「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会 概要

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成24年10月13日 (土) 14:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

「約一世紀前の日本語敬語表現の使用状況」尾崎 喜光 (ノートルダム清心女子大学 教授)

「岡田コレクション」の文字化資料を分析し,現代日本語に直接つながる約一世紀前の敬語表現がどのようであったのかを報告した。一部の項目については,国立国語研究所が愛知県岡崎市において約半世紀にわたり3回経年調査した結果とも関連づけて報告した。
丁寧語「ます」の前身である「まする」は,「ます」と比較すると出現頻度は1割程度にとどまるが,この時代でもいろいろな人が使用していた。しかし,現代に近づくにつれ出現頻度は減少する。「まする」は後接する形で用いられる傾向があること,そのうち大きな割合を占めるのは「ますれば」であることも分かった。
歴史が新しいとされる丁寧語「です」は,「ます」と比較すると用例数は約1割にとどまる。しかし,「ます / まする」に対する比率は,昭和一ケタから昭和10年代にかけて大きく増加する。
「ます」の推量形「ましょう」は,少なくとも昭和10年代までは「でしょう」よりも一般的であった。機能の点から分析したところ<推量><意志>が大半を占め,<勧誘>としても使われるようになったのは昭和10年代以降のようであった。
他者に勧める場面での「~なさい」を,現在優勢な「~てください」と対比しつつ分析を試みたが,いずれも用例数が少ないため分析が困難であった。岡崎調査の「傘貸し」場面によりこれを分析したところ,「~なさい」を使いうる発話回答中での実際の使用者率は,昭和28年の調査で約2割であったが,現在に向け減少傾向が明確に見られた。一方「~てください」は,昭和28年時点でも約6割と高いが,その後もゆるやかな増加傾向が見られた。

「大正~昭和前期の演説・講演レコードに見る「テおる / テいる」について」金澤 裕之 (横浜国立大学 教授)

今回,国立国語研究所の「現代日本語の動態の解明」プロジェクトによって作成された,『岡田コレクション「演説音源集」文字化資料』を利用して,大正~昭和前期の演説・講演レコードにおける「テおる」と「テいる」の交替現象について,その実態を調査した。その結果,全体的には「テおる」が優位であることは (予想の通り) 間違いないが,対象となる資料の該当期間である大正期から昭和10年代にかけて,徐々に「テいる」の使用が広がっていることや,話者の属性面では,文化人の場合に「テいる」の使用が多いことが分かった。また,言語の内的な状況という点では,打消の助動詞に続く場合に「テいる」が優勢になることや,丁寧形の場合 (=「です / ます」に直接接続) にはほとんど「テおる」に偏っていることなどが分かり,こうした傾向は,『国会会議録』によって戦後の状況を調べた服部 匡 (2009) 「「~シテイル」と「~シテオル」―戦後の国会会議録における使用傾向調査―」 (『計量国語学』27‐1) の調査結果とも,共通するところが少なくないことが明らかになった。