「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会 概要
- プロジェクト名
- 多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称:現代日本語の動態)
- リーダー名
- 相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
- 開催期日
- 平成25年1月26日 (土) 14:00~16:30
- 開催場所
- 国立国語研究所 3階 セミナー室
発表概要
「2012年全国聞き取りアンケート調査の中間報告 ―「とびはね音調」関連項目を中心に―」田中 ゆかり (日本大学 教授)
2012年10月に実施した「2012年全国聞き取りアンケート調査」の中間報告を行なった。この調査は,1990年代以降に首都圏において勢力を拡張してきた「~ナイ?」形式を伴う問いかけ音調の一種である「とびはね音調」が,全国各地でどの程度・どのように受容されているのかについて知ることを主な目的としたもので, 47都道府県に居住する生え抜き・準生え抜きレベルの若・中・高年3世代男女各2人計564人から回答を得た。調査からは,「とびはね音調」は,全国平均で35%程度使用し,60%弱が調査地で聞くという結果となった。意味については,60%以上が「同意求め」と回答した。若年層ほど使用・聞く程度が高く,女性に使用程度が高いことが確認された。使用・聞く程度については,地域差も明瞭であった。もっとも特徴的な地域は近畿で,使用・聞く程度が他地域に比べ非常に低い。このような地域差は,「東京発の新しい言語形式」と意識されやすいものが各地でどのように受容されるのか,ということを示す一例といえそうである。
「サ変動詞の五段化・上一段化全国調査報告」松田 謙次郎 (神戸松蔭女子学院大学 教授)
本発表では,2011年12月に実施した,サ変動詞の五段化・上一段化に関する全国調査の結果報告を行った。計画段階で予測していた単語差,活用形差,特殊音素の効果などについてはほぼ先行研究を裏付ける結果が得られ,変化は予想された方向に進行中であることが確認された。地域差については先行研究の考えていた単純な東西差よりも,京浜地区と中国地区が同様に高い革新形率を持つという,より複雑な様相を示すことが明らかになり,これは都市規模と解釈するべきとの主張を行った。また,飯豊 (1964, 1966) ,土屋 (1971) ,宮本 (1978) などの先行研究との比較から,厳密ではないものの,50年近くにわたって実時間レベルで変化をフォローすることができた。質疑応答において,都市規模を見る際には平均年齢を考慮に入れる必要がある,「べき」を含む場合はフォーマリティが上がるので文体差を検討するべきである,調査票の段階で終止・連体差を検討するべきであった,「害する」「感じる」における目的語による差については統計的検定を行うべきである,活用形と単語それぞれの頻度との関わりを考察せよ,などの有益な指摘を頂いた。