Top> 研究目的と計画

研究目的と計画

学術的目的

膠着型言語として世界の中でも特異な位置を占めるとされる日本語のレキシコンを理論・記述・実験の観点から総合的かつダイナミックに記述・分析することによって,普遍性・一般性のある理論を日本から世界へ発信する。

共同利用目的

従来はあまり連携のない伝統的な日本語学・国語学(方言と歴史を含む),理論言語学,諸外国語学,言語心理学の研究者を結集することで,伝統と革新を融合した新しい研究領域の創出を目指す。また,理論研究から得られた資料・成果・研究文献一覧等をデータベース化し,言語学・日本語学の研究者(大学院生を含む)や外国人日本語学習者が利用できるような形で公開する。

応用目的

プラシャント・パルデシ班「基本動詞ハンドブック」との連携により,日本語教育・日本語学習に有益な資料を提供する。

研究計画と成果公表計画

膠着型言語として世界の中でも特異な位置を占める日本語のレキシコン(語彙)を記述・理論・実験の観点から総合的に記述・分析することによって,普遍性・一般性のあるレキシコン理論の開発を行う。その際,現在の標準日本語だけでなく,方言,歴史的変化,コーパス,諸外国語との比較,心理実験などによる実証性を重視し,理論と実証のバランスが取れた研究を追究する。  具体的な運営は,共同研究者間の研究打ち合わせ,公開の研究発表会,国際シンポジウムを中心に行い,研究成果は国内および海外の出版社から世界に向けて発信する。また,理論的成果の応用として,各種合成語のデータベース化と公開,日本語教育のための動詞ハンドブックの開発(プラシャント・パルデシ班との連携)などを図る。  英語等と比較して日本語の特徴が現れやすい現象として,次の4つのテーマを掲げ,共同研究者はそれぞれ,一つないし複数のテーマに取り組む。

動詞の自他と項の交替(自他交替チーム)

日本語では自動詞と他動詞の交替は, 「扉を開ける/扉が開く」のように有形の接尾辞によって引き起こされる場合と,「扉を開く/扉が開く」のように有形の接辞を伴わず同一形態のままで交替が起こる場合とがある。 このような形態的操作がどのような意味構造に反映されるのか,動詞の自他というレキシカルな現象が使役,受身,アスペクト補助動詞などの機能とどのように関係するのか,日本語では他動詞からの自動詞化,自動詞からの他動詞化,共通語根からの自動詞派生と他動詞派生という3つのタイプが見られるがそれらはどのような意味的・形態的条件によって決まるのか等々のテーマを,方言,歴史,心理実験なども含めて総合的に扱う。

    【イベントの企画】
  • ・2011年4月にマックスプランク進化人類学研究所での言語類型論の国際ワークショップに参加して,日本語の項交替に関する発表を行う。
  • ・2012月上旬に国語研において国際シンポジウムを開催予定。
  • 【成果の公表】
  •  上記ワークショップとシンポジウムの成果を論文集として外国出版社から刊行予定。

言語における事象と属性の区別とその文法的意義(属性チーム)

従来の統語論・文法論の研究はほとんどが,特定の時間・場所で起こる出来事や動作を述べる文を扱い,その適格性を規定する規則や制約を追究してきた。しかし,言語には,時間の流れに伴って展開する出来事や動作を述べる事象叙述機能のほかに,主語ないし主題となる名詞(句)の特性を述べる属性叙述機能がある。たとえば,同じ「〜をしている」という表現でも,「先生は眠そうな目をしている」なら「今は」という時間副詞を付けられるのに,「先生は青い目をしている」には「今は」を付けることができない。従来,このような違いは単に意味の問題であると捉えられがちであるが,実は文法的な制約の違いに係わることが明らかになってきた。このチームでは,方言や外国語も含め,事象と属性の意味的・文法的性質を明らかにする。

    【イベントの企画】
  • 2011年6月の日本言語学会第142回大会で公開シンポジウム「言語におけるデキゴトの世界とモノの世界」を開催。
  • 【成果の公表】
  • 上記シンポジウムを踏まえた論文集を国内出版社から刊行予定。

複合動詞の意味的・統語的・形態的制約(複合動詞チーム)

「話しかける」は,「通りがかりの人に話しかける」のように「声をかける」)という意味と「秘密を話しかける」のように「話し始める」という意味があるが,このような動詞+動詞型の複合動詞は日本語には多数見られるが,日本語との類似性が多い韓国語やモンゴル語などでは案外少ない。日本語で「電車を乗り換える」と言えるが韓国語では「乗り換える」に当たるものがないというように,動詞+動詞型の複合動詞はヨーロッパの言語だけでなく,アジアの言語でも珍しいものである。なぜ日本語がそのような特徴を持つのかを,現代日本語だけでなく諸外国語や歴史変化も射程に入れて考察にする。

    【イベントの企画】
  • 2013年に言語対照研究系とも連携して国際シンポジウムを開催予定。
  • 【成果の公表】
  • 上記シンポジウムを踏まえた論文集を国内外の出版社から刊行予定。

複合動詞の意味的・統語的・形態的制約(複合動詞チーム)

「話しかける」は,「通りがかりの人に話しかける」のように「声をかける」)という意味と「秘密を話しかける」のように「話し始める」という意味があるが,このような動詞+動詞型の複合動詞は日本語には多数見られるが,日本語との類似性が多い韓国語やモンゴル語などでは案外少ない。日本語で「電車を乗り換える」と言えるが韓国語では「乗り換える」に当たるものがないというように,動詞+動詞型の複合動詞はヨーロッパの言語だけでなく,アジアの言語でも珍しいものである。なぜ日本語がそのような特徴を持つのかを,現代日本語だけでなく諸外国語や歴史変化も射程に入れて考察にする。

    【イベントの企画】
  • 2013年に言語対照研究系とも連携して国際シンポジウムを開催予定。
  • 【成果の公表】
  • 上記シンポジウムを踏まえた論文集を国内外の出版社から刊行予定。

種々の語形成過程に伴う意味的・統語的・形態的制約(語形成チーム)

たとえば「彼は太っ腹だ」という表現は「彼は腹だ」とは全く異なる意味であり,むしろ「彼は腹が太い」という構文に近い意味を表す。「もう2回転して下さい」というのは以前に2回転したという含意は持たないから,「もう2回転」は 形態論的には[もう[2回転]]という構造であるが,意味としては [[もう2回]転]のような解釈になる。このような形と意味のミスマッチを始め,日本語の語形成は形態だけでなく意味と統語の観点からも興味深い性質を持っている。このチームは,複雑な語における意味と形のミスマッチや統語構造における語形成など,形態論と意味論・統語論の相互関係を明らかにする。

    【イベントの企画】
  • 当面,数度の公開研究発表会で中間報告を行う。
  • 【成果の公表】
  • 国内で論文集を刊行するほか,海外の専門ジャーナルにも投稿予定。