冊子版序文
この冊子は、文部省科学研究費による特別推進研究『日本語の普遍性と個別性に関する理論的及び実証的研究』(1985-1989年度 代表者 井上和子)の一環としておこなった「外国人学習者の日本語誤用例の収集・整理と分析」(分担者 寺村秀夫)の資料をまとめたものである。
日本語教育に従事しているものはみな毎日のように学習者の誤用に接しており、それがなぜ誤用とされるのかが説明できるよう研究もし、そのような誤用がでないような工夫もしている。日本語教育の目的やレベルが多様化してくるにつれて、誤用例を出し合って検討することも盛んに行われるようになった。しかし、多くの学習機関では、日々の教育の忙しさから、教師が誤用の記録を保存するにとどまっており、有効に共同利用できるような形に整理されていないのが実状であろうと思われる。本(分担)研究の目的は、それらを収集し、一定の方法で整理し、すべての教師の共同財産として検索、利用できるようにするための方策を提出することであった。しかし、主として研究分担責任者(寺村)の健康上の理由から、当初予定していたような多くの研究機関を訪ねることも、教師と個別的な事情交換の場をもつこともできなかった。今回の誤用収集に協力を得ることのできたのは、あとに記す機関にとどまる。
誤用の整理のむずかしさは、「誤用」と認めた点をどのように特徴付け、分類するかにある。それを客観的なものにするためには、かなりの数の教育者、研究者が納得いくまで議論する必要がある。今回の検討は、おもに1985-86年度前半に行った研究会での結論をもととしている。その協力者はあとに記す通りである。誤用は分類してラベルを付けねばならないが、その分類には、もちろん、日本語の文法についての体系的な観点が必須である。今回の分類はその試案である。また、ラベルの付け方は、当初、白川博之氏(当初筑波大学技官、現広島大学教育学部専任講師)の苦心の工夫による方式で行っていたが、ソフトの技術的な制約のため、一般には見にくいところがあった。今回こういう形で一般の日本語教育の現場で利用してもらうことを考え、協力者の一人である小金丸春美氏(大阪大学大学院文学研究科博士課程)が、古林紀哉氏(大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程)とたびたび意見を交えた結果、このような利用しやすい形で印刷に付することができた。古林紀哉氏の貴重なご助力に感謝の意を表したい。
日本語教育に携わる方々、日本語教育に関心を持つ方々に、この冊子を資料として利用していただき、各自の研究を深め教育に結びつけるための手がかりとしていただければ幸いである。
1990年1月
大阪大学文学部教授
寺村 秀夫
データベース版序文
このたび、国立国語研究所では、日本語教育研究・情報センターで行われている2つの共同研究プロジェクト ― 「多文化共生社会における日本語教育研究」(プロジェクトリーダー 迫田久美子)および「日本語学習者用基本動詞用法ハンドブックの作成」(プロジェクトリーダー プラシャント・パルデシ)― における研究の一環として、我が国の日本語教育研究の礎を築かれた故寺村秀夫教授(1928~1990)が大阪大学で残された最後の仕事の1つである『外国人学習者の日本語誤用例集』(1990)を、先生のご遺族の承諾を得て電子化し、オンラインで公開することになりました。奇しくも、所長の私が、大阪外国語大学時代の恩師である寺村先生のお仕事をこのような形で受け継ぐことができることは、大きな喜びであり、また誇りでもあります。
本研究所では既に、日本語学会(旧・国語学会)から機関誌『国語学』の全論文の公開を任され、雑誌『国語学』全文データベースとしてオンラインで公開しています。日本語および日本語教育に関する学術研究の文献や情報を収集・整理・発信することを1つのミッションとしている大学共同利用機関の国語研では、研究所独自の研究成果を公表することはもとより、外部で作られた成果でも、研究者および一般社会に広く役立つと思われるものは収集・公開し、研究資源の共有化に資することを重要な業務と考えています。今回の『外国人学習者の日本語誤用例集』のオンライン公開により、この埋もれていた重要文献が国内外の研究者に活用され、日本語および日本語教育の研究の一層の活性化につながることを期待しています。
2011年12月
国立国語研究所所長
影山 太郎
使用データ
(1) 本(分担)研究において収集、整理されたデータの総数は4601文、内、誤用を含む文3131文が本冊子に収録されている。
(2) 学習者の学習レベルは初級から上級までにわたっている。
(3) 昭和63年度の研究報告に載せた「中間報告」の時点では誤用の項目数を51としていたが、この冊子では62項目になっている。これは、今回の出版化に当たって文に付けられているラベルを見直した結果、51項目に漏れているラベルがあり、新たに項目を設けたことと、検索上の便宜を考えて項目を細分化したことによるものである。今回、新たに付け加えた項目は、次の8項目である。
数量詞(3.13) 連体修飾(5.6.7) 可能(5.2.3) 名詞節(5.6.8) 自発(5.2.4) 疑問節(5.6.9) 副詞的連用修飾(5.6.6) 引用(5.6.10)
細分化したのは「とりたて詞」で、次の4項目となった。
とりたて詞 ハ(5.7.1) とりたて詞 モ(5.7.2) とりたて詞 ダケ・シカ(5.7.3) その他のとりたて詞(5.7.4)
データは国語研リポジトリ(https://doi.org/10.15084/00003533)からダウンロードできます。
謝辞
このインターフェースの作成には下記のプロジェクトの支援を受けました。
- 科学研究費補助金基盤研究(B)「学習者のニーズを反映した大規模な動詞用法データベースとオンライン教材の開発と公開」(23K21944)
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