研究班4:情報発信のための言語資源の整備に関する研究 |
木村チーム「日本語コーパスの作成とその活用」
田中牧郎(国立国語研究所)
日本語のコーパス作成は,三,四十年前から行われているが,古典語や現代語に比べて,明治から昭和初期にかけての文献のコーパス作成は,遅れていた。木村チームでは,その部分を埋めるようなコーパス作成,コーパス作成の方法論の研究,さらに,作成したコーパスに基づいた言語研究を目標とした。対象資料に選定したのは,総合雑誌『太陽』と『英華字典』の二種であり,それぞれ,国立国語研究所国語辞典編集室と,言語変化研究部第二研究室が担当した。・ | 原資料の漢字をJISコードの漢字によって入力するための,漢字の同定規準の検討と策定(新プロ報告書「『太陽』コーパスの作成と活用」平成9年3月,「『太陽』コーパスの漢字処理」平成11年2月) |
・ | エントロピーの計算(新プロ報告書「『太陽』コーパスの作成と活用」平成9年3月) |
・ | ルビの出現状況(「『太陽』本文におけるルビの調査」平成11年3月,新プロ『研究論文集』2所収) |
「多国語を統一する情報交換用4バイトコードの研究」
-5年間の成果-
斎藤秀紀(国立国語研究所)
情報交換用漢字符号JIS C6226 は,1978年に日本工業規格として日本語による情報交換を円滑に行うための規格として制定された (1987年3 月にJIS X0208-1983) 。しかし,一般国語の表記や情報交換用に作られたJIS X0208 は,大規模の漢和辞典や古典・漢籍を符号化するための文字集合を規定していない。また,JIS X0208は,連続番号を使用したことも,文字の追加に対して規範の維持を困難にした。「放送通訳の研究」
放送通訳の話す速度の研究(96,97年度)
木佐敬久(NHK放送文化研究所)
「放送通訳の日本語」の具体的な調査には,ビデオを視聴して,その場で答えるという方法が必要である。96年度と97年度の2回,ビデオによる視聴者の反応調査を行った。
Ⅰ.調査方法
(1) | 放送通訳には,①同時通訳,②時差通訳(ビデオを何回か見て準備できる)の違いがある。調査では,②時差通訳を対象とした。 |
(2) | 英日(英語→日本語)の放送通訳を対象とした。題材は,CNNとABCのニュース。 |
(3) | |
ア | メリカのニュースでは「読みニュース」はほとんどフラッシュニュースである。 |
① | フラッシュ……15秒~30秒程度のニュースを,何本か連続して伝える。 |
原語の話し手は1人。通訳は1人。 | |
② | 談話入りニュース…1分50秒以上の長いものが多い。通訳は基本的に1人だが,原語の話し手は,キャスター,リポーター,専門家など複数。 |
(4) | 被験者 第1回調査(97年2月,151人)と第2回調査(98年2月,154人)の2回,都内で行った。被験者の年代は20代から60歳以上まで。 |
(5) | 調査ビデオ 新規吹き込みの通訳者は,さまざまな速度の通訳者がそろうように選んだ。 第1回調査……5人。うち男性1人。 第2回調査……6人。全員女性。ほかに,女性アナウンサー1人も参加。 |
Ⅱ.アナウンサーの読みニュースの速度
話す速度は,ふつう分速(拍/分)で表す。拍は日本語音節の単位で,俳句は17拍。
90年代のテレビニュースの速度は,440~490拍,平均465拍程度。
Ⅲ.調査結果
具体例を1つだけ挙げておく。同じフラッシュ,同じアナウンサーで,訳量が「大」
「中」「小」の「速度感」。
速度 | (訳出率) | かなり速い | やや速い | 適 度 | ややゆっくり |
大515拍 | (86.7%) | 36% | 55% | 9% | 0% |
中475拍 | (79.2%) | 7 | 33 | 59 | 2 |
小436拍 | (71.9%) | 2 | 24 | 54 | 20 |
① | 速度が500拍以上は「聞きにくい速度」,450拍以下は「聞きやすい」速度。 |
② | 放送通訳は一般ニュースよりも厳しい条件に置かれているため(原語が聞こえている,など),アナウンサーの平均速度(465拍)をなるべく上回らないことが必要。 |
③ | 「速度感」はトーク速度をほぼ正確に反映する。通訳者やニュースが違っても,トーク速度が等しければ,「速度感」もほぼ等しい。速度以外の要素の影響はかなり少ない。 |
④ | 通訳ニュースに対する「接触者」「非接触者」の差,年層差はあまり見られない。 |
⑤ | 「聞きやすさ」もかなり「速度」に対応している。 |
⑥ | 「わかりやすさ」は「聞きやすさ」と同程度になることが多い。 |
⑦ | ニュースによる速度の違いは,「談話ニュース」のほうが「読みニュース」(フラッシュ)よりも大きい。 フラッシュ(全訳)………601拍~540拍(5本) 談話ニュース(全訳)……630拍~499拍(9本) 全訳はいずれもアナウンサーの速度の上限(490拍)を超えており,放送に適さない。 |
⑧ | 「適切な訳出率」は元の英語ニュースの速度に左右される。 フラッシュでは465拍(アナウンサーの平均速度)以下,訳出率は80%が目安。 談話ニュースでは450拍以下が望ましく,適切な訳出率は75%が大体の目安である。 |
⑨ | ボイス速度(発声部分の速度)は,1分間に600拍(0.1秒で1拍)弱が普通。 |
⑩ | 意味の大きな区切りで十分にポーズを取っている通訳は,視聴者の評価が高い。 |
⑪ | 英語のシラブルと日本語の拍との関係は,1シラブル=1.8拍程度,と推定される。 |
ニュースの英語放送通訳の研究(98年度)
柴田 実・最上勝也・塩田雄大(NHK放送文化研究所)
在日外国人と2か国語放送との関係を知るために,グループインタビュー(対象者14 人)を行なった。ここでは,2か国語放送とふだんどのように接しているか,またこの調 査用に作成した2か国語ニュースを視聴させてどのような反応が得られるかを調べた。
教育チーム「日本人及び外国人に対する言語教育の統合的研究」
これまでの活動を振りかえって
柳澤好昭(国立国語研究所)
新プロ第4班教育チームでは,初等中等教育における言語教育に関する意識調査,外国の学習指導要領に相当するものとの比較研究,初等中等教育機関における教室コミュニケーションの様相に関する研究,教科書の言語表現に関する研究,日本語の基本語彙に関する文献研究などを通じて,国語科をはじめとして教科学習における国語教育の問題や外国人児童生徒に対する日本語教育の問題を追究してきました。また,これまで多くの方々と研究会や国際シンポジウム専門部会などにおいて言語教育について論議してきました。