「多文化共生社会における日本語教育研究」研究発表会 概要
- プロジェクト名
- 多文化共生社会における日本語教育研究 (略称:多文化共生)
- リーダー名
- 迫田 久美子 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 教授)
- 開催期日
- 平成25年1月6日 (日) 13:00~18:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 2階 講堂およびロビー
発表概要
講演
基礎日本語教育の再デザインの理路西口 光一 (大阪大学 教授)
発表者は,CEFRの記述でも提示されている自己表現活動を中心とした新たな基礎 (初級) 日本語教育のカリキュラムと教材を開発した。同アプローチでは,各単元のテーマについて登場人物が語るマスターテクストが教材の中心となり,学習者はそれをリソースとして,当該のテーマについて自己表現活動ができるように学習を進める。Widdowson (1984) に準じて言うと,有効なカリキュラムとは,学習者をコミュニケーションのための言語行使に従事させる諸活動を計画し実施するのに有利な単元及びその系列を用意することである。開発されたカリキュラムと教材はそうした特質を有するものである。本発表では,同カリキュラムと教材を開発した際の理路について論じた。
口頭発表
「生活のための日本語」研究 ―その軌跡と今後の発展―金田 智子 (学習院大学 教授)
就労や結婚など「生活」を目的に来日した外国人は,どのような日本語を身に付ければ現代の日本社会の一員として生きていけるのか。この問いに答えるべく,移民向け言語教育シラバスの調査,在住外国人及び日本人を対象とした全国規模の質問紙調査,限定2地域におけるインタビュー調査等を実施した。当然のことながら,「生活のための日本語」には,全体に共通する部分と,外国人の属性・環境・発達段階等に応じて異なる部分とがある。本発表では,これまでの研究成果を概観し,成果の活用に関する今後の可能性と課題について述べた。
「コミュニケーション」における評価 ―「言語形式の連鎖」としてのコミュニケーション観を問い直す―宇佐美 洋 (国立国語研究所 准教授)
近年,「コミュニケーション研究」を標榜する研究が多く世に問われているが,その中にはコミュニケーションを「言語形式の連鎖」「習得済み言語知識の活用」としてしかとらえていないと思われる研究が一部に見受けられる。本来コミュニケーションとは,「人間同士の,目的を持った意味ある交流」であるはずだが,そこにはそうした視点が欠落している。本発表では,こうした「人間不在のコミュニケーション研究」の現状に風穴を開けるためには,ひとが他者の言語運用をいかに解釈・価値判断し,また自己の言語運用をいかにモニター・調整しているかという「評価」の観点を導入することが有効であることを論じた。
日本語学習者の縦断的発話コーパスと動詞の発達 ―C-JAS (Corpus of Japanese as a second language) の開発と利用―迫田 久美子 (国立国語研究所 教授)
サブプロジェクト「学習者の言語環境と日本語の習得過程に関する研究」は,中国人と韓国人の日本語学習者6名を対象として収集された3年間の縦断的発話のコーパス (C-JAS) を開発し,検索システムと共に公開した。本発表は,その開発経緯を示し,コーパスに現われた「思う」や「食べる」の動詞使用の分析から日本語学習者の動詞の発達過程の一端を明らかにする。さらに,教室指導をほとんど受けないで日本語を習得している自然環境学習者の使い方と比較して,教室指導を受けて習得を進める場合と自然習得に任せる場合のそれぞれの特徴を明らかにした。
日本における移民の複言語能力と言語生活福永 由佳 (国立国語究所 研究員)
日本には現在約190か国の移民が生活を営んでいる。彼らの移住により,日本社会に主流言語である日本語以外の複数の他言語が共存し,多言語化していることは従来から指摘されている通りである。その一方で移民が彼らの母語以外の言語を操る能力を持ち,コミュニケーションを複数の言語で行っている実態については十分な研究がなされているとは言えない。本発表では在日パキスタン人移民を例に,彼らの複数言語能力と複数の言語を使い分けている言語生活の一端について報告した。
地域に定住する外国人の日本語会話能力と言語生活環境の実態に関する縦断的研究 ―OPIの枠組みを活用した形成的フィールドワークの結果を踏まえながら―野山 広 (国立国語研究所 准教授)
2007年度から2011年度までの5年間,地域 (散在地域Aと集住地域B) に定住する外国人 (日本語学習者) に対して,OPI (Oral Proficiency Interview) の枠組みを活用したインタビューを毎年1度ずつ縦断的に行ない,日本語習得と言語生活の実態を探るとともに,形成的なフィードバックを行うこと等を通して,現場生成的な支援活動を行なってきた。学習者の会話データの文字化資料の分析や,関係者への聞き取り調査等から,会話の特徴 (言い切り形の有無の曖昧さ,声真似による引用=直接話法と省略,発音の化石化とスタイルの習慣化等) や,「話し合い」を通した外国人支援の可能性探求の重要性が明らかになった。発表では,分析結果の詳細と,国内外の学会等で行った成果発表の概要を報告した。
ポスター発表
*は平成25年1月6日時点の国語研究所所属の発表者です。