「近現代日本語における新語・新用法の研究」研究発表会の概要

プロジェクト名
近現代日本語における新語・新用法の研究 (略称 : 新語・新用法研究)
リーダー名
新野 直哉 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)
開催期日
平成25年6月23日 (日) 14:00~17:00
開催場所
ユニコムプラザさがみはら (市民・大学交流センター) ミーティングルーム4
(〒252-0303 相模原市南区相模大野3丁目3番2-301号)

発表概要

「新語・流行語の使用の経年変化 ―新聞記事とインターネット検索における使用実態から―」上村 健太郎 (明海大学大学院生)

本発表では,新語・流行語の使用の経年変化を調査する方法として,新聞記事データベースとGoogle Trendsを取り上げた。Google Trendsとは,Googleでインターネット検索された語の人気度を調べられ,数値化できるサイトである。新聞記事データベースとGoogle Trendsを用いることで,語の使用実態を効率的かつ経済的に調査できる。
今回は調査対象語として,2004年から2007年までの「新語・流行語大賞」の受賞語のうち,25語を取り上げた。調査対象期間は,各受賞語の受賞前年から受賞3年後までとした。調査対象語の新聞記事における使用件数と,インターネット検索人気度の経年変化を調査したところ,調査対象語の9割は,受賞後約1.5年で受賞年に比して半減した。調査語のうち「ブログ」は,調査期間内の使用数が上昇し続けた。「猛暑日」は,受賞年以降の使用数が減少していたが,受賞3年後に上昇に転じ,受賞年の値を上回った。衰退傾向にある語は,娯楽やスポーツ,政治に関するものであった。定着傾向にある語は,代替語が存在しない語や官公庁の制定語といった,使用の必要性のあるものであった。調査内容に関する今後の課題は,新語・流行語の衰退と定着の要因分析である。
新聞記事データベースとGoogle Trendsを用いた本調査法は,語の使用実態の経年調査が可能であり,効率的かつ経済的な調査法であると考える。

「否定呼応と言われた副詞の実態 ―古川ロッパの「とても」「てんで」を中心に―」梅林 博人 (相模女子大学 教授)

戦後,「必ず打ち消しを伴う」という規範意識によって物議を醸した副詞は,「全然」のみではない。「とても」「てんで」「断然」も,程度差はあるが,その対象であった。本発表では,『古川ロッパ昭和日記』 (昭9~35年) におけるこれらの副詞の使用実態を調査し,同日記の「全然」と比較して,次の内容を述べた。(1)「とても」は,当時,「その呼応性を振り棄てた」(浅野信(1943)『俗語の考察』)と言われていたが,同日記では次の①②の状況であったことから,否定呼応の印象は諸家が言うほど廃れていないのではないかとも疑われた。①否定の形式または否定的な意味あいの表現との呼応は約七割。②肯定呼応は,戦前戦中では目立つが戦後は必ずしも目立つわけではない。また,肯定呼応も「いい」「うまい」など,特定の語との呼応が目立つ。 (2)「てんで」の使用実態をグラフ化してみると,数年に渡って使用のない時期があるなど,「全然」と似た様相を示す。このことから,ロッパは「てんで」「全然」の使用に遅疑逡巡したのではないかと推察された(それは当時の世相ではないかとも推察した)。(3)「断然」は同日記でわずか17例 (「とても」626例,「てんで」91例) 。なぜこれほど少ないのか,今後の課題である。また,17例中9例が比較表現である。この使用実態が「全然+肯定」における比較表現を誘発したのではないかと考えられた。