共同研究プロジェクト 公開シンポジウム「多文化共生社会における日本語教育研究」開催報告

プロジェクト名
多文化共生社会における日本語教育研究
迫田 久美子 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 客員教授)
サブプロジェクト
学習者の言語環境と日本語の習得過程に関する研究
迫田 久美子
社会における相互行為としての「評価」研究
宇佐美 洋
「生活のための日本語」の内容に関する研究
金田 智子
日本語の基本語彙に関する研究
島村 直己
定住外国人の日本語習得と言語生活の実態に関する学術的研究
野山 広
日本語学習者用基本動詞用法ハンドブックの作成
Prashant PAREDSHI
開催期日
平成24年2月18日 (土) 10:30~17:00
開催場所
国立国語研究所 2階 講堂

全体テーマ「多文化共生社会におけるコミュニケーションとその教育」
発表概要

講演1 「多文化社会形成のためにことばの教育は何をすべきか」石井 恵理子 (東京女子大学)

多文化の人々が対等な関係を築きつつ,互いの文化を尊重して共に生きる社会の形成には,「異なる他者」と対話する力の育成が不可欠である。多文化の人々が関わり合えば様々な摩擦・衝突が起こる。互いの違いを認め合いながら共に生きるとは,問題を解決しようと対話を重ねていくということである。しかし,異なる言語・文化の人々の対話においては,共通言語の選択や使い方が重要な問題となる。ことばによって人はつながり,理解し合うことができるが,ことばによって人は分けられ,力関係が生まれもする。
多文化社会におけることばの問題を,日本人 (=日本語母語話者) と外国人 (=日本語非母語話者) という2項対立の構図で捉えては,複数の言語・文化を背景として育つ子どもたちを理解することはできず,また「日本人」「外国人」のそれぞれの中に存在する多様な言語・文化に関わる問題を見えなくしてしまう。ことばの問題をどうとらえ,何をすべきかを日本語教育の実践を踏まえて考えていくことについての発表を行った。

ポスター発表

発表者 : 宇佐美 洋,金田 智子,迫田 久美子,島村 直己,中上 亜樹,野原 ゆかり,福永 由佳,野山 広 他

講演2 「単一的言語コミュニケーション力論から複合的言語コミュニケーション力論へ」柳瀬 陽介氏 (広島大学)

これまでの言語学・応用言語学の言語コミュニケーション力論は,個人内の能力だけでなく,対人的相互作用をも扱えるように発展してきたが,依然として単一言語主義 (monolingual mindset) から脱しきれていない。その一因として言語コミュニケーション力を,ほとんど非意識的な認知機構 (nonconscious mind) の働きとして捉える旧来の認知科学の考え方が背後にある。しかし神経科学 (およびそれに伴う神経哲学) は,非意識的な認知機構 (nonconscious mind) にとどまらず意識 (consciousness) の働き,および意識の働きによる自己 (self) のあり方を解明しはじめている。この解明により,欧州評議会が提示している複合的言語文化能力 (plurilingual and pluricultural competence) の概念を読み解き,「多文化共生社会におけるコミュニケーションとその教育」の進展に貢献することを目指すことについての発表を行った。