「コミュニケーションのための言語と教育の研究」研究発表会 概要

プロジェクト名
コミュニケーションのための言語と教育の研究 (略称 : コミュニケーション)
リーダー名
野田 尚史 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 教授)
宇佐美 洋 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 准教授) : サブリーダー
科研費
言語運用に対する個人の評価価値観の形成とその変容に関する研究
宇佐美 洋 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 准教授)
開催期日
平成26年11月2日 (日) 10:00~13:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表概要

学習者が日本語を意味づける過程から見えること道端 輝子 (金沢大学)

多くの日本語学習者は「日本語が上手になりたい」と言い,また日本語のレベルがいくら上級であっても「日本語がなかなか上手になりません」という悩みもたびたび聞かれる。本発表では「日本語が話せない,もっと上手になりたい」と語っていた学習者が,自分自身の日本語を「結構いい」と捉えるようになった変化に着目し,学習者が語る自分の日本語に対する意味づけから,その過程を読み解いた。さらに,その変容過程から見えることを示した。

母語話者の評価の多様性 ―評価者グルーピングを通してわかること―崔 文姫 (熊本県立大学)

学習者の話し言葉に対する母語話者の評価は,先行研究においては評価者の属性を基準とした傾向の違いをみるものが多かった。本発表では,学習者の話し言葉に対する母語話者の評価データを用い,予め属性を定めグルーピング (分類) するのではなく,得られた評価データを基に評価者をグルーピングし,そこで明らかになった評価グループ間の特徴について報告した。さらに,母語話者が学習者に対して抱く「個人的親しみやすさ」「社会的望ましさ」「活動性」という3つの印象形成の観点と,上の評価グループとの関連を検討した。

小学生のクラス全体での話し合い活動に対する小学校教員志望者の評価表現森 篤嗣 (帝塚山大学)

平成23年度より施行された小学校学習指導要領において,「言語活動例の充実」が強調されたが,「よい話し合い」の評価基準は放置されていると言って過言ではない。本発表では,小学校教員志望者から「話し合い活動のどこに注目して,どのように評価しているのか」という評価表現データを取得・分析し,「よい話し合い」の評価表現の抽出および規準策定を目指した。具体的には,小学校で録画したクラス全体での「総合的な学習の時間」における話し合い活動の動画を小学校教員志望者20名に視聴させ,6段階で評定してもらった評価を加重平均し,良評価のコメントに現れる語を検討した。

模擬授業における相互評価の観点の多様性とその拡がり林 さと子 (津田塾大学),八木 公子 (津田塾大学)

模擬授業の相互評価で,学生は何を評価しているのか。自由記述によるコメントをデータとして分析し,評価の観点を探った。模擬授業であり,実際の日本語学習者を対象とした授業ではないが,学生のコメントからは彼らの期待する授業像や授業に関する信条,言語教育観といったものが見えてくる。学生はこの評価活動を通して互いの評価の観点を共有することにより,その多様性と拡がりを体験する。これが,自身の授業観察の観点を拡げることにつながり,更には自己の授業を振り返る観点の多様化へとつながることが期待される。