「消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究」研究発表会 概要

プロジェクト名
消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究
リーダー名
木部 暢子 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成25年11月2日 (土) 13:30~18:00
平成25年11月3日 (日) 9:30~12:30
開催場所
国立国語研究所 2階多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表テーマ「危機方言を記述する ―記述の枠組みとグロス付け (本土方言向け) ―」
発表概要

11月2日 (土) 13:30~18:00

13:30~13:40趣旨説明木部 暢子

これまで「危機方言」プロジェクトでは,琉球,八丈のことばを中心として調査と記述を行ってきたが,消滅の危機に瀕しているのは,琉球や八丈のことばだけではない。本土や本土周辺の島々の方言の調査,記録も急がなければならない。これまで琉球や八丈で実践してきたことばの記述の方法を紹介し,本土諸方言,琉球語,八丈語などに共通する記述について考えたい旨の趣旨説明を行った。

13:40~14:40「琉球語共同研究におけるグロスづけの試みの紹介と問題点の概観」下地 理則

最近の琉球語研究ではグロスづけにかんする議論がさかんであり,Handbook of the Ryukyuan Languages (HoRL)や科研費基盤A (代表 : かりまたしげひさ氏) における文法記述のグロスづけの方法の共有・規格の統一が進んでいる。本発表では,そこで提案されているグロスづけの基本方針を紹介するとともに,HoRLの編集過程や基盤Aの会議で問題となっている点をとりあげて議論を行った。

14:45~15:45「方言の記述の枠組みとグロス付け ―鹿児島方言―」木部 暢子

危機言語科研で使用している記述のフォーマットにしたがって,鹿児島方言の音素目録,音節の基本構造,アクセント体系,動詞のパラダイム,動詞形態論等について発表した。

16:00~17:00「方言の記述の枠組みとグロス付け ―石川県白峰方言―」新田 哲夫

石川県白峰方言の属格,no/ŋa/na の意味記述,発話スタイルとの関わりについて述べた。また,『白山山麓白峰の民話』 (山下鉱次郎編著) のテキストを例として,白峰方言の例文にグロスを付ける際の問題点について発表した。

17:05~18:05「方言の記述の枠組みとグロス付け ―青森県津軽方言―」大槻 知世

青森県津軽方言を例として,例文にグロスを付ける際の問題点について発表した。取り上げた項目は,形態素に分けるべきか迷うもの,適切なグロスに悩むもの,複数の意味機能があるもの,新しく提案されたグロス (LGRにないもの) 等である。また,グロス付けの目的について考察した。

11月3日 (日) 9:30~12:30

9:30~10:50全体討論 1 「方言の記述の枠組みについて」

前日の発表を受けて,本土方言の音韻表記について参加者全員で討論を行った。主なテーマは,本土方言の音韻記述の統一を図ることができるか (統一を図る必要があるか) ,たとえば,撥音,促音,長音の表記,破擦音,ヤ行音等をどう表記するかである。方言により撥音,促音,長音,破擦音の位置づけが異なることを考慮する必要があり,急いで統一を図る必要はないという意見が多数を占めた。

11:00~12:30全体討論 2 「方言の例文にグロスを付ける」

前日の発表を受けて,方言の例文のグロスの付け方について参加者全員で討論を行った。取り上げた項目は,(1) 格助詞がゼロの場合の解釈 (本来的なゼロか,省略か) とグロスの付け方,(2) 文法化の度合いの解釈によってグロスの付け方が違ってくるもの (たとえば,「ている」「てみる」「てくる」「ていく」「てしまう」「てもらう」「てやる」「ちゃう」等) ,(3) 「とりたて」を表す語のグロスの付け方。(4) 多義的な語のグロスの付け方 (たとえば,格助詞「が」「の」「ゼロ」「に」「で」等) である。