「日本語レキシコンの音韻特性」研究発表会 概要

プロジェクト名
日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
リーダー名
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
開催期日
平成27年11月27日 (金) 13:30~17:30
開催場所
名古屋大学 東山キャンパス 全学教育棟北棟 多目的講義室406号室
(〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町)

発表概要

13:30~14:15 「徳之島浅間方言名詞アクセントの再考」 金 アリン (九州大学博士後期課程)

徳之島諸方言との比較に基づき,徳之島天城町浅間方言の名詞アクセントに関する新たな分析案を提示した。浅間のアクセントはモーラカウントの昇り核を持つ3型アクセントである。上野 (1977) や早田 (1995) など先行研究がいくつかあるが,いずれもやや複雑な記述となっている。本発表では,まず,浅間方言にみられる長母音について一定の予測性があることを主張した。さらに,長母音の予測性を考慮すれば,比較的単純な3型アクセント体系にまとまると主張した。併せて,先行研究がアクセントとして扱っているピッチ下降については,予測性が高いことや近隣諸方言との対応からもアクセントとは認めない。

14:15~15:00 「日本語諸方言におけるピッチと母音の広狭の関係について」 Clemens POPPE (国立国語研究所 / JSPS)

日本語諸方言においては,アクセントと句音調の高調 (H) の付与が母音の広狭に左右されることがある。具体的には,東北,北陸,房総半島,出雲,四国と瀬戸内海の島に分布する方言において,H が狭母音を含む拍に付与されない傾向がある。従来の研究では,この現象を説明するために,アクセント核とトーンが直接母音の広狭に言及する規則や制約が提案されてきた。本発表では,このようなアプローチの問題点を指摘し,音節構造に基づいた新しい分析を提案した。まずは,「拍」と「モーラ」が同一のものでないことを論じた。次に,諸方言のデータに基づき,重音節 (σμμ),軽音節 (σμ),そして超軽音節 (σ) の区別が必要であることを主張した。最後に,方言間の相違点のとらえ方について論じた。

15:00~15:15休憩

15:15~16:00 「アイスランド語文音調序説」 三村 竜之 (室蘭工業大学)

本発表の目的は,アイスランド語の文音調を記述する上で有意義かつ重要と考えらえる基本概念の提案並びに整理・整備にある。アイスランド語はストレスアクセントの言語であり,これまで発表者は強勢の所在やリズムを考察する上で,音節構造や母音量等の要因に加え,音調の型やその遷移にも着目してきた。本発表では,語の考察を通じてこれまで得られた知見を検証・補強すべく,発表者の採取した一次資に基づき文におけるリズムや音調を考察し,その結果,文音調の基盤を形作る諸概念の提案と諸側面の解明を試みた (例 : 文は一つないし複数のリズム上の単位から成る; 単位の数や切れ目は文のテンポや意味に依存する; 各単位には (ほぼ) 一定の型の音調が被さり,これらの音調の総和と文の種類 (例 : 疑問文) により文音調が決定される)。

16:00~16:15休憩

16:15~17:30 「発話の「ギア」と語アクセント,イントネーション」 定延 利之 (神戸大学)

本講演では,以下3点の観察を通して,語アクセントとイントネーションについて発話の「ギア」という観点から論じた。

  • 観察1 : 話し手が意味を考えずに文字を発する場合,文字は一律に頭高型アクセントで発せられる (例 : 「サダ (高低) という字はこう書く」)。
  • 観察2 : 話し手が特定のイントネーション (+終助詞) と結びついた強いきもちで発話する場合,語アクセントは駆逐されてイントネーションだけが音調に反映される (例 : 「こわいぞー」)。
  • 観察3 : 話し手が文節単位で発話する場合,コピュラは常に低アクセントである (例 : 「お客がだ (低) な,いっぱいだ (低) な,来てだ (低) な,…」)。また,下降調イントネーションは跳躍的上昇の直後でしか生じにくい (例 : 跳躍的上昇+下降の「帰って (低) よ (高) ォ (低) 」は文中の発話 (『下品な男』の物言い) の可能性もあるが,下降のみの「帰ってよ」は文末 (『女』の物言い) の可能性のみ)。