　マイゾ。 オマヘ　ガ　コロベバ、 ワタシ　モ　コロブ。 ハシレ　ヨ、ハシレ　ヨ、 コロバヌ　ヨウ　ニ。」 ≪p017≫ 八　マンゴ ハワイ　ノ　シマジマ　ニ　スンデ　ヰル　人 デ、マンゴ　ノ　木　ヲ　シラナイ　モノ　ハ アリマセン。ミドリ ノ　ハ　ガ　シゲツテ ヰル　ノ　モ　キレイ デ　ゴザイマス　ガ、 赤ムラサキ　ヤ　赤= ≪p018≫ チヤイロ　ノ　ワカバ　ノ　出ル　トキ　ハ、 マコトニ　ウツクシウ　ゴザイマス。 マンゴ　ノ　ミ　ハ　オイシウ　ゴザイマス。シ= カシ　アマリ　タクサン　タベタリ、マダ　ヨク ジユクサナイ　ノ　ヲ　タベテ　ハ　イケマセン。 キヨ年　ノ　コト　デス、オトウト　ガ　マンゴ ヲ　トリ　ニ　上ツテ、木　カラ　オチタ　コト ガ　アリマス。 ≪p019≫ 九　コルネリヤ ムカシ　ローマ　ニ　コルネリヤ　ト　イフ　ミ= ブン　ノ　タカイ　女　ガ　アリマシタ。二人 ノ　男ノ子　ハ　ドチラ　モ　リコウナ　上　ニ、 カラダ　ガ　ジヨウブ　デ　ゴザイマシタ。 アル　日、コルネリヤ　ハ　カネモチ　ノ　ト= モダチ　ヲ　タヅネマシタ。ソノ　トモダチ ハ　ウツクシイ　キモノ　ヲ　キテ、タイソウ ≪p020≫ ゼイタク　ニ　クラシテ　ヰマシタ。 ゴチソウ　ガ　スム　ト、コルネリヤ　ノ　ト= モダチ　ハ、ダイヤモンド　ヤ　ルビー　ヤ イロイロナ　ホウセキ　ヲ　見セテ、 「アナタ　モ　リツパナ　ホウセキ　ヲ　タク= サン　オモチ　デ　ゴザイマセウ。」 ト　イヒマシタ。コルネリヤ　ハ 「私　ハ　タカラ　ノ　タマ　ハ　一ツ　モ　モツ= ≪p021≫ テ　ヲリマセン。タダ　コノ　子ドモ　二人　ガ、 一バン　タイセツナ　タカラ　デ　ゴザイマス。」 ト　コタヘマシタ。 十　タケ 四五日　マヘ　ニ　アタマ　ヲ　出シタ　タケ= ノコ　ガ、モウ　コンナ　ニ　ノビマシタ。コレ カラ　二三日　タツタラ、マダ　ズツト　タカク ナリマセウ。ダンダン　ノビル　ト、タケノカハ ≪p022≫ ガ　オチテ、リツパナ　竹　ニ　ナリマス。ア= タラシイ　竹　ハ　青青ト　シテ、マコトニ　ウ= ツクシイ　モノ　デス。 日本　ノ　竹　ハ　ゴチラ　ノ ≪p023≫ ヨリ　モ　リツパ　デ、サマザマナ　ヤク　ニ 立チマス。ダイ一　タケノコ　ガ　タベラレマス。 タケノカハ　ハ　モノ　ヲ　ツツム　ノ　ニ ツカヒマス。フデ　ノ　ジク、モノサシ　フエ ツヱ　カゴ　ナド、ミナ　竹　デ　ツクリマス。 竹馬　モ　竹　デ　ツクリ、タコ　ノ　ホネ　モ 竹　デ　ツクリマス。 モノホシザヲ　ニモ、コツキ　ノ　サヲ　ニモ、 ≪p024≫ センドウ　ガ　舟　ヲ　ヤル　サヲ　ニモ、竹 ヲ　ツカヒマス。竹　ノ　ツカヒミチ　ハ　マ= ダマダ　タクサン　アリマス。 十一　メーデー 才花　ハ　ガツコウ　カラ　カヘツテ　クル　ト、 スグニ　ネエサン　ヲ　タヅネテ、 「ネエサン、メーデー　ト　イフ　ノ　ハ　ナン ノ　コト　デ　ゴザイマス　カ。」 ≪p025≫ ト　キキマシタ。 「メーデー　デス　カ。ソレ ハ　五月一日　ニ　スル オマツリ　ノ　コト　デス。 アス　ハ　チヨウド　ソノ 日　デス。」 ト、アネ　ハ　コタヘマシタ。 「先生　ガ、アス　ハ　メー= ≪p026≫ デー　デス　カラ、コウエン　ヘ　ツレテ　イツテ アゲマス　ト　オツシヤイマシタ　ガ、コウエン デ　ナニ　ヲ　スル　ノ　デ　ゴザイマス　カ。」 「アス　ハ　コウエン　ニ　メーポール　ト イフ　キレイナ　サヲ　ヲ　立テテ、ソノ マハリ　ニ　イロイロナ　ウツクシイ　ナリ ヲ　シタ　子ドモ　ガ　ダンス　ヲ　ヲドル ノ　デス。一ツ　ノ　ガツコウ　カラ　一人 ≪p027≫ ヅツ　ノ　メークイーン　ヲ　出ス　ノ　デス。 才花　サン　ノ　ガツコウ　カラ　ハ、ダレ ガ　出マス　カ。」 「アア、ソノ　コト　デ　ゴザイマス　カ。コノ アヒダ　オトヨ　サン　ガ　ナル　ト　イツテ イラツシヤイマシタ。ソレ　カラ　私　ノ　ガツ= コウ　ノ　四年　ノ　女セイト　ガ、テフテフ ノ　スガタ　ヲ　シテ　出ル　サウ　デス。」 ≪p028≫ 「ソレデハ　タイソウ　ウツクシウ　ゴザイ= マセウ。アス　ハ　ネエサン　モ　一シヨ　ニ 見　ニ　イキマセウ。」 十二　ミギ　ト　ヒダリ ムカシ　ミナモト　ノ　ヨシイヘ　ト　イフ タイシヨウ　ガ　イクサ　ニ　イツタ　トキ、 夕ハン　ニハ、ケライ　ノ　人　ヲ　右　ト 左　ニ　ワケテ　スワラセマシタ。ソノ　日 ≪p029≫ ノ　イクサ　ニ　テガラ　ノ　アツタ　モノ　ヲ 左　ノ　方　ニ　ナラベテ、アマリ　ハタラキ ノ　ナカツタ　モノ　ヲ　右　ノ　方　ニ　ナ= ラベタ　ノ　デス。 右　ノ　方　ノ　ナカマ　ニ　ハイル　ノ　ハ、ダ= レ　モ　イヤ　デス　カラ、ミンナ　ガ　フンパ= ツスル　ヨウ　ニ　ナリマシタ。ソレデ　イツデ= モ、イクサ　ニ　カツタ　ト　イフ　コト　デス。 ≪p030≫ 十三　四方 日　ノ　出ル　方　ガ　東 デ、日　ノ　ハイル　方　ガ 西　デス。 アサ日　ニ　ムカツテ、手 ヲ　ヒロゲテ　ゴラン　ナ= サイ。右　ノ　手　ノ　サス　方　ガ　南　デ、 左　ノ　手　ノ　サス　方　ガ　北　デス。 ≪p031≫ 東　ト　西　ト　南　ト　北　ヲ　四方　ト イヒマス。 十四　ヤモリ ゴラン　ナサイ、アソコ　ニ　ヤモリ　ガ　ヰ= マス。ヤモリ　ハ　ヒルマ　ハ　イタ　ノ　カゲ ヤ、木　ノ　皮　ノ　アヒダ　ナド　ニ　カクレ= テ　ヰマス　ガ、夕方　ニ　ナツテ、ソト　ガ ダンダン　クラク　ナル　ト、ソロソロト　出= ≪p032≫ テ　キマス。サウシテ　カ　ヤ　アリ　ヤ　クモ ナド、ワルイ　虫　ヲ　トツテ　タベマス。 マド　ヤ　カベ　ニ　上ツタリ、イヘ　ノ　中 ヘ　ハイツテ、天ジヨウ　ヲ　ハツタリ　シマス ガ、人　ニハ　スコシ　モ ガイ　ヲ　イタシマセン。 ムカシ　ハ　コノ　虫　ヲ カミサマ　ト　シテ、ヲ= ≪p033≫ ガンデ　ヰタ　サウ　デス。 十五　ガツコウ　ヘ　モツテ　イク　モノ モウ　ジカン　ニ　ナリマシタ。サア、ガツコウ ヘ　行キマセウ。ガツコウ　ヘ　モツテ　行ク モノ　ハ、ミンナ　バツグ　ノ　中　ニ　入レテ アリマス。ホカ　ニ　マダ　ダイジナ　モノ　ガ 三ツ　アリマス。 ダイ一　ニハ　目　デス。コレ　デ　本　ノ　中 ≪p034≫ ノ　ジ　ヤ　ヱ　ヤ、先生　ノ　見セテ　下サル イロイロナ　モノ　ヲ　見ル　ノ　デス。 ダイ二　ニハ　耳　デス。コレ　ガ　ナケレバ、 先生　ノ　オツシヤル　コト　ヤ、ミンナ　ノ 言フ　コト　ガ　ワカリマセン。 私　ハ　ヨル　ヨク　ネムリマス　カラ、目　ハ イツモ　ハツキリシテ　ヰテ、ヨク　見エマス。 耳　モ　ヨク　キコエテ、キキオトス　ヨウ　ナ ≪p035≫ コト　ハ　アリマセン。 ダイ三　ニハ　口　デス。ナニ　ヲ　キカレテ　モ、 コノ　口　デ　ハツキリ　コタヘマス。ケレドモ ソノ　ホカ　ニ　ヨケイナ　コト　ハ　言ヒマセン。 十六　ワシントン　ノ　シヨウジキ ワシントン　ガ　六ツ　ノ　トキ　デシタ、父 カラ　手ヲノ　ヲ　一チヨウ　モラヒマシタ。 ヨロコンデ　ニハ　ヘ　出テ、ナニ　カ　切ツテ ≪p036≫ 見ヨウ　ト、一本　ノ　サクラ　ノ　木　ヲ 切リタフシマシタ。 ソレ　ハ　父　ノ　一バン　大切　ニ　シテ　ヰ= タ　サクラ　ノ　木　デシタ。父　ハ　シバラク シテ　ニハ　ヘ　出テ、コノ　アリサマ　ヲ 見マシタ　ノ　デ、ワシントン　ヲ　ヨンデ、 「オマヘ　ハ　ダレ　ガ　コノ　木　ヲ　切ツタ カ、シツテ　ヰル　カ。」 ≪p037≫ ト　トヒマシタ。ワシントン　ハ　父　ノ　コ= トバ　ヲ　キイテ、 ハジメテ　ワルイ コト　ヲ　シタ　ト、 キ　ガ　ツイテ、 「ソレ　ハ　私　デ ゴザイマス。オト= ウサン　カラ　イ= ≪p038≫ タダイタ　ヲノ　ヲ　タメサウ　ト　オモツテ、 ツイ　アヤマチ　ヲ　イタシマシタ。」 ト　ワビマシタ。父　ハ　ワシントン　ヲ　ダ= キアゲテ、 「オマヘ　ノ　シヨウジキナ　ノ　ハ　ナニ　ヨリ モ　ウレシイ。ワタシ　ノ　スキナ　木　ナド ハ、ミンナ　ナク　ナツテ　モ　ヲシク　ナイ。」 ト　言ツタ　サウ　デス。 ≪p039≫ 十七　オヒヤ ミナサン　ガ　オヒヤ　ト　イツテ　ヰル　ク= ダモノ　ハ　オヒヤアイ　ト　イフ　モノ　デス。 コレ　ヲ　山リンゴ　ト　イフ　人　モ　アリ= マス。 オヒヤ　ハ　水　ノ　多イ　トコロ　ニ　ヨク ソダチマス。ソレ　ユヱ、雨　ノ　タクサン フル　トコロ　カ、川　ノ　ホトリ　ナド　ニ ≪p040≫ シゲツテ　ヰマス。 ミドリ　ノ　ハ　ノ アヒダ　ニ、赤イ ミ　ノ　ナツテ　ヰ= ル　木　ハ、キツト オヒヤ　デス。 オヒヤ　ノ　ミ　ハ　リンゴ　ヨリ　モ　少シ 小サウ　ゴザイマス。ソト　カラ　見タ　トコロ ≪p041≫ デハ、アマリ　オイシサウ　デモ　アリマセン ガ、サツパリシタ　ヨイ　アヂ　デス。 十八　カヘル カヘル　ハ　ヲカ　ニ　ヰル　トキ　ニハ、大= キナ　目　ヲ　シテ、手　ヲ　ツイテ　スワツテ ヰマス。 トンボ　ナド　ガ　アタマ　ノ　上　ヲ　トビ= マハツテ　モ、見ムキ　モ　シマセン。小サナ ≪p042≫ 虫　ガ　マヘ　ヘ　クル　ト、パクツト　クツテ、 ヘイキナ　カホ　ヲ　シテ　ヰマス。 オモヒ出シタ　ヨウ　ニ、ザブント 水　ノ　中　ヘ　トビコミマス。水 ノ　中　デハ、アト足　デ　水　ヲ カキ　ナガラ、アチラ　コチラ　ヘ オヨギマハリマス。 マタ　サカサマ　ニ　ナツテ、下 ≪p043≫ ヘ　モグツテ、シバラク　タツ　ト、ヒトリデ ニ　ウカブ　ヨウ　ニ　シテ、水　ノ　上　ヘ 出テ　キマス。 水　ノ　上　デ　足　ヲ　ノバシテ、ボンヤリ ウカンデ　ヰル　コト　モ　アリマス。 人　ヤ　犬　ナド　ハ、水　ノ　中　ニ　ナガク ヰル　コト　ハ　デキマセン。コヒ　ヤ　フナ　ナド ハ、水　カラ　出ル　ト、シンデ　シマヒマス。 ≪p044≫ カヘル　ハ　水　ノ　中　ニモ、ヲカ　ノ　上 ニモ、スム　コト　ガ　デキル　ノ　デス。 十九　カヘル　ト　クモ シダレヤナギ　ニ トビツク　カヘル、 トンデ　ハ　オチ、 オチテ　ハ　トビ、 オチテ　モ、オチテ　モ、 ≪p045≫ マタ　トブ　ホド　ニ、 トウトウ　ヤナギ　ニ トビツイタ。」 風　フク　小エダ　ニ ス　ヲ　ハル　小グモ、 ハツテ　ハ　キレ、 キレテ　ハ　ハリ、 キレテ　モ、キレテ　モ、 ≪p046≫ マタ　ハル　ホド　ニ、 トウトウ　小エダ　ニ ス　ヲ　ハツタ。」 二十　カヘル　ノ　母 アル　日、一ピキ　ノ　牛　ガ　マキバ　デ 草　ヲ　クツテ　ヰル　ト、ソノ　マハリ　ニ 五六ピキ　ノ　カヘル　ノ　子　ガ　アソンデ ヰマシタ。スルト　ソノ　中　ノ　一ピキ　ガ、 ≪p047≫ 牛　ノ　足　ニ　フマレテ　シニマシタ。 ホカ　ノ　カヘル　ハ　タイソウ　オドロイテ、 大イソギ　デ　ウチ　ヘ　カヘリ、母　ニ　ソノ コト　ヲ　ハナシテ、 「私　ドモ　ノ　ニイサン　ヲ　コロシタ　モノ ハ、私　ドモ　ガ　コレ　マデ　見タ　コト　ノ ナイ、大キナ　カラダ　ヲ　シテ　ヰマシタ。」 ト　言ヒマシタ。 ≪p048≫ カヘル　ノ　母　ハ　ハラ　ヲ　セイイツパイ 大キクシテ、 「コンナ　ニ　大キカツタ　カ。」 ト　タヅネマシタ。 「イエ　イエ、ソレ　ドコロ　デハ　アリマセン。 モツト　モツト　大キウ　ゴザイマシタ。」 ト　コタヘマシタ。 カヘル　ノ　母　ハ　デキル　ダケ　大キク　ス= ≪p049≫ ル　ツモリ　デ、力　一パイ　ハラ　ヲ　フク= ラセマシタ。トウトウ　ポント　音　ガ　シテ、 ハラ　ノ　皮　ガ　ヤブレテ　シマヒマシタ。 二十一　ハイ　今　スグニ ハツ　ニ　ナル　女ノ子　ガ　アリマシタ。何 ヲ　言ヒツケラレテ　モ、 「ハイ、今　スグニ。」 ト　言ヒ　ナガラ、ナカナカ　トリカカリマセン。 ≪p050≫ 毎日　ノ　ゴハンドキ　ニモ、 「ハイ、今　スグニ。」 ト　言ツテ、ナカナカ　スグニ ハ　マヰリマセン。 「ハヤク　オサラヒ ヲ　ナサイ。」 ト　言ハレテ　モ、 「ハイ、今　スグニ。」 ≪p051≫ ト　コタヘル　バカリ　デス。 アル　日、母　ガ 「早ク、早ク。」 ト　ヨビマシタ　ガ、イツモ　ノ　トホリ、 「ハイ、今　スグニ。」 ト　言ツテ、スグニ　ハ　キマセン　デシタ。 ソノ　中　ニ、トナリ　ノ　ネコ　ガ、ダイジナ キンギヨ　ヲ　トツテ、ニゲテ　行キマシタ。 ≪p052≫ 二十二　ウミ 海　ノ　水　ガ　青青ト　シテ、ドコ　マデ　モ ツヅイテ　ヰマス。トホク　ノ　方　デハ　青= ゾラ　ト　一シヨ　ニ　ナツテ　ヰル　ヨウ　ニ 見エマス。 今日　ハ　ナミ　ガ　オダヤカ　デ、舟　ガ　タク= サン　オキ　ヘ　出テ　ヰマス。ホ　ヲ　カケテ ヰル　ノ　モ　アリ、カケテ　ヰナイ　ノ　モ　ア= ≪p053≫ リマス。クロイ　ケムリ　ヲ 出シテ　ハシツテ　行ク　キ= セン　モ　アリマス。左　ノ 方　ニ　ハナレバナレ　ニ ナツテ　ヰル　ノ　ハ、魚　ヲ ツツテ　ヰル　舟　デセウ。 ハマベ　ノ　ヤシ　ノ　木 ノ　下　ヘ　行ツテ　見マ= ≪p054≫ セウ。アソコ　ニハ　ウツクシイ　カヒ　ヤ 小石　ガ　タクサン　アリマス。 二十三　シホ 海　ノ　水　ヲ　見タ　バカリ　デハ、ソノ　中 ニ　シホ　ノ　アル　コト　ヲ　キヅク　モノ ハ　アリマセン。シカシ　ソノ　水　ヲ　ナメテ ミテ　カライ　ノ　ハ、ソノ　中　ニ　シホ　ガ アル　カラ　デス。 ≪p055≫ 日本　デハ　シホ　ヲ　コシラヘル　トコロ　ガ 方方　ニ　アリマス。シホ　ヲ　コシラヘル　ト= コロ　ヲ　シホハマ　ト　申シマス。シホハマ ニハ　ヒロイ　スナハマ　ト、シホ　ヲ　ヤク 小ヤ　ガ　アリマス。 ソラ　ノ　ハレタ　日　ニ、シホハマ　ヘ　行ツ= テ　見ル　ト、五六人　ノ　人　ガ、海　ノ　水 ヲ　クンデ　ハ　スナ　ニ　カケテ　ヰマス。スナ ≪p056≫ ニ　カケタ　水　ハ　ダンダン　カワイテ、スナ ノ　上　ニ　シホ　ガ　ノコル　ノ　デス。ソノ スナ　ヲ　ヨセアツメテ、マタ　水　ニ　入レテ シホ　ヲ　トカシマス。ソレ　ヲ　大キナ　カマ ノ　中　デ　タク　ト、水　ハ　シダイ　ニ　ナク ナツテ、白イ　シホ　ガ　デキル　ノ　デス。 雨　ノ　タクサン　フル　トコロ　デハ、シホ ハ　コシラヘマセン。 ≪p057≫ 夕方　シホハマ　ノ　小ヤ　カラ、シホ　ヲ　タク ケムリ　ガ、シヅカニ　空　ニ　上ツテ　行ク　ノ ハ、見テ　モ　キモチ　ノ　ヨイ　モノ　デス。 シホ　ニハ　ガンエン　ト　イツテ、山　カラ 出ル　ノ　ガ　アリマス。 二十四　カニ 白イ　スナ　ノ　上　ニ、ナミ　ガ　シヅカニ ウチヨセテ　ヰマス。ムカフ　ノ　岩　ノ　ア= ≪p058≫ ヒダ　カラ　カニ　ガ　出テ　キマシタ。 岩　ノ　上　デハ　シヅカニ　ア= ルイテ　ヰマシタ　ガ、スナ　ノ 上　ヘ　クル　ト、イソイデ　ハ= シリハジメマシタ。アレ、アノ ヨコ　ヘ　ヨコ　ヘ　ト　ハシル ヨウス　ガ　オモシロイ　デハ アリマセン　カ。 ≪p059≫ アノ　スナ　ノ　小サナ　穴　カラ　モ　一ピキ ノゾイテ　ヰマス。ソノ　トナリ　ノ　穴　カラ モ　一ピキ　出テ、アタリ　ヲ　見テ　ヰマス。 ナミウチギハ　デハ　大キナ　カニ　ト　小サナ カニ　ガ、何　カ　ハナシ　ヲ　シテ　ヰル　ヨ= ウ　デス。大キナ　波　ガ　ウチヨセテ　キタ ノ　デ、二ヒキ　トモ　見エナク　ナリマシタ。 キツト　海　ノ　中　ヘ　ツレテ　行カレテ、 ≪p060≫ 今ゴロ　ハ　波　ノ　ソコ　ノ　スナ　ノ　上 ヲ　ハシツテ　ヰル　ノ　デセウ。 二十五　カヒ 日本　カラ　イラツシヤツタ　ヲ= ヂサン　ノ　オミヤゲ　ニ、コン= ナ　ニ　タクサン　貝　ヲ　イタ= ダキマシタ。ミンナ　メヅラシイ 貝　バカリ　デス。大キイ　ノ　モ、 ≪p061≫ 小サイ　ノ　モ　アリマス。ハマ= グリ　ノ　ヨウ　ニ、二ツ　アフ ノ　モ　アリマス　ガ、サザエ　ノ ヨウ　ニ、フカイ　ツボ　ノ　カ= タチ　ニ　ナツテ　ヰル　ノ　モ アリマス。アハビ　ノ　貝　ノ　ヨ= ウ　ニ、一ツ　デ　ヒラタイ　ノ モ　アリマス。 ≪p062≫ ゴラン　ナサイ。コノ　貝ガラ　ハ　カタツムリ ノ　ヨウ　ニ、オモテ　ニ　ウヅマキ　ガ　ア= リマス。ソノ　ウヅマキ　ニ、右　カラ　左　ヘ マハツテ　ヰル　ノ　ト、左　カラ　右　ヘ　マ= ハツテ　ヰル　ノ　ト、二イロ　アリマス。私 ハ　ヲヂサン　ニ、 「ドコ　デ　コンナ　ニ　タクサン　オヒロヒ ニ　ナリマシタ。」 ≪p063≫ ト　申シマシタラ、 「イイエ、コレ　ハ　ヒロツタ　ノ　デハ　ナイ。 貝ザイク　ヲ　賣ル　ミセ　デ　買ツテ　キ= タ　ノ　デス。」 ト　オツシヤイマシタ。 二十六　ウラシマ　ノ　ハナシ　（一） ムカシ　ウラシマ　ト　イフ　人　ガ　アリマ= シタ。 ≪p064≫ アル　日、海ベ　ヘ　行= ツテ　見ル　ト、子ドモ ガ　大ゼイ　デ　カメ　ヲ ツカマヘテ、オモチヤ　ニ シテ　ヰマス。ウラシマ　ハ カハイサウ　ニ　オモツテ、 子ドモ　カラ　ソノ　カメ ヲ　買ツテ、海　ヘ　ハナ= ≪p065≫ シテ　ヤリマシタ。 ソレ　カラ　二三日　タツテ、ウラシマ　ガ　舟 ニ　ノツテ　ツリ　ヲ　シテ　ヰル　ト、大キナ カメ　ガ　出テ　キテ、 「ウラシマ　サン、コノ　アヒダ　ハ　アリガ= タウ　ゴザイマシタ。オレイ　ニ　リウグウ ヘ　ツレテ　行ツテ　アゲマセウ。私　ノ セナカ　ヘ　オノリ　ナサイ。」 ≪p066≫ ト　言ヒマス。ウラシマ　ガ　ヨロコンデ、カメ ニ　ノル　ト、カメ　ハ　ダンダン　ウミ　ノ 中　ヘ　シヅンデ　行ツテ、マモナク　リウグウ ノ　門　ヘ　ツキマシタ。 リウグウ　ノ　オトヒメ　ハ　ウラシマ　ノ キタ　ノ　ヲ　ヨロコンデ、毎日　イロイロナ ゴチソウ　ヲ　シタリ、サマザマ　ノ　アソビ ヲ　シタリ　シテ　見セマシタ。 ≪p067≫ ウラシマ　ハ　オモシロガツテ、ウチ　ヘ　カ= ヘル　ノ　モ　ワスレテ　ヰマシタ。 二十七　ウラシマ　ノ　ハナシ　（二） ソノ　中　ニ　カヘリタク　ナツタ　カラ、アル 日　オトヒメ　ニ、 「イロイロ　オセワ　ニ　ナツテ、アリガタウ ゴザイマス　ガ、アマリ　ナガク　ナリマス カラ、モウ　ウチ　ヘ　カヘリマセウ。」 ≪p068≫ ト　言ヒマシタ。 オトヒメ　ハ、 「マコトニ　オナゴリヲシイ　コト デ　ゴザイマス。ソレデハ　オワ= カレ　ノ　シルシ　ニ、コノ　ハコ ヲ　アゲマス。ドンナ　コト　ガ アツテ　モ、コノ　フタ　ヲ　オ= アケ　ナサイマス　ナ。」 ≪p069≫ ト　言ツテ、キレイナ　ハコ ヲ　ワタシマシタ。 ウラシマ　ハ　ハコ　ヲ モラツテ、マタ　カ= メ　ノ　セナカ　ニ ノツテ、海　ノ　上 ヘ　出テ　キマシタ。 ウチ　ヘ　カヘツテ ≪p070≫ 見ル　ト、オドロキマシタ、父　モ　母　モ シンデ　シマツテ、ジブン　ノ　ウチ　モ　何 モ　アリマセン。トモダチ　モ　ミンナ　ヰナク ナツテ、シツテ　ヰル　モノ　ハ　一人　モ　ア= リマセン。カナシクテ　カナシクテ　タマリマ= セン　カラ、オトヒメ　ノ　言ツタ　コト　モ ワスレテ、ハコ　ヲ　アケル　ト、中　カラ 白イ　ケムリ　ガ　出テ、ウラシマ　ハ　ニハ= ≪p071≫ カニ　オヂイサン　ニ　ナツテ　シマヒマシタ。 こ　まご　ひこ うし　うま はと　まめ 二十八　私　ドモ　ノ　コウチ ワタクシ　ドモ　ノ　キンジヨ　ハ　キビバタケ バカリ　デ、ウチ　ハ　アリマセン。コウチ　ノ マン中　ニ　アル　ノ　ハ、サトウ　ノ　セイ= ≪p072≫ ゾウバ　デ、ココ　デハ　一バン　大キナ　タ= テモノ　デ　ゴザイマス。 ソノ　トナリ　ニハ　イウビンキヨク　ト　ビ= ヨウイン　ガ　アリマス。イウビンキヨク　ノ ヨコ　ヲ　西　ヘ　マガツテ、少シ　行ク　ト、 キヤンプ　ガ　ナランデ　ヲリマス。ソノ　ア= ヒダ　ヲ　トホツテ、ヤハリ　西　ヘ　ススム ト、テイシヤバ　ニ　出マス。 ≪p073≫ テイシヤバ　ノ　アタリ　ハ　マチ　ノ　ヨウ ニ　ナツテ　ヰマシテ、クスリヤ　ザツカミセ リハツテン　ナド　ガ　アリマス。キシヤ　ハ ヒルマヘ　ニ　三ド　ト、ヒルカラ　三ド　ト= ホリマス。一バン　シマヒ　ニ　トホル　ノ　ガ、 五ジハン　デス　カラ、ソレ　ガ　トホル　ト、 モウ　ヨル　ニ　ナル　ト　言ツテ、アソンデ ヰタ　子ドモ　ハ　ミンナ　ウチ　ヘ　カヘリ= ≪p074≫ マス。 私　ドモ　ノ　コウチ　ニハ、日本　ノ　ヰナカ ノ　ヨウ　ニ、タクサンナ　田　ヤ　ヤサイバ= タケ　ハ　アリマセン。 おてら　はし　くるま たて　よこ 二十九　山　ノ　上　ノ　見ハラシ タニ　ノ　ソコ　カラ　空　ヲ　見アゲル　ト、 ≪p075≫ ヒロイ　空　モ　セマク　見エマス。山　ヘ　上= ツテ　見ル　ト、ヒロビロト　四方　ガ　見ワ= タサレテ、何　トモ　イヘナイ　ヨイ　心モチ ニ　ナリマス。 今　マデ　大キイ　ト　オモツテ　ヰタ　ガツ= コウ　モ、オテラ　モ、ギンコウ　モ、カイシ= ヤ　モ、ミンナ　マツチバコ　ノ　ヨウ　ニ 小サク　ナリマス。アノ　シロ　ノ　ヨウ　ナ ≪p076≫ シユガーミル　モ、オムスビ　グラヰ　ニ　ナ= ツテ　シマヒマス。ノビ上ツテ　モ、サキ　ノ 見エナカツタ　大木　ガ、ハシ　ヲ　立テタ　グ= ラヰ　ニ　シカ　見エマセン。人　モ、イヌ モ、アリ　ガ　アルイテ　ヰル　ヨウ　ニ　見= エマス。 山　ヘ　上ツテ　見ル　ト、 コレ　マデ　シレナカツタ ≪p077≫ トチ　ノ　ヨウス　ヤ、方= ガク　ノ　コト　ガ、ヨク ワカツテ　キマス。ムネ ノ　中　モ　何　ト　ナク ヒロビロト　シテ、ジブン ガ　一バン　エラク　ナツ= タ　ヨウ　ナ　キ　ガ　シ= マス。ケレドモ　下リテ ≪p078≫ クル　ト、今　マデ　小サク　見エテ　ヰタ モノ　ガ、スグ　大キク　ナツテ　シマヒマス。 オトウサン　ニ、「イツモ　山　ノ　上　デ　見= ハラシテ　ヰル　ヨウ　ナ　心モチ　デ　ヰタ= イ」　ト　申シマシタラ、オトウサン　ハ、「ソレ ニハ、木　ノ　ネ　ガ　アツテ　モ、岩　ノ　カ= ド　ガ　出テ　ヰテ　モ、カマハズ　山　ニ 上ル　ノ　ト　オナジ　心　デ、毎日　ベンキ= ≪p079≫ ヨウシ　ナサイ。」ト　ヲシヘテ　下サイマシタ。 せんせい　せいと くろだ　よしだ　みうら こじま　こんどう　いとう （一）ミナサン、山アソビ　ヲ　シタ　トキ ニハ、ドンナ　ニ　オナカ　ガ　スイタ デセウ。 （二）ウチ　ヘ　カヘツタ　トキ　ハ、サゾ　クタ= ≪p080≫ ビレタ　デセウ。オユ　ノ　中　デ　ヰネ= ムリ　ヲ　シタリ、夕ハン　ヲ　タベ　ナ= ガラ、アクビ　ヲ　シタリ　シマセン　デ= シタ　カ。 （三）ミナサン、山　ハ　ドウシテ　デキタ　カ、 シツテ　ヰマス　カ。 （四）山　カラ　カヘル　ミチ　デ、何　ヲ　ト= ツテ　キマシタ　カ。 ≪p081≫ いぬ　が　わんわんと　なく。 うま　が　ひんひんと　なく。 すずめ　が　ちうちうと　なく。 三十　フジ山 タカイ　山　ハ　タクサン　アリマス　ガ、日= 本　ノ　フジ山　ホド、ウツクシクテ　カタチ ノ　ヨイ　山　ハ、ホカ　ニハ　アリマセン。 チヨウジヨウ　ニハ　一年中　雪　ガ　アリマス。 ≪p082≫ ヨク　ハレタ　日　ニ、トホク カラ　ナガメル　ト、青イ　空 ヘ、白イ　アフギ　ヲ　カケタ ヨウ　ニ　見エマス。シカシ タイテイ　ハ　雲　ガ　カカ= ツテ　ヰテ、山　ノ　スガタ ノ　ハツキリ　見エル　日　ハ スクナウ　ゴザイマス。 ≪p083≫ 七月　八月　ノ　コロ　ハ、方= 方　カラ　山上リ　ニ　キテ、 一日　ニ　何百人　ト　ナク、 コノ　山　ヘ　上リマス。 三十一　日本一　ノ　山 アタマ　ヲ　雲　ノ　上　ニ　出シ、 四方　ノ　山　ヲ　見オロシテ、 カミナリ　サマ　ヲ　下　ニ　キク、 ≪p084≫ フジ　ハ　日本一　ノ　山。」 青空　タカク　ソビエタチ、 カラダ　ニ　雪　ノ　キモノ　キテ、 カスミ　ノ　スソ　ヲ　トホク　ヒク、 フジ　ハ　日本一　ノ　山。」 三十二　フジ　ノ　マキガリ ムカシ　ミナモト　ノ　ヨリトモ　ガ　ケライ ヲ　ツレテ、フジ　ノ　スソノ　デ　マキガリ ≪p085≫ ヲ　シマシタ。大ゼイ　ノ　モノ　ガ　下　ニ マチカマヘテ　ヰテ、タカイ　トコロ　カラ オヒオロシテ　クル　ケモノ　ヲ、弓　デ　イト= ツタ　ノ　デス。ハジメ　ノ　日　モ、ツギ　ノ 日　モ、タクサン　エモノ　ガ　アリマシタ。 三日目　ノ　クレガタ　ノ　コト　デス、矢　ニ アタツタ　ヰノシシ　ガ、上　ノ　方　カラ ヨリトモ　ノ　ヰル　方　ヘ　カケ下リテ　キ= ≪p086≫ マシタ。牛　ホド　モ　アル　大キナ　ヰノシ= シ　デ、キバ　ヲ　ムキ出シテ、ハナイキ　ヲ アラクシテ、土ケムリ　ヲ　立テテ、トンデ キマス。早クテ　早クテ、トテモ　弓矢　デハ イトレマセン。 コノ　トキ　ヨリトモ　ノ　ソバ　ニ　ヰタ、ニ= タン　ノ　四ロウ　タダツネ　ト　イフ　ブシ ガ、弓矢　ヲ　ナゲステテ、馬　ヲ　トバシテ、 ≪p087≫ ソノ　テオヒジシ　ニ　ムカ= ヒマシタ。ヰノシシ　ハ　マ= ツスグ　ニ　タダツネ　ノ　方 ヘ　下リテ　キマス。 スレチガツタ　トキ ニ、タダツネ　ハ　馬 カラ　ヰノシシ　ノ セナカ　ヘ　ウシロ= ≪p088≫ ムキ　ニ　トビウツリマシタ。ヰノシシ　ハ　マ= スマス　アバレテ　カケ下リマス。タダツネ　ハ シツカリト　ヲ　ヲ　ニギツテ、ノツテ　ヰマス。 モウ　少シ　デ　ヨリトモ　ノ　チカク　ヘ　ク= ル　カ　ト　オモフ　ト、タダツネ　ハ　コシ ノ　刀　ヲ　ヒキヌイテ、ツヅケテ　五サシ　六= サシ　サシトホシマシタ。ヰノシシ　ハ　ドツト タフレマシタ　ガ、タフレル　ガ　早イ　カ、 ≪p089≫ タダツネ　ハ　スグニ　ソバ　ノ　タフレテ ヰタ　木　ノ　上　ヘ　トビノキマシタ。 ヨリトモ　ハジメ、ミンナ　ガ　タダツネ　ヲ ホメル　コヱ　ハ、山　モ　クヅレル　ホド デ　アツタ　ト　イヒマス。 ふじ　の　まきがり　みなもと　の　よりとも ゆみ　や　かたな ゐのしし　まへ　うしろ ≪p090≫ あいうえお かきくけこ　がぎぐげご さしすせそ　ざじずぜぞ たちつてと　だぢづでど なにぬねの はひふへほ　ばびぶべぼ ≪p091≫ まみむめも　ぱぴぷぺぽ やいゆえよ らりるれろ わゐうゑを ん ≪p092≫ いろはにほへとちりぬ るをわかよたれそつね ならむうゐのおくやま けふこえてあさきゆめ みしゑひもせす ≪p093≫ 三十三　タロ 日本人　が　米　を　たべる　よう　に、ハワイ の　土人　は　ポイ　と　いふ　もの　を、ふ= だん　の　たべもの　に　して　ゐます。ポイ は　タロ　の　ね　から　とる　の　で、タロ は　水田　に　うゑて　つくります。 タロ　は　高さ　が　二三じやく　ほど　に　の= びます。は　は　うすみどりいろ　で、みどり= ≪p094≫ いろ　に　きいろがかつた　花　が　さきます が、花　は　にほひ　も　なく、あまり　目立= ちません。ね　は　長さ　が　四すん　から 八すん、さしわたし　二すん　から　四すん　ぐ= らゐ　の　大きさ　に　そだちます。 ね　も、は　も、ただ　たべて　は　ゑがらう ございます　が、よく　りようり　を　する　と、 おいしく　なります。 ≪p095≫ この　ね　を　むして　ついた　の　が　ポイ です。ポイ　は　じようぶん　の　多い　たべ= もの　です。 三十四　天長せつ 十月三十一日　は　天長せつ　の　おいはひ日 です。天長せつ　と　いふ　の　は、てんのう= へいか　の　お生れ　に　なつた　日　を　申= します。てんのうへいか　は　八月三十一日　に ≪p096≫ お生れ　に　なりました　から、その　日　が 天長せつ　です。しかし　おいはひ日　は　十= 月三十一日　と　きまつて　ゐます。 この　日　は　日本中　は　いふ　まで　も なく、どこ　でも、日本人　の　をる　ところ では、おいはひ　を　しない　ところ　は　あ= りません。日のまる　の　こつき　が　あさ日 に　かがやいて　ゐる　の　は、いさましい　で= ≪p097≫ は　ありません　か。 みなさん　は　天長せつ　の　ほか　の　おい= はひ日　を　しつて　ゐます　か。しん年　と きげんせつ　が、日本　の　だいじな　おいは= ひ日　です。しん年　は　年　の　はじめ　の おいはひ日　で、きげんせつ　は　じんむてん= のう　が　ごそくい　の　しき　を　なさいま= した　おいはひ日　です。 ≪p098≫ どこ　の　國　でも、その　國　の　人　の　わ= すれて　は　ならない　大切な　日　を、その 國　の　おいはひ日　と　いたします。アメリカ では　どくりつさい　や　ワシントンさい　や クリスマス　が　大切な　おいはひ日　です。 三十五　手　の　ゆび おぢいさん「太郎、おまへ　は　手　の　ゆび　の　な を　しつて　ゐます　か。」 ≪p099≫ 太郎「一ばん　太い　の　が　おやゆび、一ばん 小さい　の　が　小ゆび　で、まん中　の 一ばん　高い　の　は、中ゆび　とも、高高= ゆび　とも　いひます。あと　の　二本　は しりません。」 おぢいさん「おやゆび　の　次　の　が　人さしゆび で、中ゆび　と　小ゆび　の　あひだ　の　が くすりゆび　です。」 ≪p100≫ この　はなし　を　きいて　ゐた　次郎　が、 「うち　の　にいさん　や　ねえさん　を　あは= せる　と、みんな　で　五人　です　から、か= た手　の　ゆび　の　かず　と　おなじ　です。」 三十六　よい　子ども ある　日、正一　は　ともだち　を　さそつて、 こうえん　へ　あそび　に　行かう　と　おも= ひました。ともだち　の　うち　へ　行つて ≪p101≫ 見る　と、ともだち　は　父母　の　手つだひ を　して、いそがしさう　に　はたらいて　ゐ= ました。正一　は　ともだち　の　じやま　を して　は　ならない　と、さそふ　の　を　や= めて、一人　で　あそび　に　行きました。 また　ある　とき、正一　が　うち　で　るす= ばん　を　して　ゐる　ところ　へ、ともだち が　きて、魚　を　つり　に　行かう　と　す= ≪p102≫ すめました。正一　は　行きたい　とは　おも= ひました　が、うち　を　あけて　は、じぶん の　つとめ　が　すまない　と　おもつて、と= もだち　に　わけ　を　はなして　ことわりま= した。ともだち　は 「それでは　私　も　行く　の　を　よしませう。」 と　言つて、正一　の　うち　で　あそんで かへりました。 ≪p103≫ 三十七　あきなひ　の　あそび おまつ　が　おとみ　と　あきなひ　の　あそ= び　を　して　ゐます。おまつ　の　みせ　には、 いと　や　きれ　や　えんぴつ　や　かみ　が ならべて　あります。 おとみ「その　糸　は　一まき　いくら　です　か。」 おまつ「十五せん　です。」 おとみ「それでは　それ　を　もらひませう。それ ≪p104≫ から　えんぴつ　を　見= せて　下さい。」 おまつ　は　太い　えん= ぴつ　と　細い　えんぴ= つ　を　出して、 「この　太い　の　が　一= 本　十せん　で、細い の　は　五せん　です。」 ≪p105≫ おとみ「その　細い　の　を　二本　下さい。みん= な　で　いくら　に　なります　か。」 おまつ　は　糸　と　えんぴつ　を　紙　に つつんで、わたし　ながら、 「糸　が　十五せん、えんぴつ　が　十せん、 みんな　で　二十五せん　に　なります。」 おとみ　は　まるく　切つた　白い　紙　を 三つ　出して、 ≪p106≫ 「三十せん　あげます　から、これ　で　とつ= て　下さい。」 おまつ　は　五せん　つり　を　わたして、 「毎ど　ありがたう　ございます。」 三十八　人くひぶか 魚るい　の　中　で、もつとも　おそろしい　の は　人くひぶか　です。人くひぶか　は　からだ の　色　が　まつ白　で、中　には　三十フイ= ≪p107≫ ート　ほど　の　長さ　の　もの　も　あります。 口　は　たて　に　さけて　ゐて、口　の　中 には　一インチ　ぐらゐ　の　は　が、ならんで はえて　ゐます。 ハワイ　の　土人　は、と= きどき　岩　の　上　の 水たまり　や 岩や　の　中 ≪p108≫ で、これ　を　とります　が、これ　は　ふか が　ねて　ゐる　の　を　見はからつて、水　の 中　に　はいり、ふか　の　を　に　わなは　を かけて、ひきずり上げ、すぐに　それ　を　こ= ろす　の　です。上手な　もの　に　なる　と、 かう　いふ　しかた　で、一日　に　六七ひき も　つかまへる　と　いふ　こと　です。 ふか　の　皮　は　たいこ　に　はり、は　や ≪p109≫ ほね　は　かざり　に　したり、いろいろな　う= つは　に　つくつたり　します。にく　も　たべ= ます　が、女　は　いやがつて　たべません。 ふか　には　人くひぶか　の　ほか　に、大ぶか 小ぶか　しゆもくぶか　など、しゆるい　が たくさん　あります。 三十九　さざえ　の　じまん ある　日、たひ　ひらめ　さば　たこ　など　が ≪p110≫ およいで　ゐる　と、さざえ　が　岩　の　か= げ　から　よびとめて、 「この　あひだ 大きな　ふか が　きた　とき に、君　ら　は ずいぶん　あわ= てました　ね。 ≪p111≫ ぼく　ら　は　かう　いふ　かたい　よろひ を　きて　ゐる　から、どんな　とき　でも、 この　中　へ　はいつて、内　から　戸　を しめて　ゐ　さへ　すれば　あんしんな　もの です。」 と　言つて、じまんばなし　を　しました。 その　うち　に、海　の　水　を　かきまはす よう　な　大きな　音　が　しました。さざえ ≪p112≫ は　すぐ　から　の　中　へ　ひつこんで、ふ= た　を　しめて、 「こんど　は　たひ　や　ひらめ　など　は きつと　やられた　に　ちがひ　ない。から の　ない　もの　は　かはいさうな　もの　だ。」 と　言つて、すまして　ゐました。 少し　たつて　から、そつと　ふた　を　あけ= て、外　を　見る　と、何　だ　か、ようす　が ≪p113≫ ちがつて　ゐます。これ　は　を= かしい　と　おもつて、よくよく 見る　と、そこ　は　さかなや の　みせ　で、そば　に　五せん と　かいた　ふだ　が　立てて　ありました。 四十　こくもつ 三郎　の　うち　では　夕はん　が　今　すんで、 みんな　あつまつて、色色な　はなし　を　して ≪p114≫ ゐます。 母　が　父　に、 「もう　すぐ　お正月　です　から、もち米　を よういしなければ　なりません。」 と　言ひます　と、三郎　は　それ　を　きいて、 「もち　に　する　米　と　ごはん　の　米　は どう　ちかひます　か。」 母「おもち　に　する　の　は　もち米　です。 ≪p115≫ ごはん　の　米　は　ねばりけ　が　少い から、おもち　には　なりません。」 その　とき　あね　の　おはる　は、 「三郎　さん　は　まだ　それ　を　知らなか= つた　の　です　か。それでは　うどん　や そうめん　は　何　で　つくります　か。」 三郎「知つて　ゐます　とも。むぎ　です。それ から　ぱん　を　つくる　の　も　むぎ　です。」 ≪p116≫ おはる「むぎ　には　大むぎ　と　小むぎ　が　あ= ります。うどん　や　そうめん　や　ぱん　を つくる　の　は　小むぎ　です。」 あに　の　次郎　が　また　よこ　から、 「こんど　は　にいさん　が　ききます　が、 もち　や　だんご　の　あん　は　何　で つくる　の　です　か。」 三郎「豆　です。」 ≪p117≫ 次郎「だんご　に　つける　こな　は。」 三郎「あれ　も　豆　です。」 次郎「それでは　あん　の　豆　と、だんご　に つける　こな　の　豆　と　おなじ　です か、ちがひます　か。」 三郎「それ　は　知りません。」 次郎「あん　に　する　の　は　あづき　と　いふ 豆　で、こな　に　する　の　は　大豆　と ≪p118≫ いふ　豆　です。」 父　は　三郎　の　あたま　を　なで　ながら、 「三郎　は　こんや　は　大そう　もの知り　に なつた　ね。」 と　言ひました。 四十一　とけい みなさん　は　とけい　の　見方　を　知つて ゐます　か。 ≪p119≫ みなさん　は　とけい　に　かいて　ある　字 が　よめます　か。 とけい　の　長い　はり　と　短い　はり　は どちら　が　早く　まはります　か。 とけい　が　なる　とき　に= は、長い　はり　は どこ　に　あります か。 ≪p120≫ みなさん　が　あさ　おきる　時　には、短い はり　が　どの　字　の　ところ　に　ありま= す　か。 みなさん　が　よる　ねる　時　には、短い はり　が　どの　字　の　ところ　に　ありま= す　か。 一日　の　中　には　何じかん　あります　か。 あなた　がた　は　何じかん　がつこう　に　ゐ= ≪p121≫ ます　か。 四十二　とけい　の　うた とけい　は　あさ　から かつちん　かつちん。 おんなじ　ひびき　で、 うごいて　をれども、 ちつとも　おんなじ 所　を　ささず　に、 ≪p122≫ ばん　まで　かうして、 かつちん　かつちん。」 とけい　は　ばん　でも かつちん　かつちん。 われ　ら　が　ねどこ　で、 休んで　をる　ま　も、 ちつとも　休まず、 いき　を　も　つがず　に、 ≪p123≫ あさ　まで　かうして、 かつちん　かつちん。」 四十三　ナゾ 木　ノ　ヨウ　ニ　カタイ　ガ、木　デハ　ア= リマセン。魚　ノ　ニホヒ　ガ　シマス　ガ、ア= タマ　モ、ヲ　モ　アリマセン。ヨク　人　ノ タベル　モノ　デス　ガ、ソノ　ママ　デ　ヤ= イタリ　ニタリ　シテ　タベル　ノ　デハ　ア= ≪p124≫ リマセン。チヨツト　見ル　ト、リツパ　デハ ナイ　ガ、オメデタイ　時　ノ　オクリモノ ニ　ナリマス。 今　ハ　死ンデ　ヰマス　ガ、モト　ハ　海　ノ 中　デ　オヨイデ　ヰマシタ。海　ニ　ヰタ 時　ヨリ　モ、今　ハ　少シ　長イ　名　ヲ モツテ　ヰマス。何　デセウ。アテテ　ゴラン ナサイ。 ≪p125≫ 四十四　白ウサギ　（一） 島　ノ　上　ニ　ヰタ　白ウサギ　ガ、ムカフ ノ　大キナ　ヲカ　ヘ　行ツテ　見タイ　ト　オ= モツテ、海　ヲ　ワタル　クフウ　ヲ　シテ　ヰ= マシタ。アル　日、ハマベ　ヘ　出テ　見ル　ト、 ワニザメ　ガ　ヰマシタ　カラ、 「オマヘ　ノ　ナカマ　ト　ワタシ　ノ　ナカマ ト、ドツチ　ガ　多イ　カ、クラベテ　見ヨウ。」 ≪p126≫ ト　言ヒマシタ。ワニザメ　ハ 「ソレ　ハ　オモシロカラウ。」 ト　言ツテ、スグニ　ナカマ　ヲ 大ゼイ　ツレテ　キマシタ。 白ウサギ　ハ　コレ　ヲ　見テ、 「ナルホド、オマヘ　ノ　ナカマ ハ　ズイブン　多イ。ワタシ タチ　ノ　方　ガ　少イ　カ　モ ≪p127≫ 知レナイ。オマヘ　タチ　ノ　セ= ナカ　ノ　上　ヲ　アルイテ、カ= ゾヘテ　見ル　カラ、ムカフ　ノ ヲカ　マデ、ナランデ　見　ヨ。」 ト　言ヒマシタ。 ワニザメ　ハ　白ウサギ　ノ　言フ　トホリ　ニ ナラビマシタ。白ウサギ　ハ　一ツ　二ツ　ト カゾヘテ、ワタツテ　行キマシタ　ガ、イマ　一= ≪p128≫ 足　デ　ヲカ　ヘ　上ラウ　ト　イフ　所　デ、 「オマヘ　タチ　ハ　ウマク　ワタシ　ニ　ダ= マサレタ　ナ。ワタシ　ハ　ココ　ノ　ヲカ ヘ　キタカツタ　ノ　ダ。」 ト　言ツテ　ワラヒマシタ。ワニザメ　ハ　ソレ ヲ　キク　ト、大ソウ　オコツテ、一バン　シ= マヒ　ニ　ヰタ　ノ　ガ、白ウサギ　ノ　毛　ヲ ミンナ　ムシリトツテ　シマヒマシタ。 ≪p129≫ 四十五　白うさぎ　（二） 白うさぎ　は　いたくて　たまりません　から、 はまべ　に　立つて、ないて　ゐました。そこ へ　神さま　がた　が　おとほりがかり　に なつて、 「なぜ　なく　の　か。」 と　おたづね　に　なりました。わけ　を　申= し上げます　と、 ≪p130≫ 「それなら　海　の　水　を　あびて、ねて ゐる　が　よい。」 と　おをしへ　に　なりました。 白うさぎ　は　すぐ　海　の　水　を　あびま= した　が、まへ　より　も、かへつて　いたく なつて、いよいよ　くるしがつて　ゐました。 そこ　へ　おほくにぬしの神　と　いふ　神さま が　お出で　に　なりました。この　神さま　は ≪p131≫ さきほど　おとほり　に　なつた　神さま　が= た　の　弟　の　方　です。兄神さま　がた の　おとも　を　して、ふくろ　を　かついで いらつしやつた　の　で、 おそく　おなり　に　な= つた　の　です。この 神さま　も、 「なぜ　なく　の　か。」 ≪p132≫ と　おたづね　に　なりました　から、白うさ= ぎ　は　目　を　こすつて、また　その　わけ を　申し上げました。すると　神さま　は、 「それ　は　かはいさうな　こと　だ。早く 川　へ　行つて、しほけ　の　ない　水　で からだ　を　あらつて、がま　の　ほ　を しいて、その　上　に　ころがれ。」 と　をしへて　下さいました。 ≪p133≫ 白うさぎ　が　その　とほり　に　します　と、 からだ　は　すつかり　もと　の　よう　に　な= ほりました。よろこんで　おほくにぬしの神 の　所　へ　おれい　に　行つて。 「おかげさま　で、からだ　は　この　とほり に　なほりました。あなた　は　のち　には、 きつと　兄さま　がた　より　も　おえらく おなり　に　なります。」 ≪p134≫ と　申し上げました。 その　のち、おほくにぬしの神　は　白うさぎ の　言つた　とほり、えらい　お方　に　おな= り　に　なりました。 四十六　オモヒヤリ ムカシ　キキン　ガ　アツタ　時、タベル　モノ ガ　ナイ　ノ　デ、死ヌ　人　ガ　タクサン　ア= リマシタ。スズキ　今エモン　ト　イフ　人　ハ、 ≪p135≫ コレ　ヲ　見カネテ、ジブン　ノ　田　ヤ　キ= モノ　ヲ　賣ツテ、コマツテ　ヰル　多ク　ノ 人人　ヲ　タスケテ　ヤリマシタ。 今エモン　ニハ　ソノ　時　十二　ニ　ナル　娘 ガ　アリマシタ。アル　雪　ノ　フル　サムイ 日、娘　ト　オナイ年　グラヰ　ノ　女ノ子　ガ モノモラヒ　ニ　キマシタ。ソレ　ヲ　見テ、母 ハ　娘　ニ、 ≪p136≫ 「アノ　子　ハ　カハイサウ　ニ、ヒトヘモノ 一マイ　デ、雪　ノ　中　ニ　フルヘテ　ヰ= マス。オマヘ　ノ　キテ　ヰル　ワタイレ　ヲ 一マイ　ヌイデ　ヤリマセン　カ。」 ト　言ヒマシタ。娘　ハ　スグニ　ジブン　ノ キテ　ヰタ　ヨイ　方　ノ　ワタイレ　ヲ　ヌ= イデ、ソノ　アハレナ　子ドモ　ニ　ヤリマシタ。 人　ニハ　オモヒヤリ　ノ　心　ガ　ナクテ　ハ ≪p137≫ ナリマセン。 ワガ　ミ　ヲ　ツメツテ、人　ノ　イタサ ヲ　知レ。 四十七　さとうきび さとうきび　は　もと　から　ハワイ　に　あ= つた　もの　では　ありません。いつ　ごろ　こ= の　島　へ　わたつて　きた　の　か、それ　は わかりません。はじめ　の　中　は、なま　の ≪p138≫ まま　たべて　ゐた　もの　です。さとう　を つくりはじめた　の　は、あまり　古い　こと では　ありません。 さとうきび　は　大そう　たけ　の　高い　もの です。一本　だけ　では　すぐ　たふれます　か= ら、たくさん　林　の　よう　に　うゑて　あり= ます。は　は　細くて　長う　ございます。花 は　ぎんねずみ　また　は　むらさき色　を ≪p139≫ して　ゐます。ほ　の　出そろつた　時　は、 大へん　うつくしく　見えます。 さとうきび　は　うゑて　から　一年はん　も たつ　と、十ぶん　大きく　なつて、ほ　が　出= ます。さうすると　きりとつて、さとう　を　つ= くる　の　です。きりとつた　あと　へ、また め　が　出ます。それ　が　大きく　なつて　か= ら　きる　の　を、二ばんきび　と　いひます。 ≪p140≫ その　次　の　が　三ばんきび　です。 さとう　は　この　島　では　一ばん　大切な もの　です。ハワイ　と　いへば、だれ　でも すぐ　さとう　を　おもひ出す　くらゐ　です。 四十八　子ども　の　心 三郎　の　母　は　四五日　まへ　から　風　を ひいて　ねて　ゐます。三郎　は　しんぱいして、 ひま　さへ　あれば、母　の　そば　へ　きて、 ≪p141≫ 「まだ　なほりません　か。苦しい　こと　は ございません　か。」 と　言つて　たづねます。 今　も　外　から　かへ= つて、すぐ　ここ　へ　き= て　ゐる　所　です。 三郎「おかあさん、その　お= くすり　は　にがう　ご= ≪p142≫ ざいます　か。苦ければ　私　が　かはり　に のんで　上げませう。」 母「いいえ、おくすり　は　じぶん　で　のまな= ければ、何　にも　なりません。」 三郎「そんな　に　少し　づつ　のまない　で、もつ= と　たくさん　のんだら、早く　なほりませう。」 母「さう　一ど　に　のんで　は、かへつて　わ= るい　の　です。おいしや　さま　の　おつ= ≪p143≫ しやる　とほり　のまなければ　なりません。」 四十九　母　ノ　心 朝　早ク　カラ　ヰドバタ　デ、 母　ハ　セイ出ス　アラヒモノ。 タラヒ　ノ　中　ニ　アル　ハ　何。 コレ　ハ　太郎　ノ　ウンドウパンツ。 太郎　キノフ　ハ　ウンドウカイ　デ、 ドロ　ニ　ヨゴシタ　コノ　パンツ。」 ≪p144≫ 夜　オソク　マデ　ヘヤ　ノ　中、 母　ハ　セイ出ス　ハリシゴト。 ヒザ　ノ　上　ニハ　何　ガ　アル。 コレ　ハ　オハル　ノ　ハレギ　ノ　アハセ。 オハル　アシタ　ハ　ヒナサママツリ。 キセテ　ヤリタイ　コノ　ハレギ。」 五十　オヒナサマ 今日　ハ　ヒナアソビ　ノ　日　デス。オハル ≪p145≫ ハ　アネ　ニ　手ツダツテ　モラツテ、オヒナ= サマ　ヲ　カザリマシタ。 一バン　上　ノ　ダ= ン　ニハ　ダイリサ= マ　ヲ　ナラベテ、 ソノ　左　ト　右 ニ　ウツクシイ　シ= ヨクダイ　ヲ　立テ= ≪p146≫ マシタ。二ダン目　ニハ　カンジヨ　ヲ　スヱテ、 三ダン目　ニハ　五人バヤシ　ヲ　オキマシタ。 四ダン目　ニハ　小サイ　タンス　ヤ　ナガモチ ナド　ヲ　ナラベマシタ。マタ　ソノ　次　ノ　ダ= ン　ニハ　ヒシモチ　ト　オゼン　ヲ　ソナヘテ、 花イケ　ニハ　モモ　ノ　花　ヲ　イケマシタ。 スツカリ　カザツテ　カラ、母　ノ　所　ヘ　行= ツテ、 ≪p147≫ 「オカアサマ、オヒナサマ　ヲ　カザリマシタ カラ、ゴラン　下サイ。」 ト　言ヒマシタ。母　ハ　キテ　見テ、 「大ソウ　ヨク　カザレマシタ。マア、ウツク= シイ　コト。オチヨ　サン　ヤ　オマツ　サン ヲ　ヨンデ、オアソビ　ナサイ。」 ト　言ヒマシタ。オハル　ハ　ヨロコンデ、トモ= ダチ　ヲ　ヨビアツメテ　アソビマシタ。 ≪p148≫ 五十一　なす　の　よ一　（一） むかし　やしま　の　たたかひ　に　げんじ　は をか、へいけ　は　海　で、むかひあつて　ゐた 時、へいけ方　から　一そう　の　ふね　を　こ= ぎ出して　きました。見れば　へさき　に　長い さを　を　立てて、その　さを　の　さき　には ひらいた　赤い　あふぎ　が　つけて　あります。 一人　の　かんじよ　が　その　下　に　立つて、 ≪p149≫ さしまねいて　ゐます。さを　の　さき　の　あ= ふぎ　を　い　よ　と　いふ　の　でせう。 ふね　は　波　に　ゆられて、上つたり　下つ= たり　します。あふぎ　は　風　に　ふかれて、 ぐるぐる　まはつて　ゐます。いくら　弓　の 名人　でも、これ　を　一矢　で　いおとす　こ= と　は　なかなか　むづかしさう　です。 げんじ　の　大しよう　よしつね　は　けらい ≪p150≫ に　むかつて、 「あの　あふぎ　を　いおとす　もの　は　ない か。あれ　を　いない　の　は　ざんねん　だ。 だれ　か　上手な　もの　は　ない　か。」 と　たづねました。その　時　一人　が　すす= み出て、 「なす　の　よ一　と　申す　もの　が　ござい= ます。空　を　とんで　ゐる　鳥　でも、三羽 ≪p151≫ ねらへば、二羽　だけ　は　きつと　いおとす ほど　の　名人　で　ございます。これ　に まさる　もの　は　ございません。」 と　言ひました。よしつね　は 「それ　を　よべ。」 五十二　ナス　ノ　ヨ一　（二） 一ド　ハ　ジタイシマシタ　ガ、ヨシツネ　ガ　ユ= ルシマセン。ヨ一　ハ　心　ノ　ウチ　デ、モシ ≪p152≫ コレ　ヲ　イソコナ= ツタラ、生キテ　ハ ヰマイ　ト　カクゴ ヲ　キメテ、馬　ニ　マ= タガツテ、海　ノ　中 ヘ　ノリ入レマシタ。 弓　ヲ　トリナホシテ、ムカフ　ヲ　見ワタス ト、船　ガ　ユレテ、マト　ガ　サダマリマセン。 ≪p153≫ シバラク　目　ヲ　ツブツテ、神サマ ニ　イノツテ　カラ、目　ヲ　ヒライテ 見ル　ト、アフギ　ガ　少シ　オチツ= イテ　見エマス。ヨ一　ハ　弓　ニ　矢 ヲ　ツガヘ、ヨク　ネラヒ　ヲ　サダメ、 弓　ヲ　引キシボツテ、ヒヨウト　一矢 イハナシマシタ。 赤イ　アフギ　ハ　カナメ　ノ　キハ ≪p154≫ ヲ　イキラレテ、空　ニ　マヒ上ツテ、ヒラヒ= ラト　二ツ　三ツ　マハツテ、波　ノ　上　ニ オチマシタ。 ヲカ　ノ　方　デハ　大シヨウ　ヨシツネ　ヲ　ハ= ジメ、ミンナ　ガ　馬　ノ　クラ　ヲ　タタイテ ヨロコビマシタ。海　ノ　方　デモ　フナバタ　ヲ タタイテ、一ド　ニ　ドツト　ホメマシタ。 ヲハリ ≪附 p001≫ 新出漢字表 今　休　何。兄　先。内。刀　切。力。北。南。古 右　名　君。國。外　多　夜。娘。字。少。岩　島。 左。年。弓　引　弟。心。所。方。早　時。朝。東 林。次。正。死。母　毎。毛。波　海。父。牛。生。 田　申　男。百。皮。矢　知　短。神。私。空。竹。 糸　紙　細。羽。舟　船。色。花　苦　草。行。西。 見。言。豆。貝　買　賣。足。郎。長。門。雨　雪 雲。青。音。風。馬。高。魚。鳥。 ≪附 p002≫ 讀替漢字表 一日。二　二人　二十。三。六。八。上　上　上手 下。中　中。人　人　今日。切。名。土。大　大豆 太。女。少。山。年。方。木。次。水。生　生。田。 苦。長。 熟語表 花見1　青青10　竹馬10　先生11　四方13　大切16　毎日21　今日22 方方23　夕方23　大木29　一年中30　何百人30　日本一31　青空31 弓矢32　日本人33　土人33　水田33　日本中34　上手38　色色40 正月40　見方41　人人46　名人51 ---------------------------------------------------------------------------------- 底本：筑波大学附属図書館蔵本（810.7-H45-2　10014023656） 底本の出版年：大正6[1917]年2月25日印刷、大正6[1917]年2月28日発行 入力校正担当者：高田智和、堤智昭 更新履歴： 2022年8月30日公開