「方言の形成過程解明のための全国方言調査」研究発表会 概要
- プロジェクト名
- 方言の形成過程解明のための全国方言調査 (略称 : 方言分布)
- リーダー名
- 大西 拓一郎 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
- 開催期日
- 平成25年7月27日 (土) 13:30~14:30
- 開催場所
- 国立国語研究所 2階 多目的室
発表概要
「奄美徳之島における否定の意思を示す形式をめぐって」福嶋 秩子 (新潟県立大学 国際地域学部)
全国方言調査の文法調査票により徳之島の複数地点の高年層の話者に調査を行ったところ,G-001~003 の項目においては動詞の否定形の回答が期待されるのに対し,G-003 においては動詞の連用形 +'araN (もしくは 'anaN) という形が回答された。これに端を発し,通常の否定形と 'araN (もしくは 'anaN) のついた形式との違いについて精査すると,後者は否定の意思を示す形式であることが判明した。G-001 / 002は,主語が三人称であるのに対し,G-003 は主語が一人称である。そのために,否定の意思を示す形式は一人称にしか現れないのである。
2012年・2013年に,壮年層における方言使用について調査する機会があり,この否定の意思形に関係する項目を加えた。すると,壮年層においては,人称による通常の否定形と否定の意思を示す形式との使い分けが失われつつあることが判明した。その際,人称に関わらず通常の否定形が使われる場合と,人称に関わらず否定の意思形が使われる場合とがあった。
『徳之島方言二千文辞典』,GAJや『全国方言資料』のデータの分析から,名詞や動詞を承けて否定する用法が (「ある」の否定形である) 'araNの本来の用法であると考えられた。一方,天城町を中心に 'araN から 'anaN,naNへと変化する中で,否定を表す活用しない語への変化が起こっている。これは一種の語彙化といえる。
「方言分布の経年比較の中間報告」大西 拓一郎 (国立国語研究所 時空間変異研究系)
本プロジェクト「方言の形成過程解明のための全国方言調査」の大きな目標の一つは,分布の変動をリアルタイムの経年比較の中でとらえることにある。昨年度末に開催された JLVC2013 において「痣 (あざ) 」「かぼちゃ」「鏡のガ (語中のガ行音) 」「起きない (一段動詞否定形) 」「起きろ (一段動詞命令形) 」「行かなかった (動詞否定辞過去) 」の6項目をもとに,(1) 一気の広がり (「痣」のアオタン類,「起きない」のラ行五段化形式,「行かなかった」の-ンカッタ形),(2) 言語状態の維持 (「起きろ」のラ行五段化形式),(3) 語彙と文法・音韻項目の異なり,以上の3点が確認されることを述べた。本発表では,その後に地点数が追加されたデータベースをもとに同項目を対象としたモニタリングを継続し,その中で変動がどのようにとらえられているかを検討した結果,追加データでも上記3点が確認されること,ならびにデータに含まれる若干の問題点について報告した。