「スターバックス」から派生された「スタバる」のような「名詞+る」型の新造動詞の諸特徴を音韻,形態,意味の観点から総合的に検討し,構文文法の考え方で分析する可能性を論じた。
現代形態論の主要な理論的テーマである形態的緊密性(lexical integrity)を取り上げ,日本語の形態論の中でも特異な振舞いを示す語形成として,漢語をベースにした語プラス,統語的編入,動作主複合などの本質を解明することによって理論的問題に新しい貢献ができることを述べた。
「リンスインシャンプー」というタイプの表現の特異性を指摘するとともに,「リンスインシャンプー」と英語のrinse in shampooを比較し,両者の意味の相違は,複合語か句かの違いと主要部の位置という日本語と英語の一般的な相違から説明できることを示した。
日本語では名詞が実質的意味を失って形式名詞化(機能語化)する傾向が顕著であるが,その中で,現代語の「のだ」と「ものだ,ことだ」という助動詞的形式についてその歴史的な発達を概観した。
「(甘)さ」と「(甘)み」が統語的派生と語彙的派生で区別できるという考え方が,「(働き)方」と「(働き)ぶり」などの動詞の名詞化やその他の現象にも拡張できることを述べた。
これまで看過されてきた「借金で首が回らない」や「コンピュータにガタがきている」のような構文的イディオムの統語的・形態的性質を調べることで,語と句の区別や自他交替など理論的課題にも新しい切り口が提供できる可能性があることを述べた。
日本語の時制形・テ形・連用形といった述語の活用(屈折)形とそれらが現れる統語環境について,その対応関係を明らかにするとともに,その関係がどのようなメカニズムによって説明されるべきか,理論的な可能性を探った。
「~一流」(老子一流のアイロニー),「~よろしく」(歌舞伎役者よろしく)のような単語は,複合語の主要部に現れると,単独の場合とは異なる意味で使われることを示し,「複合語に特有の下位意味」という概念の一般化と日本語以外の言語への適用可能性にについて問題提起した。
日本語の「壊す/壊れる」等の自他交替(語彙的な使役化と反使役化)について,音声的な制約で説明できるとする説と,意味的な原理で説明できるという説を引き合いに出しながら,両者を考慮することで妥当な整理ができるのではないかという方向性を示した。
「作家」に対する「作者」,a coffee grinderに対するa grinder of imported coffee のように,名詞が個物を指すと同時に事象的な解釈を持つ例を取り上げ,名詞のオントロジーという考え方を取り入れることで説明する方向性を示した。
形成が項構造,語彙概念構造,統語構造等さまざまな部門で適用するという考え方に基づき,適用部門によって語形成のメカニズムや制約が異なることを,語彙的複合動詞と統語的複合動詞の形成および名詞をベースに作られた動詞について述べた。
時間の流れにそって展開する事象を述べる文と比べて,主語の恒常的属性を述べる文が意味的にも統語的にも興味深い性質を持つことを述べ,属性叙述について,今後,方言や外国語の研究が必要であることを示唆した。