「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会 概要

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成28年1月24日 (日) 13:30~17:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表概要

「1万人調査からみた最新の方言意識 ―「2015全国方言意識 Web 調査」の概要と報告―」 林 直樹 (日本大学 助手),田中 ゆかり (日本大学 教授),前田 忠彦 (統計数理研究所 准教授)

本発表では, 2015年8月に実施された,日本全国に居住する20歳以上の男女約1万人から回答を得たWeb調査に基づく最新の全国方言意識調査の概要,ならびにその結果を報告した。
「2015全国方言意識Web調査」は,同様趣旨で実施した「2010全国方言意識調査」の最新版として企画・実施されたものである。本発表では,「2015全国方言意識Web調査」の調査方法・サンプル回収数の目標設定・サンプル数・回収率などの概要を報告し,「方言・共通語意識」6項目についての基礎的な分析報告を行った。その上で「2010年全国方言意識調査」の結果との簡単な比較を行った。その中で,両者において,使用意識や地域的傾向はおおむね共通していること,ただし,好悪項目に関しては「2015全国方言意識Web調査」よりも「好き」が少なく,「わからない」が多いという相違点がみられることを確認した。最後に,このような相違点が何に基づくものかなどを含む今後の課題を述べた。

「北海道方言における経年変化の地域間比較 ―札幌市・釧路市・富良野市・函館市における調査結果から―」 朝日 祥之 (国立国語研究所 准教授),尾崎 喜光 (ノートルダム清心女子大学 教授)

本発表では,北海道の主要都市 (札幌市,釧路市,富良野市,函館市) 居住者約800人を対象に実施された大規模調査の結果を,1980年代に同地点で実施された調査結果との比較対照を通して考察した。朝日の発表では語彙項目 (トーモロコシ,シャモジ) をめぐる経年変化について,調査地点差,話者の生年差などを中心に分析した。尾崎の発表では,調査語「二十分」による「ジュ/ジ」の対立と,「宿題」による「シュ/シ」の対立について,2009年に実施した全国多人数調査および1985年に実施した札幌市での調査結果を加えた形で分析した。分析では,全国的状況と地域差・年齢差・性差,北海道道内での地域差・年齢差・性差,札幌市における実時間変化を論じた。

「現代新聞における和語動詞の叙述基本語化 ―談話引用動詞 "話す" の場合―」 石井 正彦 (大阪大学 教授)

はじめに,20世紀後半の「通時的新聞コーパス」 (金愛蘭氏作成) の調査により,この期間に少なからぬ和語動詞が使用の頻度および均等度を増大させ,新聞文章の「叙述語」として基本語化している可能性を指摘した。このことは,これまで外来語や漢語に観察されてきた (叙述) 基本語化という現象が (一部の) 和語にも及んでいることを推測させるものであり,基本語化研究の射程をさらに広げる必要性をも示すものである。次いで,これら和語動詞の中でその使用を最も増大させている「話す」を対象に,この,日常語ではすでに基本語であるはずの動詞が,なぜ新聞では20世紀後半 (おそらく1980年代) になって叙述基本語化するのかについて,上記コーパスを資料に検討した。とくに,記者が関係者・識者等の談話をト節引用節に示して読者に伝達する「談話引用用法」について,類義語「語る」「述べる」「言う」との比較を行い,「話す」が1980年代に終止用法において急激に勢力を伸ばし,1990年ごろテイル形において「言う」に取って代わり,さらにタ形において「語る」「述べる」と張り合いつつ,最近では一人ル形の用法を増やしていることを報告した。その要因として,発表では,戦後における新聞文章の口語化を背景として軟らかい日常語の談話引用動詞が必要とされたこと,談話主体が一般人へと拡大する中で話し手に対する待遇性がやや高い「話す」が選好されたこと,新聞記事の文章に論理性重視 (テイル形) から臨場性重視 (ル形) への移行が生じていること,などを仮説として提示した。