「日本語の大規模経年調査に関する総合的研究」研究発表会 概要

プロジェクト名
日本語の大規模経年調査に関する総合的研究 (略称 : 経年調査)
リーダー名
井上 史雄 (国立国語研究所 時空間変異研究系 客員教授)
開催期日
平成25年3月19日 (火) 10:30~17:00
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

「岡崎敬語調査基本データ ―テイタダクグラフ集解説―」原田 幸一

12場面の回答文をデータとし,調査次×場面ごとにテイタダクの使用頻度を集計し,平均使用度数 (使用度数 / NRを除く回答者数) を算出した。この平均使用度数を年代 (10代20代・30代40代・50代以上) ・性別・学歴・生育地・職務内容の観点からグラフ化した。

「テイタダク使用に関わる要因とその予測 ―岡崎敬語調査12場面の分析―」原田 幸一

テイタダク平均使用度数を従属変数,時代 (調査次) ・年代 (10代20代・30代40代・50代以上) ・性別を独立変数とし,一般化線形モデル (ポアソン回帰) によって,テイタダク使用に関わる要因の分析とその予測を行った。性別の影響が見られる場合,女性は男性よりテイタダク平均使用度数が高いことなどが分かった。

「岡崎敬語調査新聞代場面とおつり場面の分析」西尾 純二

「何を」「どんな表現で」言うかという複眼的観点が,発話行動の分析にもたらす有効性を,岡崎敬語調査の事例から示した。集金人の料金の二重徴収と,店員のつり銭間違いという,相手をマイナスに待遇する契機を持つ2場面を分析対象とした。

「岡崎市方言敬語伝統形式および新形式ミエルの消長」辻 加代子

先に岡崎市の方言伝統形や,ミエルなど方言新形,さらには伝統形と標準語形との中間形の出現動向の概要について報告したが,今回はそれに関わる詳細について報告した。具体的には,尊敬語伝統形の待遇価値の検討をし, (テ) ミエル使用者の属性の変化と,意味 (来る・行く・居る・~ている) の分布実態・中間形 (「行くです」のようなもの) の詳細説明と,丁寧語にかかわる共通語化の進行について述べた。

「鶴岡共通語化調査・岡崎敬語調査と言語変化研究」井上 史雄

鶴岡共通語化調査では,大規模社会調査の形で60年間の言語変化が見られる。その郊外の山添地区でも同様の調査が行われたので,言語変化のS字カーブの始点から終点までを実時間調査で位置付けることができた。また新方言の増加過程も観察できた。一方岡崎敬語調査でも,半世紀以上の変化が分かり,敬語の民主化・平等化という大きな流れを把握できた。とはいえ両調査とも分析は不十分であり,今後の多様な研究者の参加が望まれる。