キックオフワークショップ 「語のプロソディーと文のプロソディーの相互作用」 概要
- プロジェクト名,リーダー名
- 対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法 (第3期準備プロジェクト) 窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
- 開催期日
- 平成28年1月10日 (日) 13:00~18:00
平成28年1月11日 (月) 10:00~13:00 - 開催場所
- 国立国語研究所 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
発表概要
コメンテーター : 上野 善道 (東京大学 名誉教授),木部 暢子 (国立国語研究所)
平成28年1月10日 (日) 13:00~18:00
13:00開会
13:00~14:00「語のプロソディーと文のプロソディーの相互作用」窪薗 晴夫 (国立国語研究所)
本発表では新プロジェクトの概要を解説した上で,主に鹿児島方言の調査結果をもとに,語アクセント (の対立) が語や文節を超えて実現する現象と,文のプロソディーが語のアクセントを変える現象について論じた。前者の例として,複数の文節が融合して一つのアクセント単位を構成する現象を取り上げ,語彙化 (複合語化) や格助詞の脱落・縮約による融合の例を分析した。後者の例として,呼びかけイントネーション,疑問文イントネーション,フォーカスイントネーションの3つを取り上げ,そこに語のアクセント型 (音声形) の変容,アクセント対立の消失 (中和),アクセント句の拡張 (文末助詞の取り込み) などの現象が観察されることを指摘した。また,これらの研究テーマについて,今後取り組むべき課題を紹介した。
14:00~15:00「長崎市方言のアクセントとイントネーション」佐藤 久美子 (長崎外国語大学)
長崎方言は,下降のあるA型と下降のないB型が対立する声調言語である。本発表では,ダレ・ナニ・ドコなどの不定語はこの対立を持たず,音調型は不定語の解釈 (「疑問詞」「全称量化詞」など) によって異なることを指摘した。また,不定語を含む文において二つ現象が生じることを報告した。一つは,疑問詞疑問文では,不定語 (疑問詞) より後ろではピッチのピークが低くなるという現象である。もう一つは,文中に不定語と「-モ」という形態素が共起するとき,不定語からこの形態素までに高く平らなピッチが実現し,型の対立が中和するという現象である。前者はフォーカスによって導かれるものであることを確認した。後者については,マイナー句を用いた説明を試みた。最後に今後の研究計画として,中和現象を導く音韻過程を検討すること,不定語を含む文において生じる中和現象に注目して他方言との対照を行っていくことを述べた。
15:20~16:20「長崎・天草方言における統語構造と韻律構造の写像関係」松浦 年男 (北星学園大学)
本発表では統語構造と韻律構造の間に写像関係が見られるかについて,長崎方言と天草方言 (本渡地区) で行った調査の結果を報告した。調査では長崎方言では統語構造がほぼ最小対となる文のペア (一義文) を用い,天草方言ではそれに加えて文脈を付けた曖昧文を用いた。その結果,長崎方言では右枝分かれ構造と左枝分かれ構造でほぼ同じ F0 が観察され,写像関係が認められる結果は得られなかった。一方,天草方言においては一義文では写像関係が認められる結果が得られたが,曖昧文ではそのような結果は得られなかった。また,以上の結果に対して,音声分析において参照すべき部分や,今後より精度の高い調査を行うための方法などについて議論した。
16:30~17:45「統語節境界と音韻節 (イントネーション句) 境界の一致 / 不一致について」石原 慎一郎 (Lund University)
これまで日本語の韻律階層は minor phrase (accentual phrase) と major phrase (intermediate phrase) という2つの階層が一般的に仮定されてきたが,近年,その上の階層である,音韻節/イントネーション句 (phonological clause, intonational phrase) の存在を示唆するデータや理論的根拠が提示されてきている。この発表では,これらの先行研究を再検討しながら,まだ答えの出ていない問題点を確認し,さらに音韻節の存在を確認するために行われた実験の結果の一部を報告した。実験では,埋め込み節の直前と最後のモーラが長くなっていることが観察された。また,埋め込み節の時のみ,語順による影響も観察された。
平成28年1月11日 (月) 10:00~13:00
10:00~11:00「多良間方言と池間方言の韻律階層」五十嵐 陽介 (一橋大学)
多良間方言や池間方言が属する南琉球宮古語の韻律階層がどのようなものかを明らかにすることを目的として,池間方言の外来語アクセント規則を検討した。外来語887語のアクセント型を分析した結果,5モーラ単純語,6モーラ単純語に,従来の枠組みからは予測できないアクセント型が観察されることが明らかになった。そこで,2モーラを1フットとする従来のフット形成規則を改定した規則,すなわち重音節を構成する2モーラを最初にフットとする規則を提案した。その結果,従来の枠組みでは説明できなかったアクセント型の8割以上が説明できることが明らかになった。音節を仮定しなければ説明できない韻律現象は池間方言に関してこれまで報告されていなかった。今回の結果は,池間方言の韻律階層にはモーラとフットの中間に音節があることを示唆する。
11:00~12:00「多良間島における文のプロソディー : 韻律句が連なる場合の音調交替現象について」松森 晶子 (日本女子大学)
本発表では,琉球の多良間島には,文節レベルで見られる音調型が文中では異なる音調型に変化する,という「音調交替」現象が見られることを報告した。その説明として本発表では,アクセント核の出現する箇所において「隣とは反対の音調を付与する」という規則がこの体系に存在する,という提案を行った。従来この方言はピッチの「下がり目」の位置が有意味なアクセント言語とされてきたが,実はその核は下げ核ではなく,韻律句全体が高く始まる場合にはピッチを下げ,それが低く始まる場合にはピッチを上げる,というような性質を持つ核であることを指摘した。あわせてこの体系のH音調の付与は,韻律句ではなく,もっと大きいレベル (イントネーション句) で行われる,という提案も行った。
12:00~13:00「白峰方言のプロソディーの諸問題 ―アクセント体系および複合名詞アクセント―」新田 哲夫 (金沢大学)
この発表では,石川県白山市白峰方言のプロソディーの諸問題,特にアクセント体系と複合名詞アクセントを取りあげた。アクセント体系に関しては,HL,HLL の音調型を,「下降式」か「平進式」のどちらに位置づけるかを議論し,(a) 名詞に助詞の「ノ」が付いたとき,HL,HLL は下降式無核になる,(b) 動詞アクセント活用内において,類別語彙第1類のタ形が HL,HLL で現れるのに対し,接続テ形 (~てみる,~てくれる,などのテ形) が下降式無核で現れる,(c) 複合語の前部要素が HL,HLL のとき全体が下降式になる,の三つ根拠から,これらを「下降式」第1核と結論づけた。また2+3拍の複合名詞について検討し,式保存が原則として成り立つことと後部要素第1核に核が現れる規則があることを示した。
「語のプロソディーと語連続のプロソディー― Aoyagi-prefix の場合」久保 智之 (九州大学)
中止