「日本語レキシコンの音韻特性」研究発表会 概要
- プロジェクト名
- 日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
- リーダー名
- 窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
- 開催期日
- 平成26年6月22日 (日) 10:00~14:30
- 開催場所
- 神戸大学 六甲台第2キャンパス 人文学研究科・文学部学舎 1階 学生ホール (兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1)
発表概要
「韓国語と日本語における略語の語形成の対照研究」李 美姫 (東京大学大学院)
本研究は韓国語と日本語の略語に着目し,その語形成を対照することにより,それぞれの言語の略語の形成法の特徴を明らかにすることを目的とするものである。分析の結果,韓国語の略語の形成法には「部分型」,「組み合わせ型」,「融合による縮約」,「同化による縮約」のものがあり,日本語の略語の形成法には「部分型」,「組み合わせ型」があることが分かった。語の長さから見ると,韓国語は2音節語(1音節+1音節)が最も多く,日本語は4モーラ語(2モーラ+2モーラ)が 最も多いことが分かった。語種による観点から見ると,韓国語は原語が漢字語のものが,日本語は外来語のものが最も多かった。また韓国語の略語の特徴として韓国語は日本語に比べ,原形が句構造や文構造のものも比重が高かったことが挙げられる。日本語の特徴としては韓国語と比べ,音韻変化が激しく起こるようである。
「多良間島アクセントの仕組みとその類型論的意義」松森 晶子 (日本女子大学) ,五十嵐 陽介 (広島大学)
宮古諸方言ではこのところ「3型アクセント」の発見が相次いで成されているが, (3型体系だということは分かったものの) その仕組みの全容は,未だ解明されていない。本研究では,宮古諸島の中で最初に3型アクセントが存在することが報告された多良間島の調査結果をもとにして,そのアクセントがどのような規則にしたがっているのか,またその韻律単位は何か,等について考察し,次のような結果を中間報告した。
- 下がり目 (アクセント) 位置の計算に用いられる単位は, (モーラに加えて) 韻律語 (PW) である。
- フットは必要ない。
- 3つのアクセント型は,それぞれ次のような特徴を持つ。
- A型は (基本的に) 下がり目のない型
- B型は下がり目が前から2番目の韻律語に現れる型
- C型は下がり目が前から1番目の韻律語に現れる型
- ただし「N1=nu N2」,「N1=nu N2=nu N3」のような構文ではA型にも下がり目が現れる。
- また,「N1=nu N2=mai」,「N1=nu N2=nu N3=mai」のような構文の一部では,B型・C型に限り,最後のPWが高くなる。
以上のような特徴,とりわけ (モーラに付け加えて) 韻律語 (PW) という単位がアクセント位置を導き出す際に必要になる,という特徴は,他の日本語・琉球語の諸方言にはこれまで観察されなかったものである。したがってこの体系は,類型的観点から見てとりわけ価値が高いことを論じた。
「語のプロソディーと文のプロソディー」窪薗 晴夫 (国立国語研究所)
日本語のプロソディー研究,とりわけ諸方言のプロソディー研究はこれまで単語レベルの分析 (つまり「語アクセント」の記述) が中心であり,語や文節を超えたレベルのプロソディー分析が軽視されがちであった。これに対して,文レベルのプロソディーを考慮しないと語アクセントの特徴が適切に理解できない事例がいくつか観察されている。本発表では語アクセントの研究を文レベルのプロソディー研究に展開するための序論として,日本語のおける語プロソディーと文プロソディーの関係を考察した。具体的には,語アクセントの特徴が単語や文節のレベルを超えて実現する現象と,語アクセントのパターンが文レベルで大きく変容する現象を分析した。前者については,単語や文節を超えた範囲でのアクセント (音調) 付与が起こるかという問題を,後者については, (i) 各種疑問文や呼びかけ文等がどのようなイントネーションパターンをとり, (ii) それが語アクセントのパターンをどのように変容するか, (iii) とりわけ文レベルにおいてアクセント対立の中和を起こすのかという問題を検討した。