「文字環境のモデル化と社会言語科学への応用」研究発表会 概要

プロジェクト名
文字環境のモデル化と社会言語科学への応用 (略称 : 文字と社会言語学)
リーダー名
横山 詔一 (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
開催期日
平成25年12月26日 (木) 15:00~17:30
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

「異体字選好の国際比較研究」横山 詔一 (国立国語研究所 教授)

日本語の漢字には異体字 (variant) の豊富なバリエーションが存在する。異体字とは「桧-檜」のように読みと意味は同じで字体だけが異なる文字の集合を指す。異体字を刺激材料とすれば,文字数,読み,意味がまったく等価で,形だけが異なる刺激ペアを作成できる。本研究は,台湾の日本語学習者がワープロや携帯メールなどの情報通信機器 (IT機器) を使って日本人に文章を書くとき,変換候補として「桧―檜」などの異体字ペアが示されると,どちらの字体を選択するのか,その判断は日本人の傾向とどの程度一致するのか,という点について調査・検討した結果を報告し,今後のさらなる国際比較研究に向けた検討をおこなった。

「外国ルーツ児童の読み能力:テスト指示文の影響」森 篤嗣 (帝塚山大学 准教授)

テスト受験者の約43%が外国ルーツ児童であるM小学校において,各教科のテストの指示文を操作して問い方を変えることにより,テスト成績にどのような影響が生じるかを検討した。設問の内容は同一であるが,「従来型のテスト指示文 (原文テスト) 」と「やさしく書き換えたテスト指示文 (書き換えテスト) 」の2条件を準備し,受検者の回答傾向を条件間で比較した。その結果,テスト指示文が教科内容の理解に及ぼす効果は全体的にかなり大きいこと,なおかつ,成績下位者に顕著であることが明らかになった。この事実は,原文テストで児童の読み能力が十分に発揮されない場合があることを示唆している。また,日本語母語児童と外国ルーツ児童との比較においては,明確な差は見られなかった。

「現代の「変体仮名」」銭谷 真人 (早稲田大学大学院)

現在日常生活において,新たに文章を作成する際に,変体仮名が必要とされることはない。しかし既存の文字資料をデジタル化する上で,変体仮名が必要となることがある。一つには実務的な用途におけるもので,戸籍の人名を変体仮名で表記しなければならない場合である。もう一つは学術的な用途におけるもので,歴史資料の翻刻や文字そのものの研究において,現行の仮名に改めてしまうと情報が損なわれてしまう場合である。しかし現在のところ,変体仮名に標準字形と言えるものはなく,異体字研究においても,個々人の基準で字体を特定している状態にある。そこで一つの試みとして,現代における活字やフォントから変体仮名の文字セットを抽出し,それらを比較,検討することによって,現代における仮名字体の学術における合意形成を目指した分類表を作成した。