「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会の概要

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成24年4月21日 (土) 14:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室

発表概要

「指示語句の中の外来語 ―文章機能からみた外来語の基本語化―」金 愛蘭 (早稲田大学 日本語教育研究センター 専任講師)

20世紀後半には,具体名詞のほかに,抽象的な意味をもつ外来語も増加し,基本語化している。言語外的な理由によって説明できる具体名詞の場合と違い,抽象的な外来語の多くは,和語・漢語の同義語・類義語があるにもかかわらず基本語化しており,その増加の理由は言語内的に説明しなければならない。
この課題を追究するためには,語彙的な側面 (意味の問題) についての検討とは別に,文法論的な機能の検討や,抽象的な外来語が実際の文章・談話の中でどのような機能を担うようになっているか,という文章論的な検討も必要になる。
発表では,まず,文法的な機能の一つとして,連体修飾節構造をつくる同格連体名詞 (大島資生2010) に注目し,どのような外来語が同格連体名詞の機能をもつようになっているかを,自作の通時的新聞コーパス (各年36日分増補版) を使って調査し,そこに抽象的な外来語の基本語化に結びつく手がかりがないか考察したものを報告した。次に,文章論的な検討としては,「指示語+外来語」からなる指示語句 (高崎みどり1988) に注目し,どのような外来語が指示語句 (の名詞=後要素) を形成するのかについて,自作の通時的新聞コーパスを用い,共時的な考察を行なった。また,外来語が,指示語句という環境の下で,テキスト言語学でいう「談話構成語 discourse-organizing words」としての機能を獲得してゆく様相を動的にとらえることを試みた。

「専門用語と一般用語の隔たりと交錯 ―専門用語の分かりやすい運用のために―」田中 牧郎 (国立国語研究所 言語資源研究系 准教授)

非専門家にとって専門用語が分かりにくいのは,一般用語との隔たりが大きいためだと言われることがある。また,専門用語の中には,一般用語と同じ語形でありながら異なる意味を持つ場合があり,この交錯も,分かりにくさを助長している面がありそうである。本発表では,国立国語研究所「病院の言葉」委員会による「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」で取り上げた医療用語100語について,一般用語との隔たりと交錯の実態を考察した。
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の語彙レベル (コーパスにおける頻度順位に基づく語彙のレベル分け) などを用いて,各語の一般用語からの隔たりの度合いを測定することで,隔たりの大きい語ほど一般に知られていないことを明らかにした。また,コーパスの用例を,専門的な場面と一般的な場面とに分けてその文脈を比較分析することによって,異なる意味で使われていることから生じる混乱の実態を記述できることを示した。以上を踏まえて,一般用語との隔たりや交錯を小さくしていく方向を語彙論的に検討していくことで,専門用語を分かりやすく運用する工夫をまとめていく見通しが開けることを述べた。