「日本語レキシコン-連濁事典の編纂」研究発表会の「概要」
- プロジェクト名
- 日本語レキシコン-連濁事典の編纂 (略称 : 連濁事典)
- リーダー名
- Timothy J. VANCE (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
- 開催期日
- 平成24年6月2日 (土) 13:00~17:00
- 開催場所
- ホテル喜良久 会議室 (山口県 山口市湯田温泉4-4-3)
発表概要
13:00-13:10開会のあいさつ
13:00-13:10「連濁のトリガー」大野 和敏 / Kazutoshi OHNO (マカオ大学)
今回の発表では,まず連濁の起源に関した論考を紹介し,連濁の起源は文献資料からでは決定打を出せないことを確認した。ついで連濁の歴史的変化に着目し,そこから連濁の契機は,連濁の起源以外にも求められること示し,それらの契機を探っていくこと (例えば,畳語の連濁力を追究していくこと) が,連濁の現在を考える上でますます重要になっていくのではないかという提案をした。
休憩10分
14:05-14:50「非連濁規則の変遷について」鈴木 豊 / Yutaka SUZUKI (文京学院大学)
非連濁規則「上代語では前部成素末の濁音が連濁を妨げる」について以下の1~4観点から規則存在の根拠を検証し,規則の補強をおこなった。
- 古事記における「姫」と「彦」の連濁
- 動詞活用語尾の清濁―「ク」と「グ」,「ム」と「ブ」―
- 「ヒト(人)」を後部成素とする複合語の連濁―旅人を中心として―
- 「サン」と「ザン」―「山」を後部成素とする複合語の連濁―
平安時代になるとこの非連濁規則には多くの例外が生じるようになる。その理由について,ハ行転呼音・m-b 交替・撥音の成立等の,日本語音韻史上の大変化がなぜ平安時代に起こったのかという問題と関連づけて考察し,次のような過程を経て日本語に有声対無声の対立が生じたという仮説を提示した。日本語の濁音 (連濁) は原初複合語境界の鼻音として存在 (前部成素末の鼻母音として実現) し超分節音に属していた。その後上代までに中国語話者である帰化人たちは日本語の濁音を有声対無声の対立として捉えて日本語を習得した。やがてその一種のピジン/クレオール日本語が土着の日本人にも広がり,畿内を中心として日本の広い地域で清濁は有声対無声の対立となった。余剰特徴としての鼻音は近畿や江戸では近世初頭に消失した。
休憩10分
15:00-15:45「ライマンの法則の「超強いバージョン」―Miller (1984) の提案」ティモシー・J・バンス / Timothy J. VANCE (国立国語研究所 NINJAL)
ライマンの法則とは,形態素の中間に有声阻害音があれば,その形態素が連濁しないという制限である。上代語においては,ライマンの法則の強いバージョンが働いていた。複合語の前部要素に有声阻害音があれば,後部要素の中間にある有声阻害音と同様に,連濁を防ぐということである。Roy Andrew Miller が1984年の論文でライマンの法則の「超強いバージョン」を提案した。上代語において,複合語の後部要素直前の音節に有声子音があれば,その後部要素の頭位子音が連濁しないという主張である。しかし,今作成中の上代語連濁データベースを利用し,検証した結果,この超強いバージョンがでたらめであると結論づけることができた。
休憩10分
15:55-16:40「山形県河北町調査報告 : 話者とのネットワーク活動について」宮下 瑞生 / Mizuki MIYASHITA (モンタナ大学)
2012年5月28~31日にかけて山形県河北町行われた連濁の調査報告を行った。今回,山形方言連濁研究のためのデータ収集 (録音) にたどり着くまでのネットーワーキング活動経過とフィールドワークに関する報告を行った。さらに,話者の高齢化する方言調査における問題点や注意点に重点を置きディスカッションを行った。