日本語の名詞化接辞および使役動詞を取り上げ,複雑語にはレキシコンに記憶されいるものと,形態素から構成的に作り上げられるものとの区別があるとする,二重メカニズム仮説を検証するために行った心理・神経言語学的実験の結果を紹介した。
北奥方言(特に八戸市を中心とする)では,標準語では動詞に後接するアスペクト辞「ている」に対応する「テラ」が,動詞以外に形容詞・名詞述語(形容動詞を含む)などにも後接する。統語形態論的な整理を行った上で,このテラを,属性叙述の一時性を示す有標の形式と分析し,標準語で「大学生でいる」などの表現が一定の意味的制約下で成立することと本質的な共通性を持つことを指摘した。
「属性」の下位タイプを探る試みとして,日本語と中国語の二重主語文・文末名詞文の現象を中心に考察した。特に,主題と所有物の関係だけでなく,所有物とそれに対する述語の関係の記述を進めることで,属性の認識過程に対するアプローチとなりうることを述べた。具体的には「体感的な属性/非体感的な属性」「類型化を利用した属性/個別化を利用した属性認識」のような差異が,構文使用の自然さに影響を与えているのではないかという提案をした。
本発表では,コリャーク語で「形容詞」とされてきた形式を取り上げ,意味・形態・統語の各側面からその特徴を検討することにより,これが,属性叙述を表すものであることを主張した。その根拠として,この形式が恒常的特性を表す点で,対応する事象叙述文と意味的に対立していること,形容詞語幹だけでなく,名詞,副詞,動詞の各語幹からも作られること,この形式に特有な一般構造制約に反する統語操作は,主語のみならず,目的語や付加詞を属性叙述の対象として取り立てるための手段であることなどを検証した。