新「ことば」シリーズ14「言葉に関する問答集―よくある「ことば」の質問―」 問26

問26 漢字に「常用漢字」「教育漢字」「人名用漢字」があると聞きますが,それぞれどのようなものなのでしょうか。

 「常用漢字」とは,昭和56年10月1日に内閣告示・訓令によって公布された「常用漢字表」というリストに含まれる漢字のことです。また,この表そのものを「常用漢字」と略称することもあります。なお,一部に今なお,「当用漢字」という呼称が残っているようですが,昭和21年に制定された「当用漢字表」(1850字)は,「常用漢字表」の制定に伴って,正式に廃止されています。

 「常用漢字表」は,前書きに,「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すもの」とあるように,現代を対象としたものです。「過去の著作や文書における漢字使用を否定するものではない」ともあります。

 この前身である「当用漢字」の時代には,一般社会で使用する漢字の「範囲」が示されていましたが,それが「目安」に変わり,また「この表の運用に当たっては,個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである」と柔軟な姿勢が示されました。「科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」とあるように,公的かつ一般的な場面を対象としています。字種(字の種類)は,「常用漢字表」は,「当用漢字表」に対して「凸」「凹」「猫」「肢」「矯」など95字を追加し,1945字となっています。常用漢字表(一部)

 表には,字体と音訓(読み),語例(用法),熟字訓などが示されています(左図)。「鑑」や「繭」のように複雑な字画の字も見られます。

 また,図の中にある「亜(亞)」のように,現代の通用字体と,明治以来行われてきた活字の字体とのつながりを示すために,著しい差異のある「いわゆる康煕こうき字典体の活字」を括弧に入れて示しています。『康煕字典』とは,18世紀に中国で編纂された漢字の字典で,4万字以上の漢字が収められており,字体のよりどころとされてきたものです。

 音訓では,「生」のように,多くの音訓を持つ字も見られます。「常用漢字」であっても,「私(わたし)」「関(かか)わる」「運命(さだめ)」など,表に掲載されていない音訓を「表外音訓」と呼ぶことがあります。また,漢字そのものが表にない場合には,「表外字」(表外漢字)と呼ばれます。「頃」「誰」「まで」などがその例です。前書きに,「固有名詞を対象とするものではない」とあるように,姓に頻出する「藤」や,県名などに使われている「岡」も入っていません。

 学校教育でも,「学習指導要領」などに「常用漢字」によって漢字を学習するように記されています。「常用漢字」のうち,小学校で教育される漢字は,「学年別漢字配当表」(「当用漢字別表」ともいった)に示され,「教育漢字」,「学習漢字」と呼ばれることがありました。当初(昭和23年)は881字でしたが,現在では1006字となっています。一部の音訓は,中学校,高等学校に配当されています。

 一般社会での漢字使用や学校での漢字教育については,以上のように目安や決まりがあります。新生児の命名に際して用いる漢字も,戦後,「常用平易な文字」(「戸籍法」)として,「当用漢字」に限定されました。しかし,「也」「弘」「彦」「鶴」「麿」など,人名によく使われてきた漢字が「当用漢字」に入らなかったために命名に使えなくなり,一部に混乱が生じたようです。そこで,法務省は,昭和26年に「人名用漢字(別表)」を制定し,内閣告示・訓令により公布され,命名に「当用漢字」のほかに92字が使えるようになりました。

 その後,「人名用漢字」は,昭和51年,56年,平成2年,9年と4回にわたって追加され,現在,285字となっています。「常用漢字」と合わせた2230字を「政令漢字」と呼ぶこともあります。「人名用漢字」には,読み方は示されておらず,読み方に制限はほとんどありませんが,字体については取り決めがあります(〔問11〕参照)。

(笹原宏之)