本プロジェクトでは,意味的他動性が出来事の認識とその言語表現および言語習得にどのように反映するかを解明することを目的とする。日本語とアジアの諸言語を含む世界の35の言語を詳細に比較・検討し,それを通して,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを志向する。 また,方法論の面においては,従来通りの個別言語の記述や,表面的な対照言語学・言語類型論などを超えた新たな研究方法を用いる。具体的には,言語類型論の知見を心理学や第二言語習得研究における実験的手法に取り入れることによって,共同研究でなければ到達できない理解を目指す。
(A)言語類型論チームは個別言語における語彙構造の記述(自動詞と他動詞の形態的な関係に基づいたリスト作成)から出発し,典型的な他動性,典型的な自動詞,またはそれぞれから逸脱した様々な出来事の形態・統語的な特徴を一次的なデータに基づいて詳細に記述し,他動性の連続体全体の包括的な記述を目指す。さらに,これらの詳細な記述に基づいて,言語間の対照研究を行い,日本語などの個別言語の様相の解明だけでなく,言語の多様性と普遍性についての研究に貢献することを志向する。
(B)心理言語学チームは非言語的な刺激(ビデオクリップなど)を利用して多言語の話者から言語表現を引き出し,それによって浮かび上がる言語間の類似点や相違点を通して,外界の認知・捉え方と言語使用の関係の解明を目指す。
(C)言語習得チームは類型論的に異なった特徴を持つ言語を母語とする日本語学習者の日本語の他動詞・自動詞の習得を通じて,他動詞・自動詞の習得過程における言語間の類似性と個別性の解明を目指す。
それぞれのチームは研究会や打ち合わせなどを通じて研究成果を発表し,議論を踏まえ,最終的に研究成果を国内外で発表する。