「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」共同研究発表会の概要
- プロジェクト名
- 多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
- リーダー名
- 相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
- 開催期日
- 平成24年1月21日 (土) 14:00~16:30
- 開催場所
- 国立国語研究所 3階 セミナー室
発表概要
「語彙化現象の動態をめぐって ―名詞句化・臨時一語化・複合語化など―」石井 正彦 (大阪大学 教授)
現代語における語彙化現象,とくに,統語的な語連続 (句) が一語化する現象に注目し,それらが生起する様相を,通時コーパスを使って,動的に把握することをめざした。具体的には,「不良債権」という語 (形態素) をキーとする,動詞句,名詞句,複合語 (臨時一語) を,『毎日新聞』の20年分のコーパス (1991年~2010年) からとりだし,結びつく語 (形態素) ごとに,上記3形式がどのような順序で生起してくるかを,年単位で調べた。
その結果,句と複合語との間には,多くの場合,前者から後者への移行がみとめられたのに対して,動詞句と名詞句との間には,後者から前者への移行の方が多く観察された。また,一語化するにあたって,どのような語 (形態素) との結びつきが選択されるかには,パラディグマティックな側面 (「処理」「整理」「処分」のいずれと結びつくかなど) と,シンタグマティックな側面 (「抜本 (的) 」のような副詞成分と結びつき得るかなど) とがあることが確認された。さらに,複合語が定着して語彙化するには,上位語との結びつきが定着しやすい (「不良債権処理」は残ったが「不良債権償却」は残らなかった) との仮説が提示された。
ただし,今回は,新聞を資料とし,調査も年単位で行い,また,見出しと記事本文との区別もしていないことから,より幅広く,かつ,精密な調査の必要性が確認された。
「動詞ヒモトクの伝統用法と新用法をめぐって」相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
ウェブ検索の結果,2008年の自治体「広報」から「宇宙の歴史をひもとく気球実験」という用例が採集された。動詞ヒモトクには,〈書物を読む〉という意味の伝統用法に加えて,〈分析・解明する〉という意味の新用法が急速に普及しつつある。具体的動作である「ヒモ(を)トク」からの意味拡張のプロセスは,認知意味論的に言えば,伝統用法がメトニミーに基づくのに対して,新用法はメタファーに基づくものと考えられる。伝統用法には「雅語的」といった文体的特徴が認められるのに対して,新用法はトク,トキアカス,トキホグスなどと連想・類義関係に入り,日常語として広く用いられる傾向にあることが観察される。
本発表では,新用法の成立が伝統用法とどのような関係にあるのか,『現代日本語書き言葉均衡コーパス (BCCWJ) 』から抽出した用例 (187例) の分析に基づき,全国規模で実施する話者の使用意識調査も援用しながら,多角的に解明する方法について考察した。「歴史をヒモトク」に見られる伝統用法と新用法の二面性の解釈,ヒモトクの多様な語表記と用法の関係,文脈と用法の関係に見られるいくつかの顕著な傾向など,分析に有効と思われる観点を指摘するとともに,近々に実施する意識調査の質問文の検討も行った。