イソップはタメになるか?
フランス国立科学研究所上級研究員
西沼行博
「新プロ」のもとで日本語を研究することになった第3班下のESOP(Experime
ntal Studies on Prosody)チーム(「音声言語の韻律特徴に関す
る実験的研究」責任担当鮎澤)は,日本語発話に現れるイントネーション,リズム,テンポ
などの韻律を調べるのが目的です。プロジェクトの主旨を尊重し,外国人に日本語を教援す
る分野で役立つ知見が得られるようにと的をしぽりました。しかしいろいろな国での日本語
教育上の問題点を全面的に網羅するわけにはいかないので,フランス人が日本語を勉強する
というケースを中心に手がけることにしました。しかもその言語らしさが顕著にでる韻律の
みに焦点をあてながら。
韻律について,フランス国立科学研究センター音声言語研究所では,どのように(生理・音 響面で)生成され,いかに(知覚面および音韻レベルで)受容理解されているかを探ってお ります。研究に必要な生理データ採集,音響分析,聴覚テストのツールも開発され蓄積され ています。 そこで,日本語を教えたり学んだりするときに役立ちそうなツールを象牙の塔から脱出させ る試みに参加することになりました。実際にはワークステーションで稼動しているソフトの 一部をユーザに優しいといわれるマッキントッシュ上で動くハイパーカード版に仕上げるの です。 さて,小さな子どもがある言語を話すようになるまでには,生成系である「脳-口」も,受 容器である「耳-脳」のルートもその言語を運用するのに便利なように補強されてしまいま す。大きくなって,外国語を勉強するとき,ソノような「国粋的な耳」だけでは,その耳に 都合のよい音しか聞こえません。もともとなまっている口は,もちろん聞こえもしない音を 出すことが出来ない訳です。 しかし耳の「脱訛訓練」は発音のようにその問題点が明示されないので,簡単ではありませ ん。ネイティヴがXと意図して発音した音を,聞くほうでもXと受け取るのだという「聴覚 上の習慣的・社会的歪曲」をたたき込まねばなりません。 |
聴覚の訓練は現存の機能を拡張するのが基本です。適切な道具で音を少し料理して聞こえ易
くし,だんだんと元の音に近くても聞こえるようにする必要があります。
発音面では,学生の録音した発話が教師のモデルとどのくらい違うか,どこをどのように直 したら良いのかの目安を与えるのが親切でしょう。直せばこのくらい良くなるということを ,自らの声を操作するシミュレーションで見せることができればやる気も起こるに違いあり ません。訓練後の成果が評価できる仕掛けも望まれるでしょう。 韻律学習支援ソフトには,日本で行われている研究成果も取り入れられる予定です。最終的 なソフトの形態は必然的に,音いり,絵いり(静止画像,アニメーション),文字いりのマ ルチメデイア仕様になります。 このように総合的な目標が達成できるように協力するフランスでの「音声エンジン開発作業 集団」は,AESOPと自称しています。研究所が南仏プロヴァンスのど真ん中エクサンプ ロヴァンス市(Aix-en-Provence)にあるので,そのイニシャルAをESO Pにかぷせ,イソップAesopにあやかリました。 このグループは,英国生まれの研究員ダニエル ・ハースト(Daniel HIRST) ,94・95年度は日本に留学したことのあるプログラマー,クロード・オレセール(Cl aude OHRESSER,プロヴァンス大学情報処理講座担当講師),95年度からは ナタリー・ヴュルベル(Nathalie WURBEL,情報処理分野で博士号取得,ブ ログラマーの職を経て,プロヴァンス大学音声言語研究所研究員),音響処理ぱかりではな く,マックやDOS系にも詳しいフィリップ・ディクリスト(Philippe DI C RISTO,テキストの自動処理を専攻して博土論文を準備中の大学院生),そしてフラン ス在住通算l7年になる私からなる小世帯です。 |