令和2年度 国立国語研究所日本語教師セミナー (国内)
- 「国立国語研究所日本語教師セミナー」とは
- 平成28年度から国立国語研究所が実施する,日本語教育水準向上のための日本語教師を対象とするセミナーで,国内と海外で毎年1回ずつ実施します。
令和2年度の国内では Web により,下記の日程で開催いたします。
タイトル
「対話システム研究と日本語教育」日時
2021年2月27日 (土) 13:00~17:20
会場
Web開催 (Zoom を使用)
内容
昨今では,スマート・スピーカーが身近になり,AI の反応の質も,日進月歩で向上を続けています。対話システムとは,人間と会話を行うコンピュータのことです。そんな対話をする AI を開発する研究が,対話システム研究です。
日本語教師の方は,「それが日本語教育とどういう関係があるの?」と思うかもしれませんが,実は,日本語教育とは,意外な接点があります。対話システム研究の手法の一部に,「人手で対話のシナリオを作る」というプロセスがあるのです。それは,日本語教師が,学習者に日本語を教えるために,「対話」,「ダイアローグ」を作成するプロセスや考え方と驚くほど似ています。見方によっては,対話システム構築とは,機械に日本語を教えることであり,一種の日本語教育とも考えられるのです。本セミナーでは,「ライブコンペ」という,「対話システムと人間が実際にライブで会話を行い,その自然さを競う」というコンペの趣旨や内容を紹介し,それがいかに日本語教師にとって興味深いか,また,日本語教師の側から貢献できることが多々あるかということを論じます。また,逆に,対話システムとの会話のやりとりのプロセスや,簡単な対話システムを作ってみるという試みが,日本語教育の研究や現場にいかに生かせるかを一緒に考えたいと思います。これらを通して,AI との共生社会を想定した,今後の日本語教育の新たな展開の契機の一つとしたいと思います。
スケジュール
13:00~13:15 (15分) 「対話システムと日本語教育の関係とは?」 (趣旨説明に代えて) 宇佐美 まゆみ (国立国語研究所 教授)
- 発表資料 [ PDF | 5,946KB ]
広く ICT と日本語教育との関係と捉えると,古くは CALL などもあり,その歴史は長い。AI が生活のあらゆるところに浸透してきている今日,2020年のコロナ禍の影響で,リモートワークが加速化し,言語教育の現場も,オンライン化が急速に進んだ。AI と日本語教育の関係は,益々注目を浴び,その重要性も高まってきている。しかし,それらの流れは,目覚ましく発展している技術を日本語教育にいかに生かせるかという可能性を探るものがほとんどで,逆に,談話研究や日本語教育の側から何か貢献できることがないかという発想にもとづく協働は,ほとんどなかったと言っても過言ではない。そのような中,筆者は,対話システムの研究者が中心になって開催している「ライブコンペティション」の企画に,言語研究者側の視点を取り込むことを目的として,2019年から委員としてかかわるようになり,2019年の日本語教育学会秋季大会では,「対話システム構築と談話研究・日本語教育の接点」と題して,パネルセッションを開催した。そこでの聴衆の反応やコメントには,対話システム研究者が多数を占める研究会とは異なる観点からのものがあり,協働することの意義と可能性を実感した。
そこで,本セミナーでは,対話システム研究の動向やプロセス,そのどの部分に,日本語教師が貢献できるのか,また,日本語教育の現場に,対話システムをいかに生かせるのかを,改めて皆で考えたい。話題提供者には,対話システム研究者側から2名をお招きし,まず,東中さんに,「対話システム研究の現状と日本語教育研究者・実践者に期待すること」,及び,飯尾さんに,「日本語教育における対話ロボット活用の可能性について」と題して,ライブコンペの紹介や,文系の研究者向けの対話システム構築のための講習会の内容などを,お話いただく。また,談話研究,日本語教育側からは,今年,2020年のライブコンペの「シチュエーション・トラック」で,人文系研究者として初めて最優秀賞を受賞した白井さん,及び,昨年の講習会に参加したことを契機に,対話システム作りや,その日本語教育への応用を考えているという西川さんに,それぞれの観点からお話いただく。これらを通して,AI との共生社会を想定し,また,他の分野にも貢献できるような新しい日本語教育の展開に向けての契機の一つとしたい。
13:15~13:55 (40分) 「対話システム研究の現状と日本語教育研究者・実践者に期待すること」 東中 竜一郎 (名古屋大学大学院 情報学研究科 教授)
- 発表資料 [ PDF | 3,137KB ]
スマートフォン上の音声エージェントや AI スピーカーなど,人間と会話を行うコンピュータである対話システムが身近になってきた。本講演では,対話システム研究の現状として,近年の対話システムに関するコンペティションの結果やそこで用いられた方法論,システムの性能などについて紹介する。また,講演者が主催する対話システムライブコンペティションでは,特定のシチュエーションに沿った人間らしい対話ができるかどうかを競うシチュエーショントラックを設けられている。人間らしい対話の実現には対話に関する幅広い知見が必要と考えられるため,対話システムの講習会を実施するなど,教育分野を含む人文系の研究者の参加者を呼びかけてきた。本講演では,シチュエーショントラックを実施した経験から,日本語教育研究者・実践者に期待することについて述べたい。
14:00~14:40 (40分) 「日本語教育における対話ロボット活用の可能性について」 飯尾 尊優 (筑波大学 システム情報系 助教)
- 発表資料 [ PDF | 11,531KB ]
本講演では,対話ロボットが日本語教育に貢献できることとして,講演者が考える2つの可能性について述べる。1つは,教育者と協働したり学習者に寄り添ったりすることで教育効果を高める支援者としての可能性である。講演者は,これまでに英会話学習支援ロボットや読み聞かせをするロボット,複雑な議論をする複数のロボットなどの研究を行ってきた。それらの紹介をしながら,日本語教育への応用について考えを述べたい。もう1つは,学習者が対話ロボットを用いて対話を構築することで対話に関する理解を深める教育ツールとしての可能性である。AI 技術の発展により自動的に自然な対話を生成できる技術が出てきたが,実用的な場面 (小学校での授業支援,高齢者施設での会話支援等) で自然な対話を作ることはまだ難しく,今も人手で対話のシナリオが作られている。講演者のシナリオ作成の秘訣を紹介しながら,シナリオ作成を通じた対話の理解について考えを述べたい。
14:45~15:25 (40分) 「日本語教育と対話システム構築の接点」 白井 宏美 (FCL (次世代コミュニケーション研究所) 代表 / 慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員)
- 発表資料 [ PDF | 1,284KB ]
令和2年11月30日に開催された「対話システムライブコンペティション3」のシチュエーショントラックに初めて挑戦し,最優秀賞を獲得した。ロボットを使った実証実験や実践経験はあったが,対話システム (チャットボット) を作るのは初めてであった。それにもかかわらず,良い結果を得ることができたのは,対話システム講習会のおかげと,談話研究の知見を活かしたこと (主に日独比較研究を行ってきた),さらに長年にわたるドイツ語教育の経験があったからだと考える。つまり,人文系の研究者および言語教育の実践者が,人間らしい対話をするシステムの構築に貢献できる可能性は大きいということである。同時に,対話作成を経験すると,日本語や教育に関する新たな気づきや発見が得られることも実感した。本講演では,談話研究の知見や言語教育の経験を,どのように活かして対話システムを構築したか,また,日本語教育から貢献できる点について,具体的に述べたい。
15:30~16:10 (40分) 「AI の対話システムが日本語教育に応用できること,日本語教育が貢献できること」 西川 寛之 (明海大学 外国語学部 准教授)
- 発表資料 [ PDF | 4,669KB ]
もし,どのような話題に対しても自然に受け答えできる対話システムがあれば練習相手として日本語教育で活用することができる。特定の職業や面接試験などの限定された場面の会話に特化したシステムがあれば,学習上の練習相手として活用ができる。会話例を AI によって解析してシステムが構築されるのであれば,そのプログラムを読み解くことで,教育内容を改善することにつなげることも可能である。
現段階では学習者のレベルに合わせた練習相手とするのは,まだ難しいだろう。母語話者同士の会話が前提となっているからである。学習過程を理解した日本語教師の知見が使えるならば,非母語話者との対話を想定したシステム開発も可能となる。近年,国際化の中で必要なものと注目されている「やさしい日本語」など日本語非母語話者を対象としたコミュニケーションを目指した対話のシステムをより良いものとする支援が日本語教育からシステム開発に対してできる。
16:10~16:25 (15分)休憩,質問記入
16:25~17:15 (50分)ディスカッション
17:15~17:20 (5分)閉会のあいさつ
宇佐美 まゆみ (国立国語研究所)
参加申し込み
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定員
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お問い合わせ先
国立国語研究所 管理部 研究推進課
E-mail : ninjal-events[at]ninjal.ac.jp[at]を@に置き換えてください。
Tel. : 042-540-4353