「学習者コーパスから見た日本語習得の難易度に基づく語彙・文法シラバスの構築」研究発表会 概要

プロジェクト名
学習者コーパスから見た日本語習得の難易度に基づく語彙・文法シラバスの構築 (略称 : 語彙文法シラバス)
リーダー名
山内 博之 (実践女子大学 教授)
開催期日
平成26年3月8日 (土) 10:00~17:00
開催場所
チュラーロンコーン大学 (タイ バンコク)

発表概要

「シャドーイングにおける準備活動が遂行成績に与える影響」韓 暁 (広島大学 大学院生)

シャドーイングは学習者にとって困難な課題であるため,学習過程に導入する際,「聴解」や「音読」などを前活動として用いる場合が多い。本発表はシャドーイングの前活動である「聴解」と「音読」がシャドーイングの遂行成績に与える影響を解明することを研究目的とし,効果的なシャドーイングの導入方法を再検討した。

「日本語上級学習者における同音異義語の意味検索過程」徐 芳芳 (広島大学 大学院生)

本研究は,中国語を母語とする日本語上級学習者における同音異義語の意味の検索過程を明らかにすることを目的とする。そのため,単独呈示された同音異義語に関する質問紙調査を実施し,意味の想起基準表の作成を試みた。

「日本語の雑談会話における話題のつながりと境界づけ ―母語話者と非母語話者の話題転換はどこが異なるのか―」花村 博司 (大阪府立大学 大学院生)

この発表では,日本語の雑談会話における母語話者と非母語話者の話題転換の特徴を,以下の2つの観点からあきらかにした。
(1) ひとつひとつの発話の内容がどのようにつながるか
(2) 内容が直接つながらない発話と発話の境界づけにどのような表現が用いられるか
さらに,母語話者の話題転換においては,(1)のつながりかたによって分類される型ごとに,(2)の表現の使用にも傾向があることを示した。

「コミュニケーションのための終助詞「もの」の用法 ―日本語母語話者の使用実態から―」松下 光宏 (大阪府立大学 大学院生)

終助詞「もの」の意味・用法は,先行研究や日本語教育において,「理由説明」,特に,相手との対立がある「言い訳」などで用いるとされ,使用者は主に若い女性や子供と説明されることが多い。本発表では,日本語母語話者の自然会話を分析し,この説明が母語話者の使用実態を反映していないことを示すと同時に,日本語教育においても実際のコミュニケーションでより有用だと思われる用法での指導を提案した。

「世界各地の日本語学習者の文法学習と語彙学習についてのビリーフ ―ノンネイティブ教師と比較して―」阿部 新 (名古屋外国語大学 准教授)

これまで日本語教育の分野では,世界各地の学習者の言語学習や日本語学習に対するビリーフが調査,分析されてきた。しかし,それらは各地域について単発で分析されることが多く,結果が必ずしも有効に分析されていない状況が見られた。そこで,本研究では特に学習者の文法学習と語彙学習に対するビリーフについて,世界各地の学習者のビリーフの先行研究結果を取り出して比較し,地域的特徴の有無などを分析考察し,文法学習・語彙学習のシラバス・教材の有効利用資するデータの提供を試みたい。

「口頭発表における文末表現 ―論文における表現との比較から―」居關 友里子 (筑波大学 大学院生)

学術的内容を扱った口頭発表を行うに際し,発表者にはどのような口頭表現が必要とされるのかについて,論文における文末表現と口頭発表における文末表現の比較からこれを考察する。ここから,日本語学習者が発表以前に用意している言語資源である予稿集や発表レジュメにおける表現が,どの程度利用可能なのか,またどのような表現が追加で必要となるのかについて検討した。

「文法項目と実質語のコロケーション ―文法コロケーションハンドブックがもたらすもの―」中俣 尚己 (京都教育大学 講師)

本発表では,コーパスを使って,文法項目の前接語にどんなものが多いかに注目することで,教育に役立つ知見が得られることを主張する。具体的には状態の「てある」,現在進行の「ているところだ」,伝聞の「そうだ」をケース・スタディーとして取り上げ,これまで明らかになっていなかった「よく使う場面・用法」を明らかにした。

「議論の場における学習者の前置き表現使用に関する考察 ―母語別の使用実態の分析から―」柳田 直美 (一橋大学 講師)

議論の場では,時として意見の対立が顕在化する。そのため,「反論」という行為は,他の言語行為に比べ,相手に不快感を与える可能性が高いともいえるものである。本研究では,議論の場において,反論によって生じる相手の不快感を緩和するために使用される前置き表現について,上級学習者の教室活動における使用実態を母語別に分析し,教示方法について検討した。

「初級文法項目に対する日本語教師のビリーフ」渡部 倫子 (広島大学 准教授)

本研究は,日本語教師に対するビリーフ調査によって,初級文法項目の必要度を明らかにすることを目的とする。また,日本語教師のビリーフに影響を与える要因として「これまでに使用した初級教科書」を取り上げ,両者の関係についても検討した。また,日本語教師の主観判定に影響を与える要因についても探索的に調査した。

「談話を補文化する名詞の習得 ―実質語の用法から機能語の用法への転換―」澤田 浩子 (筑波大学 講師)

学習者コーパスを用い,「かたち」「感じ」などの内容補充をとる名詞の使用に着目し,長い談話を補文化する用法の習得がどの段階から可能になっているのか観察する。その上で,中級から上級・超級へのステップアップにとって,実質語として習得した名詞を機能語へと転換すること,あるいは長い談話を適切に補文化できることが重要であることを示した。

「意味判別における文法記述の効果の計量化 ―ナガラ節の意味判別を例として―」森 篤嗣 (帝塚山大学 准教授)

本発表では,自然言語処理のような応用分野を考慮したケーススタディとしてBCCWJから抽出したナガラ節を人手で意味解釈し,文法研究によって蓄積された規則がどの程度,ナガラ節の意味解釈「付帯状況」と「逆接」という二種類の言語使用の予測に寄与するかを検証した。

「日本語学習経験者から見た語彙シラバス ―超級を目指すために―」劉 志偉 (首都大学東京 助教)

本発表は,日本語学習経験者の視点から,超級を目指すまたは超級以上の日本語学習者を対象とした語彙シラバスについて考案したものである。具体的には日本国内における日本語教育に限定し,自然習得を除いたネイティブ指導の手助けを要する語彙指導を中心に述べた。発表全体は「母語の違いに応じた語彙指導―中国語を例に―」と「全ての日本語学習者を対象とした語彙指導」との二つに大きく分けられる。前者についてはさらに「母語 (中国語) の影響を考慮に入れたもの」と「母国 (中国) の文化の影響を考慮に入れたもの」とに分けて詳述する。そして,後者については「通時的な視点 (日本語学の見知) を取り入れた語彙指導」と「若者言葉を反映した語彙指導」との二つの立場から検討した。