日本語とトルコ語の複合動詞を比較することで,トルコ語は名詞部や動名詞部に組込まれた文法情報(特質構造,格付与の情報)を直接的かつ容易に取り出せる言語だが,日本語はトルコ語ほど容易に取り出せない言語であると論じた。トルコ語と日本語のこれらの違いは,豊富なV+V型の複合動詞構造を許すかどうかの違いにも反映されており,豊富なV+V型の複合動詞構造の存在は日本語の特質であることを論じた。
日本語の結果構文が主動詞の語彙概念構造によって規定できるのに対して,中国語の結果補語複合動詞は「主動詞-目的語-結果補語」という統語構造から結果補語を主動詞の後ろに複合させることで派生されることを示すと共に,同一形態で自他交替を起こす中国語動詞について使役化と反使役化の2つの方向性を探った。
形容詞と動詞の語彙化のパターンに見られる、状態と状態変化の形態的区別には言語間で差があり、それが形態的に顕著に示されることが、日本語のレキシコンの特徴の1つとして挙げられることを、同じ膠着型言語の韓国語、また孤立型言語の中国語・タイ語との対照から明らかにした。その特徴が言語の統語現象を規定する例として結果構文を取り上げた。
日本語に特有の問題である二字漢語の拘束形式語基(「具体・国際・積極」等)を取り上げ,その特質と位置づけに関する予備的な考察を行なうとともに,当該形式を考察することの語形成論的な意義について見通しを述べた。
英語の過去形の認知処理では連想的な記憶処理と規則的な-ed付加の二重処理メカニズムが機能しているとされるのに対して,本研究ではプライミングの実験手法を使って日本語の動詞の認知処理を検討した結果,派生関係のない自他交替条件ではプライム効果がみられず,可能形でプライム効果が見られた。自他交替は連想的に記憶されて,可能形は規則的に処理されていると考えられ,二重処理モデルが日本語の動詞の処理にも機能している。
なお,当日は上記の共同研究者による発表に先立ち,若手研究者支援の一環として次の2件の公募型プロジェクト連携発表を実施した。
「ぐらぐらする,いらいらする,あっさりする」といった擬態語動詞をベースに,擬態語名詞を作る語形成規則を考察した。
ドイツ語の与格に見られる利益・不利益などの意味合いと,日本語の間接受身などに見られる迷惑などの意味合いを共通のものとして扱うための意味構造を考察した。