「近現代日本語における新語・新用法の研究」研究発表会 概要

プロジェクト名
近現代日本語における新語・新用法の研究 (略称 : 新語・新用法研究)
リーダー名
新野 直哉 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)
開催期日
平成24年8月28日 (火) 13:30~16:30
開催場所
二松学舎大学 九段1号館 6階 602教室 (千代田区三番町6-16)

発表概要

「『青い山脈』 (1947) の「全然同意ですな」について」新野 直哉 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)

鈴木 (1993) は,小説『青い山脈』 (1947) の
「全然同意ですな……」沼田は変な軍隊用語で,ポカンと気が抜けたように答えた。
という一節を挙げ,「「全然同意です」という言い方の,どんな点が「変な軍隊用語」なのか明らかでない。{中略}今後の宿題である」とする。鈴木自身も他の研究者もその後解答を示していないこの「宿題」について,“全然”に関する言語 (規範) 意識研究という観点から,考察した。
「全然同意 (です) 」は,用例の分布から,軍隊で使われたものの,同時代人にとり「変」と思えるような表現には当たらないことがわかった。石坂は,彼が厳しい階級社会である軍隊の用語と考える「全然同意」に,「丁寧に接すべき相手に対し姿勢をくずす」 (尾崎2009),「快濶性を帯びた」 (松下1930) 表現である「ですな」が下接した,木に竹を接いだような言い方になってしまっているがゆえに,「全然同意ですな」を「変な軍隊用語」と位置づけた,と考えられる。
以上から,この箇所は「“全然”+肯定」一般に対する石坂の何らかの言語 (規範) 意識が現れたものではない,という結論に至った。

「形容詞「すごい」の程度副詞化」中尾 比早子 (椙山女学園大学 非常勤講師)

形容詞「すごい」について考察および現状報告をした。「すごい」は主に話しことばの中で発達してきた語である。「すごいおいしい」のように連体形で連用修飾する例が近年みられる。その用法は誤用として指摘されることが多く,いつ頃から指摘が出てきたのか,専門家の解説を時系列に並べ,誤用から徐々に受け入れの方向へ進んでいることを確認した。
「すごく高尚なギャグ」「すごいカラフルな電飾」 (BCCWJより) のように文型を同じくする用法が多数みられること,連体修飾用法の中で「すごい」が本来の意味ではなく程度を表す用法に変化していること (「すごい雨」のように後にくる名詞に程度性のあるものが顕著にみられる) など,変化には複数の要因があると思われる。
また,大学生にアンケート調査を行い (約300名),現状を報告した。性差がみられ,女子学生はほとんどが「すごい」を使って連用修飾する用法を使う。それに対し,男子学生は「すごく」「すごい」自体を使用しない割合が多かった。なお,テレビにおいては連用修飾用法で「すごい」が使用されたときに,字幕を「すごく」に変更する場合と,強調して「すごい」の色を変える,あるいは「スゴイ」とカタカナ表記するなどという状況を確認した。