「消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究」研究発表会の概要
- プロジェクト名
- 消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究 (略称 : 危機方言)
- リーダー名
- 木部 暢子 (国立国語研究所 時空間変異研究系)
- 開催期日
- 平成25年6月29日 (土) 13:00~17:30
- 開催場所
- 国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
ワークショップ 「日本の消滅危機言語のグロスを考える」 発表概要
「消滅危機言語としての琉球諸語・八丈語の文法記述に関する基礎的研究」との共催
「言語記述における用語とグロスについて」柴谷 方良
危機言語であろうとなかろうと,言語記述,とくに文法記述における用語の使用やグロス付けには種々の実践的・理論的問題が生じる。文法用語の使用ならびにグロス付けは,記述対象言語にみられる文法単位の識別と,それらと他の言語との類似を表す目的でなされるが,言語間の類似は部分的であるがため,どのような用語・グロスを使用してもある種の誤解は免れない。したがって,どのような用語・グロスを選ぶかは,系統的に関係の深い言語の文法単位との対応が把握しよいもの,かつ他の研究者になじみ深いものであることといった実際的な考慮と,文法単位そのものの理論的分析・解釈によることになる。本論は,これらの点について,最近の琉球諸語の英文記述にみられる用語・グロスを参照しながら検討した。
「グロス付けにおける具体的な方策と問題点」下地 理則
本発表では,文法書やテキスト集における例文の表示法,とくにグロスづけの方法について,琉球諸語を例に具体的に議論した。本発表で取り上げたトピックは以下の2点である。①グロス付けの基本方針の確認 (どの情報をどの程度グロスに盛り込むか),②現在琉球諸語研究のグロス付けで問題になっている点のいくつかの検討 (ゼロ形式の扱い,用語の選定の問題,異なる理論的立場・分析を包括するようなグロスづけの設計)。
「九州方言のグロス付けとその問題点」木部 暢子
言語 (方言) のテキストを作成するにあたって,グロス付けの作業は欠かせない。近年,琉球語研究の分野では,グロスをどう付けるかという議論がかなり進展し,研究者同士の意見交換も盛んである。これに対し,琉球語以外の日本語諸方言の分野では,グロス付けの議論がほとんど行われていない。琉球語と日本語は,言語特徴をかなり異にするものの,系統的には同系統に属し,共通する部分も多い。したがって,両者を射程にいれたグロスの検討を行ない,共通の理念に基づくグロス付けを目指すのが望ましい。本発表では,その手始めとして,福岡県北九州市方言のグロス付けの例を提示し,琉球語,日本語に共通するグロスの理念について討論を行った。