「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」研究発表会 概要

プロジェクト名
述語構造の意味範疇の普遍性と多様性 (略称 : 他動性)
リーダー名
Prashant PARDESHI (国立国語研究所 言語対照研究系 教授)
開催期日
平成25年7月27日 (土) 10:00~18:30
開催場所
新潟大学 五十嵐キャンパス 総合教育研究棟 D301 地域国際交流促進室
(新潟県新潟市西区五十嵐2の町8050番地)

言語類型論チーム 平成25年度 第一回研究会 発表概要

「現代アイスランド語の動詞の自他交替の概要」入江 浩司 (金沢大学 教授)

アイスランド語における形態的な関連のある自他動詞の対応パターンとしては (a) 自他同形A(他動詞の被動者項の格形が自動詞文で保たれない),(b) 自他同形B(他動詞の被動者項の格形が自動詞文でも保たれる),(c) 他動詞は弱変化動詞/自動詞は強変化動詞,(d) 他動詞に接尾辞-naをつけて自動詞を形成,(e) 他動詞に再帰代名詞由来の接尾辞-stをつけて自動詞を形成,といったものがある。数の上では (e) によるものが圧倒的に多く,また,これだけが生産性をもつ。一方で,接尾辞-stをもつ動詞は意味の面で再帰,相互,身体動作,逆使役など,いわゆる中動相の領域に広く分布しており,単なる自動詞化の接辞と見ることはできない。本発表では,接尾辞-stに焦点を当てつつ,アイスランド語の動詞の自他交替の概要を述べた。

「リトアニア語の自他交替:逆使役を中心に」櫻井 映子 (大阪大学 / 東京外国語大学 非常勤講師)

リトアニア語を含むインド・ヨーロッパ語族バルト語派の諸言語においては,生産的な形態法による自動詞化および他動詞化が観察される。本発表では,リトアニア語の動詞の逆使役派生を取り上げ,とくにロシア語との類似と差異に着目しつつ,リトアニアの自他交替現象の地域言語学的および類型論的特徴づけをおこなうことを目指した。考察を通じて,①自動詞化型としてより発達した段階にあるロシア語とは異なり,リトアニア語は使役派生による他動詞化が一定の生産性をもつ,中立型あるいは双方向型の言語であること,②リトアニア語の自他交替現象を適切に解釈する為には,逆使役分析が有効であることを示した。

「現代フィンランド語の動詞派生の複雑性と構文パターンの関係について」千葉 庄寿 (麗澤大学 教授)

フィンランド語の動詞は多様な派生辞をもち,複数の派生辞が連結することで複雑な構造の動詞を派生することができる。本発表では現代フィンランド語の大規模コーパスを用いておよそ100種類の派生動詞の振る舞いを検証し,派生動詞が示す構文パターンを以下の4つの観点から観察した。

  1. 出現頻度と構文パターンの関係
  2. 派生の複雑さと構文パターンの関係
  3. 語彙化の度合いと構文パターンの関係
  4. 派生辞の生産性と構文パターンの関係

「ハンガリー語の自他動詞とヴォイス」江口 清子 (大阪大学 非常勤講師)

本発表では,現代ハンガリー語における自動詞,他動詞の形態的派生関係について概説し,先行研究でまとめられてきた他動性の連続体に基づき,包括的な記述を行った。また,現代ハンガリー語の大きな特色として受動態をもたないという事実が挙げられるが,これが動詞の自他対応,あるいは使役とどのように関わるのかについて,構文レベルで考察した。

「コーパスから見たハンガリー語の自他動詞」大島一 (東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 研究機関研究員)

ハンガリー語の自他動詞について,Haspelmathが挙げた動詞対をハンガリー語ナショナルコーパス (Magyar Nemzeti Szövegtár)を用いることで実際の運用について考察した。分析では特にその使用頻度に注目し,得られた結果から頻度自体の説明を検証した。