「日本語疑問文の通時的・対照言語学的研究」研究発表会 概要

プロジェクト名
日本語疑問文の通時的・対照言語学的研究
リーダー名
金水 敏 (国立国語研究所 時空間変異研究系 客員教授)
開催期日
平成26年6月21日 (土) 12:45~17:30
平成26年6月22日 (日) 9:30~13:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表者氏名・発表テーマ

平成26年6月21日 (土)

12:45-14:15〈レクチャー〉「韓国語の歴史入門」小山内 優子 (国立国語研究所)

本発表では借字表記時代から現在に至るまでの韓国語 (朝鮮語) の歴史を概観した。主にLee and Ramsey (2011) に沿って解説したが,韓国語の疑問文を研究するにあたって必要であると考えられる文法現象も合わせて紹介した。

14:25-15:05「日英語における多重WH構文の扱いと島の制約」外池 滋生 (青山学院大学)

多重WH疑問文について,現行分析に対する代案として,下に概略を示すように,焦点素性Φをもつ複数のWH句が選言要素 (英語ではv,日本語では「か」) をその指定部に共有する多重構造から,側方移動 (SWM) により分離し,その後にWH移動を受けるという派生を提案した。ブルガリア語のような言語では,Φも共有されているため,すべてのWH句が随伴される。

15:05-15:20休憩

15:20-16:10「疑問文の意味と構造」金水 敏 (国立国語研究所 / 大阪大学)

現代日本語の肯否疑問文の間接疑問文は,「~かどうか」のように「どうか」という成分がないと安定しないが,これは間接疑問文の形式が「~か~か」という選言の形式になっていることによることを示した。

16:20-17:20「従属疑問文の構造と解釈 : Quantificational Variability の観点から」富岡 諭 (デラウェア大学)

日本語の従属疑問文の構造を,遊離数量詞との連携現象をもとに再考を試みた。Fukui (1986) で提唱された日本語の従属疑問文の名詞性は,[+N]のフィーチャーにとどまらず,現実に名詞句的な構造を持っている可能性を示唆した。


平成26年6月22日 (日)

9:30-10:30「スペイン語の疑問表現」志波 彩子 (国立国語研究所)

スペイン語のY-N疑問文とwh疑問文,付加疑問文について,各疑問詞の用法にも考慮しながら紹介した。
また,Bosque (1982) の間接疑問文についての論考から,スペイン語の間接疑問節を取る動詞の特徴について概観した。

10:40-11:40「SOV型言語における文末疑問マーカーの2種類の振舞い方について」張 麟声 (大阪府立大学)

「V+否定辞」によって真偽疑問文を構成する孤立型SVO言語の疑似疑問マーカー (否定辞) は,疑問詞疑問文,選択疑問文及び内容節に使われないのは,論理的に納得できるが,では,日本語と同じ膠着型SOV言語のなかで,真偽疑問文の疑問マーカーが日本語の「か」のように広く使われないとなれば,その理由をどう考えるべきか。
朝鮮語,モンゴル語などを対照の対象として使い,最終的には,日本語の「か」は,「ミカンかリンゴか」,「やっぱり捨ててしまうか」のように,選択や意思決定の場合も使うので,純粋な疑問マーカーというよりも,不定の意味を表わす形なのではないかと結論づけた。

11:50-12:50「疑問文とモダリティの関係をどう捉えるか」高山 善行 (福井大学)

古代語の疑問文はモダリティ形式 (「む」など) を含むものが大半を占め,現代語とは異なる面がある。なぜ疑問文でモダリティ形式が用いられるのだろうか。本発表ではモダリティとの関係に焦点を当て,日本語の疑問文の特質について考えた。