おくみ惣次郎春色江戸紫 二編下
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凡例
1.本文の行移りは原本にしたがった。
2.頁移りは、その丁の表および裏の冒頭において、丁数・表裏を括弧書きで示した。また、挿絵の丁には$を付した。
3.仮名は現行の平仮名・片仮名を用いた。
4.仮名のうち、平仮名・片仮名の区別の困難なものは、現行の平仮名に統一した。ただし、形容詞・副詞・感動詞・終助詞・促音・撥音・長音・引用のト等に用いられる片仮名については、原表記で示した場合がある。 〔例〕安イ、モシ、「ハイそれは」ト、意気だヨ、面白くツて、死ンで、それじやア
5.漢字は現行の字体によることを原則としたが、次のものについては原表記に近似の字体を用い、区別した。「云/言」「开/其」「㒵/貌」「匕/匙」「吊/弔」「咡/囁」「哥/歌」「壳/殻」「帒/袋」「无/無」「楳/梅」「皈/帰」「艸/草」「計/斗」「弐/二」「餘/余」
6.繰り返し符号は次のように統一した。ただし、漢字1文字の繰り返しは原本の表記にしたがい、「〻」と「々」を区別して示した。
平仮名1文字の繰り返し 〔例〕またゝく、たゞ
片仮名1文字の繰り返し 〔例〕アヽ
複数文字の繰り返し 〔例〕つら〳〵、ひと〴〵
7.「さ」「つ」「ツ」に付く半濁点符は「さ゜」「つ゜」「ツ゜」として示した。
8.Unicodeで表現できない文字は〓を用いた。
9.句点は原本の位置に付すことを原則としたが、文末に補った場合がある。
10.合字は〔 〕で囲んで示した。 〔例〕殊{〔こと〕}に、なに〔ごと〕、かねて〔より〕
11.傍記・振り仮名は{ }で囲んで示した。 〔例〕人生{じんせい}
12.左側の傍記・振り仮名の場合は、冒頭に#を付けた。 〔例〕めへにち{#毎日}
13.傍記・振り仮名が付く位置の紛らわしい場合、文字列の始まりに|を付けた。 〔例〕十六|歳{さい}
14.原本に会話を示す鉤括弧が付いていない場合も、これを補い示した。また庵点は〽で示した。
15.原本にある話者名は【 】で示した。 〔例〕【はる】
16.割注・角書および長音符「引」「合」は[ ]で囲んで示した。
17.不明字は■で示した。
18.原本の表記に関する注記は*で行末に記入した。 〔例〕〓{たど}りて*〓は「漂+りっとう」
19.花押は〈花押〉、印は〈印〉として示した。
20.画中文字の開始位置に〈画中〉、広告の開始位置に〈広告〉と記入した。
本文の修正
1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。
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(1オ)
増補{ぞうほ}江戸紫{えどむらさき}二編下巻
江戸 山々亭有人作
第十一回
【▼▲】「ヤレ〳〵世話{せわ}しない事〔こと〕ではある。コリヤ利吉{りきち}翌日{あす}は高崎{たかさき}の
市{いち}だによつて中三{なかさん}へ送{おく}る絹{きぬ}五十|疋{ぴき}の口{くち}ぜひ〳〵買{かは}ねば
ならぬぞや。深谷{ふかや}の市{いち}は僥倖{さいはひ}今日{けふ}飯{めし}でも喰{くつ}たら出「で}て
行{ゆか}ぬか。」【利】「イニヤまだ飯{めし}も望{ほし}くはない。そんなら今{いま}から|出
懸{でかけ}やせう。」【▼▲】「今{いま}からではチト早{はや}過{すぎ}る。併{しかし}利吉{りきち}や奉公人{ほうこうにん}も
(1ウ)
多{おほ}イ中{なか}で主{しう}おもひは其方{てまへ}ばかり。高{たか}い眼{め}で見{み}て居{ゐ}る
から悪{わる}い様{やう}にはせぬ程{ほど}に精出{せいだ}して働{はたらく}がよい。此{この}間{あひだ}もおぬし
に咄{はな}す通{とほ}り|家内{うち}の娘{むすめ}のお捨{すて}さん今年{ことし}は最{も}はや十八才
いまだに聟{むこ}も取{とら}ぬのは此{この}勘{かん}兵へといふ血筋{ちすじ}がある故{ゆへ}首尾{しゆび}好{よく}
此家{こゝ}の跡目{あとめ}に直{なほ}れば其方{てまへ}は直{すぐ}に番頭職{はんとうしよく}。」【利】「モシ番頭{ばんとう}さん
御前{おまへ}はなんにも知らないナ。」【勘】「知{し}らぬとはソリヤ何{なに}を。」【利】「何{なに}を
とは曲{きよく}がない。お前{まへ}は此家{こゝ}の血筋{ちすじ}ゆへ聟{むこ}にならねばならぬ
のを第一{だいゝち}娘{むすめ}が不得心{ふとくしん}といふ其{その}子細{わけ}は此{この}頃{ごろ}江戸{えど}から来{き}た
(2オ)
新参{しんざん}ものゝ惣次郎{そうじらう}算筆{さんぴつ}の出来{でき}るのト口前{くちまへ}の甘{うま}いので
親方{おやかた}をばころりとさせ箸{はし}の転{ころ}ンだ〔こと〕にまで惣次郎{そうじらう}で
なふては夜{よ}が明{あけ}ぬ。亦{また}娘{むすめ}のお捨{すて}さんは好男子{をとこのよい}に打{うち}こんで
惣次郎{そうじらう}にやつて呉{くれ}とわたした文{ふみ}も十本{じつほん}あまり。」ト
聞{きい}て勘兵衛{かんべゑ}気{き}をいら立{だて}【勘】「そんならアノお捨{すて}めが惣
次郎{そうじらう}の野郎{やらう}に惚{ほれ}こんで其方{てまへ}に附文{つけぶみ}を頼{たの}んだとか。忌〻{いま〳〵}
しい奴等{やつら}だナア。」ト拳{こぶし}握{にぎ}りて眼{め}も逆{さか}づら奥方{あなた}を白眼{にら}ンで突{つツ}
立{たち}しがナニ思{おも}ひけん利吉{りきち}の胸{むな}ぐらしつかと取{とつ}て引{ひき}たをせば
(2ウ)
【利】「アイタヽヽヽヽ。コレはしたりめつさうな。私{わたし}を何{なに}と被成{なさる}のだ。」【勘】「大方{おほかた}
己{おのれ}も惣次郎{そうじらう}と同気{ぐる}になつて自己{おれ}に恥{はぢ}をかゝせる気{き}だ
らう。」【利】「どうして〳〵大違{おほちが}ひ。お前{まへ}さんに恥{はぢ}をかゝせる気{き}なら
此様{こん}な咄{はな}しはする子細{わけ}もねへといふもの。何{なに}かにつけて邪广{じやま}に
なる。惣次郎{そうじらう}奴{やつ}をうまくぼいこくる宜{いゝ}咄{はな}しがありやすから
此{この}手{て}を放{はな}してお呉{くん}なせへ。」トいふに此方{こなた}も其{その}手{て}をゆるめ
【勘】「さうしてあいつを追出{おひこくる}咄{はな}しといふは。」【利】「他事{ほか}でもないが
まア何{なん}にしても胸{むね}がビクリ〳〵する。其処{そこ}で其{その}咄{はな}しといふは
(3オ)
旦那{だんな}が手元{てもと}の掛硯{かけすゞり}に百両{ひやくりやう}あるのを一寸{ちよつと}見{み}た。今{いま}にも
アノ金{かね}をごまかして半分{はんぶん}此方{こつち}へ引{ひき}ずり込{こ}み残{のこ}つた金。惣
次郎{そうじらう}が着類{きるゐ}の櫃{ひつ}へ入{い}れて置{おき}銘〻{めい〳〵}所持{しよぢ}の手道具{てだうぐ}
まで改{あらた}めるといふ時{とき}にあいつの櫃{ひつ}の蓋{ふた}を取{とり}いち〳〵
さがしたその時に金が出{で}たらば唯{たゞ}でさへ爪{つめ}に火{ひ}とぼす
旦那殿{だんなどの}いかに気{き}に入{い}りの惣次郎でも手{て}の裏{うら}返{かへ}す
立腹{りつふく}は鏡{かゞみ}にかけて見{み}る〔ごと〕く此{この}計略{けいりやく}はどうでごんす。」ト
[聞{きい}て勘{かん}兵へ横手{よこで}をうち]【勘】「いかさま是{これ}は上分別{じやうふんべつ}。今からすぐに奥{おく}へ
(3ウ)
往{い}ツて其{その}金{かね}鳥渡{ちよつと}ごまかすから其方{てまへ}は疾{はやく}深谷{ふかや}へ往{いつ}て
利口物{りこうもの}を仕入{しいれ}て来{き}な。」【利】「ヲツト皆{みな}迄{まで}のたまふな。買冠{かひかぶり}を
する様{やう}な頓間{とんま}な利吉{りきち}じやござりませぬ。」トとツかは門辺{おもて}へ
出{いで}行{ゆき}し跡{あと}に勘兵衛{かんべゑ}つく〴〵と思{おも}ひ廻{まは}せば廻す程{ほど}胸{むね}くそ
わるき惣次郎{そうじらう}しかしアイツの言{いふ}通{とほ}り首尾{しゆび}好{よく}行{ゆけ}ば大願{だいぐわん}
成就{じやうじゆ}。トいそ〳〵つぶやく後{うしろ}から【惣】「ヲイ勘兵へさん。」【勘】「ヱヽヽ
びつくりした。」ト後を振向{ふりむき}今の咄{はな}しを聞{きか}れしかト少{すこ}し
気味{きみ}わるき思{おも}ひ入{いれ}にて【勘】「誰{だれ}かと思{おも}やア惣次郎殿
(4オ)
出{だ}し抜{ぬけ}に自己{おいら}を呼{よ}ンだはなんぞ用{よう}かノ。」【惣】「用{よう}と言{いふ}のは他事{ほか}
でもないが些{ちつ}とお前{まへ}に咄{はな}しが有{ある}がナンと乗{の}ツては被下まいか。」
【勘】「どんな咄{はな}しか知{し}らないがもうけ口{くち}なら半口{はんくち}乗{のら}う。夫{それ}共に
亦{また}|家内{うち}の物{もの}でもかすめるのなら此|勘{かん}兵へは先{まづ}不承知{ふしやうち}。」
【惣】「人の咄{はな}しも聞{きか}ねへうち|家内{うち}の物{もの}を掠{かす}めるなんぞとそん
な事{〔こと〕}ならお前{まへ}より此|惣次郎{そうじらう}は不承知{ふしやうち}だがお前{まへ}さんに
咄{はな}しといふのは御不承知{ごふしやうち}かはしらねへがお捨{すて}さんの事〔こと〕に付
てサ。」【勘】「ナニ〳〵お捨{すて}さんの事{〔こと〕}に付てとは。」【惣】「咄{はな}すも可笑{をかし}な
$(4ウ)
$(5オ)
(5ウ)
理屈{りくつ}だが蓼{たで}喰{く}ふ虫{むし}も好〻{すき〴〵}でお捨{すて}さんが自己{おゐら}をとらへ遠{とを}
廻しにくどいたり或{ある}時{とき}は文{ふみ}をよこしたりするが自己{おゐら}も木竹{きたけ}
の身{み}ではなし否{いや}だといふ理屈{わけ}はないがお前{まへ}の旦那{だんな}の甥{おい}の
〔こと〕始終{しじう}の所はお捨{すて}さんと娵合{めあはせる}気{き}で在{おいで}の所へかんじんの
お捨{すて}さんが不承知{ふしやうち}では事{〔こと〕}こわしといふもの。そこでお前{まへ}に
相談{さうだん}は今夜{こんや}丑満{うしみつ}の時計{とけい}を相図{あいづ}に奥{おく}の囲{かこひ}へよび
込{こ}むつもりに返事{へんじ}を書{かい}て遣{やら}うからお前{まへ}が自己{おゐら}の
替玉{かへだま}にかの茶座敷{ちやざしき}へ忍{しの}び込{こ}み日頃{ひごろ}の思ひを晴{はら}しな
(6オ)
せへナ。」【勘】「そりや実正{ほんたう}かへ惣次郎{そうじらう}殿。」【惣】「嘘{うそ}をついてどうする
ものか。嘘{うそ}か実{ま〔こと〕}は今夜{こんや}の丑満{うしみつ}もしも夫{それ}が違{ちが}ツたら私{わたし}の
体{からだ}を存分{ぞんぶん}になせへやし。事{〔こと〕}のおさまらぬうち口{くち}を利{きい}
てはいかねへぜ。イザ鎌倉{かまくら}といふ跡{あと}はどうならうと儘{まゝ}の皮{かわ}
都{すべ}て女{をんな}ははじめて逢{あつ}た男{をとこ}の〔こと〕を一生{いつしやう}忘{わす}れねへとかいひ
やすから随分{ずいぶん}ともに怪我{けが}をばさせねへ様{やう}に可愛{かあい}がつて
やんなせへ。」【勘】「なんにもいはぬ惣次郎|殿{どん}じやアない様〳〵{さま〳〵}
大明神{だいみやうじん}。これだ〳〵。」と両手{りやうて}をあはせ【勘】「じつは今{いま}迄{まで}お前{まへ}
(6ウ)
をば仇敵{あだかたき}のやうに思{おも}ツて居{ゐ}たが今更{いまさら}おもへばめんぼくない。」
【惣】「誤{あやま}ツて改{あらたむ}るに憚{はゞかる}事{〔こと〕}なしサ。そんなら其{その}積{つもり}に返回{へんし}を
認{かい}てやりませう。」トお捨{すて}が方{かた}へしか〴〵と。彼{かの}勘兵衛{かんべゑ}に約{やく}
せしごとく今宵{こよひ}丑満{うしみつ}の時計{とけい}を相図{あいづ}に奥{おく}の囲{かこひ}へ忍{しのび}
給へなど細{こま}やかに言送{いひおく}りければかゝる替玉{かへだま}ありぞとは神{かみ}
ならぬ身{み}のいかでか知{し}らん。お捨{すて}は日頃{ひごろ}恋{こひ}したふ惣{そう}
次郎よりの玉章{たまづさ}を見{み}るにうれしく気{き}もわく〳〵同{おな}じ
思{おも}ひの勘兵へも互{かたみ}に其{その}日{ひ}の永{なが}きを恨{うら}み一日{いちにち}千秋{せんしう}の
(7オ)
思ひなりしが早{はや}其{その}時{とき}に至{いた}るをもて勘{かん}兵へ先に忍{しの}びて在{あり}
しをお捨{すて}は一|図{づ}に惣次郎{そうじらう}なりとおもふものから夢{ゆめ}かと
ばかり嬉{うれ}しくて雲雨{うんう}の契{かたらひ}なしし後{のち}惣次郎{そうじらう}ならぬを
知{し}るとはいへど疾{はや}不慮{ふりよ}の門{もん}に入たるうへは今更{いまさら}にせん
術{すべ}なければ【捨】「アノ勘兵衛{かんべゑ}お前{まへ}平日{ふだん}から兎{と}や角{かく}言{いつ}て
おくれのを終{つひ}に能{よい}返回{へんじ}もせず。其うへ惣次郎{そうじらう}へ兎{と}や
角{かく}言{い}ツたのを気{き}まづいとも思はずに忍{しの}んで爰{こゝ}まで来{き}て
おくれのは死{し}ンでもわすれぬお前{まへ}の真実{ま〔こと〕}。それに引{ひき}かへ恨{うら}
(7ウ)
めしいは惣次郎{そうじらう}思はせ振{ぶり}に人をあやつりトはいふものゝ
惣次郎{そうじらう}があればこそ思{おも}はずうれしい今夜{こよひ}の首尾{しゆび}。」【勘】
「うまく被仰{おつしやい}ます。惣次郎{そうじらう}だと思つておも入{いれ}汗{あせ}をかいた
所が銀{ぎん}を鉛{なまり}の自己{わたくし}だから猶〻{なほ〳〵}惣次郎{そうじらう}が憎{にく}くなつた
のでございませう。」【捨】「おまへも余{よ}ツ程{ぽど}うたぐり深{ぶか}い。なんぼ
黒暗{くらやみ}だつてお前{まへ}か惣次郎{そうじらう}か丸{まる}で分{わか}らない〔こと〕もない
が能〻{よく〳〵}考{かんが}へて見た所が腹{はら}をお立ちでないよ是{これ}迄{まで}お前{まへ}の
信実{しんじつ}も無{む}にして他男{ほかのをとこ}に惚{ほれ}る吾儕{わたし}をば憎{にく}いとも思
(8オ)
はずに人の替{かは}りにならうといふお前{まへ}の真実{ま〔こと〕}と惣次郎{そうじらう}
が人{ひと}を替{かは}りに遣{や}ツて置{おい}て跡{あと}で笑{わら}ツてやらうといふ不実{ふじつ}
とこれをくらぶればどちらの方{はう}へ身を任{まか}せたら始終{しじう}の
為{ため}にならうといふ所{ところ}へ気{き}が付て見ると惣次郎{そうじらう}は見るも
否{いや}。名{な}を言{いは}れても癪{しやく}の種{たね}。お前{まへ}と吾儕{わたし}は従弟{いとこ}同士{どし}
たとへにもいふ鴨{かも}とやら必{かならず}かはツておくれでない。」トしなだ
れかゝればぐにや〳〵もの鶏{とり}の鳴{なく}まで談合{かたりあひ}これを
逢瀬{あふせ}の初{はじめ}として夜毎{よ〔ごと〕}〳〵の忍{しの}び寝{ね}もあこぎが浦{うら}で
(8ウ)
引網{ひくあみ}の度重{た■かさ}なれば顕{あら}はるゝト終{つひ}に両親{りやうしん}の耳{みゝ}に入しが*「■」は「び」の虫損
年頃{としごろ}なんの落度{おちど}もなき勘{かん}兵へが事にしあればかゝる
情合{わけ}ある〔こと〕こそ僥倖{さいわひ}彼{かれ}をもて聟{むこ}になさんと先{まづ}惣{そう}次郎
に此|縁{よし}を尋{たづね}しが夫妻{ふさい}は奇偶{きぐう}のなす処{ところ}殊〔こと〕には家業{なりはひ}
厳{おごそか}なる勘{かん}兵へが事なれば此上の良縁{りやうえん}ありとも覚{おぼ}へずト
とも〴〵に進{すゝ}めしかば茲{こゝ}に二人{たたり}が望{のぞ}みも足{た}り晴{はれ}て妹脊{いもせ}の*「二人{たたり}」は「二人{ふたり}」の誤字か
契{かたらひ}なし此|家{や}を相続{さうぞく}なせしが素{もと}より利発{りはつ}の性{さが}にはあら
ねど正直{しやうぢき}無二{むに}の生れなれば売先{うりさき}買{かひ}さきの請{うけ}よくして
(9オ)
次第{しだい}に家{いへ}富{とみ}栄{さか}へけるとぞ
作者{さくしゃ}曰{いはく}此{この}一回{いつくわい}は唯{たゞ}惣次郎{そうじらう}が勘当{かんだう}の身となりし
よりたつきなき儘{まゝ}桐生{きりう}の辺{ほとり}に聊{いさゝか}由縁{ゆかり}あるをもて
夫を便{たよ}りて出入二年此|絹{きぬ}問屋{どひや}に身{み}を寄{よせ}しが素{もと}
よりすこぶる利発{りはつ}なれば主人{あるじ}はもとより取引{とりひき}先{さき}の甲
乙{たれかれ}も惣次郎{そうじらう}ならではと彼{かれ}を引{ひか}ざるものもなく
彼{かれ}が為{ため}に主人{あるじ}も幾干{いくばく}の宝{たから}を得しものから
双{に}なきものにおもひしがいつ迄{まで}斯{かく}あるべき身
(9ウ)
にしあらねば古郷{こきやう}へ帰{かへ}らん事{〔こと〕}を主人{あるじ}夫婦{ふうふ}に
うながせしかば惜{をし}き事{〔こと〕}限{かぎ}りあらねど止{とゞむ}べきに
あらざれば金子{こがね}をあたへて身の暇{いとま}を出{いだ}し
何方{いづこ}にまれ落{おち}つき給{たま}ふ先あらば絹布{けんふ}の類{るゐ}
いふも更{さら}なり何にまれ送{おく}るべしと厚{あつ}き詞{〔こと〕ば}を
再三{さいさん}謝{しや}して日あらず古郷{こきやう}へ帰{かへ}りけるとぞ。
第十二回
松に嵐{あらし}浅茅{あさぢ}が露{つゆ}に月の陰{かげ}夫{それ}より他{ほか}に問{とふ}人{ひと}はなし。ト
(10オ)
三|位{ゐ}為子{ためこ}が詠哥{よみうた}ならねど爰{こゝ}は谷{や}中の片辺{かたほとり}三|崎{さき}と
なん呼{よび}なす処に正目{まさめ}の杉{すぎ}の高塀{たかべい}に振{ふり}よき松を程{ほど}に
植{う}へ玄関{げんくわん}形{がたち}の入口に細{ほそ}き格子{かうし}を建{たて}たりしは火宅{くわたく}の市{いち}
を住佗{すみわび}て風月{ふうげつ}雪花{せつくわ}を友となす風流{みやび}男子{をのこ}の庵{いほり}にも
あらず。是{これ}惣次郎{そうじらう}が桐生{きりう}より再度{ふたゝび}古郷{こきやう}へ立帰{かへ}り
風雅{ふうが}でもなく洒落{しやれ}でもなく爰{こゝ}に閑居{かんきよ}をなすものならじ。
【惣】「ヲイ金太{きんた}や。」[これは上州{じやうしう}より連{つれ}皈{かへ}りし気{き}がるもの]【金】「ハイお呼{よび}被成{なさい}やしたか。」【惣】「モウ
そろ〳〵庭{には}へ水{みづ}を打ても宜{よから}うぜ。」【金】「今夜{こんや}は追焚{おひだき}だから
(10ウ)
今{いま}米{こめ}を炊{とい}でから打{うた}うと思{おも}ツて居{ゐ}やした。」【惣】「左様{さう}か。なん
だか暗{くらく}なつたやうだが亦{また}御天気が替{かは}らなけりやア宜{いゝ}がノ。」
【金】「さうでごぜへやす。たとへにさへ男心{をとこごゝろ}と秋{あき}の空{そら}今まで
あんな宣{いい}天|気{き}が急{きう}に泣出{なきだ}しさうな空{そら}になツて来た
。アゝ困{こま}ツた日|和{より}くせだ。ドリヤ裏{うら}の干{ほし}ものでも取こんで
仕舞{しまは}ふ。」【惣】「干物{ほしもの}を取こむ前{まへ}に鉄瓶{てつびん}をかけて置て
呉{く}んな。」【金】「先喜{さつき}懸{かけ}て置やしたから最{も}う今に焚立{にたち}や
せう。」【惣】「夫{それ}は御|苦労{くらう}〳〵。成程{なるほど}ナア陸奥{みちのく}の烏{からす}寒風{かんふう}を
(11オ)
喜{よろこ}ぶで古郷{こきやう}程{ほど}宜{いゝ}ものはねへ。桐生{きりう}の親方{おやかた}も自己{おいら}がやうな
ものでもやれこれト信切{しんせつ}に言{いつ}て下すツたから奉公{ほうこう}とも
思{おも}はずに我儘{わがまゝ}にして居{ゐ}たが古郷{こきやう}は又{また}別{べつ}ものだ。しかし
自己{おいら}が左様{さう}おもふにつけても其方{てめへ}も国{くに}へ帰{かへ}りたからう。」
【金】「ナニ貴君{あなた}は此様{こん}な桔構{けつかう}な所から山の中へ被為入{いらしツた}やうな
もんですから其{その}筈{はず}じやア有ますが自己共{わたくしども}なんざアいつ
迄{まで}も江戸{えど}に居{ゐ}て此方{こつち}の者{もの}になつて仕舞{しまひ}たい位{くらゐ}だから
国{くに}の事■んざア些{ちつ}とも思やアしません。夫{それ}に貴君{あなた}の様{やう}な*「■」は「な」の部分欠損
$(11ウ)
$(12オ)
(12ウ)
宜{いゝ}旦那{だんな}はめつたに在{あり}やアしません。」【惣】「がうぎと太鼓{たいこ}が
いゝの。御夜食{おやしよく}は鰻{うなぎ}にしようかの。宜{いゝ}旦那{だんな}と言{い}やア桐
生{きりう}の親方{おやかた}ヨ実{じつ}に勿体{もつたい}ない程{ほど}よくして下すツた。」【金】
「そりやア其{その}筈{はず}でございやす。彼方{あすこ}の内証{うち}も貴君{あなた}の
働{はたら}きでどのくらゐ金{かね}もうけを仕{し}てゐるか知{し}れやア仕{し}
ません。」【惣】「ナニ自己{おれ}の働{はたら}きといふわけじやアねへ。アヽどん〳〵
拍子{ひやうし}に金{かね}のまうかつたのは全{まつたく}あすこの家{うち}の福{ふく}の
あるのだ。夫{それ}は左様{さう}と斯{かう}して江戸{えど}へ来{き}てからも何{なに}
(13オ)
するとなく半{はん}月あまりうか〳〵と暮{くら}したが久松町{ひさまつてう}の方{はう}
も何様{どう}したか。室町{むろまち}の方{はう}もどうなつたか翌日{あした}あたりやア
ぶら〳〵様子{やうす}を聞{きゝ}に出かけようか。」ト咄{はな}しのうちに門口{かどぐち}へ「チト
御免{ごめん}下さい。」ト入|来{く}る女は年の頃{ころ}廿二三の丸顔者{ぼつとりもの}米沢
数寄屋{よねざはすきや}に晒{さらし}の重子{かさね}二重{にぢう}鈍子{どんす}の丸帯{まるおび}を太鼓{たいこ}に
むすび天窓{つむり}は古風{こふう}の大丸髷{おほまるわげ}に両天{りやうてん}の中ざしは
言{い}はでもしるき御屋舗風{おやしきふう}。【金】「ヲイお前{めへ}何方{どこ}から来た。」
ト金太が艶{つや}なき挨拶{あいさつ}を惣次郎{そうしらう}は気{き}の毒{どく}さうに
(13ウ)
【惣】「コレサ他人様{ひとさま}に何といふ物の言様{いひやう}だ。」ト[金太{きんた}を叱{しか}りてそれへ出]【惣】
「何処{どちら}からお出{いで}被成{なさん}やした。」【女】「イエ吾儕{わたくし}は往来{わうらい}の者{もの}でござい
ますが何{なん}とも申{まうし}にくい御無心でございますが憚所{はゞかりじよ}を
拝借{はいしやく}いたしたうございます。」【惣】「それは何よりお安{やす}い
御用{ごよう}じやアありますがホンにまだ仮住居{かりずまゐ}でございます
からむさくるしくとも宜敷{よろしく}は御|遠慮{えんりよ}なく。」【女】「有難{ありがた}う
存{ぞん}じ枡{ます}。」ト言{いひ}ツヽ女は表{おもて}へ出|主人{しゆじん}とおぼしく年{とし}の頃{ころ}三十
路{みそじ}の上を越{こし}てはあれど美麗{うつくしき}ゆへ廿四五かと思はるゝ古人{こじん}
(14オ)
粂三{くめさ}半四郎{はんしらう}丸出{まるだ}しといふ年増{としま}盛{ざかり}明石{あかし}縮{ぢゞみ}に絽{ろ}の重{かさね}
鳩羽鼠{はとばねづみ}のひふを着{き}たるは言でもしるき武家{ぶけ}の後室{かうしつ}
前{さき}の女は小腰{こごし}をかゞめ「いざ此方へ。」ト言さまに彼{かの}後室{かうしつ}を
初とし附添{つきそ}ふ女中七八人どや〳〵と入|来{く}るに金太{きんた}は
ます〳〵あきれ果{はて}【金】「モシ旦那{だんな}とんだ者{もの}が舞込{まひこ}ンで来
やしたネ。アノ同勢{どうぜい}が皆{み}ンな小便{しやうべん}をたれたら後架{かうか}が刎{はね}
ていけやすめへ。」【惣】「コレ〳〵めつたな〔こと〕を言な。」ト眼つきで
しらせる。此うち半四郎{はんしらう}に似{に}たる後室{かうしつ}は厠{かわや}より出来れば
(14ウ)
惣次郎{そうじらう}は菓子{くわし}を出し茶{ちや}を進{すゝ}め四方八方{よもやま}の咄{はな}しを
なすうち皆〻{みな〳〵}厠{かはや}へ行て事{〔こと〕}果{はて}ける儘{まゝ}厚{あつ}く一|礼{れい}を
述{のべ}て立帰りける。【金】「チヨツ忌{いめ}いましいおたふくめらだ。」【惣】
「其様{そんな}にわるく言な。夫{それ}でも前{せん}に来たとしまが其方を尻{しり}
目でぢろ〳〵見てゐたぜ。」【金】「ナンノあんな南瓜{かぼちや}がくさめを
したやうな奴{やつ}。」【惣】「ひどく悪{わる}く言の。夫{それ}でも絹縮{きぬちゞみ}を着{き}
て居たとしまは随分すごいじやアねへか。」【金】「マアあれだ
けれども怪有{けう}な天窓{あたま}をして居やアがらア。」【惣】「アレハ切髪{きりかみ}ト
(15オ)
いつて御武家{おぶけ}方{がた}の奥様{おくさま}やお召仕{めしつかひ}が早{はや}く殿様{とのさま}に別{わか}
れると皆{み}ンなあゝして居{ゐ}るのヨ。尤{もつとも}町家{てうか}でも稀{まれ}にやア無{ねへ}
事もないが」ト。[しばらくかんがへ]【惣】「大名{だいみやう}の後室{かうしつ}に為{し}ちやア意気{いき}
過{すぎ}るしトいつて御家中{ごかちう}じやアなし。ハヽア御部屋様{おへやさま}
だナ。」【金】「お部屋さまたアなんの事でス。」【惣】「お部屋|様{さま}
とは御|世継{よとり}をお持{もち}もふした妾{めかけ}の〔こと〕ヨ。」【金】「道理{だうり}で妾
面{めかけづら}をして居{ゐ}やアからア。」【惣】「妾面といつて別{べつ}にも無{なか}らう。
定{さだ}めし殿様{とのさま}は腎虚{じんきよ}だナ。トキニ夜食{やしよく}だがなんぞ|喰
(15ウ)
物{くひもの}があるか。」【金】「左様{さやう}サ。お飯{めし}に塩押{しほおし}の瓜{うり}がござぜへやす。」
【惣】「イゝヤサ。菜{おかず}があるかといふ事ヨ。」【金】「菜{さい}なら菜と被仰{おつしやれ}
ばいゝのサ。喰物{くひもの}と被仰{おつしやる}からサ。」【惣】「コリヤ一番{いちばん}閉口{へいこう}だ。なんぞ
菜があるか。」【金】「何{なに}もございませんから玉子{たまご}でも焼{やき}やせう。」
【惣】「それじやア左様{さう}して呉{くん}な。」ト夫{それ}より程{ほど}よく食事{しよくじ}を整{とゝのひ}
其{その}日{ひ}も暮{くれ}て明{あく}る朝{あさ}はや卯{う}の刻{こく}ともおぼしき頃{ころ}。「ヘイ
御免下{ごめんくだ}せへ。」ト入来{いりく}る僕{しもべ}が何やらん風呂敷包{ふろしきづゝみ}取出{とりだ}して
【下阝】「アノ私{わたくし}は池{いけ}の端{はた}から参{まゐ}りましたが先日{せんじつ}はいろ〳〵と
(16オ)
御厄介{ごやくくわい}に成{なり}ましたと宜{よろ}しく申|付{つけ}ました。」【惣】「池{いけ}の端{はた}から
私共{わたくしども}へ御|使{つかひ}のある子細{しさい}はございませんがモシ間違{まちが}ひじやア
ござへやせんか。何所{どちら}とお聞{きゝ}被成{なさへ}やした。」【下阝】「ヘヱ御|名前{なまへ}
知{し}れましねへが此方{こなた}に違{ちが}ひございやせん。」【惣】「名前は
しれねえが私共{わたくしども}に違{ちが}ひねへとはどういふ訳{わけ}でございます。」
【下阝】「ナニ昨日{きのふ}お前等{めへら}が所{とこ}で私{わたし}どもの旦那{だんな}や女中{ぢよちう}どもが
ゑらお世話{せわ}になりやしたから其{その}御礼{おれい}に参{さん}じやした。」【惣】「ハヽア
夫{それ}じやア昨日{きのふ}の女中{ぢよちう}衆{しゆ}からの御使{おつかひ}でございましたか。なんの
(16ウ)
あれしきの事{〔こと〕}にお礼{れい}で痛入{いたみいり}ます。」と件{くだん}の包{つゝみ}を開{ひらい}て見{み}れば
高蒔絵{たかまきゑ}の八寸重{はつすんぢう}上{うへ}には蒸菓子{むしぐわし}中{なか}は鮨{すし}下{した}は佳肴{かかう}を
透{すき}なく詰{つめ}。外{ほか}に絞{しぼ}りの真岡{まおか}一反{いつたん}三崎様{さんさきさま}へ池{いけ}の端{はた}〔より〕
ト記{しる}せし玉章{たまづさ}一通{いつつう}あり。コハ何事{なに〔ごと〕}と封{ふう}おしきり読{よみ}くだ
すなる其{その}文体{ぶんてい}は第{だい}三編{さんべん}に分解{ぶんくわい}すべし。
増補{ぞうほ}江戸紫{えどむらさき}二編下之巻
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底本:国立国語研究所蔵本(W99/Sa66/2-3、1001951357)
翻字担当者:太田幸代、中野真樹、金美眞、銭谷真人
更新履歴:
2016年9月23日公開
2017年10月11日更新
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修正箇所(2017年10月11日修正)
丁・行 誤 → 正
(1オ)7 欲{ほし}くはない → 望{ほし}くはない
(1オ)8 出掛{でかけ}やせう → 出懸{でかけ}やせう
(1ウ)4 血筋{ちすぢ} → 血筋{ちすじ}
(1ウ)5 番頭職{ばんとうしよく} → 番頭職{はんとうしよく}
(1ウ)8 仔細{わけ} → 子細{わけ}
(2ウ)1 コレハしたり → コレはしたり
(2ウ)4 仔細{わけ} → 子細{わけ}
(2ウ)4 邪魔{じやま} → 邪广{じやま}
(2ウ)6 其{そのて} → 其{その}手{て}
(3オ)5 さがしたその時{とき}に → さがしたその時に
(3ウ)6 【勘】「エゝ → 【勘】「ヱヽヽ
(4オ)7 しらねえが → しらねへが
(5ウ)2 自己{おいら}も → 自己{おゐら}も
(5ウ)4 始終{しじう}の所{ところ}は → 始終{しじう}の所は
(6オ)5 忘{わす}れねえ → 忘{わす}れねへ
(8ウ)4 此{こ}の縁{よし} → 此|縁{よし}
(8ウ)4 奇遇{きぐう} → 奇偶{きぐう}
(8ウ)5 覚{おぼ}へえず → 覚{おぼ}へず
(8ウ)6 妹背{いもせ} → 妹脊{いもせ}
(9ウ)8 月の影{かげ} → 月の陰{かげ}
(10オ)1 詠歌{よみうた} → 詠哥{よみうた}
(10ウ)8 寒風{かんぷう} → 寒風{かんふう}
(11オ)5 此様{こんな} → 此様{こん}な
(11オ)5 結構{けつかう}な → 桔構{けつかう}な
(11オ)5 被居入{いらしツた} → 被為入{いらしツた}
(12ウ)1 滅多{めつた}に → めつたに
(12ウ)5 金儲{かね}もうけ → 金{かね}もうけ
(13オ)3 聞{きく}のに → 聞{きゝ}に
(13オ)5 緞子{どんす} → 鈍子{どんす}
(13オ)7 御屋敷風{おやしきふう} → 御屋舗風{おやしきふう}
(13オ)8 金太{きんた} → 金太
(13ウ)2 何方{どちら} → 何処{どちら}
(13ウ)4 それは何{なに}より → それは何より
(14オ)5 来{き}やした → 来やした
(14オ)6 小便{しやべん} → 小便{しやうべん}
(15ウ)3 一番{ばん} → 一番{いちばん}
(15ウ)8 【下ア】 → 【下阝】
(16オ)3 【下ア】 → 【下阝】
(16オ)6 【下ア】 → 【下阝】
(16オ)1 成{な}りました → 成{なり}ました
(16オ)2 仔細{しさい} → 子細{しさい}
(16オ)3 ヘエ → ヘヱ
(16ウ)4 一通{つう} → 一通{いつつう}
(16ウ)5 第{だい}三編{べん} → 第{だい}三編{さんべん}